マーヤと一緒
俺の目の錯覚かな?マーヤが尻尾を振ってるように見えるのだが…。あ、よく見ると肩にはしがみつく手が、腰には絡みついている足が見えている。マーヤの背中にユーキがしがみついているのか。
マーヤの背中からひょっこりと顔を出すユーキ。グハッ、可愛すぎる。ズキューンと胸を撃たれた気分だ。猫が物陰から覗くような仕草がそっくりで、耳をピクピク動かしながら上目づかいでこちらを見つめている。ただ俺を見た瞬間ビクッとして背中にまた隠れてしまった。何か変なことしたかな?
「ソラ。なんか気持ち悪い顔になってるわよ。ユーキが怯えちゃったじゃない。その顔どうにかしてよね!」
無意識に嬉しくなり、微笑んでいたようだが、気持ち悪く見えたらしい。のっぺらぼうみたいな顔からどのように変化していたか分からないが、確かに気持ち悪そうだ。俺は手で顔をもみほぐして元の表情へと戻ろうと試みる。
「顔が元に戻ったわね。それじゃ飛行機について色々教えてほしいの!あれどうやって動いてるの!作り方は!知ってること全て吐いてもらうわよ!」
知ってることね~。昔の飛行機ならともかく、今の飛行機はガイアス達が魔改造して俺にも分からないんだが、どうしたものか。何か話さないとマーヤの興奮が治まりそうにない。
「マーヤ、ここで立ち話していないで、自分の家に帰ってから聞いたらどうだ?それと丁度良かった。マーヤの家は大きいのでソラさんがここに滞在する間はマーヤの家でお世話になると良いでしょう。積もる話もありそうですしね」
積もる話があるのは俺じゃなくてマーヤだよね?遠回しにマーヤの世話をしろと言っている感じだが、マーヤとユーキはノリノリなようで、目をキラキラさせている。マーヤはともかく、なぜユーキも目が輝いているのだろうか?
「じゃあソラ、私の家に案内するわ!道中、飛行機の話を聞かせてよね!」
どうやら俺に拒否権はないらしい。まあ、エレナの世話を任せた代償と思えばいいか…。
「分かった。マーヤの家まで案内してくれ。それではグロスさん、また来ます。エレナをお願いしますね」
「エレナの面倒はアマキの人達が見るので、彼女達に伝えておきます。ではまた」
グロスに見送られながら、俺はマーヤの家がある村へ案内してもらうことになった。
道中飛行機の話を根掘り葉掘り聞かれたが、昔ならともかく、今の飛行機はガイアス達が魔改造して俺でも分からないと告げると、マーヤは「やっぱり作った人達に聞いた方が早そうね!ソラが帰る時は私も一緒に同行するわ!」とソラ村に来る気満々だった。
「そういえば、ユーキとかはどうするんだ?マーヤ一人で来るつもりか?」
「私はマーヤが行くなら行きたいかな。ソラの住んでる森も気になるし、何よりソラっていい匂いがするんだよね。なんかポカポカして酔うような感じになるの。エルフィンも言えば付いてきてくれると思うよ」
俺はマタタビか!ユーキが俺に向けていた視線は匂いがしていたからのようだ。
確かに最初の頃、動物や魔物によだれを垂れ流されながら見られたり、襲われるときもあった。精霊だから魔力から芳醇な香りでも出ているのだろうか?
「ユーキでそう感じるなら、動物や魔物もそう感じるってことか?昔はよく見られたり襲われたりしているのを思い出したよ」
「そうじゃないかな?上位の精霊は恐れ多いから近づけないけど、下級の精霊なら襲われても仕方ないと思うよ」
やはりか…。リンもエレナも俺の体で精吸いみたいなこともしてたからな。気を付けよう。
そんなやり取りをしていると、村へと着いた。マーヤの工房の隣にある二階建ての家がマーヤの家らしい。お隣さんはエルフィンやユーキ、ユーマやカイトが住んでいるらしい。全部マーヤが建てたんだそうだ。
「ふっふっふ~。ユーキが来るまでは弟のユーマと幼馴染のカイト、そしてエルフィンの四人で住んでたんだけど、ユーキが来てからエルフィンとユーキが一緒に住む家が欲しいってことになって建ててあげたの!それとユーマとカイトもそろそろ結婚相手を決めないといけないだろうからついでに建ててあげたわ!」
五人はご近所さんなのね。心なしか他の家から離れているのはマーヤがいるせいかな?他の村人からは少し距離を取られてるみたいだ。
「結婚ね~。マーヤも一人暮らしってことは将来結婚する相手がいるってことか?」
マーヤは全力で首を横に振った。
「私は自分の好きなことがしたいからまだまだ結婚する気なんてないわ!妊娠中や育児で実験や研究が疎かになるなんて嫌だもん!」
拳を振り上げて力説している。弟のユーマはともかく、マーヤのことが好きそうなカイトがなんか可哀そうになってくる。ユーキが小言で「カイトが可哀そう」と言っていることから確実だと思う。
「まあ、いいわ。家の中を案内するからソラ入って!」
マーヤの家に入れてもらうと、正面に大きなテーブルと椅子が並んでおり、奥がキッチンになっていた。左にある扉はトイレで、右にある三つの部屋は手前が洗濯と水浴びをする部屋。いわゆる浴室だ。そして真ん中がマーヤ、奥の部屋がユーキの部屋になっているらしい。
玄関すぐ右にある階段で二階に上がると更に三つの部屋があった。手前からユーマ、カイト、エルフィンの部屋とのこと。一階と二階で男女を分けているのね。
ぎゅるぎゅるぎゅる~とユーキのお腹が鳴った。ユーキの顔が赤くなり照れているようだ。可愛くてつい頭を撫でてしまった。無意識で頭を撫でてしまった俺を許してほしい。
「そろそろ夕食の時間ね!さて、皆の分も作らないといけないから私は料理を始めるわ!ソラは何が食べたい?」
マーヤが腕まくりして料理を作る気満々なところ悪いが、俺は食べれない。
「自分は精霊だから食べれないからいいよ。それより皆の分ってマーヤの分だけ作るんじゃないのか?」
マーヤの代わりにユーキが鼻息を荒くしながら口を開いた。
「私達の中で一番料理が上手なのがマーヤなの!それにそれぞれが作ると手間がかかるから、食事は五人で食べることが多いの。でも、マーヤたまに冒険することがあって美味しくない料理が出てくることもあるの…」
興奮から一転、耳と尻尾が垂れ下がり、テンションが下がっていく。
「だって、いつも通りに作ってたらつまらないじゃん!たまにはじっけ、ッゴホン。冒険しないとね!」
実験を冒険って言い直したな。まあ、料理人も創作料理を作るために色々試行錯誤しながら作っているのだ。マーヤにとって料理も実験や研究と同じ扱いなのだろう。そう考えると意外でもなんでもない。
マーヤが料理を始めると、玄関がノックされ、ユーマ、カイト、エルフィンが入ってきた。
そしてそれぞれがテーブルの席に座っていく。座る席も決まっているようで、奥にユーキ、手前にユーマ、カイト、エルフィンが座っているとなると席も男女で分けてあるようだ。
俺は暇なのでマーヤの邪魔にならないよう、どんな料理を作っているのか観察することにした。
まず、パン種を取り出し、大きさを均等に分けて竈に入れ、焼き上げている。パン種は発酵させるために事前に作ってあったのだろう。手慣れている。
次に大きな鍋に適当に切った野菜を投入し、煮詰めていく。野菜から水分が出てスープのようになると、色々な粉末を投入していく。投入し終わったスープは真っ赤っかだ。粉末は香辛料のようで、見た目は担々麺のスープみたいになっている。麺を入れたら美味しそうだ。
「出来たわよ~。それじゃ皆で食べましょ~」
今日の夕食はパンと担々麺のようなスープのようだ。パンをちぎってはスープに浸し、口に運んでいる。正直、行儀が良いとは言えないが、ここでは普通のことなのだろう。
「ん~。美味しい~。やっぱりマーヤの料理は美味しいね!」
「ほら、ユーキ。お口の周りにスープが付いてるぞ。拭いてあげるから顔だして」
エルフィンはタオルを取り出し、ユーキの口を拭いている。心なしかカイトが羨ましそうな表情でその光景を見ている。
イチャイチャしているところを見せつけられているのだ。カイトもマーヤ相手にやってあげたいに違いない。
でもマーヤは綺麗に料理を平らげている。世話を焼く隙はなさそうだ。
料理が終わると、マーヤと俺以外はそれぞれの家へと帰っていった。残された俺はマーヤに肩を掴まれ、「私が寝るまで私の相手をしてね♪」と迫られた。
俺は溜息を吐きながら「時間潰すためのゲームとかないのか?普段はどうやって時間を潰しているんだ?」と聞いてみると、「ゲーム?何それ、時間を潰すものがないから私は実験や研究ばっかりしてるのよ。それよりゲームっていうのを教えなさいよ!」とねだられてしまった。
俺は仕方なく、木の板を要求し、いつものごとく将棋とオセロを作り、マーヤと指すことにした。
結果、最初はマーヤに勝ち越していたが、後半は全敗だった。結局、マーヤが寝落ちするまで将棋とオセロに付き合わされた。
マーヤの部屋から掛け布団を拝借し、寝ているマーヤにかけてあげる。
実験や研究が好きだから頭は良いと思っていたけど、本当に頭が良いとは…。
俺はやることがないので、スヤスヤと寝ているマーヤの綺麗な寝顔を見ながら時間を潰すことにした。リンもエレナも寝顔だけは可愛いんだよな~と思いながら…。




