15 孤独と恐怖
エルフィはベッドに横たわり、ぼーっと天井を見ていた。
窓からは、月や星の明かりが差し込んできている。
エーテの民の居住区では、電気は早く消すので、夜空の星たちがキラキラとおしゃべりをしている。
(六年間、よく頑張った)
(やっと、自由になれた)
エルフィは胸の奥から、息をふぅーっと吐き出した。
たった数日の間に、婚約者を失い、一番仲の良かった親友に裏切られた。
でも、エルフィは悲しくなかった。
あの支配欲の強い男と、縁を切れて本当によかった。
これでお父さんが、ヴァルと商会に頭を下げなくてよくなった。
やっと、あの息の詰まるような場所から、逃げ出すことができた。
でも、アルドを告発したのは誰だったんだろう。
アルドのことは嫌いだったけど、ヴァルト商会から勘当されてほしいとは思っていなかった。
ただ、エルフィはアルドと婚約がなくなればいいと思っていただけだったから。
あの一枚の書類に隠された詐欺の一文を見つけなければ、エルフィたちが住む場所を追われていた。
仕方のなかったこと、エルフィはそう思うことにした。
その瞬間、エルフィは脳を直接ギュッと握られたような、頭痛に襲われた。
「う、あ……っ……!」
痛みがつらく、体をグッと丸めて頭を抱えた。
頭の中に、女王がその生涯で抱え、誰にも見せることのなかった孤独と恐怖の感覚が一気になだれ込んできた。
信じていた側近たちからの、たくさんの裏切り。
愛する家族を失い、犯人を探し続けた日々。
若いレジーナを女王として祭りあげ、都合よく操ろうとする貴族たち。
誰にも本音を話せない寂しさ。
いつ自分も殺されるかわからない恐怖。
愛している夫にさえ、弱音を吐けない寂しさ。
そして、いつか、自分も殺される、
そんな恐怖と共に生き続けた長い年月。
最後に流れ込んできたのはm夫から差し出された銀の杯の、芳醇な果実の香り、優しく微笑む夫の顔。
そして、内臓を焼かれるような、耐え難い苦痛だった。
十四歳のエルフィが受け止めるには、過酷で苦すぎる記憶だった。
「はぁ、っ、ひゅ……っ」
全身から汗が吹き出し、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうだった。
(怖い。同じ人間なのに、こんなにも苦しい暗闇で生きていた人がいたなんて。もう、知りたくない)
視界が真っ黒に染まり、底なしの闇に落ちていく感覚。
ぐるり、ぐるり、ぎゅるり。
脳みそがゆっくり、ギシギシと軋みながら回っているような、気持ち悪さに、涙がボロボロと止まらない。
「お姉ちゃん?大丈夫……?」
リリアがエルフィのところにかけてきて、ギュッと抱きしめた。
エルフィはあまりの激痛に、リリアに返事をしたくてもできなかった。
「お姉ちゃん?」
「大丈夫……?」
小さな腕が、ぎゅっとエルフィを抱き締めた。
「リリアがいるから」
「お父さんも、お母さんもいるから」
「だから、怖くないよ」
リリアの体温が、エルフィに伝わって、エルフィの精神を覆っていた孤独と恐怖が和らいでいく。
「り、リリア……私、は……」
「大丈夫。リリアもお父さんもお母さんもいるよ。だから、何も怖くないよ」
リリアの鼓動が、エルフィの鼓動に溶け込んでいく。
「愛してるよ、お姉ちゃん。大丈夫、落ち着いていくよ」
夜ずっと痛みに耐えるエルフィに、リリアはずっとついていてくれた。
気づくと、エルフィから痛みは消え、二人は眠っていた。
頭の中に馴染んだ女王の記憶は、もう暴れることはなかった。
静かに溶け合い、まるで最初からそこにあったもののように、エルフィの中へと溶け込んでいく。
(私を殺したのは誰?)
(私の家族を殺したのは誰?)
その答えを見つけられないまま、エルフィは夢の中へ沈んでいった。




