マーヤの扱い
翌日、朝食はマーヤが俺が教えた調理法で色々な野菜を蒸し上げ、精米した米を炊いていた。
朝は軽めに米と蒸し野菜にブレンドした調味料を振りかけたものだ。
エレナ以外、マーヤの実験体にされていたらしく、エレナがガツガツと朝食を食べている姿を注視している。
エレナが美味しそうな表情で食べている姿にホッとしたのか、次々と朝食に手を付けていく。
皆の顔色は良い。朝食は美味しく出来ているみたいだ。マーヤが踏ん反り返って自慢げになっている。
「ふふふん、これからも色々試してみるからよろしくね♪」
「おっけー、任せなさい!全部食べてあげるわ!」
エレナに皆の視線が向かう。これからご飯の先陣を切るのはエレナになりそうだ。
朝食が終わると、エレナはアマキのところに修行へ、ユーキとエルフィンは油が取れそうな種を探しに、ユーマとカイトは精米を広げるように頼まれたみたいで、他の村人達に教えに行くらしい。
俺はマーヤに種を潰して植物油を取れるように万力の作り方を教えた。マーヤは嬉しそうな表情で工房へと籠り、万力造りに励んでいる。
マーヤの扱い方がなんとなくわかってきた。アイディアの種をポイッとあげれば、勝手に育て、せっせと品種改良しようとするのだ。どうやらドワーフの血の方が濃いみたいだ。体も筋肉質だしね。
植物油の使い道も教えたし、あとは勝手にやってくれるだろう。
暇になった俺は、エレナの様子を見にアマキの村へ行くことにした。ついでに魔剣の鞘の進捗も聞いてみたい。
アマキの村に着くと、グロスが村を歩いているのが見えた。
「こんにちは、グロス。魔剣の鞘の進捗ってどうなってますか?あと、エレナはどこで修行しているのか見学してみたいんですけど…」
「こんにちは、ソラさん。魔剣の鞘は作り終わってますよ。なのでいつでも持ち出せます。ただエレナの修行が難航しています。じっとしているのが苦手なようで魔力の乱れが止まらないのです。マーヤもじっとしているのが苦手だったので慣れるまで地道に続けるしかありませんね。無意識に出来るようになるまではもう少しかかるでしょうね。流石にそこまでは教えていられませんので、自主練してもらわないといけませんが、マーヤ達が付いて行くなら問題はないでしょう」
グロスは額に手を当てて、眉間に皺を寄せている。
「あぁ、それとエレナの場所でしたね。闘技場の脇に訓練場が隣接しているので闘技場へ行けば見つかると思いますよ。私は用件があるので失礼します。それではまた」
グロスがクロノの家の方角へ向かうのを見送りつつ、闘技場へ向かうことにした。
闘技場に着くと、隅の空いているスペースに岩や木が地面に刺さっている場所があった。そこにアマキの子供達がたくさんいる中、エレナの姿もあった。
近づくと、マルガレーテが俺に気づいた。
「おや?ソラか。エレナの修行でも見に来たのか?御覧の通り、難航している。魔力感知でエレナの魔力を探ってみるといい」
言われた通り、魔力感知でエレナの魔力を探ってみる。体に魔力が纏わりつくようになっているが、所々波打っている。周りの子供達はピシッとスーツを着込むように魔力を纏っているので比較すると分かりやすい。
それにしてもエレナだけ頭や両手、尻尾の上に石が置かれている。それくらいしないとじっとしないってことかな?
「最近は子供達に茶化されても大きく乱れることはなくなったからもう少しで基礎は覚えるだろう。あとは自主練させればいい。強くなりたいと思っているならやり続けるだろう。最終的には無意識で、寝る時も出来れば免許皆伝だ」
寝る時も…か。どれくらいで覚えるものなのだろうか?
「無意識と寝る時に出来るまではどれくらいの時間がかかるものなんですか?」
「無意識は大体一年以内で出来るだろう。寝る時までは早くても五年というところか」
結構時間がかかるのね。まあ、エレナならまだまだ時間はたっぷりある。いずれ出来るようになるだろう。
「それで何か他に用でもあるのか?」
「いえ、魔剣の鞘は出来てるみたいなので、あとはエレナの修行とマーヤ達の準備次第で帰ろうと思っていたんですよね。エレナはどれくらいで基礎を覚えそうですか?」
「マーヤ達も付いて行くなら一週間といったところか。その間に準備を終えるといい。まあ、マーヤの相手をしていれば一週間なんてあっという間だ。あの子の相手は大変だからな…」
溜息を吐きながら、「昔は私のことを姉さんのように慕ってくれていたのだが、今では実験や研究三昧だからな。火山地帯に向かって裸で帰ってくるマーヤの着替えを何回したことか…」
マルガレーテってマーヤにとって姉のような存在だったのか。そしてマーヤがやらかした後の後始末もしていたと、見た目によらず、お世話上手なお姉さんのようだ。グランとリオンの嫁に良いと思う。
グレアに会ったとき、嫁候補としてどうか推薦してみるか。要らぬお節介だと言われそうだけど…。
「ソラ、他に用がないならここは任せて戻ったらどうだ?ソラがいるおかげでマーヤの相手をしなくてもいいと評判になっている。むしろソラがマーヤと離れているせいで、村人達がソワソワしているようだ。ソラが来てから強い視線を感じるようになった」
俺は暴れ馬の手綱を握る調教師か!でも確かに視線を感じる…。これは早く戻った方が良さそうだ。
「分かった。マルガレーテ、エレナのことは頼んだ。自分はここらでお暇するよ」
マルガレーテにエレナを任せ、マーヤの家に戻ることにした。
マーヤの家に着くと、キャッキャッとはしゃぐマーヤとユーキの声が聞こえてきた。早速油でも取ってるのかな?
家に入ると、エルフィンがテーブルで水を飲んで寛いでいた。どうやらマーヤとユーキの声は洗濯場のある部屋から聞こえているみたいだ。
「おかえりなさい、ソラ。今マーヤとユーキは取った植物油に細かく磨り潰した種の粉末を加えて洗剤を作り、体を洗って確かめています。はしゃいでいる様子からして成功しているのではないでしょうか?」
テーブルの上に鉄製の万力と油を取るための受け皿があった。流石に作るの早過ぎじゃないか?
「試作品なので早く出来たみたいですよ。あとで色々手を加えるそうです」
確かに、近くで見ると所々の作りが荒い。エルフィン曰く、マーヤは物凄い速さで試作品を作り、それを使用して改善点を洗い出し、品質向上を目指すんだそうだ。
「マーヤはせっかちなんです。なので試作品の耐久度が低くて壊れることも多くて、工房の隅には壊れた試作品がよく転がっています。片付ける身にもなってほしいものです」
面倒見のいいエルフィンがマーヤの後片付けをしてあげているようだ。
そんな話をしていると、ギィッと洗濯場のある部屋の扉が開いた。
「なんか話してると思ったら、ソラが帰って来てたのね。見てみてこれ~、髪がサラサラで肌にも艶が出たわ。それにユーキを見て頂戴!耳も尻尾も綺麗でさっぱりして可愛さ倍増よ!」
言われた通りユーキに視線を移すと、耳や髪がサラサラになっていて、尻尾も艶々だ。そして少し照れてるのか頬が少し赤くなっているのが更に可愛さを引き立たせている。
エルフィンは我慢が出来なかったのか、すかさずユーキに近づき、抱きついては頭をなでなでしている。羨ましい。
「凄い、髪も尻尾もサラサラでふんわりと良い香りがする。ずっとこうしていたいな」
ユーキの顔が更に赤くなる。
マーヤはいちゃつくエルフィンとユーキをよそに、昼食を作り始めた。
精米した米を粉末状にし、パン種を作っている。そして鍋に大量の植物油を入れ、火を付けて油の温度を上げていく。
そしてパン種と適当に切った野菜を用意し、油へと投入している。
どうやら揚げパンと野菜の素揚げを作っているようだ。芋もあるからフライドポテトもある。
揚げたパンと野菜の香りに釣られたのか、ユーマとカイトが昼食を食べに戻ってきた。後ろには既にエレナの姿も見える。
「あれ?マーヤとユーキがなんか綺麗になってる?もしかして洗剤作れたの?良かったじゃない!」
エレナは二人を褒めつつ、我先にとテーブルの席に着く。それに続いて皆も席に着いていく。
皆が席に着くと、マーヤが揚げパンと野菜の素揚げをテーブルに並べていく。揚げたてでとても熱そうだ。
「じゃあ、食べましょう。味が物足りなかったら自分で調味料を振りかけて食べてね~。それじゃ頂きます!」
揚げたてのはずなのに皆、黙々と食べ進めている。火傷とかしないのだろうか?どんな口をしているんだ?
「うわ、揚げたパンと野菜って外はカリッカリで中はもっちもっちなのね。そのままでも食べられるし、調味料で味変も出来るから良いわね!」
「クッ、今までのマーヤの料理が霞んでいく。これからはもっと美味い料理が食べられるようになるんだな!」
「うんうん、美味しい~。涎が止まらない~。いくらでも食べられちゃう~」
揚げ物は大好評のようだ。初めてにしては上出来だと思う。
「美味しかった~、これは夕食も期待しても良さそうだね。マーヤ、夕食もよろしくね!」
「まっかせなさ~い!ソラから教わったもの作りまくってやるんだから!!」
マーヤがえっへんと胸を張り、誇らしげにしている。教えたのは俺だけど、作ってるのはマーヤだからとやかくは言うまい。昼食が終わった後、俺は今後の予定を話した。一週間後に向けてそれぞれが準備をすることで決定した。
これでやっと、村へ帰れる。マーヤとお守り付きだけどね…。




