酒場解禁
スープをリンの部屋に運び、マシロに手渡す。マシロにリンの看病を任せることにした。
「マシロ。ミカがマシロがいなくても酒場が回せるように女性達に声をかけたって言ってたから、マシロはリンをよろしく頼むね」
「うん、分かった。リンお姉ちゃんがこの状態じゃほっとけないしね。ありがとうね、ソラ!」
マシロがニッコリと可愛らしい笑顔を返してくれる。思わず頬が緩む。この子の笑顔のおかげで気持ちが少しリフレッシュした気がする!
リンをマシロに任せ、酒場に戻ると、既に席が男性陣によって満席になっていた。ミカの他に女性が七人手伝いに来ていた。今日はこの八人で回すのだろう。
俺に気づいたガイアスが手招きをしている。乾杯の音頭を取らせる気だ。正直、気が滅入る。
俺はガイアスの隣に移動すると、背中をバンバン叩かれ、音頭を促される。さくっと終わらせるしかないか…。
「えー、この度、飛行船が完成したお祝いと、酒場の解禁を祝して、乾杯!」
「乾杯!!」
酒の入った杯がそこかしこでカンカンとぶつかる音がすると、男性陣は水のように軽々とお酒を飲み干していく…。
あのペースで飲んだらお酒がすぐになくなると思うんだが、酒場の地下室はどんな構造になっているのだろうか?入ったことはないが、相当な酒蔵があると思う。地下室を上り下りする女性がどんどんお酒の入った樽を運んでくるのだから、かなり広そうだ。
男性陣の話のネタは、殆どが飛行機や飛行船に関することで、俺は会話の中に入ることが出来なかった。大雑把なことは分かっても細かいことは全然分からないからだ。
お酒も飲めないのに、ここにいてもだる絡みに巻き込まれるだけだ。俺は早々に酒場を後にすることにした。
酒場を出ると、そこにはマリンとノアが膝下くらいの大きさの状態で佇んでいた。心なしか元気がなさそうだ。
もしかすると、リンの体調を崩した原因が自分達にあるのだと思っているのかもしれない。これは心のケアが必要かな?
「マリン、ノア。リンはマシロが見てるから大丈夫だ。それにあれはリンが自己責任でやったことだから気にすることはない。少し、滑走路まで散歩しようか?」
マリンとノアは頷いて、俺の後を付いて来る。酒場のどんちゃん騒ぎがどんどんと遠のいていく。
滑走路に着くと、俺は空を見上げた。周りが開けていて、空の雲も少ないから夜空の星々が良く見える。気分転換には持ってこいだ。
「マリン、ノア。空を見上げてごらん。ここは開けているから星が綺麗でたくさん見えるぞ!」
「ホントだー、綺麗だね~」
俺は開いている地面に寝そべり、星の観察をすることにした。マリンとノアもそれに続く。
「俺達、精霊は寝れないからな。だから時々こうやってぼーっと綺麗な光景を眺めるのは良いと思うんだ。綺麗な光景を見てるとすぐに時間が過ぎるからね」
「うんうん~、分かる気がする~」
マリンとノアはうんうんと頷きながら肯定してくれる。
引き続き、星の観察をしていると、俺の見覚えのある星座は見当たらなかった。オリオン座とかはわかりやすくて見つけやすいはずなのだが、似たようなものが見当たらない。太陽系から相当離れているか、はたまた別次元の宇宙なのか分からないから仕方ないか…。
「パパー、なにあれ~。凄く綺麗~」
マリンとノアがぷるぷると跳ねて興奮している。何が見えたんだろうか?俺は空を注視した。
すると、流れ星がヒュンヒュンと流れていくのが見えた!どうやら、流星群が来ているみたいだ。ちらほらと流れ星が流れていくのが見える。
「あれは流れ星っていうんだ。俺のいた世界では流れている間に願い事をすると叶うって言われていたんだ。リンの健康でも願ってみるか?」
「うん~、願ってみる~!リン~、健康になって~!」
俺は思わず笑いが零れてしまった。声に出して願うんじゃなくて、心の中で願うものなのだが、中途半端に教えた俺も悪い。あえて指摘せずに、俺はマリンとノアの願い事を温かく見守ることにした。
流れ星がどんどん少なくなり、やがて見えなくなった。その頃には村の酒場のどんちゃん騒ぎも聞こえてこなかった。まだ日が昇るまで時間がありそうだ。マリンとノアは引き続き、星の観察に夢中になっているが、俺は別なことを考えることにした。
俺の日課になっている洗濯のことでも考えるか。毎日大量に洗濯が汚れて出されてくる。なぜあんなに汚れるのだろうか?そういえば、村に立ち寄っている間、村の人達が体を洗っているところを見たことがない。職人が汚れた手や顔を洗っているくらいか。
確か、リンやマシロは水で洗っていたのを最近はお湯にしてから体を拭く回数が増えて綺麗になっていたが、村に来てからはしていない気がする。
これは、銭湯か温水シャワー室でも作った方がいいかもしれない。まずは体を洗う頻度を聞いてみるか。ガイアスとミカに聞けば大体のことは分かりそうだ。戻ったら聞いてみよう。
そうすれば、俺の洗濯もかなり楽になるし、女性陣も喜ぶはずだ。俺がいなくなったら自分達でしないといけないからね。
洗濯と風呂場のことを考えていると、日が昇ってだんだんと明るくなってきた。そろそろ酒場に戻ってみるか。
「マリン、ノア。日が昇ってきたからそろそろ酒場に戻ろうか」
「うん~、分かった~。戻ろ~」
俺はマリンとノアを連れて酒場に向かった。
酒場に近付くにつれ、男性陣が床で寝転がっているのが見えたり、いびきをかいている音がだんだんと大きくなってきた。かなりの人数が酔い潰れていそうだ。
酒場に入ると、ミカ以外の女性陣は端にある椅子に座って仮眠を取っていた。ガイアス以外の男性陣は床に寝転がったり、テーブルにうつぶせ寝している。
ミカとガイアスは二人でゆっくりとお酒を飲んでいる。ミカはともかく、ガイアスは元気がないように見える。どうしたのだろうか?
ミカがこちらに気づくと、察したのか奥の扉を指さした後、ガイアスに視線を移した。どうやら、リンの体調不良は自己責任と言いながら、自分にも責任があると思い、落ち込んでいるみたいだ。
ガイアスでもリンのことで落ち込むこともあるんだな~と思っていると、奥の扉がバァーンと勢いよく開いて「ふっか~~~つ」と大きな叫び声が飛んできた。
そこには元気満々なリンがいた。後ろからはマシロが溜息を吐きながらゆっくりと顔を出す。
リンは酒場の惨状を目にしても、他には目もくれず、ガイアスの背中に飛びついていく。
「ガイアス~、お酒飲んでるの~?私も一緒に飲んであげるわ!ミカ、私にもお酒頂戴!!」
周りの気持ちなど一切気にも留めない様子でリンはお酒を要求している。そんなリンの行動に、落ち込んでいたガイアスの顔が見る見ると笑顔になっていくのが見て取れた。
リンの天真爛漫な行動は悩みの種でもあるが、時には周りを笑顔にしてくれる。ピュアセラピーとでも呼べばいいのだろうか?
寝転がっていた男性、テーブルでうつぶせ寝していた男性、椅子に座って仮眠を取っていた女性陣が皆にやけた顔になっている。リンの派手な登場で起きたのだろう。そしていつ起きていいのかタイミングを計っているに違いない。
ミカはそれに気づいているのか、パンパンと手を叩きながら「リンが起きたから飲み直したい奴だけ起きな、あとはそのまま寝てて構わないよ」と笑いながら号令をかける。
すると、皆が起き上がり、男性陣はテーブルに着き、女性陣は地下室から追加の樽を持ってくる。
こうしてリンが参加する二次会が始まった。




