体を洗おうよ
二次会はリンの復活祭のような感じで始まった。
皆、お酒を飲むペースを抑えて、リンがお酒を飲みながら色々な人に絡んでいるのを温かい目で見守っているのだ。
お酒を楽しむというより、リンの作り出す雰囲気を楽しんでいるみたいだ。俺も見ていて楽しい。マリンとノアもリンが楽しそうでホッとしているように見える。
この穏やかな雰囲気ならミカに体をどのくらいの頻度で洗っているか聞けるかもしれない。
「ミカ、聞きたいことがあるんだけどさ。毎日洗濯して気づいたんだけど、着る人や使う人が汚れているからすぐ衣類が汚れているんじゃないかって思ったんだけど、村の人達ってどのくらいの頻度で体を洗ってるんだ?」
ミカは少し考え込んだ後、首を振りながら答えてくれた。
「酷く汚れたりしない限り洗わないね~。井戸の水や近くの川の水は凄く冷たいから水浴びすら滅多にしないよ。子供達がたまに水浴びして遊んでるのを見るくらいだね」
やはり殆ど洗っていないようだ。井戸水や川の水が冷たいのは雪山の雪解け水のせいだろう。俺のこの体じゃ温度は分からないが、かなり冷たいと思う。洗っても手や顔くらいなのだろう。それじゃすぐ汚れるに決まっている。
簡易的なシャワー室を作って、体を一回洗ってもらった方が良いかもしれない。口で言うより、視覚でどれだけ汚れてるか確認してもらった方が分かりやすいと思う。
現にリンとマシロは水を温めて体を拭くようになっている。種族が違うとはいえ、ドワーフの村人より確実に綺麗だ。
「リンとマシロを見てみなよ。最近は温水で体を拭くようになっているから大分綺麗に見えるだろう?村に来ている時は流石に出来てないけど、それでも分かるだろ?」
「確かに、リンとマシロは綺麗に見えるね~。水を温水?に出来れば体を洗った方がいいのかもしれないね!」
それを近くで聞いていた女性達も気になっているのか、食い気味で話を聞いている。この流れならシャワー室くらいならガイアス達に作ってもらえるかもしれない。
善は急げだ。俺はガイアスにシャワー室の作成を依頼する。
「ガイアス。体を洗うためのシャワー室を作って欲しいんだけど、作ってくれないかな?洗濯してて気づいたんだけど、着る人が汚れてるせいで洗濯が多く感じるんだよね」
それを聞いたガイアス達はあまり乗り気じゃないようだ。うーんと唸りながら頷いてはいるが男性陣は「体を洗う時間が勿体無い」と顔を見合わせている。
それを聞いたリンが食いついてきた。
「ガイアスガイアス!体を洗うとすんごい気持ちいいのよ~。スッキリするし、ぐっすり眠れる気がするの!ねぇねぇ、マシロもそう思わない?」
マシロもうんうんと頷きながら援護射撃をしてくれる。
「うん!スッキリして気持ちいいし、ぐっすり眠れてるよ!服やベッドも汚れにくくなったから洗濯する回数が減ったしね!」
それを聞いた女性陣が男性陣に詰め寄り、シャワー室の作成を催促させている。今は俺が洗濯を手伝ってるから助かってるけど、俺がいなくなれば全部女性陣がやらなければいけない。正直、説得している目がギラギラしてて怖い。
「分かった分かった。直ぐに作る。ソラ、お主が言い出したんだから、協力してもらうぞ。シャワー室とはどういうものなんだ?簡単に説明してくれ!」
結局、男性陣が折れた。俺は簡易的ですぐ作れるように木製のシャワー室を提案する。
着替えるスペース、扉には使用しているか分かるように色別の鍵を付ける。そして奥にシャワー室だ。ホースは難しいので固定式のシャワーヘッドを取り付け、ハンドルを回して水を出したり止めたり出来るようにする。
水圧の仕組みが分からないので、高いところに水桶を設置して、重力で水を流す仕組みにする。あとは職人達が勝手に魔改造してくれることを期待するしかない。
「水はどこから持ってくるんだ?井戸水は生活で使うから使えないし、川から持ってくるのは一苦労だぞ?」
何を言っているのだろうか?魔法を使って空気中の水分を集めればいいと良いと思う。もしかして空気中から水を生成することが出来ないのかな?聞いてみるか。
「空気中の水分を魔法で集めて水を作ればいいじゃないか?それとも出来ないのか?難しくはないと思うんだが…」
酒場にいる全員が首を傾げ、何を言っているんだ?という目で俺を見つめてくる。恥ずかしいからそんなに見つめないでもらいたい。
「水は直接触れていないと魔力で操作出来ないのだ。空気から水が作れるわけなかろう」
どうやら出来ないらしい。多分空気中に水分があるってことを理解出来ていないから出来ないんだと思う。
俺は雨の上がった日に蒸し蒸しして毛が丸まったり、肌がベタベタしたりしないか問う。空気中の水気が多くてそうなるんだと説得するが、皆いまいち理解できていないようで首を横に振っている。
ただマシロだけは理解出来たようで、魔力を自分の周りに張り巡らせ始めた。そして手に集めるとそこには水の塊が出来、ふよふよと浮いていた。
「ソラ、出来たよ!試しに魔力を張って、感覚で水気らしいものを集めてみたんだ~!」
「うわ~、何それ~。水が浮いてる~、面白~い!」
リンは浮いている水をツンツンしたり、デコピンしたりして遊んでいる。他の村人達はギョッとした顔で驚いている。
「マシロちゃん!どうやったんだい、教えて頂戴!」
俺を無視してマシロから水を作り出す講座が始まった。俺が言い出しっぺなんだけど、俺には水魔法が使えないから仕方ないか。
マシロの説明で少しずつ理解し始めたのか、空気中から水を生成出来る人達が続出する。最終的には酒場にいる全員が出来るようになった。リンなんか大はしゃぎで水をあちこちにまき散らしてミカから拳骨を食らっていた。やり過ぎである。
「まさか、空気中に水があるとは思わなかった…。これもソラの世界での知識か?」
「そうだよ。空気中から水を作り出す方法があっちではたくさんあったんだ。だからこっちの世界では魔法で出来ると思ってたんだよ。魔力は使うだろうけど、これで水の確保は大丈夫そうだな」
そして、設置場所に関しては村の外れで川の近い場所に決定した。近くの川まではマリンとノアが排水溝を作ることになった。
皆、テンションが上がってお酒が抜けたのか、職人達は直ぐにシャワー室の建設に取り掛かった。ゴンドラ造りで余った木材がまだまだあるようで、見る見るうちにシャワー室が完成していく。
まさか、昼食までに出来上がるとは思わなかった。
出来上がったシャワー室は二つで鍵付きの扉に着替えるスペース。そして奥にシャワー室だ。床は少し傾斜があり、水桶の下から排水溝に流れていく仕組みである。
その為、排水溝までの間は木製となっており、汚れた水が丸わかりになるようになっている。これで視覚で汚れているか確認出来る。
温水にするのはどうしたらいいか考えたが、水桶にネットを浸からせる。そこに火で熱した石を入れて水を温めるようにした。木製なので直接は危ないと思ったからだ。これならネットが破れない限り、大丈夫だ。その代わり二重のネットになったけどね。
物は試しだ。出来上がったので早速使ってもらうことにする。最初に使うのはガイアスとミカだ。男性代表と女性代表である。
二人とも着替えを持って入っていき、シャワー室で体を洗っていく。排水溝に流れてくる水はミカですら茶色く汚れていた。ガイアスに至っては黒に近い焦げ茶色の色をしていた。鍛冶仕事をしているせいだろう。かなり汚れている。
それを見た女性陣はドン引きし、男性陣は体の匂いを嗅ぎながら体中を触っている。自分達も同じくらい汚れていると分かって慌てふためいている。
二人がシャワー室から出ると、かなり綺麗になっていた。茶色く見えていた肌が少し白くなっており、髪はフケや埃が見えなくなっていた。水だけでこれだけ変わるのだから、洗剤を使ったらもっと綺麗になると思う。
シャワー室には我も我もと長蛇の列が出来上がり、大盛況となった。
「まさか、ここまでスッキリするとは思わなかったな。これは定期的に体を洗った方が良さそうだ!」
「出来れば二日か三日くらいで入って欲しいね~。ソラ、これは洗剤を使えばもっと綺麗になるんだろう?」
「あぁ、もっと綺麗になるよ。洗剤の量産を考えた方がいいかもしれないね」
それを聞いた女性陣は一致団結して、洗剤の大量生産をすることに決めた。早い決断である。
結局、日が暮れるまでシャワー室が空くことはなかった。排水溝に流れていく水はもう真っ黒だ。
これで俺の洗濯係が少しでも楽になるといいな。




