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帝都崩壊

 この世界に来て、初めて夢を見た。


 最初の場面は姉にハグされて嫌がる俺の姿だった。姉は小さいころ、俺のことを可愛がってよく抱き付いてきたが、人目があるところでは恥ずかしくて体を振って振りほどいていた。中学生の頃から胸がふくよかになってきたときには、目のやり場に困ったものだ。


 次は水泳に通っているところだった。俺は遅い人達が泳ぐレーン、姉は早い人達が泳ぐレーンで結構離れていたのだが、器用な姉は両手を水に漬けて水鉄砲で俺を揶揄ってきた。俺はそれを嫌々手で防いでいた。


 この世界に来てから前の家族のことなんて殆ど考えたことが無かった。眠れない体のせいで夢を見る機会もなかったせいか、懐かしく思える。この世界に来てからまだ数ヶ月くらいしか経っていないはずなのに…。


 最後は亀の兵器に森を焼かれている光景だった。さっきまでは過去の光景だったのに、今度は未来で起こりえる光景がそこには映し出されていた。


 俺は両手を前に伸ばし、止まるように試みるが意味をなさない。この光景を実現させてはいけない。何も出来ない両手を強く握り締めると、目の前に光が差してきた。


 目を細めて、その光を眺めていると、徐々に意識がハッキリとしてきた。ピントがぼやけているみたいに風景が掠れて見える。


 一番最初に目に飛び込んできたのは手が真っ黒に変色していることだった。光の反射のせいか、油膜が張られたような虹色が所々で光っている。


「ナニガ、オコッテルンダ?」


 声もおかしい。上手く発音が出来なくなっている。


 足元を確認しようとしたら、今度は砂に体が半分程埋まっていた。触ってみると砂というより灰に近い感じがする。しかし、体が徐々に地面に沈んでいっているのを目の辺りにしたら、冷静ではいられなかった。


 直ぐに地面から這い出ると、手や足の触れた地面が勢いよく乾き、そして灰へと変わっていく。どうやら俺の体に触れた物が灰になっているみたいだ。これじゃずっと同じところに立ってはいられないな。


 っていうか、背中から何か四本の腕が生えている。上手く動かすことは出来ないが、体全体が何らかの変異を起こしているのは確かなようだ。この自分の体なのに上手く動かせない感じは、この世界に来て風の未精霊だった頃を思い出す。あのときも最初は上手く体を動かせなくて難儀していた。


 目のピントも少しずつ合って周りが良く見えるようになってきた。そして俺は周りの光景に絶句した。


 街が崩壊していたのだ。広場から城が建っていた山にかけて、地面はえぐれ、山が丸く削られたように吹き飛ばされていた。


 道中にあった亀の兵器や軍事拠点はどこにも見当たらない。ただ、地平線の先まで見える山々が丸く削られて吹き飛とばされている光景に、俺は唖然とするしかなかった。


 反対方向は幾つもの線が走ったと思われ痕があり、地面がえぐれて吹き飛んでいるように見える。


 俺の意識が無くなっている間に何が起こったのだろうか?全然思いだせない…。


 ただ、森の脅威が去ったのは確かなようだ。この体、ガイアスなら何か知っているかも知れない。


 俺は森の方角にある街の東門へ移動することにした。


 途中、建物に手で触れてみるが、やはり、触った場所がたちまち灰に変わって崩れ落ちていく。足も同様で、俺の歩いた場所が灰で出来た足跡みたいになっている。


 東門の前までもう少しというところで、左側の建物の角でバッタリと女性と出くわした。まだ人が残っているのかと思った矢先、女性は剣を抜き、俺に切りかかってきた。


 しかし、剣が俺に触れると、触れた箇所が灰へと変わり散っていく。


 それに驚いた女性は距離を取り、剣を素早く捨てると、もう一本持っていた剣を抜き、俺に向けて構えてきた。


 でも足がガクガクと生まれた小鹿のように震えている。この街を破壊したのが俺だと分かっているのだろう。


 俺は建物の角から女性が来た道を覗くと、そこには子供や若い大人達がずらりと並んでいた。どうやら逃げている最中だったらしい。


 剣を構えている女性は兵士達と似たような服を着ているが兵士とは思えない程、綺麗な顔をしていた。金髪の長い髪を後ろで結んでいる。胸もふくよかだし、スタイルも抜群だ。


 そして、彼女の側には良く似た女性が二人、ナイフを構えているのが見える。髪の色が紺に近い青と水色に分かれているので双子なんだと思う。どちらもメイド服のような服を着ているがそれでも豊かな胸が目を引く。顔も整っているし、スタイルも良い。


 水色の女性には腰が抜けたピンク色のツインテールが揺れる女兵士が抱き付いていた。「まだ死にたくないよ、お姉ちゃ~ん」と叫んでいる姿はまだ幼く見える。


 その他に見える子供や若い大人達は上半身が白いシャツに、下半身は兵士と似たズボンを履いていた。見た感じ、兵士見習いとその子供達って感じだ。

 

 その中から複数の子供達が俺に近寄ってきた。


「この前助けてくれた精霊さんだよね?その姿、どうしちゃったの?」


 近寄ってくる子供をよく見ると、見知った子だった。最初の村で俺が助けた子供達だ。後ろにいる若い大人達の中にその村で見かけた人達もいる。なぜこの街にいるのだろうか?


 それよりも人間の言葉が分かるようになっている。これはフェリーゼが思考を送るついでにこっそり教えてくれたのかもしれない。本人に確認しなければ分かりようがないが、今はそんなことはどうでもいい。人間の言葉が分かるだけでも助かる。


「チカズクナ、オレノアシモトヲミテミロ、フレタモノガハイニナルミタイナンダ」


 近寄ってきた子供達は俺と距離を取る。


「ナゼキミタチガコノマチニイル?ムラハドウシタ?」


 俺の質問に答えてくれたのは、剣を構えていた金髪の女性だった。


「私の名前はクレインと申します。この村人達は実験の生き残りでこの街に連れてこられたのです」


 簡潔に言うと、とある博士の実験が辺境の村で行われ、人為的な病を発生させた後、生き残った人は強くなるとのことだった。その為、生き残った村人達はこの街へと連れて来させられ、実験の結果を確認していたらしい。


 そして、普通の人よりも身体能力や魔力が高くなったことで、兵士になるべく鍛えられていたようだ。


 クレインはこのことを知って心を痛め、貴族という立場が危うくなることを厭わず、機会があれば村人達を逃がそうと色々準備をしていたらしい。


 そして今回の襲撃に乗じて逃げている最中に俺とバッタリ出会ったということだった。


 なんて良い人なのだろうか、この人に任せれば村人達はきっと大丈夫だと確信できた。


 そんな話をしていたところ、東の門からガイアスが現れた。なぜ、この街に来たのだろうか?


「ガイアス、ナゼコノマチニキタノ?ホカノヒトタチハドウシタ?」


 ガイアスは俺を見るや否や、目をパチクリとさせ「もしかしてソラか?まさか、異精霊化したのか!」と驚いている様子だった。


「イセイレイカ?」


「ワシも詳しくは知らん。ただ、対処できるのは光と闇の上位精霊のみだと言われている。派手に暴れているから何があったのか気になって偵察に来たのだ。まさかソラが異精霊になっているとは思わなかった。それでここにいる人間達はなんだ?」


 ガイアスに手短に状況を説明した。


「それは気の毒なことだと思うが、森で保護するのは難しいだろう。お主達が住んでいた村では生活できないのか?」


「農作物を納品したときに実験が行われたみたいで、この人数が暮らすには食料が足りなくなる恐れがあるのです」


 ガイアスは腕を組みながら顎を撫でている。どうにかしてやりたいが、森の住人が納得する答えが見つからないみたいだ。


「ガイアス、コノヒトタチニ、モリノフッコウヲテツダウカワリニホゴヲタノメナイカナ?ソレナラモリノヒトタチモナットクシナイカ?」


「それなら説得することは出来るかもしれないな。ソラの最後の頼みでもあるし、この人達はワシが面倒を見ることにしよう」


 俺の最後の頼み?もしかして、俺元の状態に戻ることすら叶わないのか?


「ソラ、ここまで派手なことをしたんだ。じきに光と闇の上位精霊が来るだろう。それまではこの街に留まってはくれないか?その状態では森に連れていくことも出来ないからな」


 どうやら俺はここまでらしい。リンやマシロ達に物凄く会いたい。でももう二度と会えないのだろう。泣きたくても泣けない体に腹が立つ。


 俺は彼女らをガイアスに託すと、ガイアスは彼女達を引き連れて東の門から森の方へと向かっていった。


 俺はガイアス達が見えなくなるまで、ただただ見送るしかなかった。


 見送った後は、立ち止まっていると灰になった地面に沈んで行くので、広場まで戻り、ぐるぐると回って時間を潰すことにした。


 後ろを振り返ると、灰になった足跡の道しるべが俺の結末を物語っているように思えて仕方なかった。

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