飛行船を完成させよう
パラグライダーを終えて滑走路に降りると、そこには腰に手を当てて仁王立ちしているリンがいた。
「さぁ、ソラ!それのやり方を私にも教えなさい!楽しんであげるんだから!」
別に楽しむためにやっていたわけじゃない。性能の確認をしていたんだ。まあ、絶景が見れて大満足ではあったのだが、リンのせいで現実に引き戻された。正直、リンには見つかりたくなかった…。
俺はリンをよそに、マリンとノアを降ろした後、パラシュートを適当に畳んで片づけをしていく。
リンは地団太を踏みながら「私もやりたいやりたい」と騒ぎだす。いつものことだ。
「リン。悪いけど、リンにやらせると何をしでかすか分からないから、ダメだ。せめてガイアス達の手が空いている時にしてくれ。その時にはやり方を教えてあげるから」
「ぷぅ~、ソラの意地悪~!」
「経験則だよ。俺だけの許可じゃダメだってことさ。家にいたころはエンデかラピスの許可が必要だっただろう?」
俺は指を折りながら、これまで怒られた回数を数えていく。
リンの頬がどんどん膨れて、フグみたいにぷくぷくしていくが、ダメなものはダメだ。俺だけに責任を擦り付けられても困る。
リンと言い争っていると、ガイアスや職人達が滑走路に向かって歩いて来るのが見えた。リンが猛ダッシュでガイアスのところへ駆け寄っていく。今すぐ許可を取るつもりなのだろう。
「ダメだ。今日は飛行船を完成させないといけないからな。その後でなら幾らでもやるといい。自己責任でな」
一蹴されて、落ち込むリン。今のガイアス達には酒場の解禁がかかっているのだ。かかっている物が悪すぎる。
「ガイアス。今日もマリンとノアはお手伝いできるけど、どうする?」
「おー、それは助かる!木材を運ぶ手間がかなり省けるからな!あと、リンのことはワシらに任せておけ。ソラにはソラの仕事があるだろう?」
ガイアスはリンを引きずりながら「リンにも手伝えるものがあるから手伝え」と半ば強引にゴンドラへと連れていく。
流石にリンの我儘もガイアスには通用しないみたいだ。ガイアスと共にゴンドラの中へと消えていった。
「じゃあ、マリンとノア、ガイアスの指示に従ってお手伝いをしてくれ。俺は村に戻るからな」
「分かった~、パパも頑張ってね~」
マリンとノアに見送られながら、俺は村へと向かう。日課となっている洗濯係が待っているのだ。
洗濯中、滑走路の方からカンカンと木材や鋼材を叩く音がけたたましく聞こえてきた。その音だけでどれだけ急ぎで仕上げようとしているのか如実に伝わってくる。
腕のいい職人達だからミスはしないだろうけど、急かし過ぎな気もする。その音を聞いて落ち着いていないのは俺だけではなかった。後始末をさせられるであろう女性があちらこちらで見られた。
今夜と明日の惨状を予期しているのだろう。ご苦労様です。
俺が洗濯を終える頃には、カンカンと物を叩く音がまばらになってきていた。完成が近いのかもしれない。
俺は期待を胸に、滑走路へ向かうと、そこにはパラグライダーを楽しんでいるリンがいた…。
ガイアスは「任せておけ」って言ってたよね?なぜ、リンがパラグライダーをしているのだろうか。俺は急ぎ足でゴンドラへと向かった。
「ガイアス、どうしてリンがパラグライダーをしているんだ?任せておけって言ってなかったか?」
「ん?あぁ、あれはパラグライダーというのか。リンに手伝えることが無くなったらやっても良いと許可を出したのだ。そしたらリンの働きは凄いものだった。その褒美として、今あぁやって楽しんでおる」
「やり方を教えてないのになぜ出来てるんだ?リンは風魔法が使えるから出来るとは思っていたが…」
ガイアスの視線を追うと、そこにはマリンとノアがいた。
あぁ、マリンとノアは一緒に俺とパラグライダーをしたからやり方を見て知っている。マリンとノアじゃリンの我儘を止めれなかったのだろう。
「まぁ、まだやらかしてないようだからいいとして、ゴンドラは完成したのか?さっきから作業している音が聞こえてこないけど…」
「む?あぁ、後はプロペラとフラップを動かす部品と甲板の窓にガラスを嵌め込めば完成だ。今日の夜は大宴会だ!久々に酒がたくさん飲めるぞ!」
ガイアスが腕を高々に掲げると、周りにいた職人達も「おおー!!」と腕をあげて歓声をあげていく。今夜の酒場には近づきたくないかも。
そう思っていたのだが、ガイアスは逃がしてくれなかった。俺が依頼して作ったものなんだから乾杯の音頭を取れと言われた。そう言われたら逃げることなんて出来ない。巻き添え確定である。
俺は気を取り直してゴンドラを確認することにした。地下一階は部品の嵌め込み作業中で見れそうになかったので、甲板に上がってみた。
船首からゴンドラの半分にかけて木造の天井が作られていた。周りは見やすいように窓があり、ガラスが嵌められている最中だ。
天井の中には歯車を動かすであろうエアロバイクのようなものが前後逆で二つ設置されていた。反対側にも同じものがある。
両脇にある前後逆のエアロバイクの間に歯車があるのだろう。一人でやるより二人でやる方が楽だからこういう形になったんだと思う。
そして真ん中には少し高くなっている椅子があり、正面にハンドルがあった。あれでフラップを動かして舵を取るのだろう。
後ろ側に壁がないから開放的だ。向かい風は空気抵抗を削減して、追い風は前進する助けになるようにこの設計にしたんだろう。飛行機と違って尾翼がないけど、そこはフラップとプロペラの強弱で補えると思う。
思った以上に飛行船として完成していると思う。試運転が楽しみになってきた!
空を見上げると、まだリンがパラグライダーをしている。さっきより小さく見えるのは気のせいじゃないと思う。どんどん高度をあげているみたいだ。
そんなリンを見ていると、窓のガラスを張り終えた職人達が手招きして俺を呼んだ。何かあったのだろうか?
職人達は「村長には内緒だぞ」と言って、リンに視線を向けながら、ガイアスとリンの関係を少し教えてくれた。
ガイアスには全部で五人の子供と十二人の孫がいるのだが、全員男の子だったんだそうだ。
女の子に恵まれなかったガイアスは女の子に甘いらしく、リンもその中の一人に入っているんだそうだ。
確かに、村長のガイアス自らリンに戦いを教えたり、わざわざ出来た品物をエンデのところまで持ってくるくらいだ。リンだけじゃなく、マシロにも甘そうだ。
なので、厳しそうに見えても、やることやったら甘やかすということでリンがあんな状態なのだそうだ。
ガイアスめ「任せろ」と言いつつ、リンを甘やかすために俺を遠ざけたのか…。まあ、仕事をした褒美だし、完全には甘やかしてはいないか。
再度、空を見上げてリンを確認してみると、米粒程の小ささまでになっている。どこまで高く飛ぶつもりなのだろうか。心配になる高さである。
「流石にあれは高く飛び過ぎじゃないか?俺でも助けにいけるか分からないぞ、あの高さじゃ」
ガイアスの秘密を教えてくれた職人達も空を見上げて目を凝らす。
「もう子供じゃないし、自己責任ってことになっているからいいんじゃないか?ワシらは仕事に戻るから何かあったらソラが助けてあげてくれ」
職人達はそういうと、地下へと降りて行ってしまった。それ自己責任じゃなくない?俺の責任にもなってるじゃん!
心配そうにリンを見ていると、少しずつ大きくなってきているのが分かった。降下してきているのだ。
だが、様子がおかしい。顔面蒼白で体調が良いようには見えない。俺はリンが下りてきている落下地点へと移動する。
降りてきたリンは、ガチガチと歯を鳴らし、体をブルブルと震わせていた。
「うぅ~ソラ~。頭が痛いし、凄く寒いの。なんなのこれ~?」
高く飛び過ぎたせいで、軽い高山病と低体温症になっているみたいだ。
この異常なまでの好奇心と探究心はなんなんだろうか?リンは生まれてくる種族を間違えてると思う。
「高く飛んだ時に息が苦しかったり、寒くなかったか?」
「確かに…。寒かったし、息が苦しくなってきたわ。それに耳がキーンとして変な感じなの…」
俺は溜息を吐きながら簡潔に説明した。
高度が高いほど空気が薄く、息が苦しくなること。寒くなること。気圧の変化で耳に不調がでることを説明する。
「高山病は空気の濃いところで休めば治ったはずだ。低体温症や耳の不調は体を暖めて寝るしかないな」
仕方なく、俺はリンをおんぶして酒場へと連れていくことにした。
酒場に着くと、リンを見たマシロは察したらしく、部屋の用意をしに酒場への奥へと消えていった。
俺はミカに何か温かくて食べやすい食事を作って欲しいとお願いした。ミカは「了解!すぐ作ってやるから待ってな!」と請け負ってくれた。
戻ってきたマシロにリンを渡すと、マシロはリンと奥の部屋へと向かっていった。最近は見慣れた光景になりつつある。
そういえば、ミカに飛行船の進捗を教えておいた方がいいか…。
「あー、ミカ。今日中に飛行船が完成するだろうから、男性陣が押し寄せてくるぞ。大丈夫か?」
「あー、大丈夫だ。今日は何人か女性の手を借りることになっているからね。マシロがいなくてもやっていけるよ」
ミカは笑いながら、リン用のスープを皿に盛って俺に手渡してきた。
「ソラはリンの心配をしてればいい。さ、早く持って行ってやんな」
「ありがとう、ミカ。助かるよ」
俺はスープを持って、リンのいる部屋へ向かう。
向かう途中、外からガイアス達の笑い声が聞こえてきた。それが今は妙に耳障りに聞こえて仕方なかった…。




