南の魔族の村々
マーヤは「用事が出来たわ!エルフィンとユーキにソラとエレナの案内は任せた!」と言って、どこかに行ってしまった。
代わりに答えてくれたのはエルフィンだった。
「この広場を中心に四つの村があるのは上空で見ていたソラなら分かるかと思いますが、それぞれの種族が固まって暮らしています。ダークエルフにブラックフォックスとブラックパンサーの獣人、そしてドワーフ、最後に各種族の間に生まれたハーフ達の村となっています。マーヤや僕達ハーフは一緒の村に住んでいるのですが、村にはマーヤ専用の工房があります。昔はドワーフの工房に出入りしていたのですが、爆発事故を起こしてしまい、出禁にされて、やむを得ずマーヤ専用の工房を作ることになったのです。ソラが乗ってきた飛行機に触発されて何か思いつき、工房に籠ろうとしているのでしょう。ああなったマーヤは止めるだけ労力の無駄なので放っておくのが一番なのです。では、ダークエルフの村から右回りに案内しましょうか。では行きましょう」
工房で爆発事故とか、やはりマーヤはリンとエレナと同じくトラブルメーカーだったか。行く先々に変な子がいるのはなぜだろうか?まあ、人が住んでいる場所に一人や二人くらい変人が居てもおかしくないか。深く考えるのはやめて、エルフィンの後に付いて行くことにした。ユーキはまだ泣き止んでいないので、エルフィンに抱きついたままだ。
ダークエルフ達が住む村へ案内された。ダークエルフの人達は皆、黒い髪、黒い瞳、褐色の肌と頭の先から足先まで黒づくめだった。服装は綿の生地で作られた灰色のTシャツと短パンで統一されている。エルフィンとユーキも同じ服装だ。何か理由でもあるのだろうか?
「生地は綿なんだな。服装が統一されているように見えるが何か理由でもあるのか?」
「えぇ、火山が近いので、灰が飛んできて服が汚れやすいんです。なので汚れが目立たないように灰色に染めています。生地が綿なのはダークエルフが植物を育てるのが得意なこととドワーフが生地を織るのが得意なので自然とそうなりました。魔物の革を使った服装はありませんね。バッグやポーチ、ズボンに使うベルトくらいでしょうか」
ふむふむ、火山地帯に住んでいる弊害か。
エルフィンは更に村の奥へと案内してくれると、そこには広大な田んぼと畑があった。
「ここはダークエルフが作物や綿花を育てている場所ですね。ダークエルフは味覚が鋭いのか植物由来の食べ物をメインに食べています。肉も香辛料で匂いを誤魔化せば食べられなくはないのですが、香辛料の刺激が苦手な人もいるので滅多に食べません」
なるほど、俺に温度は分からないが、見た感じここらへんは熱帯地域なのだろう。香辛料となる植物がたくさんあるらしい。味覚や嗅覚があったならカレーが作れたかもしれない。ここの世界の人達に受け入れられるか分からないけどね。
「見たところ、田んぼもあるみたいだけど、米があるのか?」
「ソラは米を知っているのですね。エルフ米と呼ばれる米を作っています。ダークエルフは煮て食べるのですが、穀物の風味が強く少し苦みがあるので他の種族には受けが悪いんですよね。なので他の種族はお酒の材料にしたり、粉末にしてパンを作ったりしています」
もしかして精米しないで玄米で食べてるせいじゃない?エルフィンに詳しく聞いてみると、やはり籾殻を取るだけで精米していなかった。穀物の風味が強くて苦みがあるわけである。
でも精米の方法なんて俺は知らない。風魔法で表面を削れば糠を削り取ることは出来ると思うけど、手間がかかりすぎる。現時点で悩みがないならこのままでいいか。どうせ俺のこの体じゃ食べれないし…。
ダークエルフの村を後にし、次はブラックフォックスとブラックパンサーが住んでいる村へと案内してくれた。
アイスヘブンのホワイトウルフやホワイトライガーと違って、ここの住人は耳と尻尾以外は人間とあまり変わらない姿をしていた。強いて言えば、口から犬歯が見え隠れし、爪が尖ってるくらいだ。大人達はエレナと同じくらいの身長があった。大体170~180cmだろうか?ユーキは見た感じ120~130そこらだ。まだ子供なのだろう。
「ソラ。ここがブラックフォックスとブラックパンサーが住んでいる村です。似た種族なので一緒に暮らしています。一見同じ見た目に見えますが、耳の可動域が違ったり、尻尾の毛に差があります。細長い尻尾をしているのがブラックパンサーですね。それとこの村の人達は魔物狩りを生業としています。村周辺の防衛の要となっています」
ユーキの尻尾を見てみると、細長い尻尾が生えている。恐らくユーキはブラックパンサーとドワーフのハーフなのだろう。
「ソラ。ユーキを見て何か勘違いしているようですが、ユーキもれっきとした大人の女性ですよ。こう見えても五十年は生きています」
にゃ、にゃんだと…!そしてようやく泣き止んだユーキが顔を上げて素顔を見せてくれた。耳がピクピク左右に動き、つぶらな瞳で可愛い上目遣いで俺を見上げている。とても大人の女性とは思えないほど可愛らしい。エレナが気に入るのも頷ける。
こんな合法ロ、ゲフンゲフン、可愛い子はそうはいないと思う。なんと羨ましい。でももしかして…。
「間違ってたら悪いんだけど、もしかしてエルフィンとユーキって付き合ってるのか?ユーキがエレナに捕まった時、かなり怒っているように見えたんだが…」
エルフィンとユーキが顔を赤くしながら頷いた。
「はい。僕とユーキは、大人になっても背が小さいという同じコンプレックスを抱いていたので、自然と仲良くなって、お付き合いすることになりました。ユーキの可愛さにマーヤ達もメロメロなんです。それにハーフ同士なのでよく五人でつるんでることが多いのです」
なるほどね~、だから五人でいたのか。納得した。ユーキの可愛さには俺もメロメロになりそうだ。頭撫でれないかな?玉砕覚悟で聞いてみるか。
「ユーキ、頭をなでなでさせてもらってもいいかな?嫌ならしないけど…」
「ソラならいいよ。でもエレナはヤダ。触ってほしくない!」
それを聞いたエレナはガーンと頭を打たれてガッカリした表情になり、膝から崩れ落ちた。第一印象は大切だ。高いところから飛び降りて無理やり近づいては抱きつき、挙げ句の果てにキスまでしたのだ。自業自得である。
ユーキの頭を撫でると耳がピクピク動いて可愛い。こんな子と付き合ってるエルフィン羨ましすぎる。
どさくさに紛れてエレナがユーキの頭を撫でようとするが、俺が手で叩いて阻止する。エレナの手が伸びるとユーキの体が強張るのだ。エレナに対して苦手意識が定着している証拠だろう。
「エレナは少し自重を覚えた方がいいな。グレアやグランはともかく、リオンやアイスヘブンの人達から甘やかされたり、好き勝手やり過ぎだ。ソラ村でもそうだっただろう?第一印象は大事だぞ。ユーキが怯えているのが分からないのか?」
エレナの肩と尻尾がだんだん下がっていく。これで少しは反省してくれると助かるのだが、すぐに忘れていつも通りになるんだろうな。先が思いやられる。
次にドワーフの村へと案内してくれた。暑い地域のせいかドワーフの人達の肌が黒々している、髪も髭も黒い。日焼けサロンにでも通っているのかと思うほどの黒さである。
「ここがドワーフ達の住む村です。煙が出ている建物が工房のある建物になっています。主にここでは布や革、金属製の品物と米を使ったお酒を造っています。あと各村の木造の建物の建築も行っています」
ふむふむ、ソラ村のドワーフと大して変わらないな。お酒好きなところもそっくりだ。
「工房の案内は村長に話を通さないといけないので、この村の案内はこんなところですね。実を言うと、マーヤと一緒にいる僕達も危険視されていて、工房は出禁になっているのです。素材をちょろまかすのではないかと疑われているようで…」
深いため息を吐きながらエルフィンが肩を落としていく。そんなエルフィンをユーキは頭を撫でつつ、頬ずりで慰めている。うっ、尊い…。
最後にハーフのいる村へ案内されると、道中気づいたことがあった。広場に止めておいた飛行機が見当たらない…。嫌な予感しかしない。エルフィンに視線を送ってみると、視線を逸らされた!あ、これ確信犯だな。
案の定、ハーフの村へ着くと、マーヤの工房と思われる建物の横に分解されて無残な姿になった飛行機があった。
「エルフィン、これはどういうことかな?分かってたよね?」
エルフィンは視線を泳がしつつ、答えてくれた。
「申し訳ありません。ああなったマーヤを止めることは出来ないのです。遅かれ早かれこうなるのでしたら早い方が良いと思い、村の案内という時間稼ぎをしてしまいました。帰りの足は代案を考えるので許してもらえないでしょうか?」
ん~、まあ、ガイアスから一機くらい飛行機がなくなっても問題ないって言われてるし、好奇心に勝てないのは理解できる。でも了解を得ずにするのは流石にどうかと思うけどね。
「飛行機が壊れてもいいってドワーフのガイアスから言われているけど、流石に了解を得ずに分解されるのはいただけないな。今回は大目に見るけど、次回からは事前に理由を話して許可を取ってくれ。そうすればお互い不快な思いをしなくて済む」
一応、理解を示しつつ、叱っておく。
エルフィンとユーキの表情が和らいでいく。
マーヤの工房へ案内されると、マーヤがタービンと思われる部品を抱き枕のようにして気持ち良さそうな表情で寝ていた。
この子、どうしてくれようか?うーん、可愛らしい寝顔で勘弁してやるか…。
マーヤの寝顔を覗き込んでいると、ユーマとカイトが戻ってきた。エレナの父親、クロノとの面会の許可が取れたらしい。さて、エレナの父親はどんな人なのだろうか?マーヤを後回しにしてエルフィンの案内でクロノの住む地域へ向かうことになった。




