12 転落
帝国の役所で、アルドは事情聴取を受けることとなった。
アルドは最初楽観的だった。すぐに元の生活に戻れるだろう、と。
だが、彼が期待していた後ろ盾は、最初から存在しなかった。
黒幕であるギルバートは、書類のどこにも自身の名前を残していない。
それどころか、役人たちの前で、穏やかに自分の関与を否定した。
「すべてはアルド氏が単独で暴走したことであり、私どもはむしろ巻き込まれた被害者です」
提出された証拠も、証言も、すべてがアルド一人に責任を向ける形で整えられていた。
トカゲの尻尾切りだ。
「違う……! 僕は、言われた通りに……!」
アルドが必死に叫んでも、誰も耳を貸さなかった。
役人たちは冷たい目で彼を見下ろし、淡々と調書を取り続ける。
自分は最初から駒でしかなかったのだと、アルドは悟った。
結局、アルドはヴァルト商会の資産から多額の罰金を払ってもらい、ようやく釈放された。
疲れ果て、役所の外へ出た彼を待っていたのは、アルドの父親だった。
現商会会長であるイデオは、じっとアルドを見つめていた。
「父上……」
父親は罰金を払ってくれた。
アルドは、父親は自分を愛してくれていると、信じていた。
だが、イデオの口から返ってきた言葉は、冷たいものだった。
「お前はもう、ヴァルト商会の人間ではない。本日をもって勘当だ」
イデオに駆け寄るアルドの足が止まった。
「え?……どうして……?」
「父上なら、僕を見捨てたりしないでしょう?」
「商会におけるすべての権限を剥奪する。取引先にもすでに通達した。お前の名で動かせる金も、倉庫も、人員も、何一つ残っていない」
「待ってください、父上! 僕は……僕は、商会のために……今回のこともやったんだ!」
「黙れ」
低い一言に、アルドはグッと言葉を飲み込む。
「お前は商会を危険に晒した。私が築いてきた信用を、たった一度の浅はかな行動で崩しかけた」
イデオは懐から一枚の紙を取り出し、アルドの足元へ落とした。
それは、勘当を正式に記した書状だった。
「二度と、ヴァルトの名を名乗るな」
それだけ告げると、イデオは振り返ることなく馬車へと乗り込んだ。
馬車の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
アルドはしばらく、その場に立ち尽くしていた。
ほんの数日前まで、自分の人生は順調だと思っていた。
エルフィを見下し、マーガレットを隣に置き、エーテの民を利用し、すべてを思い通りにできると信じていた。
だが今、その計画は失敗に終わった。
アルドはよろめきながら、西へ向かった。
マーガレットの実家の、宝石商の屋敷は、夕暮れの中でも華やかに見えた。
つい昨日までなら、門番は深く頭を下げて通してくれただろう。
だが今日は違った。
「お引き取りください」
門番は、露骨に顔をしかめてそう告げた。
「マーガレットに会わせてくれ。僕は彼女の……」
「お嬢様は、あなたに会うつもりはないとのことです」
「頼む。一言でいい。マーガレットに伝えてくれ。アルドが来たと」
必死に食い下がるアルドを見かねたのか、門番は渋々屋敷の中へ戻った。
しばらくして、マーガレットが門のところへやってきた。
「マーガレット……!」
アルドは門を掴んだ。
「僕にはもう、君しかいないんだ」
「頼む。ここで養ってくれ。行く場所がないんだ」
「……嫌よ」
「え?」
「私は宝石商の娘なの」
「犯罪者を養う趣味なんてないわ」
予想外の展開に、アルドの表情が凍りついた。
「待ってくれ……。僕たちは愛し合っていたじゃないか」
マーガレットは呆れたようにため息をついた。
「愛? ……ふふっ。本気でそんなもの信じてたの?」
「もう二度と来ないで」
マーガレットは踵を返して、屋敷へ向かった。
アルドは扉の前で立ち尽くした。
つい昨日まで、自分はすべてを手に入れていると思っていた。
宝石商の娘のマーガレットと婚約した。
エーテの民の土地を手に入れ、高く他へ売って利益を出す。
そうすれば、商会も自分のものになるだろう。
そう信じて疑わなかった。
だが、もう何もない。
父にも捨てられた。
マーガレットにも見捨てられた。
エルフィは、自分で捨てた。
夕暮れの石畳の上に立つアルドの隣には、もう誰もいなかった。




