10逮捕
二人が店を出て、すぐのことだった。
外から突然、怒鳴り声が響いた。
「離せ! 俺を誰だと思っている!」
激しい物音に、エルフィとベルタは思わず顔を見合わせた。
続いて、
「アルドさん!?これはいったいどういうことなの?」
というマーガレットの悲鳴が聞こえた。
「なんだい、今度は」
ベルタが眉をひそめる。
二人が窓の外を覗くと、そこには帝国の役人たちに取り囲まれたアルドの姿があった。
アルドは両腕を押さえられ、必死にもがいている。
「ヴァルト商会のアルド・ヴァルト氏ですね」
役人の冷たい声が響く。
「そうだけど、お前たちは何なんだ!こんなことして、ただじゃ済まないぞ!」
「エーテの民居住区における土地詐欺未遂および不当契約の容疑です。本日付けで出頭命令が出ています」
「なっ――!?」
アルドの顔が一瞬で青ざめた。
隣ではマーガレットが呆然と立ち尽くしている。
「待て! 誤解だ! 俺は――」
だが役人たちは取り合わず、そのまま連行しようとした。
そのとき、アルドがふいに窓際のエルフィを見つけた。
「お前か!」
血走った目がエルフィをギロリととらえた。
「お前がやったんだろう!?」
「え?わたしが、何をしたっていうんですか?」
エルフィは思わず自分を指差した。
「お前は僕のことが好きだったじゃないか!」
通りを歩いていた人々が足を止める。
「ずっと僕だけを見ていたじゃないか!」
アルドは半ば錯乱したように叫んだ。
「重いくらいに僕を愛していたくせに! よくも僕を裏切ったな!」
周囲の視線が一斉にアルドへ向く。
ベルタは盛大に顔をしかめた。
エルフィはしばらくアルドを見つめていたが、やがて小さく首を傾げた。
「好きだったことは、一度もありませんけど……?」
時間が止まった。
アルドが固まる。
マーガレットも固まる。
役人たちまで一瞬だけ動きを止めた。
そして次の瞬間。
「ぶはっ!」
ベルタが吹き出した。
「はははははっ!」
腹を抱えて笑い始める。
「あははは! 好きじゃなかったんだってさ!」
「坊ちゃん、自惚れすぎだよ!」
周囲からもクスクスと笑いが漏れた。
アルドの顔が真っ赤になる。
「ち、違う!エルフィは俺のことが好きで――」
しかし誰も聞いていなかった。
役人たちは容赦なくアルドをずるずると引きずっていく。
やがて、その姿は雑踏の向こうへ消えた。
マーガレットは青ざめた顔のまま、その場に立ち尽くしていた。
彼女の愛する人が、目の前で連れ去られてしまったから。




