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最下層民エルフィと女王の記憶  作者: 風谷 華


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12/15

12 転落

帝国の役所で、アルドは事情聴取を受けることとなった。


アルドは最初楽観的だった。すぐに元の生活に戻れるだろう、と。

だが、彼が期待していた後ろ盾は、最初から存在しなかった。


黒幕であるギルバートは、書類のどこにも自身の名前を残していない。

それどころか、役人たちの前で、穏やかに自分の関与を否定した。


「すべてはアルド氏が単独で暴走したことであり、私どもはむしろ巻き込まれた被害者です」


提出された証拠も、証言も、すべてがアルド一人に責任を向ける形で整えられていた。

トカゲの尻尾切りだ。


「違う……! 僕は、言われた通りに……!」

アルドが必死に叫んでも、誰も耳を貸さなかった。


役人たちは冷たい目で彼を見下ろし、淡々と調書を取り続ける。


自分は最初から駒でしかなかったのだと、アルドは悟った。


結局、アルドはヴァルト商会の資産から多額の罰金を払ってもらい、ようやく釈放された。

疲れ果て、役所の外へ出た彼を待っていたのは、アルドの父親だった。

現商会会長であるイデオは、じっとアルドを見つめていた。


「父上……」

父親は罰金を払ってくれた。

アルドは、父親は自分を愛してくれていると、信じていた。


だが、イデオの口から返ってきた言葉は、冷たいものだった。

「お前はもう、ヴァルト商会の人間ではない。本日をもって勘当だ」


イデオに駆け寄るアルドの足が止まった。

「え?……どうして……?」

「父上なら、僕を見捨てたりしないでしょう?」


「商会におけるすべての権限を剥奪する。取引先にもすでに通達した。お前の名で動かせる金も、倉庫も、人員も、何一つ残っていない」


「待ってください、父上! 僕は……僕は、商会のために……今回のこともやったんだ!」


「黙れ」

低い一言に、アルドはグッと言葉を飲み込む。


「お前は商会を危険に晒した。私が築いてきた信用を、たった一度の浅はかな行動で崩しかけた」

イデオは懐から一枚の紙を取り出し、アルドの足元へ落とした。


それは、勘当を正式に記した書状だった。

「二度と、ヴァルトの名を名乗るな」


それだけ告げると、イデオは振り返ることなく馬車へと乗り込んだ。

馬車の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


アルドはしばらく、その場に立ち尽くしていた。


ほんの数日前まで、自分の人生は順調だと思っていた。

エルフィを見下し、マーガレットを隣に置き、エーテの民を利用し、すべてを思い通りにできると信じていた。


だが今、その計画は失敗に終わった。

アルドはよろめきながら、西へ向かった。


マーガレットの実家の、宝石商の屋敷は、夕暮れの中でも華やかに見えた。

つい昨日までなら、門番は深く頭を下げて通してくれただろう。

だが今日は違った。


「お引き取りください」

門番は、露骨に顔をしかめてそう告げた。


「マーガレットに会わせてくれ。僕は彼女の……」


「お嬢様は、あなたに会うつもりはないとのことです」


「頼む。一言でいい。マーガレットに伝えてくれ。アルドが来たと」


必死に食い下がるアルドを見かねたのか、門番は渋々屋敷の中へ戻った。


しばらくして、マーガレットが門のところへやってきた。


「マーガレット……!」

アルドは門を掴んだ。

「僕にはもう、君しかいないんだ」

「頼む。ここで養ってくれ。行く場所がないんだ」


「……嫌よ」


「え?」


「私は宝石商の娘なの」

「犯罪者を養う趣味なんてないわ」


予想外の展開に、アルドの表情が凍りついた。

「待ってくれ……。僕たちは愛し合っていたじゃないか」


マーガレットは呆れたようにため息をついた。

「愛? ……ふふっ。本気でそんなもの信じてたの?」

「もう二度と来ないで」


マーガレットは踵を返して、屋敷へ向かった。



アルドは扉の前で立ち尽くした。


つい昨日まで、自分はすべてを手に入れていると思っていた。

宝石商の娘のマーガレットと婚約した。

エーテの民の土地を手に入れ、高く他へ売って利益を出す。

そうすれば、商会も自分のものになるだろう。


そう信じて疑わなかった。


だが、もう何もない。

父にも捨てられた。

マーガレットにも見捨てられた。

エルフィは、自分で捨てた。


夕暮れの石畳の上に立つアルドの隣には、もう誰もいなかった。


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