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村長の家で相談

 落ち着きを取り戻したクレインやカティに勧められて、革張りのソファーへ案内されると、隣にリンが座り、対面にクレインとティアが座った。カティとケイティは俺達にお茶を差し出すと、クレインとティアの後ろで待機した。


 どうやら話をする時の位置は決まっているようだ。


「改めて自己紹介させていただきますね。私の名前はダンケル・D・クレイン。隣の妹がダンケル・D・ティア。そして後ろに控えているラーゼンブルグ・V・カティにラーゼンブルグ・V・ケイティと申します。どうかお見知りおきを。ソラ様のことはリンお姉様やガイアス様から聞いておりました。戻られたようでなによりです」


 震える手を握り締めながら、クレインが自己紹介をしてくれた。


「ご丁寧にありがとうございます。自分はソラって言います。おもてなしはありがたいのですが、自分はお茶を飲むことが出来ません。風の精霊なので素通りしてしまうのです。以後はお茶は出さなくても結構ですよ」


「あら、そうなのですか?マリン様とノア様はゴクゴクと飲み干されて喜んでいましたが…」


「あー、マリンとノアは水と土の精霊ですからね。水分を吸収することが出来るのです。でも味覚はないはずなので、味というより、気持ちがありがたかったのかもしれません。マリンとノアには今まで通りで大丈夫だと思いますよ」


「かしこまりました。以後、そのように致しましょう。心遣い感謝致します」


 俺とクレイン達が相手を立てながら話をしていると、話をぶった切るように「カティとケイティの入れるお茶美味しいのよ!私がソラの分も頂くわね」と言いながらリンがゴクゴクとお茶を飲み干していく。


 美味しいなら一気飲みするんじゃない!


「リン、美味しいならがぶ飲みするんじゃない!もう少し上品にちびちびと飲みなさい」


 指摘されたリンは頬を膨らませて「ソラがマシロと同じこと言う~」とぶつくさと文句を言っている。


 マシロに指摘されてもこの状態なのか、なら俺が指摘しても変わらなそうだな。


 クレイン達に視線を向けると、皆クスクスと微笑ましい表情で見守っている。この光景を幾度となく見たことがあるのだろう。


 クレインがゴホンっと咳払いをして、俺に頭を下げながら感謝の言葉を述べ始めた。


「ソラ様。二十年前は私達をガイアス様に庇護させて頂きありがとうございました。おかげで皆、何不自由なく暮らせるようになりました。ソラ村の代表として、感謝の言葉を述べさせていただきます」


「いや、その必要はないよ。自分が貴方達の住んでいる街を崩壊させてしまったんだし、森の住人達とも仲良くしているみたいだからね。特にリンの相手は大変だったでしょ。迷惑をかけてしまっていたら申し訳ありません」


 感謝の言葉を謝罪で返すと「それじゃ私が問題児みたいじゃない!なんか納得いかないわ!」とリンがブーブーと文句を言い足した。どうやら自覚がないらしい。自覚がないから治らないんだな…。


「いえ、リンお姉様には色々と骨を折っていただき、感謝しております。ソラ村がここまで発展し、ティアがこうして元気を取り戻しました。リンお姉様には感謝しか御座いません。私達の街が無くなったのは非常に残念で御座いますが、戦ですもの仕方ありません。それに上位の精霊に目を付けられていたとお聞きしました。遅かれ早かれ、街は戦場となり、崩壊していたでしょう。ソラ様が気に病むことではございません」


 どうやら、精霊にお願いされて街を攻めたことは周知されているようだ。少し気が楽になった気がする。


「それより、ソラ様は戻られて何を致しますか?協力して欲しいことがあるなら何なりとお申し付けください」


 ん~、今ここには森に住む人間達の代表が集まっている。光の上位精霊からお願いされた人類を滅亡させて欲しいという相談をするにはいい機会かもしれないな。俺はクレイン達に相談に乗ってもらうことにした。


「協力というか、相談に乗って欲しいことはあります。お願いされただけで確定はしていないのですが、光の上位精霊から人類を滅亡させてくれないかと言われています。このことに関して、クレイン達はどのように感じるか意見を聞きたいですね」


 人類滅亡の発言を受けて、クレイン達は体を硬直させて体中から冷や汗が流れている。そりゃそうだよね。精霊から抹殺命令が出てるようなものだ。俺だって人間だったら同じ反応をすると思う。


「そ、それは唐突と言いますか、私達は精霊様からはそう願われていると言うことですか?どのような方法で滅亡させようとしているのか詳しくお話を伺っても宜しいでしょうか?」


「何それ!私は聞いてない!クレイン達が殺させるなんて見過ごせないわ!その上位精霊に文句言ってあげるから居場所を教えなさい!!」


 クレイン達は詳細を聞きたいらしいが、リンは顔を真っ赤にして怒り心頭のようだ。


 俺は上位精霊に創造神となり、昔に移動させた地脈を戻してほしいことと、ついでに人類の滅亡を要請されたことを説明する。


「何それ!ソラに全責任を負わせようとしてるじゃない!私がそいつをぶん殴って止めさせてあげるわ!」


 リンが殴り込んでも相手は光の上位精霊だ。返り討ちに合うに決まっている。リンの頭を撫でて気持ちを落ち着かせようとしてみるが、一向に収まる気配がない。


 そうしている中、カティが手を上げて、話を切り出した。


「ソラ様はどのように考えておられるのか先にお聞きしても宜しいでしょうか?私達の滅亡を望んでいるのですか?」


「ん~、望んでいるわけではないけど、いずれはしないといけないとは思っている。ただやり方は自分に一任されているから、いきなり人類を滅亡させるようなことはしたくない。虐殺なんか嫌だからね。自分としては人間の繁殖能力を奪って自然に淘汰されるように出来ればいいと思っている。出来るかどうかは創造神とやらになってみないと分からないしね」


 俺の発言を受けて、クレイン達はホッと胸を撫で下ろした。


「でも、ソラが神精石?っていう魔石みたいになるのは嫌だわ!今のソラと一緒にいるのがいいのに~」


「このあと、前任者に会いに行くつもりだから、やりようによっては意思疎通だけじゃなくて、今まで通りの生活が出来ないか探してみるつもりだ。今しているのは相談でどのように思っているのか意見が聞きたいだけだよ。お願いされただけで絶対やれとは言われてないからね」


「その言い方ですと、ソラ様がやらない場合、精霊様が直々に人類に手を下すと考えられませんか?どの道私達の未来は確定しているようなものと感じられます」


「私は一度人類は滅亡した方が良いと愚考します。精霊様がどのような方法で人類に手を下すのか分からない今、ソラ様による人類の繁殖能力を失わせる方法の方が良いと判断致しました」


 カティの発言に皆が視線を向ける。カティはここ最近の人間達の情勢を説明してくれた。


 クレイン達がいた国、インランド帝国の首都が崩壊した後、隣国付近にあった城塞都市は補給線を断たれ、戦闘の継続が困難となり、隣国に吸収されてしまったんだそうだ。


 そしてインランド帝国の領土は次々と奪われ、首都近辺まで領土を拡大していったらしい。


 ただ、首都の惨状を見た隣国がそれ以上領土を広げる気にならなかったようで、ソラ大森林までは来ることはなかったんだそうだ。


 インランド帝国は隣国と領地の取り合いで度々戦争を起こしていたらしいのだが、インランド帝国がなくなっても、隣国は別の隣国と戦争を始めたんだそうだ。そして前線に立たされたのは吸収されたインランド帝国の民だった。


 隣国に吸収された彼らは自由を奪われ、税収で搾り取られる中、戦場へと駆り出され、貧困の日々をおくっているらしい。


「人間は戦争をしていた国が滅びても、別の国との戦争を繰り返しております。争いの連鎖を断ち切るため、精霊様が滅亡させたいと思ったのでしょう。過去に人外戦争も起こしておりますし、私はソラ様の方法での人類滅亡を支持したいと存じます」


 カティの発言を聞いたクレインとティア、そしてケイティも同意するように首を縦に振る。


「確かに、ソラ村は平穏に暮らせておりますが、人口が増え、国が出来れば戦を始める可能性があるでしょうね。その頃には私達はいないでしょうから、止めることも出来ませんし、カティの意見に私も賛同致します」


「えぇ~、私は嫌だな~。ここの人達気さくでいい人ばっかりなのに~。ソラ、どうにかして人類の滅亡を止める方法とかないの?」


 リンが期待の眼差しで俺を見つめてくるが、流石に上位精霊が動けば俺にはどうしようもない。それにリンはエルフだから忘れているのかもしれないが、人間の寿命は短い、その分たくさんの人間の死に目に会うのはリンだ。それについてはどう考えているのだろうか?


「リンに聞きたいんだけど、自分やリンは寿命が長い分、たくさんの人間達の死に目に会うことになる。それについてはどう思っているんだ?悲しい出来事が増えることを考慮しているか?」


「えぇ~、どっちもやだ~。どうにかできないの?」


 この欲張りさんめ!出来たらとっくに誰かがしていると思う。う~んと考えているとティアがリンに近づき、おもむろに抱き付いた。


「リンお姉様、私達は寿命が短いのでお姉様と一緒の時間を過ごすことに限りがあります。私はお姉様が人間達が亡くなる度に悲しむ姿を想像したくありませんし、いずれ私達のようにこのソラ大森林を人間達が攻めるようなことが起きてほしくありません。ソラ様の方法ならすぐに死ぬわけでも御座いません。私達が精一杯生きた証をリンお姉様が覚えていてくださるだけで嬉しいのです。ご理解頂けませんか?」


 リンはティアの胸に顔を埋めると「う~、分かった~。絶対貴方達のこと忘れないんだから~」と泣き叫んでいた。


 これで人類滅亡についての相談は終わりかな?想像していたより、後味の悪い気持ちになった。リンが言ってたように光の上位精霊を殴れるなら殴りたい気分である。


 リンが泣き止むまで、ティアはリンの頭を撫でてあげて、俺達はそれを見守ることしか出来なかった。

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