エレナの父親へ会いに行こう
エルフィンにエレナの父親、クロノのいる場所まで案内してもらうことになったのだが、緊張が途切れて眠くなったのか、ユーキがマーヤに後ろから抱きつき、スヤスヤと眠り始めてしまった。
マーヤめ、気に入った部品を抱き枕にしつつ、ユーキの抱き枕になるとか羨ましいことを…。
エルフィン曰く、ユーキがマーヤと一緒に寝るのは日常茶飯事でいつものことらしい。ユーマとカイトにマーヤとユーキのことを任せることにして、俺とエレナはエルフィンの案内で森の奥へと進むことにした。
森を進みながらエルフィンに気になることを質問していく。
「そういえば辺りは何て呼ばれているんだ?北の魔族が住んでいる街はアイスヘブンって呼ばれていたが、ここも何か呼び名があったりするのか?」
「えぇ、僕達はブラックワンダーフォルクと呼んでいます。元々はもう少し北で住んでいたらしいのですが、大陸中央の魔素が減ったことによって砂漠化が進み、徐々に住処を南へ移していったことでそう呼ぶことになったそうです。昔は別の呼び名があったらしいのですが、僕は知りません」
地脈を移動させた影響で住処を追われたってことかな?他にも影響がありそうだ。
「そういえば村の建物は木造が多かったけど、なんか理由があるのか?ダークエルフとか森を大切にしてそうだし、ドワーフは石や土で作った建物とか想像していたんだけど…」
「もちろん理由があります。火山地帯に近いので地震が多く、耐震性のある木造の建物になっています。それに地脈を無理に動かしたせいか、ここ最近は地震が頻発しています。エリーゼ様が『申し訳ありません。こうなることになるとは思いませんでした』とクロノ様が代弁しておりました」
なるほど、地震対策か。やはり他にも影響が出ているようだ。
「もう少しでクロノ様が住んでいる村へ着きます。その村にはクロノ様とその親族、あとアマキと呼ばれている戦闘に長けた女性の種族が住んでいます。火山地帯の魔物は少ないのですが、非常に強い個体が多いので、僕達では相手をするのが難しくアマキの人達が相手をしています。ただ…」
エルフィンが目を伏せて言葉を濁している。何かあるのだろうか?
「マーヤは戦闘力が高いので別です。一人で火山地帯にある珍しい鉱物を取りに行ったり、火の精霊や知らない魔物を調べに行ったりしています。クロノ様やアマキに散々注意されているのですが、それでも興味があるものを求めて火山地帯に行くので困っています。火の精霊に触ろうとして嫌がられて火だるまにされたり、魔物と対峙して服を燃やされて全裸で戻ってくるのもしばしばで、アマキの人達に大変迷惑をかけているんです」
マーヤはリンみたいに好奇心を抑えられない子みたいだ。それに何度も全裸にされるとか傍から見たら痴女扱いされそうだ。アマキという女性だけの種族がこの先に住んでいて良かったと思う。男性陣が全裸のマーヤを見たら欲情を隠すのが大変だと思う。
「マーヤが問題児なのは分かった。それにしてもアマキって女性だけなのか?男性はいないのか?」
「えぇ、男性はいません。アマキは魔力が近ければ殆どの種族と子供を作れるのですが、生まれた子供が男児の場合は父親の種族に、女児の場合は必ずアマキが生まれます。そのため、アマキは他種族との交流が不可欠なんです。クロノ様達と一緒に住んでいるのもそれが理由です」
ふむふむ、アマゾネスに近い種族ってことか。エレナと気が合いそうだ。アマキの人達にエレナの相手をしてもらえないだろうか?そうすれば俺の負担が減って楽になるのだが…。まあ、会ってから判断するか。
話しながら森を進んでいると、目の前に開けた場所があり、木造の建物が建っている場所に着いた。ここにエレナの父親とアマキが住んでいる場所のようだ。ちらほら見える村人は額に角が生えた鬼人と思える女性達だった。背も高くガタイも良い。それに出るところは出て、締まっているところは締まっている。
ボンッキュッボンッの魅力的な体を見れば、男性陣はイチコロだろう。
エレナはというと、目を輝かせてアマキの人達を指さしては「あの人達強そうよ!戦ってみたいわ!」とちょっかいを出す気満々である。ちょっかいを出すなら父親に会ってからにして欲しい。
村に着くと、大柄な女性が出迎えてくれた。
「やぁ、エルフィン。問題児のマーヤは今回はいないようだな。それでそちらがクロノ様に用がある風の精霊のソラに、ご息女のエレナ様か?クロノ様のご息女にしては弱々しく見えるが、お相手の特徴とは一致するので母親似なのであろうな。ここからは私が案内しよう。ご苦労であった」
「はい、分かりました。ソラ、こちらはクロノ様の弟、クロス様の奥方でアマキの長をしているエレガレーナ様です。エレナ様の従兄にあたるグロス様のお母様でもあります。粗相のないようにお願いしますね。それでは僕はここで失礼をさせていただきます」
エルフィンは頭を下げて挨拶をすると、そそくさと帰って行ってしまった。
それにしてもこのエレガレーナにとって、エレナは弱く見えているようだ。アマキの人達の強さに期待が高まる。エレナを丸投げ出来そうだ。
「では案内しよう。村の奥にある一番大きな建物にクロノ様はいらっしゃる。息子のグロスもそこに住んでいるので父親と従兄の挨拶もできよう」
エレガレーナの後に付いて行くと、村の人達からの視線をそこら中から感じる。俺というよりエレナに関心があるようだ。
大きな建物の前に着くと、扉が開いた。
額に二本の角が生えたグランによく似た褐色の男性が姿を現した。
「ようこそ、お待ちしておりました。私はグロス。そこにいるエレナの従兄にあたります。さあ、中へどうぞ。伯父上のクロノ様が中でお待ちです」
建物の中へ通されると、一際大きい部屋へ通された。そこには大きな椅子に額に一本、両脇に二本の角を生やした褐色の男性がゆったりと座っていた。
グランやリオン、そしてそこにいるグロスによく似ている。でも体は一回り大きいし、ガタイも良い。大きい椅子に座っているのに椅子が窮屈そうだ。
椅子の脇には黒い大剣が置いてあった。柄の中心部分に魔石みたいなのが付いている。あれがエリーゼの神精石が付いた魔剣だと一目見て分かった。
「私がここを治めているクロノ・D・オベリオンだ。其方がエリーゼと同じく異精霊化し、元に戻った風の精霊、ソラか。そして、後ろにいる女の子が私とグレアの子、エレナか。確かにグレアの面影がある。ただ、強さに関してはグレアに遠く及んでいないようだな。ここに住むアマキより弱く見える。本当にグレアの娘なのか?」
クロノから見てもエレナは弱く見えているらしい。俺の中では強い方だと思ったのだが、エレガレーナも弱く見えていたのだ。グロスもエレナを弱いと感じていそうだ。
「はい。私がソラと言います。エリーゼとその持ち主であるクロノ様に会いにここまでやってきました。エレナに関しては父親に会ったことがないと言っていたので連れてきたのですが、エレナはそんなに弱そうに見えるのですか?自分の中では強い部類に入っているのですが…」
代わりに答えたのはグロスだった。
「もちろんです。一目見ただけで魔力の操作が出来ていないと分かるくらいですから弱そうに見えて当然です。ソラ様、魔力感知で私達を見れば簡単に分かると思いますよ?」
魔力感知でここにいる人達を観察してみる。すると、クロノ、グロス、エレガレーナの体には全身タイツのように魔力がピッタリと張り付いているような感じだが、エレナを見てみると、魔力が湯気のようにあふれ出ている。見比べれば魔力を如何に無駄にしているか良く分かる。これじゃエレナが弱く見えるわけだ。
「えぇ~、私が弱いですって!!ならお父様、私と勝負して確かめてください!弱くないって証明してみせます!!」
エレナは鼻息を荒くして尻尾を激しく左右に振り、ぷんぷんと張り切っている。
でも答えてくれたのはまたしてもグロスだった。
「伯父上が相手をするまでもありません。従兄として私がお相手をしてあげましょう。貴女がいかに弱いか、身をもって教えて差し上げましょう」
「では私達が使う闘技場へと案内しましょう。そこでエレナの実力がここではどの程度か分かることになるでしょう。クロノ様も観覧いたしますか?」
「特に用事もないから一緒に行くとしよう。娘の実力も確かめておきたい。ソラ、エリーゼとの話はその後にゆっくりしよう。彼女の話は長いからな…」
エレガレーナの案内でこの村にある闘技場でグロスとエレナが戦うことになった。果たしてエレナの実力はここではどれくらいなのか。噂を聞きつけた村人達が次々と集まり、闘技場は観客で一杯になっていた。




