11絶交
アルドが連行され、野次馬たちのざわめきが少しずつ遠ざかっていく。
その中で、魂が抜けたように立ち尽くしていたマーガレットが、ふらりと歩き出そうとした。
「――マーガ」
エルフィは静かにその名を呼んだ。
マーガレットの肩がびくりと震える。
ゆっくり振り返ったその顔は、先ほどまでの勝ち誇った笑みが嘘のように消え失せていた。
白い小花柄のワンピースも、今はどこか色褪せて見える。
エルフィは少し首を傾げた。
「あのさ、アルドが……もしこれから商会も地位も全部失ってしまったとしても、あなたは隣で支えてあげるんだよね?」
マーガレットが息を呑む。
エルフィは悪意なく続けた。
「だって、アルドのことが大好きなんでしょう?」
エルフィは、ほんの少しだけ微笑んだ。
「愛って、すごいね」
その瞬間、沈黙が落ちた。
マーガレットはじっとエルフィを見つめていた。
やがて――。
「……ふふっ」
乾いた笑い声が漏れた。
「そんなわけないでしょ」
その声は、驚くほど冷たかった。
エルフィが目を見開く。
マーガレットは自嘲するように笑った。
「私がアルド自身を好きだったとでも思ってたの?」
その瞳に、もう可愛らしい親友の面影はなかった。
「好きだったのは、ヴァルト商会の跡取りだったからよ」
エルフィは言葉を失った。
「商会を継ぐ予定で、お金も地位もあって、将来も安泰」
マーガレットは肩をすくめた。
「でも全部失うなら話は別」
マーガレットは役人たちに連行されていった方向へ視線を向けた。
「そんな男に付き合うほど、私はお人好しじゃないわ」
「マーガ……?」
「それに」
マーガレットの目が細くなる。
「私、あんたのことずっと嫌いだったわ」
エルフィの呼吸が止まった。
「私がどれだけ頑張っても手に入らないものを、あんたは当たり前みたいに持ってたから」
マーガレットは、悔しそうに唇を噛む。
「みんな、あんたのことばかり見てた」
その言葉には、積み重なった嫉妬が滲んでいた。
「だから嫌いだった」
そして最後に、吐き捨てるようにマーガレットは言った。
「もう二度と会いたくない!」
それだけ言うと、マーガレットは踵を返した。
強い足取りのまま、夕暮れの街へ消えていった。
一人残されたエルフィは、その背中が見えなくなるまで見つめていた。
胸の奥が痛かった。
アルドとの婚約が終わったことは嬉しい。
けれど――。
マーガレットを、本当に友達だと思っていた。
(私は……マーガのこと、好きだったよ)
エルフィは、心の中でそっと呟いた。
厨房から出てきたベルタは何も言わなかった。
ただ黙ってエルフィの隣に立ち、その肩をぽんと叩いた。




