アイスヘブンを観光?
街の上層とは言ったものの、街の中心部にある盛り土がされている場所だった。高さも五メートル程しかない。端に石造りの階段があり、グランの後に付いてドランと共に上がっていく。
階段を上り終えると、そこには学校のグラウンド程の広さの場所に畑と、作業をするであろう氷で作られた小屋があった。透き通っているので、中が丸見えだ。どうやら野菜の仕分けをしているらしい。小屋の中でウッホ族の人達が何やら作業しているのが見えた。
「ここがアイスヘブンで上層に当たる場所になります。日当たりが良く、アイスヘブンでも最も暖かい場所なので畑を作っています。端にある小屋では野菜の仕分けや加工を行っています」
畑は綺麗に耕かされ、色分けされた葉が綺麗に並んでいた。野菜の種類を分けているのだろう。分かりやすい。でも葉野菜だけしか植えられていないようだが、大丈夫なのだろうか?
「葉野菜だけにしか見えないんですけど、あれで足りるのですか?アイスヘブンを賄うにしては少ないように見えるのですが…」
「あぁ、心配は要りません。あれは野菜から伸びている葉の部分で野菜本体は土に埋まっています。ドラン、何か適当に見せてあげてください」
ドランがおもむろに畑に近づき、葉を吟味している。収穫出来る野菜を探しているのだろう。土を掘り起こし、野菜の本体が出てくると、そこには丸々と太った大根のような根野菜が出てきた。太いし長い、一メートルはあるのではなかろうか。
「比較的暖かいと言っても、育つ野菜がこのように土に埋まって育つ野菜が殆どなのです。その分甘く、みずみずしいのでスープに使うと良い出汁が出て非常に美味しいのです。調味料が海で取れる塩くらいしかありませんから…。ソラが精霊でなければ料理をふるって差し上げたのですが、残念でなりません」
ドランが次々に野菜を掘り起こしてくれるが、ニンジン、自然薯、ジャガイモのような不思議な色合いをした根野菜ばかりである。どれも丸々と太っていて美味しそうだ。塩があるなら浅漬けとかあるのかな?どんな調理をしているのか聞いてみるか?
「野菜を使ってスープ以外には何を作っているのですか?あと主食が何か聞いても?」
「もちろん大丈夫ですよ。アイスヘブンは何分寒いので温かい料理が多いですね。野菜は殆どがスープとして使われます。傷んでしまった部分に関しては潰して肥料にしていますね。あと主食は魔物の肉と魚の肉ですね。火を通して塩を振って食べています。これが絶品なのですが、毎日のように出しているので飽きているものが多いです。レパートリーを増やせないかよく文句を言われますが、他の作り方を知らないので増えていません…」
ドランはガックリと肩を落としながら溜息交じりで教えてくれた。うん、上手そうだけど、それだけだとすぐ飽きそうだと俺でも思う。俺はぱっと思いつく限りの調理や料理を呪文のように唱え、ドランが知っているか反応を伺うことにした。
「浅漬け、蒸し焼き、肉と野菜の炒め物、ポテトサラダ、マヨネーズ、揚げ物、ドレッシング、それにお酒を使った料理…」
「肉と野菜を一緒に炒めるのは試したことがあるのですが、水分が多い野菜ばかりなので肉の脂と混ざると脂が跳ねて危ないのです。お酒はありますが、量があまり作れないので料理に使ったことはありませんね。他のは聞いたことがありません、どんな料理なのですか?」
ドランは目をキラキラさせながら食い入るように聞いてきた。どうやら単純に煮るスープと焼くばかりで他の方法があまりなかったようだ。
「浅漬けは塩につけて少し時間を置いて熟成させたものだ。野菜がシャキシャキしてちょっと酸っぱくなるからつまみに持ってこいだ。蒸し焼きは水を沸騰させた蒸気で蒸したものだ。野菜を蒸すと甘く柔らかな触感になると思う。肉を蒸すと無駄な脂が落ち、中まで均等に熱が入るので柔らかくてさっぱりして美味しくなる。ポテトサラダは根野菜を蒸して柔らかくした後、磨り潰したものだ。混ぜる野菜によって味や触感が変わるから飽きにくくなると思う。マヨネーズは鳥の卵に塩や油を混ぜて作った調味料のことだ。ポテトサラダに混ぜると美味しいし、野菜や肉にかけて食べても良い。揚げ物は油を使って揚げた料理のことだ。この畑には麦のような穀物がないから難しいかも知れないかな。ドレッシングは油に色々なものを混ぜた物だ。色々な野菜を磨り潰して混ぜたりして、野菜や肉にかければ味の変化を楽しめて良いと思う」
俺がつらつらと説明していると、ドランは興奮して胸を両手の腹で叩いてドラミングを始めた。
「ソラ、いえ、ソラ様!ぜび、教えてください。知らないものばかりです。特に子供達は飽きやすいのでいつも悩んでいたんです。このあと食堂にも案内しますから、そこで色々教えてください!!」
「ドランがここまで興奮するのは珍しいですね。ソラを連れてきたかいがありました。その調子で色々なアイディアを頂けるとありがたいです」
グランも嬉しそうな笑みを浮かべてドランを見守っている。俺的にはむしろ、今までよくその食文化で生きてこられたなと同情と憐れみの籠った視線をグランとドランに向けた。この二人、お互い苦労しているのだろう。心の底から喜んでいるように見えた。
「おっと、畑や料理の話ばかりになってしまいましたね。ここからアイスヘブンの街並みの説明をさせていただきます。それが終わったら食堂へ参りましょうか」
気持ちを切り替え、上層の端を周りながらグランが簡潔に説明してくれた。
街の入口周辺には、狩りに出かけやすいようにホワイトウルフとホワイトライガー達が住んでいるらしい。たまに魔物が迷って入ってくるが、鼻と耳の良い彼らが直ぐに気づき、対処もするようだ。武器庫も置いてあるため、端っこに闘技場があるのもそのせいなんだそうだ。
街の中央は畑と食堂、そして衣類などの生活用品を作っている工房があるため、街の中央周辺はホワイトウッホ達が住んでいるらしい。
街の奥にはグレア達の住む家が建っており、左右には下層へ続く道があるんだそうだ。
左にはアイスジャイアントが住んでおり、アイスマーマンが取ってきた海産物を保管する倉庫があるらしい。
右にはアイスマーマンが住んでおり、右側には海へと続く穴が開いているんだそうだ。
ちゃんと街で部族毎に区切られているので、役割分担がハッキリしているのが分かる。ホワイトウッホ族の負担が大きいことが鮮明になったとも言える。畑くらい他の部族に任せても良い気がする。俺は疑問をぶつけてみる。
「ドラン達の負担が大きい気がするが、畑ぐらい他の部族に任せたり出来ないのか?」
ドランが重々しい溜息を吐きながら遠い目をしながら話してくれた。
「一回任せてみたことがあるのですが、アイスジャイアントは体が大きいため、力加減が分からず、野菜をダメにしてしまうことが多かったのです。ホワイトウルフとホワイトライガーは出来の良い野菜を見つけるとその場で試食という名の盗み食いをしてしまいダメでした。そしてアイスマーマンに至ってはあの体なので階段の上り下りが大変で任せられませんでした…」
ドラン達の苦労が目に浮かぶ。真面目な性格も相まって街の大半の仕事を抱え込んでいるようだ。この街はホワイトウッホ族で回っているのかもしれない。グランに視線を向けてみると、信じられないことを告げられた。
「過去の出来事で魔族が減った際には母上が先陣を切って仕事を行っていたらしく、ホワイトウッホ族と協力して街の復興をしていたらしいのです。その名残もあってか街の殆どの仕事がドラン達に任せっきりになってしまいました。でも幼い頃は、私もリオンも、そしてあのエレナですら手伝っていたのです。これでも昔に比べたら大分マシになったのですよ」
おおぅ、グレアはともかくあのエレナですら手伝っていたのか…。でもエレナって手伝えてたのかな?邪魔しかしてなさそうに思えるのだが…。グランに疑念の籠った視線を向けると、俺の心の声はグランには聞こえたらしい。
「エレナも最初は上手く手伝っていたのですよ。ただ、成長するにつれ、飽きっぽくなってしまい、面白そうなことがあると首を突っ込むようになったり、体を動かすのが好きみたいで誰彼構わず『戦闘訓練だ!』と言いながら絡むようになったのです…」
グランが盛大に溜息を吐きながら「どうしてああなってしまったのか、昔は可愛い妹だったのに…」と嘆いている。
その話を聞いてもエレナが手伝っていた光景なんて想像も出来ないけど、昔は聞き分けの良い子だったようだ。残念である。
「これでこの街のことは説明し終えましたね。では、食堂や工房に参りましょうか。ソラから色々教えてもらうことが多そうですから、少し急ぎましょうか」
グランとドランは軽快に階段を下りていく。俺はその二人に付いていきながら、グランとドランの負担が減るなら手伝うのもやぶさかではないと強く思った。意外と俺はお人好しなのかもしれない。




