一度家に帰ろう
リンやドワーフ達が飛行機を飛ばしているのを横目にしつつ、俺は気球の片付けをする。
作業場の隅にでも置いておけば問題はないだろう。
気球の片付けが終わって、肩を竦める。
「ソラ、気球は付けれなかったけど、飛行機は上手くいってるみたいで良かったね、リンお姉ちゃんが興奮してたよ!」
そんな俺にマシロは勇気づける言葉をかけてくれる。優しい子だ。ハグしたい。けど感覚がないし、マシロに嫌われたくないからしないけどね。
そんなマシロは空になった樽を持っている。気の利く子だ。そーいえば、アルコールの樽どうしようか?
リンやマシロに頼んでも一度に2つが限界だろう。ラピスやレイ、マリンとノアは大きさ的に無理だ。
「マシロ。アルコールの樽なんだけどさ、一杯必要になるから何回も往復してもらうことになるけど大丈夫かな?」
「うーん、別にいいけど、エンデに頼めば村の近くまでは運べると思うよ?」
ん?どういう意味だろうか。詳しく聞いてみる。
どうやらエンデ、というかトレント族は森の殆どの木の根と繋がっているらしく、それを使って他のトレントと連絡を取り合っているらしい。糸電話に近いものかな?
なので、樹魔法を使えば、樹々を操作することも可能で、樽をバケツリレーの様に運ぶことも出来るかもしれないらしい。
なんと!そんなことが出来るかも知れないとは!?あー、先にユングと話して出来るかどうか確認した方が早いかも知れないな。
マシロは皆の軽食や水の用意をするため、一度酒場に戻るみたいだ。樽を置いて、村の方へ行ってしまった。
俺は樽を持てるかどうか試してみる…。どうやら、空の樽なら持てるみたいだ。村に戻るついでだし、ユングの所まで行くことにした。
「やあ、ソラ。その樽は樹脂でも集める樽か?ならそこの井戸の近くにでも置いといてくれ」
ユングが勘違いをしているせいで気づいた。そういえば、樹脂用の樽ももっと用意しないといけないのか…。
「ユング、これは樹脂を入れるための樽じゃなくて、アルコールを入れる為の樽だよ。樹脂を入れる樽は後でミカにでもお願いしておくよ。それより聞きたいことがあるんだ」
俺はトレントの樹魔法で樹々を操作し、樽をバケツリレーの様に運べないか聞いた。
「あぁ、出来ないことはないな。エンデがドワーフの村の場所を知らなくても、こちらにいるトレントが目印になる。そういえば、ここにいるトレントはここに全員いて、情報をやり取りするものを置いておかなかったな。手の空いてるものを用意しておこう」
やった!これで樽運びがかなり楽になる。運ぶのはリンやマシロ、ドワーフの人達だろうけど…。俺非力すぎる…。
ここにいるトレント経由でエンデに連絡することも出来そうだけど、情報が筒抜けになる。ピナコのことがバレると大変だ。一旦、家に戻らないといけないな。
俺はユングにお礼を言うと、樽を持ったまま酒場へ移動する。樹脂用にしてもいいけど、アルコールの入っていた樽だ。なんか化学反応が起こっても嫌だしね。
酒場に着くと、ミカとマシロがキッチンで大量の軽食を用意しているところだった。
「やあ、ソラ。そんな樽、そこらへんにでも置いて、こっちの手伝いをしてくれないかい?これだけの量、さすがの私とマシロちゃんでも持っていけないからねぇ」
俺は樽を適当な場所に置いて、了承する。どのみち、リンとマシロに一旦家に戻らないといけないことを伝えないといけないからだ。
俺は軽食担当、重い水はミカとマシロが担当することになった。
滑走路に近付くと、まだ飛行機が飛んでいるのが見えた。乗ってるのはドワーフ達なので、交代で飛ばしているのだろう。滑走路にいるリンやガイアス、ドワーフ達の殆どが汗水垂らして、疲れているのが見えた。
「ほら、皆。朝早かったんだからお腹空いているだろう?飯と水を持って来てあげたよ」
「おおう、助かった。見ての通り、汗を流して喉が渇いていたところだ。手持ちの水だけじゃ全然足りなかったわい」
皆は先にミカとマシロから水を貰って喉を潤していく。余程、喉が渇いていたのだろう。俺の持っている軽食は後回しにされていた。
俺は順番に軽食を渡し終えると、リンとマシロに一度家に帰ることを提案する。
「私は構わないけど、リンお姉ちゃんはどう?」
「私もさんせーい。どうせ戻らないと、気球が膨らませられないんでしょ?今の飛行機だとすぐ疲れて全然長く飛べないんだもん」
リンはぶーぶーと文句を言っている。心なしかリンの足が太くなっている気がする。それだけ重労働なのだろう。
「よし!じゃあ、酒場で空の樽や荷物を回収して一旦家に帰ろう」
ガイアス達はまだ飛行機の改良の話をしたいみたいで、滑走路に残った。俺達とミカは酒場へ戻る。
酒場に戻ると、マシロは奥の部屋へ荷物を取りに行った。その間に俺とリンは空になった樽を運ぶ。
「忘れ物があってもそのままにしとくから気にせず、家にお帰り。ただ、少し気を付けた方が良いかも知れないよ。まだ遠いけど、雨雲が見えてるからね」
空を見上げると、ミカの言う通り、雨雲らしき雲が広がっているのが見える。少し急いだほうが良さそうだ。
「ほんとだ!雨に降られると嫌だから、早く帰るね。ミカおばさん、お世話になりました」
「私は別の雨に濡れても気にしないけどな~、雨のときにしか見つからない茸とか花あるし~」
ラピスとピナコがいないのにそんな訳の分からないもの見つかってほしくない。
「雨が降る前に帰よ。ミカ、有難う御座いました。またすぐにきますけど…」
ミカに挨拶を終えて、村を後にすると、森に入るすぐの所にトレントがいた。ユングが早々に対応してくれたに違いない。
トレントに今から帰るとエンデに伝えて欲しいとお願いすると、長い沈黙の後、すぐに帰った方がいいと言われた。
「エンデに連絡は届いているはずなんだが、返事が返ってこないんだ。何か合ったのかも知れない。早く帰りなさい」
その言葉に俺達は息を呑んだ。まさか人間達がまた攻めてきたのか?いや、森の警戒は怠っていないはずだ。嫌な予感しかしない。
それを聞いたリンが真っ先に森に走り出す。俺とマシロもリンを追いかける。
俺達は何もないことを願いながら家に向かってただ走るしかなかった。




