閑話 帝都襲撃(クローヴィス博士視点)
カンカンカン、早朝から鳴り響く鐘の音に驚き、私は目を覚ました。
何事だ!こんなこと、帝都に住んでいて一度も体験したことがない。嫌な胸騒ぎがする…。
緊急事態の際、軍人達は軍部で一番広い訓練場に集まる決まりになっている。
私は今貴族街の貴族院にある自室にいる。Gトータスが完成したので、軍部に籠る必要性がなくなったからだ。
私は急いで服を着替えて、貴族街の門へと急ぐことにした。しかし、馬車や馬が出払っており、歩いて軍部に向かわなければならなかった。
ハァハァハァ、軍部までは貴族街からあまり離れていないとはいえ、訓練もしていない私にとっては遠い道のりだった。
軍部に着く頃には、全身から汗が吹き出し、額の汗で髪がベタベタにくっついて気持ち悪いほどだ。
門番が私に気づくと、快く通してくれた。将軍は訓練場で作戦の指揮を執っているらしい。息を整える間もなく、訓練場に向かった。
訓練場に着くと、簡易的なテントが建てられており、その中で作戦会議を行っているみたいだ。出入口の両脇には見張りの兵士が立っているのが見える。
テントに近づくと、見張りの兵士が私を通してくれた。
中に入ると、将軍、クレイン、ティア、それに侍女のカティとケイティが揃っていた。他の貴族達は見当たらない。こういう時は功績欲しさに出張ってくるはずなのだが…。
「おぉ、博士。よく来てくださいましたな!しかし、凄い汗ですな。まずは水を取ると良いでしょう。今は帝都に向かっている飛行物体について、どう対処するか作戦会議をしていたところです」
私を気遣ってか、カティが水を持って来てくれた。私はそれを一気に飲み干し、息を整える。
「飛行物体だと?どこから向かってきているのですか?」
将軍を含め、その場にいた者達が目を伏せる。そして意を決した将軍が口を開く。
「森の方角からです。まだ遠くて分かりませんが、船より大きいサイズのものが空を飛んで向かってきているのです」
私はふとクレインに視線を移すと、彼女は覚悟を決めた表情で私を見つめ返してきた。どうやらこの機会に連れてきた村人達を逃がそうとするに違いない。私はそれを見て見ぬふりをすることしか出来ない。あとはクレインが上手くやってくれることを祈るだけだ。
視線を将軍に戻し、話の続きを聞く。
「それで博士の知識をお借りしたいのですが、どうしたらいいと思いますか?一応、城壁に少数の兵士を送り、弓やボウガンを持たせて牽制を行うように命令しておいてあります」
「私はその飛行物体を直に見ていないので、今はハッキリしたことは言えない。どのくらいの高さで飛んでいるのか分かっているのですか?」
将軍は顎を撫でながら、呻き声をあげるような声で「塔よりは高く、王城よりは低い位置かと思われます」と返事が返ってきた。
その高さだと弓やボウガンでは届かない。ソードバスターとシールドバスターのバスターキャノンも攻城戦を目的に作っているため、高い場所を狙うには向いていない。角度を付けても果たして届くかどうか分からない。
「その高さだと、ソードバスターやシールドバスターのバスターキャノンでも難しいでしょうね。そういえば、他の貴族達が見当たりませんが、どうかなさったのですか?」
将軍は呆れた顔になり、大きな溜息を吐いた。
「あれを見るなり、貴族街に籠ってしまいました。あそこには障壁が展開出来て守られているので安全と思ったのでしょう。国王からは全指揮を私に委任されました。どいつもこいつもいざというときは腰抜けばかりです。博士が飛行する兵器を作ろうとしたときは、国王より頭が高い場所へ飛ぶものはダメだとか、それで貴族街を攻めるつもりなのかとか、散々文句を言ってきたのに、今になってなぜ作らなかったのかと責任を押し付けてくるのです」
あぁ、確かに。飛行する兵器を作るために設計図と予算の申請を申し込んだとき、国王も含め、鬼のような形相で批判をされたものだ。今になって後悔しても遅い。こちらには飛行する兵器や対空兵器がないのだ。いや、Gトータスなら相手が遠くにいれば攻撃が届くかもしれないが、街の上を飛ばれたら角度が付けれないし、まだ起動実験しかしてないのだ。どの道無理だろう。
「まずは相手の目的が分からないと始まらないか…。森から来たとすれば一番に狙ってくるのはスコルピオンか軍部のあるここだと思われるが、将軍はどう思いますか?」
「私も同意見です。相手の出方を見つつ、スコルピオンをいつでも動かせるようにしましょうか。イグナイトヘッドがないので出撃後は連絡が取れませんが、ある程度の指示と臨機応変に対応させれば問題はないでしょう」
「そうだな…。相手の目的が分かるまで、ソードバスターとシールドバスター全機をいつでも出動できるように待機させましょう。イグナイトは今回役に立たないので、その分の人工魔石も回してもらいましょうか」
「了解しました。そのように指示を出しましょう。それで博士、Gトータスはどうなされますか?出動させるには事前の準備が必要かと思われますが…」
私は少し考える。Gトータスが出動する事態も想定した方がいいだろうか?イグナイトの人工魔石を回してもらえば動かせなくもない。Gトータスはスコルピオンの二十倍の人工魔石が必要になるほど燃費が悪いのだ。その代わり、攻撃力は比べ物にならないのだが、一応、準備はしておくか。
「念のため、Gトータスの準備もしておきましょう。あれが使われることがある場面は考えにくいですが、用意しておくにこしたことはないでしょう」
「ではそちらは博士にお任せします。クレイン、カティ、聞いての通りだ。ソードバスターとシールドバスターの準備を頼む。ティアとケイティは急いで貴族街にある実家に帰りなさい。あそこなら障壁に守られて安全のはずだ。障壁が張られると入れなくなる。急いで帰るように!」
「了解しました!」
クレイン、ティア、カティ、ケイティが揃って了承すると、テントから出ていく。私もそれを追ってクレインを呼び止める。クレインだけ呼び止めるつもりだったのだが、ティアやカティ、ケイティまで足を止めた。
「クレイン、少し待ってくれ。話があるんだが、少しいいかな?」
クレインは人目を気にするような素振りを見せながら「博士、手短にお願いします」と答えてくれた。
「スコルピオンの準備が整ったら、兵士や村人達の避難を任せたいのだが良いか?将軍には私の方で言っておく」
クレインは目をパチクリした後、クスクスと笑って「了解しました。そちらはお任せください」と笑顔で請け負ってくれた。
どうやら、俺の言いたいことが伝わったらしい。これで村人達はきっと逃げることが出来るだろう。
「博士。これは我が家のお守りなのですが、受け取ってもらえますか?博士には生き残ってほしいのです」
そういうと、クレインは自分の付けているネックレスを外し、私に付けてくれた。ダンケル家の紋章が入ったネックレスだ。
その光景を見ていたティアとカティ、ケイティは目を見開き、口を両手で押さえて徐々に頬が赤く染まっていく。どうやら、お守り以外の意味もあるようだが、直接聞いてはいけないような気がする。私は「ありがとう、大切にするよ」と返事だけ返すことにした。
「後で返してくださいね。必ずですよ」
クレインはそういうと踵を返し、カティを連れてスコルピオンが保管されている格納庫に向かって歩いていく。なぜか、ティアとケイティもクレインを追いかけるようにしてクレインについていく。格納庫から貴族街へ帰るには遠回りになるはずなのだが、何か理由でもあるのだろうか?後ろ姿を見ていると、ティアがクレインを揶揄っているようだ。
このネックレス、それほど大切なものなのだろうか。大事にしないといけないと思いつつ、私はGトータスが保管されている格納庫へと向かうことにした。
Gトータスの格納庫に着くと、早速、Gトータスのコクピットに入り、設置されている人工魔石を確認する。
起動確認時は半分の十個で試していたため、フル稼働させるには残り十個の人工魔石が必要だった。人工魔石は後で集めるとして、起動できるかの再確認をする。
ゴウンゴウンと大きな音を響かせながらGトータスは立つことには成功した。ただ、歩かせるには人数が足りない。元々はクレイン、ティア、カティ、ケイティ、将軍の五人で想定していたので、後四人足りないのだ。操縦はスコルピオンとあまり変わらないので将軍に人員を見繕ってもらうか。
Gトータスの確認を終えた頃、遠くの方からガンガン、ガラガラドッガシャンッと音が響いてきた。ここまで音が響くのだから相当でかい音だ。私は軍部の屋上へ向かって移動することにした。あそこなら街中を見渡せるからだ。
軍部の屋上に着くと、そこには将軍もいた。どうやら、飛行物体の目的が分かったらしい。
「博士も来ましたか。どうやら相手の狙いは魔素吸収装置が設置されている塔のようです。今、二つ目の塔が落とされたました。こちらの攻撃が届かない距離から一方的に攻撃を仕掛けているようです」
私が目を凝らして飛行物体を確認すると、布の張られた袋にロープが巻き付けられ、その下に船と思われる建造物がぶら下がっていた。
あんな構造でどうやって空を飛んでいるのだろうか?私の知らない知識と技術が羨ましい!あれを作った研究者と一度話をしてみたいが無理だろうな。テンションが上昇した後、直ぐ急降下して溜息が自然と洩れてしまった。
「博士、興奮するのは分かりますが、相手は明らかに敵意を向けて攻撃を仕掛けています。あれを無傷で捉えることは不可能だと思いますよ」
将軍が少し呆れた表情になる。仕方ないじゃないか。研究者として見知らぬ知識と技術は知りたくなるのだから!そう思っている間にも次々と塔が破壊されていく。
街の住人達も狙いが分かったのか、持てるだけの荷物を抱えて、街から逃げ出す人が続出していた。
「どうやら。街の住人達の避難は行わなくても良さそうだな。自主的に避難してくれているのだから」
将軍は唸るような声を上げながら「軍人としては失格ですが、街中の人々の避難訓練などしたことがありませんから仕方ありませんな」と仕方なさそうに同意した。
「それより、どんな武器を使ったらあんな射程と威力の攻撃が出来るんだ?私の視力では見えないが、将軍なら見えたりしませんか?」
そんな私の話を聞いて、将軍は飛行物体に目を凝らしながら見続ける。
「どうやら大きなボウガンのようなもので矢を放っているようです。使っているドワーフのような人種より遥かに大きいので、どうやって撃てているのか分かりませんが、あれ程の大きさなら相当な威力でしょう。そして気になるのは真ん中辺りにいる羽の生えたエルフのような人種です。右手に矢を装填して矢を放っているようですが、どういう理屈で矢を飛ばしているのか全く分かりません。そもそも体を変形させることが出来る人種なんているのでしょうか?」
体を変形させることが出来る人種なんて聞いたことがない。それに森を侵攻したときは大きなボウガンは見かけなかった。もしかすると、イグナイトヘッドを破壊したのはその人種の攻撃かもしれない。射程距離と威力からすればそれしか考えられなかった。
「イグナイトヘッドは真ん中にいる人種から攻撃されたのかもしれない。あの威力と射程なら納得がいく。もう少し詳しく分かればいいのだが、他には何か見えませんか?」
将軍は首を横に振って「これ以上は分かりそうにありません」と飛行物体を見るのを諦めてしまった。いや、人種じゃなくて精霊や妖精なら可能かもしれない。高位の存在である精霊や妖精があちら側にいるとすれば、スコルピオンが破壊されたのにも納得がいく。
「もしかしたら高位の精霊や妖精の類ではないか?それなら体を変形させることも可能だと思うし、森の住人に知恵を授けることも出来るかもしれない。恐らくあの飛行物体もその一つだろう」
将軍は納得したような表情で「確かに、それなら可能性はありますな」と頷いてくれる。
まあ、相手が分かったとしても、こちらの手の打ちようがないには変わりはない。どうしたものか。
そう考えている頃には、塔の半分が壊されていた。
「将軍、相手の目的が分かった以上、ソードバスターとシールドバスターを出動させませんか?バスターキャノンがどの程度届くのか検証が必要でしょうし、角度を付ければ若しくは届くかもしれません。後は各自の判断で臨機応変に対応してもらいましょう」
「その方が良さそうですな。クレインに伝えるよう兵士に伝えておきましょう。他に何かありますかな?」
「あー、それとクレインに兵士と村人の避難をお願いしましょう。地下なら余程の攻撃がない限り、大丈夫でしょう。それとGトータスを動かすための人員を見繕ってください。四人から五人ほどお願いします」
「分かりました。そのように手配を致しましょう。それと博士、珍しくネックレスを付けているようですかどうかなされたのですか?チェーンが見えておりますよ?」
将軍に指摘されると、首元にネックレスのチェーンが見え隠れしていた。隠していたつもりだったのだが、見えてしまったらしい。将軍にバレたら何を言われるのだろうか?ティアがクレインを揶揄っていたくらいだ。嫌な予感しかしない。
そんなことを考えていると、将軍は目にも止まらぬ速さでネックレスに手をかけていた。
「これは我が家の紋章が入ったネックレスではないですか!!見慣れたチェーンだと思っていたのですが、クレインかティアのどちらから渡されたのですか!?」
将軍は怖いくらい険しい表情で私に詰め寄り、問い詰めてくる。
「あぁー、クレインからお守りとして渡されました。あとで必ず返すようにとも…」
それを聞いた将軍は腹を抱えながら大声でワッハッハッハッと笑い出した。やはり、お守り以上の意味があったらしい。
「あぁー、まさか、クレインが博士にそれを渡すとは思いませんでしたな。これで博士は生きてクレインに会わなければいけなくなりましたね」
ニヤニヤした顔でそれ以上のことは言ってくれなかった。詳しく話してくれるつもりはないようだ。親子揃って私を揶揄ってくるのは昔からだからしかたないか。
そんな話をしている頃には、全ての塔が破壊され、スコルピオンが軍部から出動するところだった。
塔を破壊し終わると、飛行物体は旋回し、反対側にある武器をこちらに向けてきた。次はどこを狙うつもりなのだろうか。
すると、軍部に向かって矢が降り注いできた!どうやら、塔の次はここが目標らしい。
「博士、急いで、降りましょう。博士はGトータスの格納庫へ、私は余っている人工魔石と人員を集めてきます。後で合流しましょう!」
「分かった。先に行っています」
私達は屋上から降り、私はGトータスへ、将軍は人工魔石と人員を集める為に分かれることにした。
まさか、Gトータスを使う羽目になるとは思わなかったが、相手の狙いが軍部ならGトータスが押し潰される前に出撃しないといけない。
私は軍部に矢が降り続ける音を聞きながら、Gトータスのある格納庫へ向かった。
次もクローヴィス視点です。




