進路はどういたしましょう
「それでは今日は進路について面談をしますので、順番が来たらそれぞれ私の所に来てくださいね」
そう言ってまずアカリを連れてキクリ先生は進路指導室へと向かっていった。
アカリは進路どうするんだろう。
アカリは優秀だからこの学園のカムイの研究課程に進学するんだろうか。
カムイの研究課程に進むという事は、三年生までに習うカムイとは比較にならない威力のカムイを学ぶことになるという事だ。
それは学園でも優秀な成績を収めている極々一握りの存在でしかない。
それ以外の人達は、基本的に他の学園の研究課程に進んで専門職を修めたり、就職したり、日本に行って日本で色々勉強してきたりするんだとか。
「ウチは実家があるさかいなー。日本に行って修行して、家業を継ごうかと思うとんねん」
隣の席のヒルコちゃんに聞いてみたらそんな答えが返ってきた。
「そっかー……そんな先のことまで考えてるなんて偉いね、ヒルコちゃんは」
「いやいや、もう就職しとる陽花はんには言われとうないで」
「こんな社会人生活でいいのかなぁって気はするんだけどねえ」
ほんと、心からそう思う。
日本の真面目なサラリーマンの皆さん、ごめんなさい。
私はこんなにお気楽な生活をして、給料有りのしかも衣食住まかない付です。
あれ……よくよく考えるとめちゃくちゃ勝ち組な生活ですよね、これ。
私みたいな駄目駄目人間がこんな生活しちゃってて良いのかな、本当に。
「月依はどうするの?」
反対の席の月依にも問いかけてみる。
「私はもちろん進学かなー。もっとこの世界で色々覚えたいしね」
えへへと微笑みながら月依は答える。
「月依はそれだけが理由ちゃうやろー」
ニヤニヤしながら月依のその言葉に突っ込みを入れるヒルコちゃん。
「むう……それは……そうだけど」
「どういうこと?」
「お姉ちゃんともっと居たいし、この世界の方が……その色々と都合良い……から」
言いながら月依は耳たぶまで真っ赤になっている。
何でこの子はこんなこっぱずかしいことを皆の前で言っちゃうかな。
私まで顔から火が出そうだよほんとに……!
「お熱いこっちゃね、ほんま。羨ましいわー。な、サクヤはん」
ケケケと口元を抑えながら笑みをもらすヒルコちゃん。
「そうですね。本当に、羨ましいことです」
そんな姿の私達を見てサクヤちゃんもクスクスと微笑んいる。
「そ、それはそうと、サクヤちゃんはどうするの?」
「私はそうですね。花嫁修業でしょうか」
「は、花嫁修業?」
その言葉に思わず聞き直してしまう。
「はい。花嫁修業です。お兄様の為ですから」
そう言うサクヤちゃんは本当に屈託のない笑顔だった。
幸せ者だなぁ……コノハさんは。
サクヤちゃんみたいな一途な妹にこんなにも思われていて。
あー……でも私も似たようなものなのかな……。
「せやな……あの兄ちゃんも幸せもんやな、本当に……」
そのサクヤちゃんの言葉を聞いて、そう呟くヒルコちゃんはどこか少し寂しげな顔だった。
不思議に思い月依の方を見ると、やはり何だか微妙な表情をしているのだった。
ん……どういうことだろう?
サクヤちゃんの想い人があの女たらしのお兄さんだからかなぁ。
―――
そんな話をしているうちにヒルコちゃんが呼ばれ、私の番が来た。
社会人ではあるけど、学生は学生なので進路指導は受けないといけないらしい。
「失礼します」
「はい、どうぞ」
キクリ先生に促され椅子に座る。
「陽花ちゃんの場合は進路指導っていうよりもこれからについて、かしらね」
「そうですね。一応社会人ですし」
「陽花ちゃんは卒業したらどうしたいのかしら」
「そうですねぇ……私としては今のままが一番いいのかな、って気がするんですけどね」
「うーん……それはちょっと難しいかもしれないわね」
ですよねー。
いつまでも今のままで居られることなんてできっこない。
それはどんな世界でも同じだ。
学生はいつか社会人になるし。
社会人だってその生活で少しずつ変わっていく。
友人関係、恋人、その他諸々……。
「今のまま時間が止まっちゃえば良いのになーって。そんなカムイってないんですか」
「あるにはあるわよ」
え゛……あ、あるんだ。
何気なく聞いてみただけだったのに。
何でもありなんだなぁカムイって。
時間止められたら何でもし放題じゃん。
「でも時停のカムイは最高難度で使える人なんてほとんどいないわよ」
使用もかなり制限されてるしね、とキクリ先生は付け加える。
まぁそうですよねぇ……。
そんなほいほい時間止められるわけもないか。
そもそも私の場合、その時停のカムイを覚えたとしてどんな暴発をやらかすか分かったもんじゃない。
下手すると私以外の時間が永遠に止まっちゃったりして……。
考えるだけで少し恐ろしくなってきてしまった。
「まぁわからないでもないけどね。私も若い頃はそう思う事よくあったし。でも、時間が止まっちゃったら、陽花ちゃんの好きなアニメもゲームも新作でないわよ」
「そ、それはちょっと困りますね」
私の愛読書の新作が読めないのはつらいし、
私の琴線に触れるような新作ゲームができないのもいやだ。
「でしょう?」
私の心のうちを見透かしたようにクスクスと笑うキクリ先生。
「まーそうね……陽花ちゃんは正式には学生じゃないから、
高千穂が許してくれるなら居ようと思えばいつまででも居れると思うけどね」
「そうなんですね」
そっかー……そうなんだ。
高千穂に申請すれば許される限り居れるんだ。
それならそれでもいいかなって思えてしまうのはいけないことかなぁ。
月依はともかくヒルコちゃんやサクヤちゃんは立派な目標をもっているのに。
皆よりお姉さんの私がこんななんて。
「でもまぁとりあえず陽花ちゃんの場合は、カムイをちゃんと使えるようにならないと卒業すら危ないのよね」
「え……まじですか」
「まじまじ。だって単位出せないもの」
た、確かに言われてみればその通りだった。
もしかしなくても落第しちゃうんじゃないの私。
やばいやばいやばい。
このままだと妹が上級生とか十分に有りうる!
顔からさっと血の気が引いていくのがわかる。
「い、一応、参年まではちゃんと同じクラスだから安心して良いわよ」
私の顔色を見て察したのか慌ててフォローしてくれるキクリ先生。
「よ……良かった……」
本当に良かった。
妹が上級生とかラノベにすらない異常な展開だよ……。
あ、でもテラスちゃんと同じクラスになれないのはちょっと残念かもしれない。
そんなことを考えてしまう私なのだった。
―――
その日の夜の事。
月依は私のベッドの上で私に膝枕されて進路指導で話したことを話してくれる。
「私はね、お姉ちゃんとできるだけ一緒に居られれば、それでいいんだ」
「うん……。私も同じだよ」
月依の頭を撫でながら。
私はそう呟く。
月依と。
ヒルコちゃんと。
サクヤちゃんと。
テラスちゃんと。
キクリ先生と。
アカリと。
この世界の人達と。
出来るだけ皆と一緒に居たい。
ずっと一緒にいることができれば、良いのに。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
「こんな時間がずっと続けばいいのにね……」
ポツリと月依はそう漏らす。
姉妹揃って同じことを考えていた。
こういうとこは姉妹なんだなぁ……。
「そうだね……」
クスリとそう微笑んで月依の頭を抱きしめる。
「どうしたの?お姉ちゃん。ちょっと苦しいよ……」
「ごめん。でも少し、このままで居させてほしいな……」
「……うん」
月依はそう呟いた後、私の体に腕を回し抱きしめてくれた。
ありがとうね、月依。
ああ……やっぱり、私は。
今、私は……月依の傍に居たい。
そう思う私だった。
ノリと勢いで彼是一月書き続けてます。
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