飛行中
そういえば、結局フェリーゼは姿を見せなかったな。言い出しっぺなのに、また遠くから観察でもしているのだろうか?
まあ、精霊の考えることなんて良く分からない。ある程度近づけば気配で分かるから後まわしにしておく。
森を出発した後、休憩組は地下二階の休憩室でのんびり過ごしているようだ。
慣れないハンモックのせいか度々床に落ちる音が聞こえてくるが、試運転の時でも通った道だ。すぐに慣れるだろう。
高度は二百メートルってところかな?森の端に到達すると、被害の全貌が良く見える。
広範囲の樹々が伐採され、焼き払われている。前の世界の山火事でよく見た光景だが、こっちの世界でしかも直接見るのなんて初めてだ。森の再生にはかなりの時間がかかりそうに見えた。
「ソラ。方角はこっちで大丈夫なんだろうな?迷子になったら笑えないぞ!」
ガイアスが方角を確認してくるが、俺はフェリーゼから送られた思考では右手に見える山脈は大陸を横断していて、その途中にあるとしか分かっていないのだ。
軍事拠点のある街は山の崖に城と館を作っていたから、間違ってはいないと思う。
「山脈が右手に見えてれば大丈夫なはずだ。文句があるならフェリーゼに言ってほしい。俺はただ思考を送られて大体の位置しか分からないんだ」
ガイアスは顎を右手で撫でながら「流石に上位の精霊に文句は言えぬな。まあ、あの山脈に沿って移動すれば着くならそれでいい」と軽い溜息を吐いた。
森を抜けると、そこには地平線まで草原が広がっていた。所々に点々と見えるのは人間がする村かな?結構近い距離にいくつもの村があるのが見える。
「ガイアス。悪いんだけど、人間の村が見えたら出来るだけ見えるように上空を飛んでくれないか?確認してみたいことがあるんだ?」
「ん?別に構わないが、何を確認してみたいんだ?」
俺は簡潔に、森へ来る前の村の状況を説明した。流行り病が発生していて、大量の村人が亡くなっていたこと。そしてフェリーゼが複数の村で同様の現象が発生していたこと。
「それは近づいて大丈夫なのか?お主は無事でもワシらは感染したりせんか?」
あー、俺はこの体だから大丈夫だけど、ガイアス達は生身だ。感染の可能性はゼロじゃないかもしれない。
「なら、近くじゃなくて見える範囲で構わない。それで頼めるかな?」
「分かった。それならいいだろう」
遠くに見えていたからすぐに村へ着くだろうと思っていたが、見えていただけで全然近くなかった。ペダルを漕ぐ人達が一回交代するくらいの距離はあった。
複数の村の近くを通過してみたけど、やはり人気がまったくない。そして村の端に大量のお墓らしきものが立っていた。
あれでは村人が残ってもやっていけないだろう。どこかへ引っ越したのかもしれない。でも流行り病が発生していた村の人々を他の村や街の人達が受け入れてくれるだろうか?
そこでふと疑問に思った。村で発生しているなら大きな街ならもっと酷いことになっているのでは?でも人間達は森へ侵攻してきた。余力があるってことだ。
人間達の土地に何が起こっているのだろう。このまま通過する村を確認すれば分かるだろうか?
日が暮れて夜が来ても人間達の街には辿り着けなかった。途中で見かけた村はいずれも人気がなく、大量のお墓が立っているばかり。俺の疑問はどんどんと膨れていくだけだった。
「ソラ。ワシもそろそろ仮眠を取ろうと思う。操縦席に座るだけでもいいから代わってくれないか?」
「分かった。ガイアス達は休んでていいよ。追い風だから天気には報われている。プロペラを回さなくてもゆっくり進んでるからね。何かあったら起こしに行くから」
「了解した。ワシらは少し休むぞ!ソラ。後を頼む」
ガイアスとペダルを漕いでいた人達が休憩室へと降りていく。甲板に残ったのは俺一人だけだ。
試しに操縦席のハンドルを操作してみると、俺の力でも回すことが出来た!これで飛行船の向きは変えられる。
右手に見える山脈と一定の距離を保つように心がけながら、飛行船を進ませていく。といっても追い風で進んでいるだけだけど…。
話し相手がいないと正直やることがない。星空を見ようにも天井があって見えないし、操縦席から見えるのは右手に見える山脈と地平線だけだ。もう森も見えない。
人間が住んでいるなら火は使っていると思うんだが、その火明かりも見えない。本当に人間達が住んでいる街へ向かっているのか不安になってくる。
途中にある村からも火の明かりは一切ない。響いてくるのは風の音と休憩室から聞こえてくるいびきの音だけだ。
まあ、何も聞こえないよりはマシだけど、いびきの音はどうにかしてほしい。ここまで聞こえるのだから村にいる同居人は大変だと思う。
そんなことを考えていると、ゾクッとした感覚が体の中を走っていくのを感じた。これは前にも感じたことがある。
感じる方向へ視線を向けると、フェリーゼがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。やはりフェリーゼだったか。今頃来るとは重役出勤にも程がある。
「やぁ、フェリーゼ。貴方の言う通り、魔素を吸収する装置を破壊するため、人間達の街へ向かってるところなんだけど方角は合ってるのかな?」
「久しぶりですね、ソラ。えぇ、合っていますよ。もうそろそろ見えてくる頃だと思います。まさか、こんな大きなものを作るとは思ってもいませんでしたけどね」
「相手は蠍の兵器を作るくらいだからな。こっちもそれなりに装備が必要だと思ったんだよ。俺だけじゃ何も作れなかったんだ。お礼は俺じゃなくて村の人達に言ってくれ。俺は言ったからな!」
上位精霊からお礼の言葉をもらえるなんて誇りになると思う。
「あぁ、それと、今回私は手伝う気はありません。ただ、確認に来ただけですので、戦力には入れないでください」
高みの見物を直接言われるとは思わなかった。俺の体が生身だったら歯ぎしりしながら拳を握ってたと思う。
「元々フェリーゼを当てにしてなかったから問題ないですよ。これを作ってる間、一度も会いに来なかったんですから」
皮肉を込めた言葉を返しても、フェリーゼは淡々とした口調で「では、頑張ってください。貴方の奮闘に期待しています」と言いながら飛び去って行った。
フェリーゼに言われなくてもこっちはやる気満々だっていうの!
フェリーゼの言う通り、遠くから火と思われる明かりが見え始めた。まだ日は昇っていないので、人工的な光だと思う。
俺は地下二階に降り、休憩室で休んでいる全員を起こす。
「目標が視認できるところまで近づいたみたいだ。全員起きてくれ!」
全員が飛び起きると、ガイアスが「戦闘準備!プロペラのペダルを漕ぐやつ以外はバリスタに回れ~」と指示を出す。
一気に物々しい雰囲気になり、戦闘が近づいてくるのが嫌でも分かった。
「ソラは、戦闘が開始するまでワシと一緒にいろ。相手の出方次第で作戦を変更しないといけないからな」
「分かった」
俺とガイアス、ペダルを漕ぐ人達が甲板へと上がる。
正面の明かりが少しずつ強く、そして近づいているのが分かる。
山の崖には城と大きな館が見え始めた。軍事拠点のある街で間違いない。
日も昇りだしたのか空が少しずつ明るくなってきた。
街の方からカンカンカンと鐘が鳴り響いているのが聞こえる。相手もこちらに気づいたのだろう。まあ、空飛んでるからバレるのは分かりきってたけどね。
右手に見える山脈から日が昇り、開戦の合図とは言わんばかりの後光が差し始めた。――戦闘開始だ!!




