グロスの実力
アマキの村にあった闘技場はソラ村にあった訓練場と似ていた。円形に掘られた穴に、端には段差が設けてあり、そこに観客が吸われるようになっていた。大きな違いは土かな?粘土を押し固めて出来たような感触がする。地割れ防止かな?
アマキの人達は百人いるかいないかの人数だった。そして集まったことによって、アマキの特徴が分かってきた。肌と前髪は白く、それ以外の髪は真っ黒だ。美人さんばかりだが、正直顔が似すぎていて、俺では判別できそうにない。エレガレーナみたいに明らかに体格差があれば別なのだが、皆双子か!というくらいそっくりなのである。
服装も同じだし、どうやって判断してるのだろうか?声とかホクロとかかな?
周囲を見渡していると、闘技場の中央にエレナとグロスが降りて向かい合い、対峙する。
グロスは余裕そうな表情で手を招いて、エレナの攻撃を誘っている。
流石にカチンと来たのか、エレナは猛烈なスピードで突っ込み、拳を繰り出す。
しかし、グロスには片手で難なく受け止められてしまう。次はグロスに向かって回し蹴りと尻尾攻撃を繰り出すが、左手で蹴りを、右手で尻尾を掴まれてしまった。
グロスは尻尾を掴んだ状態で回転し、エレナを投げ飛ばす。
エレナはクルクルと回転しながら着地を決める。
このままでは埒が明かないとみたのか、エレナは身体強化・極みを発動して、ジャンプし、前転しながらかかと落としを繰り出した。
それでもグロスは片腕で受け止める。その衝撃で地面が波打っている。観客席にまで衝撃の波が来た。
やはり地面が割れないような地面になっているようだ。多分、地面が割れる土質だとバキバキに割れて戦いどころじゃなくなるのだろう。
グロスは空中にいるエレナに向かって反対の拳の拳圧で吹き飛ばす。グランが見せてくれたものと同じだ。そういえば、エレナが拳圧を飛ばしたところはみたことがない。エレナの力が足りていないのだろう。力の差は一目瞭然だ。
重い一撃を簡単に受け止められたエレナは拳と蹴り、尻尾を交えた連撃で一矢報いようと試みるが、全て片手で防がれていく。
なんか横綱相撲を見せられている気分だ。相手の攻撃を正面から受け止められ、圧倒的な力の差を見せつけられているところなんか特に…。
でも昔の相撲なら体格や生活の質が違うせいで横綱が圧倒的だったが、近年ではその差がなくなり、正面から受けとめる横綱相撲をしている横綱は選手生命が短くなっていたと思う。おっとっと、異世界で相撲の話をしていても仕方ないな。エレナとグロスの行く末を見守るか。
エレナの動きが次第に鈍くなってきた。魔力の使い過ぎと疲労によるものだろう。全身から汗が噴き出している。それに対してグロスは涼しい顔をしている。というより、エレナに対して哀れみというか、残念そうな表情を向けている。予想以上に弱かったのかもしれない。
周囲を見回すと、クロノにエレガレーナ、それにアマキの人達も溜息を吐いている。アイスヘブンやソラ村では身体能力の高さをブイブイ言わせていたエレナがここでは子供扱いみたいだ。
グロスは流石にもう終わらせた方が良いだろうと思ったのだろう。物凄い速さで拳を繰り出し、拳圧の連撃でエレナの心をへし折りにかかっている。直接攻撃を当てないのは女性を痛めつける気がないんだと思う。
拳圧の連撃を受けたエレナは最終的に吹き飛び、倒れてしまった。疲労困憊で上半身を起こすのにも苦労している。
「エレナ、ここまでだ。君の実力は大体わかった。見学に来ているアマキ達にも周知されただろう。今の君の実力は百年程生きたアマキくらいの実力だ。マーヤより少し強いくらいだな」
マーヤよりは強い…か。エレナはその話を聞いて泣きじゃくっていた。余程精神的に堪えたのかもしれない。
実の娘の実力を見て、クロノが口を開いた。
「不自然な程、弱く感じる。グランやリオンには魔力操作の基礎を教えたはずなのに、エレナにはそれが見られない。敢えて教えられていないように思える。ソラ、何か心当たりはないか?」
心当たりね~、ぶっちゃけある。エレナは問題を頻繁に起こすトラブルメーカーだ。エレナが今より強かったらグランとリオンが止めるのに苦労するだろうし、巻き込まれるアイスヘブンの人達が可哀そうだ。
「えーっと、エレナはアイスヘブンでは問題を起こすトラブルメーカーなので、敢えて教えてもらえていないんだと思いますよ。止める人や巻き込まれる人達が苦労すると思うので…」
クロノは盛大に溜息を吐き、「なるほど…、マーヤみたいな存在ということか。困った娘だが、あれでは嫁の貰い手にも困るだろう。どうしたものか…」と額に手を当てて頭が痛そうな素振りを見せる。
「では、アマキの人達に教えてもらうというのはどうでしょうか?ここに滞在するとしてもエレナを止められる人達がいて住まわせてもらうならそれが一番だと思うんですけど…」
俺の返答に応じてくれたのはエレガレーナだった。
「確かに、ここに滞在するならそれがいいかもしれない。魔力操作の練習をしている子供達と一緒に教えれば大した苦労ではない。それにガトリンの嫁候補になれるかもしれないしな」
やっふー、エレナをアマキの人達に丸投げ出来た!それよりガトリンとは誰だろうか?
「ガトリンとは誰です?男性の名前ですよね?」
「ガトリンは私の息子だ。もう少しで百歳になる。親族で近しいものと子供を作るとなぜか弱い子が生まれるだろう?それは私達やアマキでも同じことだ。だが、ガトリンとエレナくらい離れた間柄ならその心配はあるまい。ただ、マーヤみたいなのが家族になることを考えると、ガトリンの負担が増えてしまうことが心配になる。ソラ様はエレナの貰い手に心当たりはありませんか?」
ん~、近親交配がダメならグランとリオン、グロスは除外だろ。ソラ大森林にエレナとやり合えるのはリンとマシロくらいか?でも女の子だしないな。マーヤも女の子だし、そうなるとガトリン一択しかなさそうだ。
「ないですね。エレナとやり合える子はどれも女性で男性はいません。消去法でガトリン一択になるかと思われます」
「グランとリオンがアマキの誰かと魔力が釣り合えば、エレナは生涯独身でもよい気がしてきた。まあ、私ではなくグレアが決めることだ。この話はソラが持ち帰り、グレアに話をしておいてくれ」
「分かりました。それではエレナの介抱はアマキの人達にお願いしても宜しいでしょうか?一応古い言葉みたいですけど、ここの言葉は話せるようですし…」
「良いだろう。魔力の操作を教えるついでに言葉も矯正しておこう。マルガレーテ、エレナの世話を頼む」
エレガレーナに似て、ガタイのいい女性が立ち上がり、エレナのところへと向かって行った。
「マルガレーテは私の年の離れた妹だ。次期族長の候補でもある。子供の相手には慣れているので問題はないだろう」
エレナはエレガレーナに担がれてどこかに連れていかれてしまった。村のどこかで休ませてもらうのだろう。
「さて、エレナの実力は分かった。次はソラにエリーゼを紹介するとしよう。私の家に戻るぞ。そこでソラのことも聞かせてもらおう」
やっとエリーゼと話が出来るようだ。でも俺のことも話せ…か、俺が元人間だと知ったらどうなるのだろうか?知ってたら今までのような対応はしなかっただろう。だってクロノは人外大戦のとき、異世界から転生した人間と殺し合いをしていたのだ。そのとき多くの仲間が死んだはずだ。恨みは相当だと思う。
知ったときの反応が怖い。俺は内心ビクビクしながら、クロノの家に向かうしかなかった。




