世紀末風魔族
魔族がこちらに段々近づいてくると、服装の詳細が分かってきた。
上半身は革製の半袖ベストを身に付け、革製の帯を結んで留めている。下半身には革製の太めのズボンを履いており、靴は無く、素足だった。寒くはないのだろうか?見ているだけでも寒い、俺なら絶対風邪をひく、いや、凍死する。
肌が露出している胸元と腕は筋肉が盛り上がり、鍛え上げられているのが見て取れた。胸元に傷跡があったら世紀末に出てくる主人公にそっくりだったのに、残念である。
「初めまして。グランと申します。私の言葉が分かりますか?」
グランと名乗る魔族は丁寧な言葉と共に軽い会釈をして挨拶をしてきた。
「初めまして、自分はソラって言います。言葉は分かりますが、なぜ確認をしたのですか?」
グランはニッコリと笑顔を作ると、その理由を教えてくれた。
「私達、北に住む魔族は他との交流が殆ど無いため、他で使われている言語が分からないのです。ですので言葉が通じない場合はどうしたらいいのかと悩んでいたのですが、杞憂のようで何よりでした」
なるほど、俺がこうして普通に話せているのはグランにとっては朗報のようだ。恐らく、メルフィーナが思考を送る際に言葉も分かるようにしてくれていたのだろう。フェリーゼといい、メルフィーナといい、こっそりやらないでほしい。俺が鈍くて気づいていないだけかもしれないけど、翻訳要らずなのはありがたい。愚痴をこぼしつつ、心の中では手を合わせて感謝しておく。
「それにしてもその恰好、寒くないのですか?見ているだけで感覚のない自分でも寒気を覚えてしまいそうなのですが…」
グランは自分の服装に視線を移しながら、俺の質問に答えてくれた。
「普段から身体強化で魔力を薄く纏っているので、寒さに限らず、暑さも遮っているので寒くはありませんよ。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、謝ることじゃないです。寒くないようで何よりです」
グランは魔族にしてはかなり礼儀正しいように思える。この世界の魔族は皆こうなのだろうか?そうだったら良いな。
「お主が魔族の使いで来たものか。ここにいるソラが異精霊化した精霊だ。今はこの通り異精霊化が解けておる。連れていくと良い。ソラ、達者でな。将棋とオセロを教えてくれてありがとう。大事に使わせてもらう」
ゴードンが精霊達の筆頭として挨拶を交わすと、魔族を見に精霊達が集まってきた。グランが言ってた通り、他との交流をあまりしていないと言っていた。精霊とも交流をしていなかったのだろう。皆珍しいものを見るような目でグランを観察している。
「おや?精霊の中に魔族のような姿形を取っている方がいらっしゃるように見受けられますが、どちら様ですか?」
どうやらメルフィーナを見つけて興味を持ったらしい。まあ、目立つ格好もさせているから自然と視界に入っちゃうよね。
「彼女は氷の精霊のメルフィーナ。昔見た魔族の姿を模しているんだ。残留していた魔力を吸収して模した魔族の名前だけは分かったらしい。服装は俺の趣味で変わった格好をしているけど、そこは気にしないでください」
メルフィーナが一歩前に進み出てスカートの裾を両手で摘まみ、裾を少しあげて挨拶を始めた。
「私はメルフィーナと申します。この魔族が戦っている姿に感銘を受け、この姿になりました。もしや、この魔族をご存じなのですか?」
グランは腕を組みながらジロジロとメルフィーナを観察している。
「いえ、存じません。ですが、母上に良く似ているので気になったのです。もしかしたら母上に聞けば、分かるかもしれません。メルフィーナも同行しますか?」
どうやらメルフィーナはグランの母親に似ているらしい。同行を求めてみたものの、それを聞いたゴードンが止めに入ってきた。
「済まぬが、ここにいる精霊は他との交流をあまり持ってほしくない。いずれソラとは会う予定なのだ。名前だけ分かれば良かろう。ソラ、メルフィーナの件も宜しく頼む」
まあ、名前が分かっているので、それだけあれば知っている人物かどうかの材料には十分だと思ったのだろう。俺はゴードンの意見に反対できず、了承するしかなかった。
「分かりました、確認してみます。ではゴードンにハレルヤ、アレルヤ、セキ、メルフィーナ、精霊の皆、今までお世話になりました。また来るのでその時はリベンジマッチでもしましょう!」
「おう!」と精霊達の声が重なる。
俺はグランと共に、精霊達に見送られながら、精神と時の部屋みたいな雪原を後にした。




