ホームシック?
マーヤの家にお世話になってから数日、マーヤは分解した飛行機の構造を詳しく調べ終えると、木製の模型作りに勤しんでいた。飛行機の構造を熟知するため、模型を作って理解しようとしているようだ。
そして分解された飛行機はというと、マーヤが組み直したのだが、魔石に魔力を込めてもうんともすんともいわなくなり、動かなくなった。
マーヤはてへぺろーと誤魔化していたが、壊したのは君だからね?まあ、分解された時点で予想の範囲内だ。飛行機が壊れたと知ると、また分解したマーヤには腹が立ったが、代わりにユーキがうるうるとした眼差しで謝ったので許してあげることにした。
結局、帰りは徒歩で帰ることになった。馬とか使わないのかな~?と思ったけど、馬より彼女達の方が走る方が全然早いのだ。
今はエレナの修行とエリーゼの魔剣を持ち歩くための鞘と背負うためのベルト作り待ちとなっている。
そして暇な時間は村の人達と将棋やオセロ三昧だ。どこに行っても娯楽が少ないせいでこの手のゲームは大盛況だ。
そんな日々を過ごしていると、夕食の時間にエレナがアマキの村から抜け出し、お腹をぎゅるぎゅると響かせながら俺に泣きついてきた。
「ソラ~、ここの料理辛すぎて美味しくないの~。香辛料?っていうのが使われ過ぎて私の口に合わないの~。だからソラが私の食事作って~」
アイスヘブンは甘いものばっかだったからな。ふんだんに香辛料が使われた料理が口に合わなかったようだ。我慢して食べていたらしいのだが、我慢の限界に達したらしい。残念な子である。
「自分に泣きつかれても困る。嗅覚も味覚もない自分に料理を作れと?ここの食材の味が分からないのにか?」
エレナは期待の眼差しを向けながら、「ソラなら出来るわ!だって蒸し器料理やマヨネーズを作ってくれたじゃない!それにマシロの作ってくれた料理は元々ソラが考えたものを参考にしたって言ってたわ!ねぇ~、お願い~~~」と尻尾をぶんぶんと左右に振りながらお願いしてくる。
「その話、聞き捨てならないわね。私は料理のこと何も聞いてないわよ!蒸し器やマヨネーズってなんなの?教えなさいよ!」
話を聞きつけたマーヤは俺の肩を掴み、ゆっさゆっさと揺らしながら説明を求めてくる。
なぜ行く先々で味覚のない俺が料理を教えなきゃならんのか…。
でもマーヤの隣にいるユーキが目をキラキラさせながら、「ソラって料理が出来るの!それって美味しいの?食べてみたい!」とお願いされたら応える他なかった。可愛い子に弱いな俺…。
「分かった。何か考えてみる。それで先に聞きたいんだけど、鳥や卵ってないか?でないとマヨネーズは作れないんだが」
マーヤとユーキが目を逸らす。ん?何かやらかしたのかな?
「えーっと、鳥と卵って美味しいじゃない?だから村の近くにいる鳥達は狩りつくしちゃって、それでここ最近は村の近くで鳥を見かけたことはないわね…」
乱獲~!まあ、美味いなら乱獲する気も分かるけど、後先考えない行動は人間とあまり変わらないのね。
「じゃあ、マヨネーズはなしだな。となると、蒸し器とあとはエルフ米の精米に香辛料を種類別に分けて使えそうなものを厳選するしかないか。蒸し器はマーヤならすぐ作れるだろう。精米も樹属性魔法が使えれば糠の部分は剥けると思う。あとは調味料の種類だな。何があるのか教えてくれないか?」
マーヤがキッチンから瓶に入った香辛料を持ってきてくれた。全部で十三種類ある。どれも植物の種を粉末状にしたものらしい。
カラカラの実→唐辛子のような辛みが特徴
ピリピリの実→胡椒のようにピリッとした刺激が特徴
ビリビリの実→舌が痺れるような刺激が特徴
ツンツンの実→鼻にツーンとくる辛味が特徴
クサクサの実→匂いはきついがコクが出るのが特徴
アマアマの実→甘い香りで爽やかな味が特徴
ニガニガの実→少し苦みがあるが香ばしい味が特徴
フワフワの実→甘みがあり、食べるとフワフワした感覚になるのが特徴
スパスパの実→スパイシーな味が特徴
クダクダの実→果物のような甘みと風味が特徴
ポカポカの実→体がポカポカする柑橘系の風味が特徴
スースーの実→後味がスースーする爽やかな風味が特徴
トロトロの実→水に入れるととろみがつくのが特徴
マーヤ達は香辛料に慣れているので大体四種類~六種類の組み合わせで料理を作っているようだ。
フワフワの実はなんか麻薬の成分が入ってそうなので除外する。胡椒に近そうなピリピリの実とスパイシーなスパスパの実をベースに料理をすれば美味しいものが出来そうだ。肉があれば山賊焼きに近いものが出来ると思う。
「悪いんだけど、マーヤは蒸し器を作ってくれないか?樹属性魔法が出来る人はエルフ米の表面に糠っていう部分があるんだけど、その部分を剥いてほしい。色が白くなれば精米出来てると思う。あとは適当な野菜と肉があったら持ってきて欲しい」
蒸し器の作り方を教えると、マーヤは工房へと向かって行った。樹属性魔法はユーマ、カイト、エルフィンは使えるらしく、三人でエルフ米の精米を行ってもらうことになった。ユーキは野菜と肉の調達だ。エレナはお腹が空いて寝込んでいるので待機だ。
最初に終わったのはエルフ米の精米だ。白い米と糠が混ざってしまっているが精米は出来ている。水に浸して米と糠を分けて糠を取り除き、肥料や米糠に使えないか一応取っておく。ついでに米を水ですすぎ、綺麗にする。
米の炊き方は分からないので、米が炊くのが得意というエルフィンにお願いすることにした。
次はユーキが両手に一杯の野菜と肉を持ってきてくれた。野菜はニンジンや芋のような根野菜がメインで蒸し料理に向いている。肉は魔物の肉で臭みがあるらしいのだが、アマアマの実で揉み込むと臭みが取れるらしい。
ボウルに肉を入れ、水を少し入れた後にアマアマの実を投入し、揉み込んでいく。臭みが消えたかの確認はユーキにお願いする。一番鼻がいいからね。
肉の臭みが取れたのを確認してもらうと、ピリピリの実とスパスパの実を合わせて肉に揉み込んでいく。水気があるので香辛料が肉に絡みついていく。あとは味が染み込むように置いておく。今焼いても他の料理が間に合ってないからね。
肉の仕込みが終わると、マーヤが蒸し器を持ってきた。流石にドワーフの血が入っているだけのことはある。作るのが早い。
鍋の底に水を入れ、中段の蒸し棚にニンジンを、上段の蒸し棚に芋を入れて蒸し上げていく。あとは水蒸気が出なくなるまで放置プレイだ。
「そろそろ米が炊きあがりますよ」
エルフィンが米の炊きあがりが近いことを告げてくれた。そろそろ肉を焼くか。
「じゃあ、肉を焼いていくか。油ってあるか?」
皆がキョトンとした表情で首を傾げる。
「油って肉の脂があるじゃない?何を言ってるの?」
あー、植物由来の油はないのかー。あとで取れそうな種を探してもらって作ってもらうか。じゃないとドレッシングも作れない。
「自分が言ってるのは植物油なんだけど、なさそうだな…。今回は肉の脂で焼くけど、植物の油があるとドレッシングが作れるし、食器や衣服を洗う洗剤にだって使える。あるに越したことはない。油が取れそうな種があったら探しておいてくれないか?」
「分かった~。私が探してみるね。油の強い種を探せばいいんでしょ?」
ユーキが名乗りを上げてくれた。可愛い+良い子で最高かよ。あとで褒めるとついでになでなでしてやろう。
俺は肉の表面をこんがり焼き上げ、皿に盛っていく。その頃には米も炊き上がり、蒸し器の水蒸気も無くなっていた。
「米はそのまんまで、蒸し器の野菜はドレッシングの代わりにアマアマの実とクダクダの実をひとつまみずつ振りかける。そして山賊焼き肉を揃えれば完成だ!」
山賊焼きの香ばしい香りでエレナが飛び起きてきた。
「美味しそうな匂いがするわ!料理が出来たの!早く食べさせて~お腹ぺこぺこなの~~~!!」
しっかり者のエルフィンがエレナを制止し、皆をテーブルの席につかせる。エレナだけじゃない、他の皆も美味しそうな料理を目の前に唾を飲み込んでいる。ユーキだけは涎がダダ洩れでエルフィンに口を拭かれていた。
「じゃあ、美味しいかどうか分からないけど、食べてみてくれ」
皆が一斉に食事に手を伸ばす。エレナは山賊焼きから食べ始めているが、他の皆は米から食べ始めている。
「うわ、こんな白い米初めて。苦みや穀物の臭みもないしもちもちしてる~。米だけで美味しいと思ったのは初めてだわ!」
「ホントだ!米だけでも全然いける!」
「美味しい~!エルフィンの炊き具合も最高~。これから毎日お願いね♪」
精米した米は大好評だ。
「この山賊焼き?っていうの。この肉美味しすぎるんですけど!それに米?にバウンドさせると味が移って米が更に美味しくなるんだけど!やっぱりソラに料理を任せて正解だったわ!ご飯の時間になったら食べに来るわね!」
山賊焼きも予想通りの味になっているみたいだ。何よりである。
「それに蒸し器で蒸した野菜、甘みが増しているのに素材本来の味も残ってる…。それに振りかけた香辛料が野菜の味を邪魔しないどころか味を引き立たせてる。香辛料を大量に使えば良いってものじゃないのね!」
蒸し器の野菜も好評だ。香辛料も使い道次第では少なくても美味しくなると分かってもらえただろう。これでエレナもここの料理が食べやすくなると思う。
「ソラ!私に色々料理を教えなさいよ!もっと他にも色々知っているんでしょ!」
マーヤが目をギラギラとさせて俺を見つめてくる。味覚もないし食べれない俺が毎回料理を作るなんてごめんだね。俺はマーヤが飛びつきそうな餌を投げてあげる。
「マーヤ、実験や研究もそうだけど、教えてもらうだけだったら面白くないだろ?調理法は教えてあげるから料理はマーヤが作った方が良いんじゃないか?試行錯誤するのは楽しいだろう?」
「そうね!私が料理を考えて作るわ!調理法だけ教えて!」
よし、これでマーヤが料理する方向に仕向けられた。皆の視線もマーヤに向かっている。これで俺が料理することは回避できた。
料理すべては完食された。米も多めに炊いてくれたみたいだが、すっからかんだ。皆、お腹を擦って満足した表情をしている。
「じゃあ、私はアマキのところに戻るわね!マーヤ!私の分も料理作っておいてね!」
「えー、私が貴女の分も作るの?割に合わなくない?」
俺はマーヤに近づき、耳元でそっと囁く。
「へぇ~、勝手に飛行機を分解した挙句、調理法や料理を教えてもらってその態度はどうなのかな?」
マーヤの全身から汗が噴き出す。
「そうね!私が貴女の分の料理も作ってあげるわ!作ってあげるからちゃんと来なさいよね!」
これで良し!アマキの村へ帰るエレナを見送ると、お腹一杯になった皆はマーヤの家で寝泊まりすることになった。
寝る前にユーキの頭を褒めながら撫でさせてもらう。撫でられているユーキの顔はマジで尊い。これなら料理を作った甲斐があるというものだ。




