ピナコと二人で
騒動が終わる頃のは辺りは真っ暗になっていた。マシロがキッチンへ向かい、遅い夕食を用意し始めた。
料理の匂いが漂ってきたのか、外から「んにゃ~」とみーにゃの鳴き声がした。今は換気して玄関も開けているので、雨でびしょびしょになったみーにゃが入ってくる。
どうやらみーにゃは外に逃げていたみたいだ。ブルブルと体を震わせて水滴を飛ばしていると、リンがタオルを持って来て、みーにゃを拭いてあげてる。みーにゃの世話だけはしっかりしている。
みーにゃを拭き終える頃には、夕食が完成していた。
夕食が終わると、溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきたのか、リンとマシロは早々に寝てしまった。ラピスとレイもそれに続く。
起きているのは俺とピナコ、そしてマリンとノアだけになった。
マリンとノアは将棋を取り出して遊び始めた。あとで相手をしてあげるか…。その前にピナコにお酒の進捗を聞くことにする。
「ピナコ、こんな短時間によくあれだけのお酒が造れたな。大変じゃなかったか?」
「うん。最初は魔力を流して熟成を早める様にしてたんだけど、それだと疲れるから早く熟成が進む菌が出来ないか色々試してたの。そしたら普通だったら半年かかるところを、一日で出来る菌が出来たの!」
息遣いを荒くして、両手をブンブン上下に振って説明してくれる。新種の菌が出来たんだ。かなり興奮しているように見える。
「すごいじゃないか!それでその菌の名前は何て名前にしたんだ?」
ピナコの表情が段々困り顔に変わっていく。興奮しすぎて名前を考えていなかったらしい。顔を伏せて、両手の人差し指でモジモジしだした。
「そういえば、ピナコって茸に詳しいんだよな?今まではどうやって茸の名前や効能を覚えたんだ?生まれたときにはもう分かっていたのか?」
それを聞いたピナコはあまり聞かれたくないようで、地下室へと俺を案内してくれた。そして、言葉を潜めながら昔のことを話してくれる。
「生まれたときは何も知らなかったよ。それで彷徨ってるところを他の茸の妖精さんが見つけてくれて、思考を送って貰うことで茸の妖精が討伐対象になってること。知っている茸の名前と効能を教えてくれたの。でね、まとまっていると皆一緒にやられちゃうから一緒にいられないって言われて、それっきり別れたままなの。」
どうやら口伝の代わりに、思考を送ることで情報の蓄積を精霊や妖精はしているらしい。俺もラピスやフェリーゼに思考を送られたことがあるから良く分かる。
思考に浸っていると、ピナコがヒックヒックと今にも泣きそうな顔をしていた。目が赤くなって涙目になっている。どうやら、情報を教えてくれた茸の妖精を心配しているみたいだ。俺はそっと涙を拭ってあげて「ピナコが大丈夫だったんだ。きっと今でも元気にどこかで暮らしているさ」と励ますことしか出来なかった。
空気を切り替える為に、まだ決まっていない菌の名前をどうするか切り出してみた。
「ところで、新しい菌の名前はどうするんだ?普通なら見つけたり作った本人が決めると思うんだが」
ピナコは全然思い浮かばないらしく、首を左右に傾けた後、俺に丸投げしてきた。
「ソラが決めてくれない?私じゃ全然思いつかないの」
う~ん、俺が決めていいのかな?ピナコは俺に期待の眼差しを向けてくる。話題を変えたのは俺だし、俺が決めるか…。
「じゃあ、ピナ菌なんてどうだ?作った人の名前が使われることなんてよくあることだから良いと思うんだけど」
「ふぇ~、私の名前がつくの!やだよ~恥ずかし~」
さっきまで涙目だったのに、今は耳まで顔が真っ赤で嫌と言わんばかりに頭を横に振っている。頭から訳の分からない菌が舞っているが、俺には効かない…はず。それに丸投げしてきたのはピナコだ。変える気はない。
「俺に決めてって言ってきたのはピナコだぞ?だからピナ菌に決めた。異論は認めない」
キリッと胸を張って言い切ると、観念したのか、ピナコは渋々認めた。
「じゃあ、ピナ菌を使って引き続きお酒造りを頼めるかな?まだまだ大量にいるかもしれないんだ」
お酒が多いに越したことはない。ピナコは快く了承してくれた。
「わかった…。でも、お酒の材料がもうないから、後でラピスとレイに頼んでおくね。それまでは少し休ませて」
そう言うと、ピナコは眠っていた樽の中に入り、蓋を閉めてしまった。奥にピナコ用のベッドが見えるが、樽の中の方が寝心地が良いみたいだ。すぐに寝息が聞こえてきた。
俺は一階に戻ると、マリンとノアはまだ将棋を指していた。外は既に雨が上がっていたが、外に出る気にはなれなかった。
俺はマリンとノアの相手をすることにした。将棋を指して長考している際に、ピナコが言っていた言葉を思い出す。
思考を送ることで情報のやり取りが出来る…と。俺はマリンとノアを見てふと思う。俺の世界の知識を教えたらマリンとノアはどう成長するのか。まずはエンデかラピスに相談かな。
俺はラピスが起きるまで、将棋を指し続けた。




