アイスヘブンの文化革命1
グランとドランの後に付いていくと、食堂は上層を降りて向かいの場所に立っていた。皆が食べる場所は周りの建物と同様に氷で出来ていたが、中が暖かいせいか建物の中は曇っていて外からじゃ良く見えなかった。そしてキッチンがある場所だけは石造りで出来ているようで屋根からは煙突が伸び、煙をモクモクと吐き出していた。
「ソラ、ここがアイスヘブン唯一の食堂で、殆どの人達がここで食事を済ませています」
ドランに案内してもらうと、食堂の中は丁度昼食の時間帯らしく、色々な種族でごった返していた。グレアやリオン、そしてエレナの姿まである。エレナはグレアの隣に座らせられ、目を光らせられているみたいで、大人しく黙々と食事をしていた。
よく見ると、その首には氷で出来た首輪が嵌められ、氷のチェーンで繋がられていた。実の娘を幼児扱いとか、いい年してエレナは今まで何をしてきたのやら、残念な子である。
「ささ、奥にキッチンがあります。そこで色々教えてください」
食堂にいる人達に軽く挨拶をしながらドランに連れられ、俺とグランはキッチンの中へと招かれる。
中はレンガのように加工された石が壁にびっしりと敷き詰められていた。竈は石で囲われ、蓋の部分は鉄製で出来ていた。見た目は薪ストーブに近いと思う。何に火をつけているのかは開けてみないと分からなそうだ。
竈の上には鉄板が敷かれており、寸胴のような鍋がズラリと並んでいた。スープがメインと言っていたのであのような使い方をしているのだろう。寸胴があるなら鉄製の蒸し器も作れそうだ。
ドランは残っている食材を手当たり次第に鉄製のテーブルに並べていく。どうやらキッチン周りの殆どは石と鉄製品で作られているらしい。氷で出来たものは冷蔵庫みたいな箱しか見当たらなかった。
「今残っているのはこれで全てのようですね。何か足りないものがあれば取りに行かせますので遠慮なく言ってください!」
ドランの興奮が収まっていないようだ。鼻息が荒くなっている。
俺は並べられた食材を確認してみる。
畑でみた大根やニンジン、自然薯やジャガイモのような野菜の他に、カブやタマネギみたいな野菜があった。果物はリンゴとベリー系がいくつかあるようだ。後は魔物の肉と魚の肉に調味料の塩くらいか…。見た目は同じに見えても味まで似ているかどうか味覚のない俺には分からないので、そこはグランとドランの舌で確かめていくしかないな。
パッと見た感じ、直ぐ作れそうなのは野菜の浅漬けと果物のジャムくらいか?マヨネーズを作るには卵がいるし、蒸し焼きには蒸し器がいる。揚げ物には油が必要だが、木の実や豆類は見当たらない。お腹に膨れるものじゃないからあまり取って来ていないのかもしれないな。
「見た感じ、野菜の浅漬けと果物を使ったジャムは作れそうだ。食材で欲しいのは卵と木の実や豆くらいかな?あとは調理器具だな。蒸し器とおろし金は欲しい」
足りないものをドランに提案すると、テンションが高いままのドランが気軽に請け負ってくれた。
「ではさっそく、暇を持て余しているホワイトウルフとホワイトライガーに食材は取りに行かせましょう!ここにない調理器具は工房で作れると思いますので、そちらで直ぐに作ります!」
ドランは早速、食堂にいるホワイトウルフやホワイトライガーに頼みに行き、すぐ戻ってきた。
「浅漬けは少し時間を置かないといけないから、ここでサクッと作り置きしちゃおうか。ドラン、革袋に塩と水を用意してくれ。あとは野菜を薄く切って欲しい」
俺の指示を聞いたドランは直ぐに塩と水を用意し、包丁を使って慣れた手つきで野菜を薄切りにしていく。
俺は薄切りになった野菜を革袋に入れ、次に水と適当に塩を混ぜ、最後に革袋ごと揉みほぐしていく。これで夕食頃には浅漬けが出来ていると思う。
「浅漬けは夕食頃に食べれるようになると思う。調理器具を作りに今度は工房に行こうか。ドラン、連れてってくれ」
「はい!工房は食堂の隣にあります。直ぐに向かいましょう!」
ドランのテンションがまだまだ高い。創作意欲が刺激され、興奮が治まらないようだ。
「このあとはドランに任せれば大丈夫そうですね。私はまだ昼食を食べていないのでここで別れても宜しいでしょうか?」
グランが申し訳なさそうに口を開くが、お腹が空くのは仕方ない。俺とドランは了承して、グランとはここで一旦別れることになった。
工房は食堂のすぐ隣にあった。珍しく氷で出来ていない石造りの建物だった。中からはカンカンカンと金槌で何かを叩いている音が響いている。
工房の中に入ってみると、金属製の道具と革製の衣服を作っている最中だった。
「ここが工房です。今は革製の衣服を作っているところですね。革同士を繋ぎ合わせるのに金属のボタンと革で出来た紐、あとは糸を紡いで縫っています」
金属のボタンで繋ぎ合わせてると言っているが、なぜトゲトゲしているのだろうか?世紀末感が増すと思うのだが、何か理由があるのかな?一応聞いてみるか。
「金属のボタンがやけに尖っているように見えるが、あれは何か理由があるのか?付けるの大変だし、当たると痛いと思うんだが…」
「あー、あれは強さの象徴としてホワイトウルフとホワイトライガーが角や牙、爪のような形を好んでいるせいですね。アクセサリーでは魔物の角や牙を使ったものが多いので、そのせいでしょう」
あー、俺のいた世界でも少数民族の部族でそういうのあったわ。この世界でも似た文化があるらしく、世紀末というより、太古の文化よりだったようだ。なんか納得がいった。ということはもしかすると…、俺は下着に関して質問してみた。
「そういえば、下着が見当たらないように見えるが、そこはどうしてるんだ?」
ドランは目を丸くして「下着とはなんですか?」と真顔で答えてきた。
やはり、下着の文化がなかったらしい。深堀りしてみたところ、体毛の多い種族が多いため、下着を付ける習慣がないらしい。アイスジャイアントやアイスマーマンに至っては服を着ないので裸同然みたいだ。体毛で大事な部分が隠れているので着る必要がないのだそうだ。
ということはグレアやエレナも下着は履いていないということか、羞恥心がない理由が分かった気がする。
「そんなことより、調理器具を作りましょう。蒸し器とおろし金とはどういうものなのか教えてください!」
ドランの言う通り、衣服の文化に関しては置いておくことにした。
俺は体を変形させて、実際に蒸し器とおろし金のサンプルを見せながら説明していく。
「なるほど、これなら直ぐに出来そうです。待っていてください」
ドランはおもむろに金属の板に手を伸ばし、素手で金属を曲げながら加工していく。素手で金属加工とかどんだけ力があるんだよ!俺が驚いていると、ドランは理由を教えてくれた。
「これは岩魔法を使って金属を柔らかくして曲げているのですよ。岩魔法を使わないでやると金属が折れてしまいますからね。ほら、このように穴をあけるのもお手の物です」
ドランが金属の板に岩属性の魔法をかけると、板の均等な位置に小さな穴がみるみると開いていった。なぜ土属性と岩属性に分かれているのかと思っていたが、どうやら岩属性は鉱石や鉱物に働きかけることが出来るみたいだ。それが出来るか出来ないかで土と岩に分かれているらしい。でも素手で金属を折るとか、それはそれで力があり過ぎると思う。
そんな話をしている間にドランはあっさりと蒸し器とおろし金を作ってしまった。水を入れる鍋の底に、蒸すための穴あき棚が二つ、そして蒸気を少し逃がすために小さな穴の開いた蓋がある。おろし金も均等な位置にギザギザの突起が付いており、受け皿となるボールもセットになっていた。完璧である。魔法偉大過ぎ!
「ではこれを持って、食堂のキッチンに戻りましょうか。そろそろホワイトウルフとホワイトライガー達も食材を持って帰ってくる頃でしょう。これほどワクワクするのは久しぶりです。ソラがアイスヘブンに来てくれて良かった!」
ドランと一緒に食堂のキッチンへ戻ると、そこにはグレア、グラン、リオン、エレナが待ちくたびれたように待っていた。どうやらグランが俺とドランが新作料理を作っていることを皆に伝えたらしく、首を長くして待っていたようだ。
このプレッシャーの中で料理をしろと?勘弁してほしいものである。俺は肩をガックリと落としながらそう思った。




