ソラ村の一日
リンが泣き終わった後、昼食の時間が近づいてきたのでお開きになった。リンはティアをおんぶしながら終始ティアに慰められていた。
おんぶの位置、逆では?普通慰める方が下の方な気がするが、あえて指摘しないで家まで戻ってきた。
ティアとケイティを見送り、中に入るとマシロが既に昼食の準備を終えていた。
今日の昼食はパンと、牛乳を使ったグラタンのような焼き物、そしてフライドポテトにハムが乗ったサラダだ。とても美味しそうだ。料理から察するに人間達の食文化を上手く取り入れているようだ。
食卓にはリン、マシロ、ラピス、レイ、そしてピナコが並んで一緒に食事を取っていた。どうやら、ピナコは地下ではなく皆と一緒に食事をするようになったようだ。家族の輪に入れたようで喜ばしい限りだ。
ただ、ラピスとレイ、そしてピナコはフライドポテトだけのようだ。妖精だからあまり食事を必要としていないのでフライドポテトだけで十分なのだろう。
リンとマシロは完食した後、残ったグラタンのホワイトソースやサラダのドレッシングをパンで綺麗に拭き取って食べている。食文化だけでなく、テーブルマナーも取り入れているみたいだ。
昼食を終えると、リンとマシロはソラ村の一日がどういうサイクルで回っているか教えてくれた。
朝起きたら、朝食を取り、午前中は酪農や畑、工房など仕事をメインにしているようだ。
そして昼食が終わると、学校のようなものがあるようで、考えるのが得意な子は文字と算数の勉強を、体の得意な子は剣術と格闘術を習っているらしい。
元々はクレインとカティが主導していたそうだが、今では先生となる大人が増えたため、先生指導の元、子供達は勉学と運動に励んでいるようだ。
そして驚いたのがリンとマシロも既に文字と数字をマスターし、リンに至っては、剣術と格闘術の先生も引き受けているらしい。
リンにそんな器用なことができるのか疑問に思っていたところ「だったら私が教えてるところを見せてあげるわ!」と午後の予定が決められた。
リンに連れられ、ソラ村を出て、森の端へ移動すると、開けた場所に小屋があり、そこで砂を詰めた箱を使って文字の練習をしているらしい。一応、羊皮紙のような紙はあるらしいのだが、貴重なため、砂で文字を書いては消しての繰り返しで覚えているようだ。
小屋の前の開けた場所では「やぁ!やぁ!やぁ!」と掛け声とともに木剣を上下に素振りしている子供達がいた。中にはドワーフの子供達も混ざっている。
「ドワーフの子供達もいるんだな。意外だ。人間達だけかと思った」
「うふふん。ガイアス曰く、剣術や格闘術で体の動きを覚えることは鍛冶のスキルにも活かせるから「覚えていて損はない!」って言ってたわ!まあ、マシロにボコボコにされて、剣術と格闘術を必死に習ったことで気づいたらしいんだけどね」
リンがふんぞり返って自慢をしているが、マシロが自慢することであって、リンが自慢することじゃないからね?
「まあ、体の動作って思っていたより誤差があるみたいだからな。剣術と格闘術を身に付けることでその誤差が減るんじゃないかな?俺のいた世界ではそうだった気がする」
「へぇ~。理にかなってたのね。ならこれからも続けるように言っておくわ!さあ、行きましょ、私の勇姿を見せてあげるわ!」
子供達がリンに気づくと「リンお姉ちゃんが来たー!今度こそ一本取るんだから~」とリンを取り囲んでいく。リンめっ、動物だけじゃなく子供にも懐かれるとか羨ましすぎる。
リンが小屋の脇に立てかけてある木剣を両手に持つと、子供達が我先にとリンに攻撃を仕掛け始めた。どうやらリンが木剣を持つのが合図になっているようだ。
リンは魔力感知を広げているようで、後ろからの攻撃も難なく避けたり、木剣で受け流したりしている。しかも避けたり受け流すついでに足払いや体当たりで相手の体制を崩している。剣術と格闘術の応用なのだろう。取り囲んでいる子供達は比較的成長して小学生高学年から中学生くらいの子が殆どだ。
「ほらほら~、大勢が崩れるってことは足元が疎かになっている証拠よ。剣だけが武器じゃないの。体全体を武器として考えながら攻撃しないと。それに怪我しないように立ち回ることも想定しないとダメよ。怪我して動きが鈍くなったら魔物に食べられちゃうわよ~」
数十人の子供達に取り囲まれているにもかかわらず、全ての攻撃を木剣や手、足を使って器用にいなしている。しかも合間に寸止めで剣や拳、足を入れる始末である。見ていて子供達が可哀そうになってくる。
だが、子供達は生き生きとした表情でリンに立ち向かって行っている。自分が日に日に強くなっているのを実感しているのかもしれない。誰一人として諦める様子がない。
不覚にも、リンや子供達に見とれてしまった。リンは元々美少女だったが、成長してかなりの美人になっている。子供達をあしらう姿は一種の武芸を披露しているようだ。
そして子供達の必死で楽しそうな表情、汗水流しながら一生懸命に頑張っている姿は非常に眩しく見えた。
過去の俺にあそこまで一生懸命になったものがあっただろうか?過去を振り返ってもあそこまで眩しい青春を謳歌した記憶などない。俺もいつかあそこまで一生懸命になれるものが見つかるだろうか?見つかるといいな…。
リンの指導は子供達の体力が切れるまで続いた。
「うふふん、今日も一本も取られなかったわね。皆、精進するように、強くなっているのは確実なんだからいつかは私に一本いれてみなさいよね!」
「はい、リンお姉ちゃん!」
休憩に入ると、皆水魔法で水を生成して水分補給をしている。魔力の扱い方も教えているようだ。昔はガイアス達も出来なかったことを人間の子供達が平然として行っているのだ。
「リン、お疲れ様。あんなに囲まれてたのに一本も当たらないとか凄いな。それに魔力の扱いも教えてるのか?空気中の水を集めて水分補給とか教えるまでガイアス達も出来なかったのに」
リンはふと視線を逸らしながら「魔力の扱いは私教えるのダメみたいで…、マシロが教えてあげているの…」と力のない言葉が返ってきた。
「ウハッ、確かにリンが教えるよりマシロが教える方が向いているかもな。まあ、誰にも得手不得手があるから気にしないことだな」
「えーっとね、ソラ。私、マシロの苦手なもの一切見たことないの。覚えたものは絶対忘れないし、出来ないものも教えればすぐに覚えちゃうから…」
おおぅ、今のところ、完璧超人マシロちゃんの苦手なものは何もないらしい。唯一あるとすればお酒がダメなくらいか?でもあれは体質であって、技術じゃないしな。いつかマシロの苦手なものを見てみたいものだ。
「日が傾いてきたわね。あとは夕食を食べたら就寝よ。これがソラ村の一日のサイクルね。あー、でもマリンとノアだけは違うわ。あの子達、夜は酪農やトイレ、浴場の清掃を行っているから」
夜やることのないマリンとノアは村の清掃を行っているようだ。あれ?そしたら俺、夜何して過ごせばいいんだ?家に戻るまでに何かいいものがないか考えてみることにする。
リンと一緒に家に戻ってきたが、結局いいアイディアは思いつかなかった。ラピスやレイ、ピナコ、俺の将棋やオセロの相手でもしてくれないか頼んでみるか。
「よく戻ってきたな、ソラ。お主に聞きたいことがある。青い肌をしていて尻尾の生やした魔族が森を走り回っているようなのだが、心当たりはないか?魔物を倒しながら「ソラー、どこにいるの~」と叫んでいるようなのだが…」
青い肌をしていて尻尾の生やした魔族で走り回ってそうな人なんて一人しか思い浮かばない。嫌な予感しかしない。「首を長くして待ってあげるわ」という言葉は嘘だったのだろうか。
「いだっ」
エンデが叫んだと同時にバキバキと音がして上を見上げると、エンデに足と尻尾を突き刺して横に立っているエレナがそこにはいた。
「ソラー、み~つけた!」
その瞬間、俺の平穏がガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた気がした…。




