グレアとの対談
さて、どこから話したものか。そもそも俺が異世界からの転生者だと知っているのだろうか?探りを入れてみることにする。
「グレアは自分のことをどのくらい聞いていますか?それでどこから話すか決めたいと思います」
グレアは頬に手を当てて少し俯き、考え始めた。影が落ちた俯き顔が凄く綺麗だ。まつ毛も長い。よくこんな人からエレナみたいな子が生まれたなと思う。
「精霊からは異世界の記憶を持った精霊が自我を持つ異精霊になったと言われたな。異精霊化を治すのは今回で二度目だし、光の精霊が行き来するので目立つからの~。確かめるまで半信半疑だったのじゃが、本当に異世界の記憶を持っておるのか?」
やはり知っていたか…。俯きながらでも眼光は鋭い…。少し警戒しているのかもしれない。
「事実だよ。異世界では人間として暮らしていた。まあ、この世界みたいに魔法やファンタジーがある世界ではなかったけどね」
「ファンタジー?分からない言葉は抜きにして、早く本題に入ってもらえないかの~」
本題からと言われたので、俺は森で生活している際に人間達がエルフを目的として攻めてきたこと。風の上位精霊に人間達の兵器を破壊しろとお願いされたこと。それに伴い飛行船を作り、人間の兵器を破壊することには成功したが、罠にはまって死にかけ、異精霊化したことを簡潔に説明した。
「ふむ、森に人間が攻めてきたことと異精霊になった原因は分かった。わらわが知りたいのは人間が攻めてくる前、南の森からこちら側に攻撃がなかった?攻撃の痕から木で出来た何かが飛んできたのは分かったのじゃが、グランに情報収集させるために森へ偵察に出したら人間に襲われておるし、その後は何やら空飛ぶものを作っているようで接触することは控えるようにしたので結局分からず仕舞いなのじゃ…」
森から攻撃?そんなことする人が森にいるだろうか?あれ?俺が魔法の練習ですっ飛んでいった丸太のロケット砲ってどこに飛んでいったっけ?山の山頂を吹き飛ばしながら遥か北に飛んでいった気がする。着弾場所なんて知らない。もしかしてアイスヘブンの近くに落ちたのだろうか…。
この体じゃなかったら全身から冷や汗が流れていると思う。まずは被害がなかったか確認することにした。
「その攻撃で何か被害が出たのですか?もしや負傷者がでたとか…?」
「いや、被害者は出ておらんよ。ただ、平穏な生活を謳歌している最中のいきなりの攻撃、それに地響きが五月蠅くてな。それを聞きつけたエレナが子供達を巻き込んで犯人捜しをしようと山に入ろうとするし、抑えるのに苦労させられたのじゃ」
思いだしてイラついたのか、尻尾でバシンバシンと床を叩いている。グランも苦労したのか溜息が洩れていた。被害がなかったようで何よりである。俺は自分がその原因かもしれないことを歯切れの悪い喋りで暴露した。
「えーっと、被害がなかったようで何よりなんですが…、恐らくその攻撃は自分が原因かもしれません…。ハハハ…」
グレアとグランがギョッとしたように目を丸くする。
「ソラ!詳細を話せ!何がどうしてそんなことをしたのじゃ!!」
俺は魔法の練習の話をしつつ、謝ることにした。
「魔法の練習をしている際に、木の丸太を勢いよく飛ばせないか試していたところ、途中でロープが切れて北の方へ山の山頂を吹き飛ばしながら飛んでいってしまって…、迷惑をかけたなら申し訳ないです…、ごめんなさい」
「それなら辻褄が合いますね。時期的にも合っていると思いますよ」
グランが情報の整理をすると、俺が犯人だとほぼ断定できたらしい。二人の視線が痛い…。
「まあ、被害がなかったことだし、この件をきっかけに情報収集をしたことで人間達の過激な行動や森の情報が手に入ったのでこの件は不問とする。人間の新兵器ではないかとビクビクしておったのじゃが、ソラが原因だとは思いもよらなかったの~」
グレアは盛大に溜息を吐いた後、肩の力を抜いて椅子にもたれかかった。
「まあ、これで森と人間達のことは分かった。次はメルのことじゃ。どこまで知っておるのか話してもらえぬか?メルはわらわの姉のような存在でわらわに仕えてくれていた侍女だったのじゃ」
なんと!メルフィーナが助けようとしていた人物はグレアだったのかもしれない。ここまで美しく成長している姿を知ったら彼女も報われるだろう。そう願いたい。
俺は異精霊化を治療している間に出会った、氷の精霊メルフィーナのことを話すことにした。
メルフィーナと名乗る氷の精霊がメルフィーナと化け物との戦闘を一部始終見届け、その光景に感銘を受けて辺りに残留しているメルフィーナの魔力を取り込み、メルフィーナの名と姿を模していること、そしてその光景を俺にも見せてくれたことを話した。
「そうか、その化け物という相手はわらわの母上のことじゃろうな。ソウルバーストを使うとは、どの道メルは助からなかったということか。道理で遺体も見つからなかったわけじゃ」
「母上、ソウルバーストとは何ですか?私は聞いたこともありませんが…」
俺も聞いてみたい。ソウルバーストとは何なんだろうか?グレアは「息子や娘には知らないままでいて欲しかったのじゃが…」と言いつつ、ソウルバーストについて説明してくれた。
「魔力が高く、長く生きていると心臓の辺りに魔石が出来るらしいのじゃ。わらわは実際にみたことがないので聞いた話じゃがな。その魔石に負荷をかけて暴走させることにより、一時的に身体能力と魔力を高めるらしい。そしてソウルバーストを使ったものは必ず死ぬと聞いた。ソラ、ソウルバーストを使っていたメルは赤い魔力を纏っていたんじゃないかぇ?」
「確かに赤い魔力を纏ってましたね。時間が経つにつれ、魔力が薄くなっていくように見えました」
「体に負荷がかかり、血が蒸発してそう見えるらしい。ソウルバーストを使用して亡くなったものは傷つけても血が流れない程、血が無くなっているらしいからのう~」
つまり、ソウルバーストは命を懸けても守りたいものがあるときに使う最後の手段のようだ。
「そのような行為、息子や娘にさせたくはないからのう~、今まで教えなかったのじゃ。グラン、わらわが死ぬまで絶対に使うでないぞ。わらわより先に死ぬことは許さぬ」
母親としてグランに対して大きな釘を刺している。グランも「しませんよ。リオンやエレナにも言いません」と了承していた。
「さてと、ソラからは聞きたいことは聞けたし、お開きにしようかの。ソラ、一応アイスヘブンにいる族長達に挨拶をしたあと街を見て回ると良い。そして何か便利なものがあったら色々教えてほしい。他と交流をしていないので生活に関するものが昔からあまり変わっておらぬのじゃ。グラン、申し訳ないがソラの案内を頼む」
「了解しました。母上。ではソラ、各部族の長に挨拶しながらアイスヘブンをご案内します。宜しいですか?」
俺はグランに連れられて応接室から出る際にグレアを一瞥すると、目から涙が零れていくのが見えた。
グレアにとってメルフィーナが余程大事な存在だったということが、それだけで分かった。




