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お酒をドワーフ村へ届けよう

 今日は珍しく、マシロが起きるタイミングでリンも起きてきた。昨日は夕食後にすぐ寝たから十分な睡眠が取れたのだろう。背伸びをしながら「良く寝た~」と叫んでいる。


 そこまで大きな声を出さなくてもいいのに、その声に釣られてかラピスにレイ、みーにゃがベッドから這い出てきた。


 マシロは直ぐにキッチンへと向かい、いつものように朝食の準備を始める。


 その間、俺はリンにお酒の入った樽を外に出してほしいとお願いする。


 ピナコも起きていたようで、玄関までは樽を運んできてくれた。そこからはリンの仕事だ。ピナコは外に出ることが出来ないからね。


 そして、樽を全部外に出してもらった後、エンデにドワーフの村まで持っていってもらうようにお願いする。


「エンデ、このお酒の入った樽をドワーフの村近くまで運んでほしいんだ。頼めるかな?」


「あぁ、やってみよう」


 エンデの枝がシュルシュルと伸びて樽に巻き付いていく。すると、簡単に持ち上がった。そして隣接している樹も同様に枝を伸ばして樽を運んでいく。バケツリレーのように樽を運ぶことが出来て安堵したと共に、気持ちが沈んでいく。


 俺、樹の枝よりも力がないのか…。風の精霊だからしょうがないのかもしれない。確か空気の密度は水や土より千倍程小さかったはずだ。空気を操ったり、圧縮したり、工夫して補っていくしかないか…。


 全ての樽がバケツリレーで運ばれていくのを確認すると、朝食の準備が出来たようだ。マシロの呼ぶ声が聞こえる。


「リンお姉ちゃん~、朝食できたよ~」


「わかった~、すぐ行く~。ねぇねぇ、ソラ!あれで私達も移動できないかな?寝ながら移動したら楽だと思わない!!」


 樽の運ばれる様子を見て思ったことがそれか…。どんな触手プレイだよ。それに巻き付かれた感触で起きるだろ。リンならそのまま寝てる気もするが、トレント達がそんなことしてくれるはずがない。リンには足が付いているのだから。


「リンは足が付いて動けるだろ?それにそんなことでトレント達が魔力を使ってくれるはずないだろ!馬鹿なこといってないで早くご飯食べてきな」


 ぷぅ~と頬を膨らませてぶつくさ文句を言いながら、朝食を食べに戻らせていると、畑の方からピィーピィーと聞きなれない鳴き声が聞こえてきた。


 俺は畑の方へ向かうと、鳥小屋から聞こえてくるのに気づいた。そういえば、鳥達は卵を暖めてたな。


 鳥小屋を観察すると、卵が孵って雛が生まれていた。親と違って茶色い毛色をしている。多分巣の色に合わせた保護色なのだろう。餌はまだかと言わんばかりに口を大きく開けてピィーピィーと鳴いている。


 俺は畑から適当に野菜を取った後、体をヤスリの様に変形させ、削りカスを作って食べやすいようにして与えてやる。


 物凄い食いつきが良い、でも体が小さすぎて柵を抜け出してしまう。親鳥達が焦って、バタバタしているが俺が戻してあげると、すぐ落ち着いた。後でラピスに柵の網目を小さくしてもらうようにお願いするか…。


 バタン!!っと家の扉が勢いよく開く音がした。嫌な予感がする…。


 リンが勢いよくこっちに走ってくるのが見える。あれだけ泣き喚いていたんだ。鳴き声が聞こえていたのだろう。


「わぁ、鳥の赤ちゃんが生まれてる~。可愛い~!ねぇ、触ってもいいのかな?いいよね!」


 親鳥達が威嚇をしているが、雛達はそんなこと気にせずに柵を越えて出てくる。俺が餌をリンに渡してあげると、リンは優しく手で持ち上げて、餌をあげていく。


「可愛い~。私のこと嫌じゃないみたい!名前とかどうしようかな!!」


 まだ、小さくてそこまでの分別は付いていないと思うんだが、リンに懐いてるように見えなくもないので指摘しないでおく。


「名前はまだいいんじゃないか?大きくなったら雄と雌で色が変わると思うし、それからでも遅くはないと思うぞ」


「そうね、今の状態じゃ、どの子か判別つかないもの、あとで付けましょ!いい名前いっぱい考えておくわ!」


 リンが騒いでいるので、マシロやラピスも畑にやってきた。


「わぁ、小さくて可愛いね。フワフワしてて気持ち良さそう」


 マシロがリンの手の中にいる雛を撫でながら、顔が喜びで満ち溢れていく。


 ラピスは逆に世話のかかる住人が増えたことに頭を悩ませているようだ。額に手を当てて首を振っている。


「ラピス、悪いんだけど、今の柵の網目だと雛が出ちゃうんだ。もう少し小さくしてくれないかな?」


 ラピスは雛を戻した後、すぐに樹魔法で柵の網目を小さくしてくれた。餌は野菜スティックの様に細長くすれば入ると思う。


「まあ、朝から少しドタバタしたけど、ドワーフの村へ行こうか。仕度はできてるか?」


 リンは手を上げて「出来てるわよ、マシロが用意してくれたもん!」と元気よく返事をしてくれているが、それマシロがいう台詞だからね?と心の中でツッコミを入れておく。


「じゃあ、エンデ。ラピス、お留守番は頼んだ。行ってくるね」


 エンデとラピスが見送ってくれる中、俺とリン、マシロはドワーフの村へ向かうことにした。


 ドワーフの村へ着くと、お酒の入ってる樽が何処にも見当たらなかった。


 すぐ側にいるトレントに話しを聞くと、ガイアス達が滑走路に持っていくならワシらが運んでやろうと言って持って行ってくれたらしい。気の利いたことをしてくれるんだなと感心しておく。


「そういれば、あんたの名前なんていうんだ?これからも色々お願いするだろうから知っておきたいんだけど…」


「あぁ、私の名前はレントンだ。当分はここにいるからよろしく頼む」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


 レントンとの挨拶を終えると、俺とリンは滑走路に、マシロはミカのお手伝いで酒場に向かうことにした。


 滑走路に着くと、そこには酔い潰れたドワーフの職人達がいた…。ガイアスも顔が真っ赤で立っているのもやっとなのかふらふらしている。俺の感心した気持ちを返して欲しい!!


「やぁ、ソラ。少しお酒を貰ったぞ!そのままじゃ飲めないから、水で薄めて果物の果汁を足したんだが、これが結構いけてな。ヒック」


 ガイアスは呂律が上手く回らないながらも言い訳をし始めた。どうやら、まだ酒場を出禁にされている為、お酒に飢えていたらしい。そこで目を付けたのが、気球に使う予定のお酒だったんだそうだ。


 そのままじゃ無理だから水で薄めて、皆で集めた果物を持ち寄り、色々な果汁でそれぞれの味を楽しんでいたらお酒に飲まれてしまったらしい。


 こっそりリンが背後に回って、ガイアスの持っている杯を傾けてお酒を試し飲みしているが、顔を顰めて体をブルブルと小刻みに震えさせている。どうやらリンの口には合わなかったようだ。


 俺はお酒を飲める年齢になる前に亡くなったので、お酒に詳しくないが、普段飲んでいるお酒とは違うお酒を飲むと酔いやすいと聞いたことがある。


 そのせいで、お酒に強いドワーフ達でも慣れていないお酒を飲んだことで酔い潰れてこの有り様なのだろう…。


「ヒック、飛行機は少し改良を加えてあるから、好きにしていい。ワシはまだこのコップに入ってるお酒を飲まないといけないからな」


 そう言いながら、グビグビとお酒を飲んでいく。飲酒運転なんてさせてられるか、今回は俺とリンで試すしかない。


 作業小屋にある飛行機を見て見ると、飛行機が全身赤色に塗られていた。コックピットの前にはバイクに付いているウィンドスクリーンの様なものが付いている。知らないうちに魔改造されているようだ。


「クンクン、塗料の匂いの他に油の匂いもするわね。どこに使ってるんだろう…。分かるソラ?」


 俺は見える範囲で色々なパーツを確認していくと、ギアの部分にべっとりと油が塗られているのが見えた。あー、潤滑油かグリスの代わりに適当な油を塗ったのか。これでギアの回転がスムーズになって音も少しは静かになるはずだ。


「どうやら、ギアの部分に油が使われているみたいだな。このおかげで回転がスムーズになるんだ。教えてもいないのに気づくなんて、やっぱり職人は凄いんだな」


 飛行機の確認が済むと、俺はお酒を温めて気球にガスを注入していく。リンには気球と飛行機を繋ぐロープの準備をお願いした。


 気球が満杯になってロープが張っているのを確認すると、実際に飛行機を飛ばしてみる。天気も良いし、風も弱い。飛ばすにはいい環境だ。


 俺が操縦桿のある前の席に乗り、プロペラを回すためのペダルがある後ろの席にリンが乗る。


 そういえば、この飛行機に乗るのは初めてだ。グングンと気持ちが高ぶっていくのが手に取る様に分かる。


「ソラ、漕ぐわよ!準備はいい?」


「OK、リン。宜しく頼む」


 リンが漕ぎ始めると、キャリキャリとギアが擦れる音が聞こえ始め、ブ~ンとプロペラが回りだす。遠くから見てることはあったが、ギアの擦れる音が小さくなってるのが嫌でも分かった。


「あ!ペダルが軽い!凄い凄い!全然漕ぎやすくなってる~!」


 リンのテンションが高くなるにつれ、プロペラの周りが早くなり、飛行機が飛び立った。


「おーすごい!ホントに飛んでる。見てるのと実際に乗るのは全然違うな!」


 操縦桿はWのような形になっており、右に傾けると右に旋回、左に傾けると左旋回、引くと上昇、押すと下降した。完璧じゃないか!


「リン、前回と今回、漕ぐ力はどれくらい違かわかるか?体感で良い」


「ん~とね、半分くらいの力で漕げるようになってるかな?だからまだまだ全然漕げるよ」


 半分の力か…。かなり改善していると思う。リンを見ても息遣いがまだ荒くないし、汗もまだかいていない。これは成功と言えるのでは!!


 そう思っていると、リンの顔が段々と曇ってきた。


「ソラ。なんか急に重くなってきたわ。そっちで何か分からない?」


 俺は操縦桿を操作してみると、操縦桿も重くなっているのが分かった。何が原因で重くなったんだ?辺りを見回してみても分からない。徐に気球と飛行機を繋いでいるロープを引っ張ってみると、ロープの張りが無くなっているのが分かった。


 どうやら原因は気球にあるみたいだ。


「リン。原因は気球みたいだ。降りて確認してみよう」


 俺は滑走路に向かって着陸を試みる。


 飛行機を無事着陸させると、気球が飛行機に寄りかかる様に落ちてきた。気球の浮力がなくなっている…。原因を探らないといけない。


 俺はガスを入れる入口を解いて、気球のガスを抜いてみる。すると、見る見るうちにガスは地面に落ちて霧散していく…。


 あれ?もしかしてお酒で作ったガスって空気より重いのか?そういえば、この世界には魔素がある。俺のいた世界との大気中の密度が違うことを想定していなかった…。でも最初は浮いていたはずだ。何が違ったんだ?


 あー、もしかして熱か!俺は残っているお酒を沸騰させてガスを発生させ、風を操って空中に留まらせてみた。


 すると、熱いうちは上に向かって浮いていたが、冷めていくとドンドン地面に向かって落ちていくのが分かった。


 どうやら、今までは熱気球の要領で浮いていたらしい。これじゃ長時間はダメだ。代わりになるものを探さないと…。


「ソラ、何か分かった?」


「あぁ、分かった。今までは熱のおかげで浮いていたみたいだ。暖かい空気は上に、冷たい空気は下に向かう性質があるんだが、今回のは暖かいガスのおかげで浮いてたんだが、ガスが冷めたせいで浮力を失ったんだ」


 リンは腕を組んで首を傾げている。今の説明じゃ分からなかったみたいだ。


 俺は「火をつけると煙が上にあがるだろ?熱いから煙が上にあがるんだ。でも煙が冷めると地面に落ちる、燻製箱がそれだ」と説明すると、理解できたのかウンウンと頷いた。


「でどうするの?他かに何か考えがあるの?」


「最悪、熱気球にすることが出来るってことはわかった。あとは天然ガスがあったら試したいかな。リンは温泉って聞いたことあるか?温かい水が湧いてる場所のことを言うんだけど」


 リンは首を横に振って「しらな~い、森のことならトレント達に聞けばいいんじゃない?」と提案してくれる。


 確かにその通りだ。レントンにでも聞いてみるか、森のトレントと繋がってる彼なら知らなくても直ぐ調べてくれるに違いない。


「それより、これどうしたらいいと思う?」


 リンはガイアスを含め、酔い潰れている職人達に視線を向ける。


「お酒が抜けるまで放っておくしかないな、作業小屋へ飛行機をしまったら、俺はレントンから森のことを聞いてみる。リンは酒場でマシロの手伝いか、子供達の相手でもしてればいいんじゃないか?」


「そうね、そうする!じゃあ、先に行ってるわね~」


 リンは酒場に向かって走っていってしまった。直ぐ見えなくなる。


 俺はレントンの所へ向かい、温泉がある場所に心当たりがないか聞いてみた。


「温泉?心当たりはないな…。待ってろ。周りのトレント達に聞いてみよう」


 すると、エンデから東にある沼地にそれらしい場所があるとの返答が返ってきた。地震が発生した時期から出来始めたらしく、独特な異臭と湧き水のせいで一帯の植物は枯れてしまい、茸の温床になっているそうだ。


「茸の温床…か。ソラ。わかってると思うが、茸の妖精を見つけたら処分するんだぞ。慈悲は不要だ」


 レントンからそう注意されるが、ピナコの恩人の可能性もある。「分かった」と返事をしておくが、俺の心の中では敵対視されなければ見逃す一択だ。


 沼地へは暇な夜にでも行ってみよう。それまでは酒場でリンとマシロを見守ることにするか…。


 俺は酒場に向かって歩みを進めていく。

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