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アイスヘブンの文化革命2

 グレアだけではない、ドラン以外のホワイトウッホ族もこぞって見学しに来ていた。見世物じゃないんだけどな…。


 まずはホワイトウルフとホワイトライガーが取って来てくれた食材を確認していく。


 ダチョウの卵くらいに大きな卵がズラリと並んでおり、横には木の実が沢山積みあがっていた。これでマヨネーズやドレッシングが作れそうだ。取りに行ってくれたホワイトウルフとホワイトライガーには優先的に出来た料理を食べてもらった方がいいかも知れない。


 まず、時間がかかりそうな蒸し焼きの準備を始める。鍋の底に水を入れ、中段の蒸し棚に肉と魚を入れていく。蒸すことで余分な脂と臭みが抜けて、ふっくらと柔らかくなってくれると思う。


 上段の蒸し棚には大根、ニンジン、カブ、ジャガイモのような野菜を中心に入れていく。甘みが増してホクホクになってくれると思う。ジャガイモはポテトサラダにもするので多めに入れておいた。


 ドランに竈の火を付けてもらうと、燃料はどうやら石炭と薪を使っているらしい。石炭は鉱山で取れ、薪は狩りの最中に倒してしまった樹を使っているとのことだった。樹が倒れるとかどんな獰猛な魔物を狩っているのやら、まあ、そのままだと樹が腐ってしまうので再利用するのは良いことだ。


 蒸し器は蒸気がなくなるまで放置プレイすることにして、他に三つの鍋を用意してもらった。それぞれでジャム、タマネギ、油を温める用だ。


「ドラン、悪いんだけど、俺味覚がないからさ。果物で酸味があるものを教えてくれ。レモンや酢の代わりにする。あとは木の実を革袋なんかに詰めて潰して油を取り出してほしい。マヨネーズにドレッシング、揚げ物と大量に使うと思うから」


「はい、分かりました!これが酸味の強い果物です。こちらはまだ完熟していないので酸味が強くて食べるのに向いていません。木の実から油を取るのは期待してください。力には自信があります!」


 ドランはベリー系の果物とリンゴのような果物を差し出してくれた。どうやらリンゴの方はまだ完熟していなくて酸味が強く食べ頃じゃないらしい。俺のいた世界と似たような果物のようだ。


 ジャム用の鍋にベリー系を投入し、リンゴをおろし金ですりおろす。しゃもじが見当たらないので手をしゃもじに変形させて果物を混ぜ合わせていく。これでとろみが出るまで混ぜ続ける。


 もう一つはタマネギを炒める用の鍋だ。タマネギを細かく刻んでもらい、鍋に投入していく。後は飴色になるまで炒め続ける。これをベースにすることでドレッシングを作るのだ。


 最後の油用の鍋は油が調達出来るまでは待機だ。手が六本もあるおかげで三つの鍋を並行して作業出来ている。


 ドランに視線を向けると、革袋に木の実を敷き詰め、雑巾のように絞り、大量の油が革袋から流れていた。ゴリラの見た目は伊達じゃなさそうだ。みるみるうちにお皿に油が溜まっていく。


 ジャムとタマネギのいい匂いがキッチンを包み込んでいるらしく、グレア達から「まだ料理はできないのか!」と催促された。


 そういえば、浅漬けがそろそろいい感じに出来上がっている時間だと思う。先に浅漬けの試食でもしてもらおうか。


「そこにある革袋に野菜を塩で漬けた浅漬けがある。それでも食べて待っていてくれ。まだまだ料理が出来るのには時間がかかると思うぞ」


 俺が指差した革袋に真っ先に手をかけたのはグレアだった。エレナが真っ先に取るものだと思っていたが、年長者から順番に食べていくようだ。グレア、グラン、リオン、エレナの順に浅漬けをシャリシャリと食べている。あまり量を作っていなかったので取り巻きのウッホ族は羨ましそうに眺めていた。ごめんね。


「ん~、このシャリシャリした触感と程よい塩気がたまらん」


「えぇ、塩に漬けただけでこんなに美味しくなるとは、海水に漬けたものは食べることが出来ないくらいしょっぱかったですから不思議です」


「これなら幾らでもいけそうです!」


「ん~、美味しいけど、涎と空腹が止まらないわ!ソラ、早く料理作って~!」


 海水で漬けようとしたことはあるのか…。塩分過多で美味しくなかったようだ。グレアとエレナは尻尾を左右に揺らして喜んでいるようだ。この辺りは親子として似ているのかもしれない。グレア達から笑みが零れて何よりだが、エレナのお腹がぎゅるぎゅると鳴り出している。


 漬物は食欲をかき立てるものだから、お腹が減ることを失念していた。皆、涎が垂れないようにゴクリと喉を鳴らしながらこちらを見ている。そんなに見られても出来る速度は変わらないのに…。


 そうこうしているうちにドランが油を搾り終えたようだ。深皿にたっぷりの植物油が入っていた。油を温める鍋に食油を少し投入し温めていく。あとでポテトチップスやニンジンのチップスを作るつもりなのだ。残った植物油はマヨネーズとドレッシングに使うことにする。


 ジャムとタマネギにとろみが付いてきたところ、蒸し器の湯気が薄くなっていた。鍋の底の水が無くなってきた証拠だ。蒸し器の蓋を開けると、そこにはふっくらとした野菜が姿を現した。肉と魚も中まで火が通っていて見た感じ良く蒸しあがっている気がする。味覚がないので味がどうなっているのか分からないけど、ここには確認したがっている人達が勢揃いしている。


「このジャガイモみたいな野菜以外は食べても良いよ。ただし、皆で仲良く分けるように、ドラン、悪いけど、切り分けてもらってもいいかな。ここにいる皆に行き渡るようにしてくれ」


「了解しました。では、私が切り分けさせてもらいますね!」


 ドランは熱々になっている野菜を素手でつかみ取り、包丁で丁寧に輪切りにし、この場にいる人達に分け与えていく。熱くないのかな?魔力で覆ってればあれくらいの熱さもへっちゃらなんだろうか。この体じゃ痛覚がないので分からないから深く考えるのは止めにしておく。


「ん~、今度はほっくほっくでもっちもっちしてて甘くなっておるな!肉や魚も臭みが減って柔らかくて美味しくなっておる」


「調理方法が違うだけでこんなに味が変わるとは凄いですね」


「これをこれから毎日食べられるようになるのか!」


「ん~~~、甘くて美味しい~。もっと食べたい~」


 蒸し焼きも大好評のようだ。食べた人達から笑みが零れている。ウッホ族はテンションが上がっているのか胸を手の腹で叩いてドラミングでリズムを刻み出す始末だ。そのリズムに合わせてグレアとエレナの尻尾が地面を叩いている。


「今回は作り方を教えているだけで量はあんまりないからな。今度からはドラン達に大量に作ってもらいなよ。俺はもう作らないからな」


 皆がブーブー文句を言い始めたが、俺、客人だよね?なんで俺がもてなさなきゃならないのよ。早くリン達がいる森に帰りたいのに寄り道してるのは俺の方よ?心の中で盛大に愚痴を漏らしておく。


 ジャムとタマネギのとろみが良い感じに付いてきたので、竈から下げると、皆の視線がそちらに向く。余程いい香りがしているらしい。でもこれ料理っていうより調味料だからね?主食じゃないのよ。


「これどちらかと言うと調味料だからな。舐めるだけならいいよ。でも絶対残しておけよな!」


 グレアから順番に鍋を回して皆で味見をしていく。ジャムは甘酸っぱくてとても美味しいと好評だった。残せと言ったのに残らなかった…。話聞いてたのかな?


 タマネギの方も甘くて美味しいけど何か物足りないと愚痴を漏らしている人が続出した。単品ならその評価が妥当だろうと俺は思ったが、どちらも上手く出来ているようで何よりだった。


 あとは油の鍋だけか、まだ温まっていないようなので、この間にマヨネーズとドレッシングを作ることにした。


 マヨネーズは何回も作っているから簡単だ。手をミキサーのようにして卵をかき混ぜ、油とベリー果汁を少しずつ足していってとろみが付けば完成だ。そして蒸したジャガイモをすりつぶしてマヨネーズと刻んだ野菜を混ぜればポテトサラダの出来上がりだ。



 ドレッシングも植物油に炒めたタマネギとおろし金ですりおろしたニンジンを混ぜ合わせればオニオンとニンジンのドレッシングの完成だ。生の野菜を適当に刻んでドレッシングをかければ野菜サラダの出来上がりだ。


 ただ味覚がないので味の保証は出来ない。確認してもらう他にないのだ。


 その間に油が温まったようだ。ジャガイモとニンジンを薄くスライスして油に投入し、揚げていく。揚げ終わったら塩を振りかけて完成だ!なんちゃってポテトとニンジンのチップスの出来上がり、これで一通りの料理が完成した。後は実食あるのみ、俺は食べれないんだけどね。


 出来上がったポテトサラダに野菜サラダ、ポテトとニンジンのチップスは大好評だった。ドランに至っては涙を流すくらい感動したらしい。皆和気あいあいと食事を楽しんでいるようで、作ったかいがあったというものだ。俺、客人なんだけどね。


「ソラ、お主、ここで暮らさぬか?いい待遇を約束するぞ!」


 そういうグレアの眼差しは真剣そのものだ。他の人達も真剣な表情で俺を見ているのが分かる。


「悪いけど、俺には帰りたいところがあるんだ。たまに寄るにはいいけど、ずっとはいられないよ」


「そうか…」


 グレアの肩がガックリと落ちると共に尻尾もペタンと力なく床に垂れ下がっていく。他の人達もガックリと肩を落とす中、ドランだけはやる気に満ちた表情で「ソラ様!いつでも寄ってくださいね!」と俺がこの街を離れることを気にしないでくれた。


「では、教えてもらった調理法でここにいない者達の夕食を作ってみますね。ソラ様はこのあといかがなされますか?」


 ん~、どうしようかな~と考えていると、エレナが唐突に「ソラはこれから私と一緒に寝るのよ。付いてきなさい!」と言い出し、俺の首根っこを掴んでずるずると引きずっていく。グレアに視線を向けて「助けて!」と訴えかけるが視線を外され、我関せずの姿勢を取られてしまった。


 こうして、俺はエレナの部屋まで無理やり連行される羽目となった。

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