ボードゲームは偉大
セキと二人で将棋とオセロを交互に楽しんでいると、周りにちらほらと雪や綿毛に見える氷か光の精霊と思われる物体が興味深そうに見物するようになっていた。
「あれは、氷と光の下位精霊だな。ソラは気づいていなかったみたいだが、まだまだ色が濃かった時はもっとたくさんの氷と光の精霊がこれ見よがしに来ていた。異精霊は珍しいからな。興味を持ったとしても仕方がない。この辺りは魔素が多くて精霊も多いが、周りは雪や氷しかないからな。暇を持て余している精霊が多いのだ」
俺は見世物小屋のように色々な精霊に観察されていたらしい。俺はまだ魔力を感知出来ないので、まったく気づかなかった。それだけ無の境地を極めていたとも言えるが…。
ただ、視線は俺より将棋やオセロに向かっているように見える。
俺は視線に耐えかねて、将棋とオセロをもう一組作ることにした。そして作って待っていたら、ソワソワしながらじりじりと精霊達が近づいてくる。俺は将棋とオセロのルールを説明してあげた。
「これは将棋とオセロというボードゲームだ。興味があるならやってみるか?精霊は一杯いるようだし、交代しながらやってみようか?」
下位の精霊達は、うんうんと顔を上下に振りながら肯定している。これはもっと将棋とオセロを作ってあげた方が良さそうだ。
流石にセキと二人で遊ぶのには飽きてきた。セキも将棋とオセロのルールは網羅したし、それぞれが下位精霊達を相手に将棋とオセロを指すことにした。
下位精霊はまだ知能が低く、特に将棋のルールを覚えるのに難儀していたが、二歩をしたり成金を忘れたりと、可愛らしい失敗をするので緊張が解れていく気がした。
気づくと、噂を聞きつけたのか、明らかに下位ではない氷と光の精霊達も集まってきた。下位の精霊は雪や綿毛のような小さい存在ばかりだったが、今回集まってきたのは小さな雪男、アザラシのような動物、シロクマみたいな動物、シマエナガのような小鳥など様々だ。
つまり、この精霊達に似た動物はこの世界には存在しているようだ。新しい発見だ。
「これほど集まるとはな…。もっと将棋やオセロが必要だな。ソラ、私も一緒に作ろう」
俺とセキが一生懸命、将棋とオセロを作成している間にも次々と精霊達が増えていく。どれだけ暇を持て余している精霊がいるんだよ。
最終的にはハレルヤとアレルヤ、そしてゴードンを含む上位精霊達も参加していた。
建前として俺の経過観察だと言い張っていたが、視線が将棋とオセロに向かっていたので、俺は二の次で本命は将棋とオセロなのは明白だった。
気づけば、数百を超える精霊達による将棋とオセロ大会が開催されていた。
俺とセキ、そして図体のでかい上位精霊のゴードンやハレルヤ、アレルヤ達は動かず、対戦が終わるとローテーションで相手が変わるようにしていたが、もう一度再戦する頃には非常に時間がかかる状態となっていた。
そして俺の新しい対戦相手が来たと思ったら、全裸の麗しい成人女性の姿をした氷の精霊が現れた。
「ちょっ、おま!服はどうした?裸でいたら目のやり場に困るだろう!」
俺が目のやり場に困り、手で顔を覆っていても、当の本人はまったく気にしていないようで首を傾げていた。どうやら精霊には貞操の概念がないみたいだ。服を着なくても今まで誰も突っ込まなかったんだと思う。
「分かった、少し待って。…これでどう?この子が着ていた服を再現してみたんだけど…」
手を退けて彼女を確認してみると、毛皮のような浴衣一枚を羽織り。帯で締めているだけだった。まあ、ないよりマシだけど、それはそれでエロい恰好をしている。明らかに下着も付けていない。
よく見ると、青い髪、青い瞳、そして綺麗な薄水色の肌をしており、肘や膝に鱗のようなものが見える。そしてお尻からは爬虫類のような尻尾も生えていた。
「それは魔族の女性の姿ですか?貴女は魔族と関わりを持っているのですか?」
女性の姿をした氷の精霊は首を横に振って否定した。
「この魔族の女性が戦って散る姿にとても感銘を受けたのです。命の限り戦い、散る姿は美しく、そして儚かった。戦いの跡に残った彼女の魔力を吸ったところ、残留思念で名をメルフィーナ、そして何か大切な物を守るために命を尽くして戦っていたところまでは分かったのですが、それ以外のことは分からなかったのです」
つまり、亡くなった魔族の女性の魔力を取り込んだら、彼女の記憶の一部と姿を手に入れたらしい。名前もそのまんま使わせてもらう形でメルフィーナと名乗っているようだ。
「あの光景は今でも鮮明に覚えています。今の貴方に思考を送れるか分かりませんが、見てみませんか?」
精霊がここまで勧めてくれるのだ。見れるなら見て見たい。
「見てみたいです。お願いします!」
「では手を出してください」
手を差し伸べると、メルフィーナが手を重ねてくれる。そして俺に思考を送り、その光景を見させてくれた。
◇
場面が切り替わった。どうやら今の俺の体でも思考を送るのに成功したらしい。
正面にはメルフィーナとそしてティラノサウルスのような顔をした化け物が対峙していた。
「小娘、娘をどこに逃がした!教えてくれたら命までは取らないでやろう」
化け物のにやけ顔に嘘つきと書いてあるのが目に見えるほど、信頼できない雰囲気がぷんぷんしているのが俺でも分かった。
メルフィーナは首を横に振り「どうせ、教えても生かす気なんてないのでしょう?でなければ、民があそこまで死ぬはずがありません!」
どうやら化け物は民を従える地位にいるようだ。あんな化け物が上に立っているなんて俺だったら逃げ出しちゃうね。
「ならどうする?小娘ごときが私を止められると思っているのか?」
「貴女を倒せなくても時間を稼ぐことは出来ます」
メルフィーナは大きく息を吸って、覚悟を決めた表情になった瞬間「ソウルバースト」と叫び、魔力が爆発的に増大したようにみえた。彼女の周りには真っ赤に染まった魔力が夥しい量で溢れている。
「またそれかい。ここに来るまでに何人かの族長ともやり合ったけど、ソウルバーストを使っても私は倒せなかった。無駄死にだが、確かに足止めをして時間を稼ぐことはできるだろうねぃ」
メルフィーナが物凄い速さで怪物の周りを旋回し、氷で作った短剣を投擲していく。しかしながら怪物は薄皮一枚切れるくらいのダメージしかおっておらず、すぐさま傷口が再生してしまった。
メルフィーナが化け物に接近し、飛び蹴りをかますも、片手で難なく防いでいる。ただ防いだ手が血まみれになっていた。雪の上を早く移動するため、靴にスパイクのような棘が幾つもあった。それが刺さって流血したみたいだ。
でも化け物の傷口はすぐに塞がってしまう。見ていてもどかしい。
「このくらいの傷なら直ぐに再生する。その程度の攻撃じゃ私を止めれないよ!」
メルフィーナの攻撃を無視するかのようにズカズカと雪原を進もうとする化け物に対して、メルフィーナの魔力が更に爆発的に上昇し、手には氷で作った大剣が握られていた。
「ソウルバーストは長く続かないから、最後の一撃に掛けるのは悪くない。それで私を仕留めれるかは疑問だけどねぃ」
はぁはぁと息遣いが荒く、体中に汗を滝のように流しているメルフィーナを見ると、ソウルバーストはそれほど負荷のかかる行為なのだろう。
「では、参ります!」
「来な、小娘風情が!」
メルフィーナが盛大にジャンプをし、前方宙返りしながら大剣を化け物に向けて振り下ろした。
結果は化け物の腕の骨に達する場所まで切ることは出来たが、そこまでだった。大剣が砕け散り、化け物の口がメルフィーナに向かう。
「ご愁傷様、いただきま~す」
そういうと化け物はメルフィーナの首から上を嚙み砕き、飲み込んでいく。それが終わると残った体を無造作に掴み、丸呑みした。
「はぁ~、魔力を使い果たした魔族は不味いこと。まぁいい。どうせ娘は私のところに戻ってくる。私はそれをただただ待てばいい。アッハッハッハ~」
化け物は高笑いしながら雪原を去っていく。
そして辺りにはメルフィーナが残した魔力があちらこちらに散らばっていた。それに向かって移動し、魔力を吸収している場面で送られた思考が途切れた。
◇
「どうでしたか!彼女の戦いは美しくありませんでしたか!!」
目をキラキラ輝かせるメルフィーナに対して、何と言ったらいいだろうか。確かに誰かを守るために命を賭して戦う姿は美しく思えたが、それ以上に悲しみの方が勝ってしまった。
「確かに美しくはあった。けど俺はそれ以上に悲しかったよ」
精霊との倫理観の違いに戸惑いつつ、メルフィーナの無念を思えば、逃がした子が助かってくれていると祈るしかない。
俺は悶々とした気持ちの中、メルフィーナと将棋やオセロを指し合った。




