リンお姉様
その女性は村の子供達を逃がしていた四人の内の一人でティアという名前だそうだ。ピンク色の髪をツインテールでまとめている女性だとリンは言った。そういえば、俺が出会ったとき腰を抜かして泣きついている女性がピンク色のツインテールだった覚えがある。確かに精神的には強そうに見えない女性だ。
ティアは元々貴族だったが、軍に所属していたため、多少劣悪な環境でも我慢が出来ていたらしい。
ただ、俺が家族と住んでいる家を吹き飛ばしてしまったため、家に帰ることは出来ない。森に着くと、地面に草を敷いただけの寝床、味気ない料理、汚れていく衣服や体。改善することは叶わない環境で暮らすことになり、生きる希望を見いだせず、食欲不振、睡眠障害を起こし、風邪をひいたりしてどんどんと衰弱していく。
クレインという実姉とお付きのカティ、ケイティという女性が寝床や食事を改善するように試みるが、一向に良くならず、リンがお願いされたときには骨と皮だけのようなガリガリの状態で命の危機に瀕していたらしい。
リンはティアに「何してほしいの?」と尋ねたところ「殺して楽にさせて」と頼まれるが即断ったんだそうだ。「それ以外で何がしてほしいか聞いてるの!」と再度尋ねたところ「美味しい料理やふかふかなベッド、体を綺麗にしたい」と頼まれた。
「任せなさい!貴女を驚かせるような料理やベッドを用意してあげるわ!体はそうね、シャワー室でも作ってあげるから待ってなさい!」
リンはすぐに行動を起こし、まずはマシロを村へと連れてきて料理を作ってもらう。ティアが食べやすいように野菜が崩れるくらい煮込んだホワイトシューのような汁物を提供したようで「美味しい、こんなの家でも食べたことないくらい美味しい」と泣きながら食べてくれたそうだ。
次にベッドはドワーフの村へ行って作って欲しいと頼み込むが、材料は用意するから自分で作れと言われ、リンが木製のベッドを作ってあげた。でも固いベッドには変わりない。そこでマリンに頼んで柔らかい布団が出来るまでマットレス代わりになってほしいとお願いしたようだ。
マリンは「いいよ~」と気軽に了承してくれ、ウォーターベッドが完成した。しかもティアが泣いているときはマリンがティアを包み込み、励ましてあげていたらしい。何それ!そのベッド普通に欲しいんですけど、それに精霊をベッド代わりにするとか怠惰過ぎる。
ん?そういえばマリンって見た目スライムみたいなんだよな。もしかしてスライムって精霊の部類に入るのでは?なら色々な題材でスライムが主人公だったり、強キャラになるのも頷ける。体に取り込む物次第で進化もしやすそうだから尚更だ。
これで残りは汚れた衣服と体だ。衣服は洗剤を持ってきてケイティという侍女に洗濯を頼み、その間にリンはドワーフの村と同じシャワー室を作ってあげたんだそうだ。衰弱したティアだけでは満足に体が洗えなかったのでリンがお手伝いをしてあげたらしい。
その時「なんで人間にここまでするの?貴方達を攻めた中に私もいたのよ?」と問われると、リンは「何言ってるの?困ってる人を助けるのは当然でしょ!私は親やエルフに見捨てられたけど、今まで生きてこれたのは困っている私を助けてくれたエンデやラピスのおかげだもの。助けてもらうのってすんごく嬉しいのよ!この気持ちを色々な人に分かって欲しいの。そしたらマシロやソラ、レイやマリンにノア、それにピナコっていう家族が増えたんだもん。相手を不幸にするような争いなんてやってられないわ」と胸を張って答えてあげると、ティアは言葉が出ないくらい盛大に泣いてしまい、慰めてあげたんだそうだ。
そうしてリンが人間達の住んでいる場所を改善していったらティアにはお姉様呼ばわりされ、他の人間達からもお姉さん扱いされ、尊敬されるようになったんだそうだ。
おおぅ、リンがトラブルメーカーからムードメーカーにジョブチェンジしたってことか?リンのやらかしが減ったことでラピスが太るわけだ。いや、ラピスが面倒を見なくていいようになったせいか…。
その後、ティアは徐々に健康を取り戻し、無いものは作らないといけない現実を突きつけられたティアは好きなファッションや美容、装飾品関係の研究と開発を行うようになり、最終的にはドワーフの信頼を得るまでになったんだそうだ。ガイアスが身綺麗になっていたのもその成果だろう。
後はカティという侍女が定期的に人間達の情報を手に入れるため、人間の街へ出入りすることで、情報と共に珍しい道具や家畜、食物を持ち帰り、道具はドワーフと取引して、魔改造されていく。魔導コンロもその一つらしい。家畜と食物は村で育てて増やしていったようだ。
それを二十年も繰り返していれば、森で産業革命が起きたのも納得がいく。ただ、発端がリンだったのは、意外だった。
リンが「凄いでしょ!」と胸を張って威張っていると、マシロが耳元で囁いた。
「実はソラがいなくなって落ち込んでたリンお姉ちゃんが、気を紛らわすために色々行動していた内の一つなの。あの頃のリンお姉ちゃんの落ち込みようは見たことなかったから、私もどうしていいかわからなかったんだよね。人間の人達が来てて良かったと初めて思ったの」
どうやら、リンの気持ちを落ち着かせるために、人間達の存在はクリーンヒットしたようだ。
「それで、ソラが無事だって分かると、村の人達と何日も宴を開いて喜んでいたのよ。料理を作らされる私は大変だったの」
俺が無事だったのは嬉しかったけど、いい迷惑でもあったようだ。リンに巻き込まれた人達に心の中で謝っておく。
「それでこの村と森にソラって名前を付けて、二十年も暮らしてたってわけ、ついでに行き来するのもめんどくさいから、村に引っ越すことにしたの!後で村を案内してあげるわ。紹介しておきたい人もいるからね」
ティアのお姉さん、クレインという女性が村をまとめており、補佐をカティがしているようだ。主に酪農と農作物の管理をしているらしい。
ティアとケイティは衣服や美容など、ファッションを担当しているらしい。姉妹で分担して村をまとめあげているようだ。
「そうと決まれば、早速村を案内してあげるわ!ついてきなさい、ソラ!」
リンが玄関をバーンと開けて、外で俺を待ち構えている。俺は視線を周りの皆に向けると、視線を逸らされた…。どうやら、リンのトラブルメーカーはジョブチェンジしても健在らしい。俺はガックリと肩を落としながら溜息を吐き、玄関を出てリンに付いていくことにした。




