中間テスト
今日は中間テストの日。
とは言っても、カムイ以外の単位は私には関係ないわけで。
私は一人寂しくカフェ神楽耶で時間を潰すことにした。
神楽耶は部活動の一環というのも有って、
店員さんも先生が雇っているバイトのお姉さん達しかいない。
とりあえずいつもの和風ケーキセットを紅茶付で頼んで窓際の席に陣取る。
みんなちゃんと良い点数とれるかなー。
まぁ、ヒルコちゃんもなんだかんだでそこそこ成績いいみたいだし要らない心配かな。
ケーキを頬張りながらスマホに入れておいたラノベのページをシュッシュッとめくっていく。
ごーるでんうぃーく中に日本に戻った時に入れておいたラノベだ。
このラノベ、面白いんだけど、救いがないなー……。
このラノベの世界感だと救いがないのが救い……って気もするんだけどさ。
それでもやっぱりどこか救いが欲しい、そんな気もする。
でもこのラノベを読んでて良いなぁと思うのは、登場人物達の生き方だ。
例え救いの無い世界なのだとしても、救いの無い運命なのだとしても。
燃えるような恋をする主人公の女の子達を、同じ女の子としては憧れたりもする。
それが悲しい結末を迎えるのだとしても。
でもなー……物語の中で位、幸せな結末を迎えて欲しいなとも、思う。
現実もそんな幸せな結末なんてなかなかないのだから。
「ふぅ……」
スマホを閉じ一息ついて紅茶に口をつける頃にはカップの紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
少々ラノベに熱中しすぎてしまっていたらしい。
そんなことをしているとテテテと言う足音がしそうな勢いでテラスちゃんが
私の方に駆け寄ってきた。
「待たせたな、陽花!」
「ううん。全然大丈夫。それよりもテストお疲れ様、テラスちゃん」
「うむ。少々集中しすぎて疲れたぞ……」
「そっか。じゃ、これ食べると良いよ」
そう言って私はバッグから飴玉を一つ取り出す。
私が好んで食べているハチミツ黒砂糖飴だ。
これも定期的に日本からまとめて取り寄せているものの一つだ。
タカマガハラにも飴は売ってあるにはあるんだけどこれは置いてないんだよねー。
この飴、飴の中に入ってるハチミツがこれまた絶品なんだよね。
「んむ……陽花のくれるこの飴は甘くておいしいのう」
私の隣に座りながら幸せそうな顔で微笑むテラスちゃん。
私はそのテラスちゃんの顔が見れるだけで幸せだよー……。
もうほんと頬ずりしたい。ていうか、してた。
思いっきり体が勝手に動いていた。
「こ、こら、やめぬか陽花。くすぐったいぞ」
あ……今のセリフめっちゃヨツバちゃんぽい。
「はぁ……幸せ……」
テラスちゃんのもちもちすべすべお肌……。
ちょー気持ちいいです。
やばい。これは病みつきになりそう……。
「やめよと言っておろうに!」
言いながら私の顔をひっぺがそうとするテラスちゃん。
ああ……そんな姿もめっちゃ可愛い……。
「幸せすぎる……」
こんなことしてたらまずいと分かってはいても体が言うことを聞いてくれない。
「やめよというにいいいいー」
テラスちゃんがさらに私を引きはがそうともがいていると
「お・ね・え・ち・ゃ・ん?」
私の背後から、それはもう恐ろしい声の呼び声が聞こえてきた。
「……」
慌ててテラスちゃんを開放し背後を確認すると、見るのも恐ろしい形相の妹が立っていた。
私達の背後には、とてもとても恐ろしい形相の妹が立っていた。
大事なことなので二度言いました。
うん。こわい。めっちゃこわいんですけど。
ああ……コノハさんっていつもこんな気持ちだったのかなぁ……。
なんて思いが心の端をよぎる。
「ごめんねー、テラスちゃん。この、お・ね・え・ち・ゃ・ん、にはちゃーんとお説教しとくから」
声は落ち着いているけど、その『お・ね・え・ち・ゃ・ん』のとこめっちゃ怖いからね。
もう反省してますから、その、お説教は勘弁してください。
ほんと、ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいい。
そんな訳で、私は月依に耳を引っ張られて反省室までつれていかれ
正座をさせられて月依の説教を小一時間受けるはめになった。
あとで聞いた話だけど、サクヤちゃんもコノハさんに説教してるときはいつもこんな感じらしい。
親友同士やることなすことそっくりなんだなぁ……と納得してしまった。
―――
私が月依の説教から解放されて神楽耶へと戻ってくる途中、
寮に帰る途中だったのかアカリに出会った。
「どうしたの陽花。妙にやつれてるようだけど」
「お姉ちゃんがテラスちゃんに不敬を働いたので説教したとこだよ」
「何やってんのよあんた……」
呆れたという感じの声でため息交じりにアカリは言う。
「だってさー……」
テラスちゃんが可愛すぎるんだもん。
あんな可愛い姿見せられたら、体が勝手に動いちゃったんだもん。
しょうがないじゃない!なんていったらまた反省室に逆戻りなので
言わないようにしっかり口にチャックをしておく。
「そう言えば、今からテラスちゃん達のとこ戻るんだけど、アカリも来る?」
この前誘ってって言われたのを思い出したので誘ってみる。
「え。そうなんだ。行く行く」
「テラスちゃん、間近で見ると超かわいいから楽しみにしてていいよ」
「お姉ちゃんはちゃんと自重してよね。でないと……」
そういうと月依の目に再び負のオーラが宿る。
「は、はい……今度はちゃんと自重します」
私は乾いた声でそう言うしかなかった。
―――
そして、カフェ神楽耶にアカリを連れて戻ると、
ヒルコちゃんとサクヤちゃんとテラスちゃんは
いつもどおり自分たちのお好みのメニューを頼んでお茶会を楽しんでいた。
「やっと帰ってきたか。ずいぶんと絞られたようじゃのう陽花よ」
「はい。大変申し訳ございませんでした。今後このような事がないよう善処します……」
「うむ。わかればよいのだ」
でも善処するだけだから、止まらないことだってあるかもしれないけどね!
とは口が裂けても言えない。
とりあえず今日のところは平謝りに徹しておきます。
「それで、後ろのものは誰なのだ?」
「あ、この子は私達のクラスメイトの」
私が紹介しようとした言葉を受けて、
「アカリ=マスミダって言います。一度テラスちゃんと話してみたくて付いて来ちゃいました」
アカリはテラスちゃんに自己紹介をする。
アカリがちゃんと丁寧語使ってるのって珍しいなぁ。
しかもなんか緊張しちゃってるし。
ちょっと新鮮かも。
「そうか、アカリか。アカリよ、別に私に気を使わず普通に話してよいぞ」
「ですか……。うん。それじゃ遠慮なく。これからよろしくね、テラスちゃん」
「うむ。よろしく頼むぞ、アカリ」
「にしても、さっきのはおもろかったなぁ」
例の如くタコ焼きをつまみながらヒルコちゃんはニヘヘと笑う。
「私にはいい迷惑じゃったがの」
言いながらジト目で私を見るテラスちゃん。
うう……視線が痛いよう。
たぶん、今日はもうしませんから許してくださいー……。
「まぁまぁ……陽花さんもテラスちゃんの可愛らさのあまりの衝動なのでしょうから許してあげてください」
うう……ありがとうサクヤちゃん。
サクヤちゃんだけだよ、私の味方は。
「甘いよサクヤちゃん。それで済んだら警察もSPもいらないの。それにサクヤちゃんだってコノハさんが同じ事してたらそうするでしょ」
月依はサクヤちゃんを諭すようにそう告げる。
「まぁ……そうですね。そう考えると許されませんね、陽花さんの行動は」
ううう……弁護人がいとも簡単に懐柔されてしまったよう……。
あ、新しい弁護人を……ってそんな人いなかった、この中には。
「ま、陽花がテラスちゃんに何をしたのかよく分からないけど。
陽花がテラスちゃん可愛いよー超可愛いよーて言うのはよく分かるね」
「な……私の居らぬところで そんなことを言っておるのか、おまえは」
アカリめ……いらないことばっかり言って……!
私の周りには味方は完全にゼロだった。
「だって……テラスちゃんほんと超可愛いし……」
もう弁明にならない弁明をするしかない私。
「お、おまえには月依がおるのであろう!」
「それとこれとは別なの!」
「あ……。ふーん……そうなんだ。陽花って月依とそういう関係なんだ」
しまった、また委員長にいらない情報が漏れてしまった。
「うー……」
「陽花も隅におけないね、このこの」
そんな訳で。
私はこの日、夕方までこんなふうに五人から色んな話題で延々といぢられ続けた。
本当にもう迂闊な行動はしないようにしよう。
そう心に誓う私なのであった。




