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ソラ村の案内

 リンはウッキウッキでスキップしながら、ソラ村を案内してくれる。


 会う村人達からは「リンお姉さん、おはようございます」と挨拶を交わしているところを見るに、かなり受け入れられているようで何よりだ。


 二階建ての木造建築は村人達が住んでおり、一階はキッチンや家族団らんのスペースで、二階が寝室になっているようだ。


 俺のいた世界とあまり変わらないな。


 ガイアスの家も一階に寝床は見当たらなかった。ドワーフの村の二階建ての家も同様な様式になっているのだろう。


 最初に案内してくれたのは牛舎だった。牛と聞いてホルスタインを想像していたのだが、実際は全身真っ黒な毛で覆われているバッファローのような巨体と尖った角が鹿のように枝分かれしている動物だった。


 近づくと迫力が凄い。


 見た目に寄らず、性格は温厚なようでリンが全身をなめまわすようになでなでしてあげると非常に喜んでいた。他の牛達も撫でて欲しそうにリンに群がってきた。雌だけは張った乳がピンク色なので分かりやすい。


 牛達を一通りなでなでしたリンの服にはびっしりと黒い毛がまとわりついていた。洗濯が大変そうだ…。俺は洗濯しないからね?


 次に案内されたのは豚小屋だった。見たところ、俺がこの世界に最初に遭遇した動物と瓜二つだった。でもサイズがかなり小さいように見える。


 聞くところによると、野生の豚は大きくて気性が荒いらしいのだが、家畜用の豚は小さく気性の大人しい豚を交配し続けたことによって、品種改良された結果。このサイズにまで小さくなったんだそうだ。


 リンが胸を張って「良く知っているでしょ~」と威張っているが、明らかに人間に教えてもらった情報だろうに、リンが威張ることではない。


 次は鳥小屋だ。鳥小屋にいたのは俺が知っている黒い鳥と白い鳥の番でかなりの数がいた。ざっと見積もっても百羽は越えているだろう。


 毎日のように卵を産んでくれているのでかなり重宝しているようだ。


 一通り家畜を見せてもらったけど、しめる場所が見当たらない。どうしているのだろうか?リンに質問してみる。


「家畜をしめる場所が見当たらないみたいだけど、どうしてるんだ?もしかして食肉にはしてないのか?」


「食肉?間引いた家畜はちゃんとしめてるわよ。ただ、近くでやると家畜が怯えちゃうからドワーフの村へ連れてってからやってるの。ドワーフの人達は解体が上手いし、どの道、毛や革はあっちで加工するから都合がいいのよね~。でも出来るだけ痛くはしたくないから、ラピスとピナコに協力してもらって眠るように死ねる毒を作ってもらったの。まあ、無毒化するために火を通さないといけないから、生肉は食べれないんだけどね」


 流石に家畜を追い回し、悲鳴をあげながらしめるのは嫌なのだろう。俺もそんなの嫌だ。なので毒を使って安楽死させてからしめているようだ。まあ、豚と鳥に関しては衛生上、生で食べることはなかった。火を通すのは英断である。


 次に案内してもらったのは広大な畑と果樹園だった。色とりどりの野菜と果物が日の光に照らされてキラキラと光っている。みずみずしくて美味しそうだ。


 果樹園は森の樹々を再生させる一環で作ったらしい。それに果樹園から取れる種からは良質な油が取れるため、ドレッシングに洗剤、美容品など幅広く使われているんだそうだ。


 なるほど、いちいち森に種を取りに行って油を取らなくても良くなったわけか。感心していると、果樹園の方からドダドダドダと「リンお姉様~~~」と叫びながら走ってくるご婦人とそれを追いかける侍女らしき女性が見える。


 話に聞いていたティアだろう。リンはティアに対して背を向けると、中腰になっておんぶをするような受け入れ態勢に入っている。


「リン、お、ね、え、さ、ま~~~」


 ティアがリンの背中にのしかかり、おんぶされている状態にも関わらず、リンに対して頬ずりをしている。


 周りの人達はそれが日常の風景なのか誰も気にした様子を見せていない。追い付いてきた女性からは「お嬢様、客人の前ではしたないですよ」と窘められているが、止める素振りを見せるつもりはないようだ。


「客人?…あ、貴方は…、ご、ごきげんよう。話に伺っていたソラ様ですよね?」


 俺に気づいたティアは突如として全身をガクガクと震えさせながら、必死に言葉を捻り出すように挨拶をしてくれた。


 二十年ぶりの再会だが、あの時の印象が残っているのだろう。お付きの侍女も普通を装っているが、手がきつく握られて震えている。


「そういえば、ソラ。ティアとケイティとは顔見知り何だっけ?この子がティアでお付きの侍女がケイティよ。ティア、ソラにまだまだ村を案内するからこのまま行くわよ。いいわね?」


「了解しました」と二人は震える声で了承してくれた。


 ティアをおんぶしながら案内された場所は織物工房だった。木造の織機をガシャンガシャンと鳴らしながら糸を編み込み、生地を作っている。


「ここでは糸を織って生地を作っています。糸はドワーフの村で作ってもらっているので、ここでは糸を紡ぐのと染色が主な作業となっております」


 奥が染織工房のようだ。大きな木の樽が幾つも並び、それぞれ違う色の水が張ってある。


「残りは浴場とクレインが詰めている村長の家くらいね。浴場はソラ知ってそうだし、クレインのところに行きましょ!」


 リンが村長の家に向かおうとしたところ、ケイティがそれを制止した。


「リンお姉様、牛舎に行かれて服が大分汚れています。お嬢様も巻き添えにして…。先に浴場へ行き、体を清めた方が良いかと思われます。その間は、ソラ様は私が接待致しましょう」


「それもそうね、分かったわ!ソラ、次は浴場に行くわよ!」


 浴場に着くと、シャワー室が併設されており、その間に脱衣所があるようだ。そこでシャワーで済ます人とお風呂に入る人で分けているのだろう。水はマリンとノアが川から水路を作って引いてくれたらしい。


 ティアをおんぶしながらリンが脱衣所に入っていくと、続いてケイティも脱衣所に入っていった。すぐに戻ってきたケイティの手にはリンとティアが脱いだ衣服があった。


「ソラ様、申し訳ありませんが、洗濯を見ていてもらいませんか?その間にリンお姉様とお嬢様の着替えを持ってきますので…」


 非常に申し訳なさそうな表情でケイティが俺の顔色を伺いながらお願いしてくる。


 俺は二つ返事で「いいよ」と答えると、では「こちらに」と浴場脇にある建物に通された。


 奥には洗濯機のような機械が、手前には縦に物干し竿がずらりと並んであった。


「こちらは魔導洗濯機というものです。ソラ様が昔、ドワーフの村で洗濯していた様子を元に作られたそうです。まず、服と水を入れ、その後に洗剤を適量入れます。そして埋め込まれている魔石に魔力を込めると、風魔法で風と泡が吹き出し、水が回転させて汚れを落とします」


 ケイティが説明をしながらテキパキと魔導洗濯機の使い方をレクチャーしてくれる。


「あと最後に、糸くずネットと呼んでいるネットを水の上に浮かばせます。これがあるのとないとでは洗濯物につく毛の量に違いがあるのです。これが作られるまでは毛を取るのに苦労しました…」


 おおぅ、俺の知る洗濯機に近いものがそこにはあった。ただ、脱水機能は無いようで、洗濯物に付いた水気は水魔法である程度除き、最後に物干し竿で洗濯物を干すらしい。


 まだまだ俺の知る洗濯機には遠く及ばないようだ。


「ではすぐ戻ってきますので、ソラ様はここで洗濯物を見張っててください。それでは…」


 そう言い残して、ケイティは建物から出ていった。


 取り残される俺、もしかして俺と二人っきりは嫌か。


 そりゃそうだよね。あの人達が住んでた街吹き飛ばしたの俺だし、一緒にいたいわけないよね。


 そう割り切ると、俺は洗われていく洗濯物を見続けることにした。どんどんと水の色が黒ずみ、糸くずネットに牛の毛がまとまっていくのが良く分かる。


 こうしてみると、糸くずネットのアイディアって凄いんだな。辿り着いた人すげ~と感心していると、ケイティが戻ってきた。


「ソラ様、お待たせいたしました。リンお姉様とお嬢様の着替えは持って行きましたので、あとは洗濯物を取り込むだけです」


 魔導洗濯機の底に栓があり、それを外すことで水を抜いていく。抜いた水は排水溝に流れて川に捨てられるんだそうだ。


 魔導洗濯機の水が抜けると、ケイティは水魔法で洗濯物の水気を抜いていく。水気も魔導洗濯機の底から流すようだ。


 ケイティが水気を抜いた洗濯物を物干し竿で干し終えると「洗濯物はあとで回収致しますので、浴場に戻りましょうか。そろそろお二人が出てくる頃だと思われます」と浴場に戻ることにした。


 浴場に戻ると、既に二人が入口で待っている状態だった。相変わらずティアはリンにおんぶされているけど…。


「さっぱりしたし、最後にクレインのいる村長の家に行きましょ!この村の中心の広場にある大きな家だからすぐに分かるわ!」


 村の中央に向かうと、広場があり、そこには大きな二階建ての木造建築があった。


「ここはティア達の家でもあるの。だから二階は寝室になっているわ。クレインは一階で仕事をしているはずよ。行きましょう!」


 リンはノックもせずに玄関を開け「クレインいる~。お客さん連れてきたわよ~」と建物の中へと入っていく。


「リンお姉様、ノックぐらいいつもしてくださいと言っているでしょう。カティ、申し訳ないけど、お茶の準備をお願いできるかしら」


「了解いたしました。クレインお嬢様」


 建物の中に入ると、クレインとカティが迎え入れてくれたが、俺の姿を見るなり、体が硬直した後、全身をガクガクと身震いさせていた。


 二十年という月日が経っても、俺の存在は忘れられなかったようだ。

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