リンとマシロの元へ
俺はドワーフの村から南西へ飛んでいくと、開けた土地が見え始め、端にエンデと思われる巨木が立っているので分かりやすい。
村の上空に到着すると、上空で旋回しながら、村の様子を観察をすることにした。
家は木造の二階建てが殆どで、他には馬、牛、豚、鳥小屋らしき長屋があり、村の端には広大な畑と大きな納屋、そして大浴場があった。朝早いのに村人達が農作業している姿がちらほら見える。何不自由なく暮らせているようで何よりである。
外から見ているだけでも栄えているのが良く分かる。そんなことを考えながら村に降りようとしたところ、突然衝撃に襲われた!
「変な生き物捕まえた~。逃がさないんだから大人しくしてなさいよね!」
この声には聞き覚えがあった。衝撃の発生源を確認すると、成長して少し大人びているがそこにいたのはリンだった。
「うぉ、リン!ビックリした。っていうか良くここまで飛んでこれたな。結構な高さで飛んでいたはずなのに」
俺はリンが振り落とされないように気を付けながら、徐々に高度を落とし、村へと降りた。
「え?私のこと知ってるの?ってその声ソラ!久しぶり~。心配したんだからね~!」
リンは俺の体に顔を埋めると、クンクンと匂いを確認しつつ、盛大に魔力を吸い取っている。懐かしい行為である。
「この匂い、ちょっと変わってる?みたいだけど、ソラだわ。お帰り~。待ってたんだからね~」
俺の体にぐりぐりと頭を押し付けながら、心配している表情で上目遣いかつ涙目で俺のことを見上げてきた。
「ごめん。遅くなった。異精霊が解けてやっと帰れるようになったんだ。心配かけてすまない…」
俺はそう言いながら、リンの頭を撫でてあげる。リンが騒がしかったせいか、村人達が集まってきた。
「精霊さん!精霊さんが帰ってきたぞ~。私を覚えていますか?貴方に助けられた子供のうちの一人です!」
そう言われて振り返ると、そこには抱っこ紐に赤ちゃんを抱きかかえている大人の男性がいた。いや、二十年経ってるから面影ないし、正直分からないよ…。それに赤ちゃんまでいるとか、二十年経っているという現実を突きつけられているようだ。
「ごめん、成長し過ぎて誰か分からないや。でも生きていてくれて嬉しいよ。本当に良かった」
少し残念な表情を浮かべつつも、俺に赤ちゃんを見せてくれた。寝顔が可愛い。ほっぺを指でツンツンしてみるととても柔らかくぷにぷにしている。でも煩わしかったのか手で指を払われた後、俺の指をぎゅっと掴んでくれた。寝ているので無自覚なんだろうけど、可愛すぎる。
だけど、この子達の将来を俺が閉ざさないといけないかも知れないということを考えると、気持ちが憂鬱になってくる。相談したら少しは楽になるのだろうか。
「ソラか、ようやく戻ってきたのか。皆心配しておったのじゃが、戻ってきて何よりだ。外で立ち話も何だし、中に入ったらどうだ?マシロ達もおるぞ?」
エンデも俺に気づいたらしく、中に入るように促す。リンもつられるように「中に入って話をしようよ~。今まで色々あったから話したいの~」と俺をエンデの中へ引っ張っていく。
エンデの中に入ると、マシロにラピス、レイにマリンとノア、そしてピナコが勢揃いしていた。
「皆~、ソラが戻ってきたわよ~。今日はご馳走を用意しないとね!!」
「リンお姉ちゃんの声大きいから聞こえてたよ。お帰りなさいソラ。二十年もいなかったから色々変わっててビックリしたでしょ?積もる話もあるし、椅子に座って待っててね」
「あ~、ソラだ~。おかえり~。最近はリンが大人しくて静かだったのに、ソラが戻ってきたからまた騒がしくなりそうね」
「ソラ、おかえりなさい。心配していました。元気そうでなによりです!」
「あ~、お父さんだ~。お帰りなさい~。待ってたよ~」
皆、姿形が変わっているにもかかわらず、俺と認識出来ているようだ。嬉しい。やっと家に帰ってこれたんだ。
「んにゃ~」
足にみーにゃとコロ、それに小さいみーにゃ達が体をすり寄せてくる。おおぅ、いつの間にかこんなに子沢山になったのね。
俺は適当な椅子に座ると、皆の変わりようを確認していく。
リンは中学生くらいだった面影が、高校生から成人女性へと成長していた。髪はショートカットで胸も膨らみ、腰はキュッとしていてボーイッシュな感じだ。服装が半袖半ズボンだから尚更そう見える。
マシロは小学生くらいから中学生くらいの女の子に成長していた。髪はポニーテールにして三つ編みに編み込まれ、腰まで伸びている。胸はまだ膨らんでいないがとても可愛らしい女の子に成長していた。服装はひらひらの付いているワンピースだ。
ラピスとレイも一回り背が高くなっているが、ラピスに限っては横にも大きく成長していて正直、太っている。あの姿で飛べるのか心配になるレベルだ。リンが「大人しくて静かだったのに」と言っていたのでだらけた生活を行っていたのだろうと容易に想像が出来た。妖精も肥満になるんだな…。
マリンとノアは人間をダメにする四角いビーズクッションくらいの大きさでボヨンボヨンと跳ねたり、転がったりしていた。精霊として大分成長しているようで言葉遣いもハッキリとしている。
ピナコは少し背と髪が伸びたくらいで他に目立ったところはないが、以前よりも表情が豊かになったように感じる。隠れて生活しなくて良くなったおかげだろう。
みーにゃとコロも家族が増えて喜んでいるようだ。幸せそうにお互いを毛繕いしている。
一通り確認し終えると、対面にある椅子にマシロが座り「森のことで何か聞きたいことでもある?」と切り出してくれた。
「一応、簡単な流れはガイアスから聞いてはいたけど、この村について知りたいかな?俺の名前が付いているんだって?」
マシロはクスクスと笑いながら「そうだよ。ソラに皆感謝している証を残したいんだっていって森と村の名前にソラの名前を使わせてもらったの。って言っても決めたのは人間の人とリンお姉ちゃんだけどね。リンお姉ちゃん、人間とはあまり関わらないようにって言われてたのに、嬉々として関わろうとするんだもん。そのおかげで今があるんだけどね」
俺は腹を抱えながら「リンらしいな」と納得した。
「まあ、人間の人達の生活を監視と評して観察して、生活に苦労しているのを見逃せなかったみたいなの。リンお姉ちゃん、意外とお人好しだから」
マシロは頬に手を当てて溜息を漏らした。
「いいじゃない、困ってる人がいたら見過ごせなかったの。小さい子供までいたんだから~」
リンは頬を膨らませてぷんぷんしている。このやり取りが懐かしくて、本当に戻ってきたんだと感じさせてくれる。
「じゃあ、人間達とどんな交流をしてきたのか教えてくれるか?ガイアスからは簡単にしか教えてもらってないし、当事者から聞いた方がいいからね」
「任せなさい!私が何かあったか色々と教えてあげるわ!」
リンが胸を張りながら、人間達とどのような交流をしたのか説明を始めた。
まず、人間達が森へ来た頃、大人達は森の片付けと畑を作るに忙しく、子供達は暇を持て余していたんだそうだ。それを見かねたリンは将棋とオセロを持って、子供達にルールを教え、一緒に遊ぶことで人間達と打ち解け合い、言葉も学んでいった。
ただ、畑からすぐには野菜が取れず、連れてきた牛から牛乳が取れても腹は満たされない。食料がなくなってきた人間達はリンに相談を持ち掛けた。
リンは「この森では物々交換や何かを対価にして物をもらうのよ」と教えてあげると、牛乳と牛乳から作ったヨーグルトを貰い、味見してみるとそれだけでも十分美味しかったんだそうだ。それをマシロに渡すと、マシロが魔改造した料理を出してくれて、料理を食べたリンはその美味しさに喜び、自分の畑から野菜を、森からは果物と茸を取ってきてあげた。
他にも何か珍しいものがないか聞いたところ、熟成中のチーズやお酢、お酒があるが、出来るには早くても数ヶ月はかかると言われたらしい。そこでピナコからピナ菌の粉末を貰ってチーズやお酢、お酒に使ったところ、数日で完成してしまい、人間達を驚かせたんだそうだ。
「でも、ピナ菌を使ったのは流石にまずかったよね。森の人達にも疑われちゃったし」
ドワーフの村でお酒と木材と交換したところで、人間達がすぐにお酒を作れるはずもない、それにソラがすぐにお酒を造っていたことも相まって、エンデのところにすぐお酒を造れる何かがあるのではないか?と疑われた。そして更にリンは嘘をつくのがめちゃくちゃ下手だった。
ドワーフがトレントに頼んで調べてもらったところ、エンデの地下にピナコがいることがバレてしまう。
「あのときはピナコを助けるために色々と大変だったの。エルフの人達はどうでもよかったんだけど、妖精と精霊さんに納得してもらうのが難しくて…」
マシロが肩を落としながら溜息を漏らす。リンの後始末をマシロがする羽目になったんだろう。ご苦労様です。
「エンデの外には出さないし、何かあった時はリンお姉ちゃんが責任を取りますって言って、納得してもらったの」
おおぅ、マシロがリンを生贄に差し出すような行為をするとは思わなかった。
「だって、元々はリンお姉ちゃんが変な茸を食べて助けを求めてピナコに来てもらったんだし、ピナコがバレる様なことするんだもん。自分で尻ぬぐいさせるのは当然でしょ?それにピナコが悪いことをする子じゃないって分かってるから別に問題ないよ」
マシロはピナコのことを信頼しているようだ。ピナコに視線を向けると照れているのか顔が少し赤くなっている。
「ただ、人間の中にはここの生活に慣れない人もいて、衰弱して命の危機に瀕している人が出たの。その人をリンお姉ちゃんが慰めたり励ましたり介抱したことでその人は一命を取り留めたんだけど、その人がリンお姉ちゃんをお姉様呼ばわりして付きまとわれることになったんだよね」
マシロはクスクスと笑いながら話してくれる。どうやら現在進行形でも付きまとわれているらしく、リンを見つけるや否やどこからともなくすっ飛んで来てはリンに抱きついてくるらしい。
俺は好かれても、そんなストーカー嫌なんですけど。なぜそうなったのかマシロは詳しくは知らないらしく、代わりにリンが教えてくれることになった。




