日光浴
ハレルヤが北へ北へと雪原を飛んでいると、徐々に辺りが明るくなり、太陽が見えるまでになった。
「ここから先は日が落ちることはない。生物も殆どおらず、光と氷の精霊ばかりなので、異精霊を治すにはうってつけの場所なんだ」
どうやらこの星にも日の落ちることがない、白夜の地域があるみたいだ。
「この辺りでいいだろう。氷の精霊もいるはずだ。氷の精霊にも協力してもらわないと、触れた雪や氷が灰になって海に落ちてしまうからな」
光と闇の精霊だけでなく、氷の精霊の協力も必要なのか。治った後、とんでもないことをお願い、もとい命令されそうだ。
雪原に降りると、近くにいた氷の精霊が集まってきた。ハレルヤが眩しく光っているので何事か様子を見に来たのだろう。
「ここにいる氷の精霊にお願いがある。異精霊を元に戻すための協力を頼みたい。手伝ってもらえないだろうか?」
雪男のようなもじゃもじゃとした毛を纏った巨人の形をした氷の精霊達が協力を申し出てくれた。
「以前にも協力したことがある。異精霊が海に落ちないように氷を張り続ければいいのだろう?」
「話が早くて助かる。それでは後を頼む。ソラはジッとしているだけでいい。直に体が徐々に薄くなり、触れても灰にならなくなるはずだ。治ったらまた来る。それまではここにいて氷の精霊の話を聞くように、分かったか?」
「ワカッタ、ココマデツレテキテクレテ、アリガトウゴザイマス」
お礼を言うと、ハレルヤは飛び去ってしまった。残ったのは氷の精霊と俺だけだ。直に体が薄くなるって言っていたからそこまで時間はかかるまい。
そう思っていた時期が俺にもありました…。
まず、日が落ちないせいで時間の感覚がおかしくなった。太陽と衛星が動いているのは分かる。でもずっと明るく周りは雪原だ。風景に何の変化も起こらないせいで今が朝なのか昼なのか、それとも夜なのか全然分からないのだ。
時間を潰そうにも動くなと言われているし、氷の精霊に話しかけても無視される始末だ。
正直、説明もされずに精神と時の部屋へぶち込まれた感じだ。
時間は有り余っているので、俺は今の体の状態を確かめることにした。
背中の手は動くようになった。前の体で背中に羽を生やしていたせいか、感覚が似ていて動かすのに苦労はしなかった。
あとは魔力感知といった魔力の操作だ。これが全然出来なかった。魔素も感じ取れないし、体の中の魔力を全く感じないのだ。
試行錯誤を繰り返しているうちに、手から黒い球体を出せることには成功した。魔力を出すというより、手に力を入れて力んでいたら出来ちゃっただけだが…、握ってみると弾力がある。ぽんぽん上に投げてみるが重みは全く感じない。
試しに氷の精霊がいない方へ黒い球体を投げてみると、雪原に落ちた後、ぽっかりと穴があき、そこから水が湧き出してきた。
そこで氷の精霊に「何をやってるんだ!ジッとしていろと言われていただろ!」と怒鳴られてしまった。
どうやら黒い球体は雪原の氷を突き抜け、海まで到達してしまい、海水が湧き出たようだ。
俺の体だけじゃなくて、俺の体から出てくる物体も同様の効果を持っているらしい。多分似たようなもので街や山が吹き飛ばされたに違いない。
体の確認はこれくらいにしよう。怒られたばっかだしね。
俺は灰になった雪原に寝転ぶと、ゴロゴロして暇を潰すことにした。この体でも眠ることは出来ないようだ。変異したときに短時間だけど意識は失ったのに、こういうところは精霊のときと変わらないようだ。
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あれからどれだけの時間が経っただろうか…。まだ体には何の変化も見られない。精霊の時間感覚を当てにならないな、多分数百年から数千年、下手したら一万年以上生きているかもしれないのだから仕方ないか。
俺は寝転ぶのを諦め、あぐらをかいて座禅して瞑想することにした。
正直、座禅なんて修学旅行でお寺さんで体験して以来だが、何も考えず、時間を潰す方法を俺は他に思い当たらなかった。
俺は目を閉じ、瞑想して出来る限り、無になりきるよう心掛けた。
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「おい、ソラと言ったか?やっと体が少し薄くなってきたな。その調子で頼む」
氷の精霊の声に反応して目を開けてみると、体が若干薄くなっていた。それでもかなり黒に近い紺色だが、変化が目に見えると喜びが体中を駆け巡るのを感じた。
あれからどれだけの時間が経っているのか分からないが、長い間、瞑想をしていたせいで無の極致ともいえる領域まで行っていたんじゃないだろうか。あれこれ考えていた頃に比べて、時間があっという間に過ぎているように感じた。
この調子ならきっと元に戻れるはずだ。俺は瞑想を再開させ、無の境地でただただ時間が過ぎるのを待った。
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ふいに、肩を揺さぶられた。目を開けると、そこには今まで氷を張り続けていた氷の精霊達がいた。
「ソラ、大分色が抜けて、触れていても灰にならなくなった。監視で1体は残るが、それ以外は帰らせてもらう。完全に色が元に戻るまではここにいるように、分かったな?」
そういうと雪の精霊達は一回り小さな氷の精霊を1体残して、雪原から離れていく。
俺は自分の体を確認してみると、ネズミ色に近いグレーのような色になっていた。触れている地面も灰にならないで雪が積もった状態になっていた。
おおぅ、やっとここまで来た。あとどれくらいで治るか分からないが、このままいけば順調に治りそうだ。
でも流石に、瞑想で無の境地で過ごすのは飽きてきた。
触れても灰にならないなら氷や雪で何か作るか。
俺はせっせと、氷を削って成型し、将棋とオセロを作った。将棋の駒は氷に漢字を掘るだけだし、オセロは透明な駒と雪で白くすることで区別できるようにした。
そして俺は残った氷の精霊に将棋とオセロを勧めてみる。
氷の精霊は興味を持ったのか、将棋とオセロのルールを食いつくように聞いていた。
あとは実戦だけだ。そして俺は氷の精霊と将棋やオセロで時間を潰すようになった。
氷の精霊は最初は弱かったが、やってるうちに理解していったのか上達が早かった。どんどん強くなっていくのが目に見えて分かる。
「これは将棋とオセロというのか…、やってみると面白いな。あとで他の精霊にも教えてあげよう」
仲良くなった氷の精霊はセキと名乗った。こうして俺とセキの将棋とオセロ三昧が幕を開けた。




