光と闇の上位精霊
広場をぐるぐるぐるぐると歩いて時間を潰していると、いつしか足の踏み場もないくらいに灰だらけになってしまった。日も落ち始め、辺りも暗くなってきている。
いつになったら光と闇の上位精霊が来るのだろうか?実はまだバレてなくて放置プレイってことはないよね?
そう思っていると、崩れた山の方角から眩い光を放ちながら、こちらに飛んでくる物体が近づいてくるのが見えた。
見るからに光の精霊なのは分かる。眩しすぎて形が分からないくらいだ。神々しい存在感を放っているように見える。
近づいてくると、三体の光の精霊がこちらに向かってきているのが分かった。近づくにつれ形もハッキリとしてくる。
一体は巨大な龍の形をしていた。ユニコーンのような巨大な角を生やし、大きな翼と尻尾が特徴的だった。
他の二体は鳥の形をしていた。前の世界で描かれていた鳳凰や朱雀のような羽や孔雀のような尻尾が特徴的だ。横にはちゃっかりとフェリーゼの姿もあった。眩しすぎて気づかなかった…。
四体の精霊はえぐれて平らになった地面に着地し、俺のことをジッと観察しているように見つめてきた。
最初に口を開いたのはフェリーゼだった。
「ソラですよね?自我は残っていますか?残っているなら返事をしてください」
「ヤァ、フェリーゼ。ジガガノコッテイルトナニカモンダイデモアルノカ?」
「いえ、異精霊化した精霊は前回を除いて、自我を喪失して見境もなく暴れまわっていたのです。大人しくしていたので自我が残っているのではないかと思っていたのですが、不思議ですね。今までは上位に近いくらいの魔力量のある精霊でなければ異精霊化はしなかったはずなのです。私が最後に会ったときは中位の下級からよくて中級のところでした。ソラの人間の記憶や私の力を分け与えたのが影響しているのかもしれませんね」
どうやら俺の魔力量くらいでは異精霊化することは今まではなかったらしい。人間の記憶を持っていたり、フェリーゼから力を分けて貰ったりと、例外に例外を重ねているような存在なので異精霊化したのではないかとのことだった。
「イセイレイカニナルキッカケトカアッタリスルノカ?」
次に口を開いたのは龍の形をした光の精霊だった。
「あぁ、今までの異精霊化した精霊達は極度のストレスに晒されて異精霊化に至った。そして殆どは風の上位精霊だった」
異精霊化する条件や傾向も大体分かっているようだ。この光の精霊はたくさんの異精霊を屠ってきたのだろう。めんどくさそうな口調で語りかけてくる。
「タシカニ、マリョクヲスワレテ、カドノストレスニタエテイタラカラダガヘンイシタンダ。スコシイキシヲウシナッテモイタナ」
「そうか…。前回の異精霊も自我を持っていたが、その者は怒りに我を忘れたくらいで、意識がなくなったという話は聞いていないな。多少の違いはあれど、自我が残っていることには変わりはない。今、自我を持った異精霊が現れたことは我々には喜ばしいことだ」
喜ばしい?俺に一体何をさせる気なのだろうか。率直に聞いてみる。
「ヨロコバシイトハドウイウイミデスカ?ナニヲサセルキダ」
「それよりもまずは異精霊の状態を治さないと始まらない。ソラと言ったか?お主には二つの選択肢がある。我らに消されるか、元に戻るための方法を行うか…だ。我らは元に戻るための方法を取ってほしいのだが、ソラ。お主はどちらを選ぶ?」
異精霊化が解けたら俺に何かさせる気なようだがはぐらかされてしまった。でも治す手段があるみたいだ。前回の異精霊も自我を持っていたと言っていたな。恐らく、前任者を治すために色々と試した末に見つけたのだろう。
俺は心の中で前任者の存在に感謝した。リンやマシロ達のところへ帰れる手段があるのだ。俺の選択肢は一つしかない!
「モトニモドルホウホウヲオシエテクレ。オレハモトニモドリタイ」
「分かった。だが元に戻る方法なのだが、長時間、日の当たる場所で待機するだけだ。その場所にお主を連れていくには闇の精霊の力がいる。闇の精霊は遥か南に住んでいるので来るまでに時間がかかる。それまでは待機だ」
待機だと言われても俺は同じところに長時間は立ってはいられない。闇の精霊はいつ来るのだろうか?光の精霊がこれだけ光っているのだから目印としては分かりやすいと思う。早く来てほしい。
そう思っていると、地面が少し揺れている感じがした。気のせいじゃない。徐々にだがどんどん揺れが激しくなり、灰が舞い上がって、周囲が霞んでいく。
ドゴォンッと大きな音が背後から響いてきた。
振り向くと、そこには山にあった城よりも遥かに大きい大蛇の頭が地面から突き出していた。
大きい…、これ体全部出したらこの街よりもでかいんじゃないか?っていうかこの闇の精霊に頼めば、この街なんてあっという間に堕とせただろうに、なぜ頼まなかったのだろうか?
大蛇が口を開くとそこには二階建ての建物を優に超える大きさの蜘蛛の形をした闇の精霊が出てきた。
「やぁ、ガルドにジャスパー。久しいな。前回の異精霊が発生したとき以来か。今回の異精霊も自我持ちだ。元に戻ることを望んでいるので手を貸してくれないか?」
「久しいな、ゴードン。それにハレルヤとアレルヤ。あと見慣れぬ風の精霊がおるな。名は何というんだ?」
「お初にお目にかかります。フェリーゼと申します。以後お見知りおきを」
この会話の流れ、余程のことが無い限り、上位の精霊って動かないってことか?それにしてはフェリーゼはこき使われている気がするけど、これが上級、中級、下級の差なのかもしれないな。
「あぁ、宜しく頼む。今回の異精霊がこれか…、元に戻るならそれに越したことはない。ジャスパー、手を貸してやれ」
「了解しました。ではさっそく始めますね」
そういうとジャスパーは口から蜘蛛の糸を吐き、俺に巻き付けてきた。
ぐるぐるぐるぐるとかなりの念の入れようで、何重にも巻かれていく。
「闇の属性には異精霊に耐性がある。だからと言って触れた部分は徐々に脆くなり、灰になる。光の精霊が掴む上の部分の糸には触れないように、落ちたら面倒だからな」
ジャスパーに念を押されつつ、ハレルヤに糸を掴まれ、山の方へと飛んでいく。
見る見るうちに闇の精霊と街が小さくなっていく。ゴードンとアレルヤ、フェリーゼはそれぞれ違う方向へと飛び去って行った。どうやら後はハレルヤだけでことが足りるみたいだ。
ハレルヤに糸を掴まれて飛んでいるこの感じ、ミノムシはこんな気持ちでぶら下がっているのだろうか?
そう思いつつ、眼下を見下ろすと、雪原の果てまで山々が削り取られている光景が目に飛び込んできた。
これを俺がやったのか…。異精霊の対処に光と闇の精霊が必要になるわけだ。
山々を抜けるとその先は雪原だけだった。
ハレルヤは雪原の遥か先に向かって飛んでいく。俺はミノムシのような状態になりながら、ただただ見ているだけだった。




