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南の魔族達との邂逅

 弓をこちらに向けているダークエルフの女性は瞳をキラキラとさせて、満面の笑みでこちらに狙いを定めている。


 見知らぬ獲物に心を躍らせているのか、興奮しているのが遠目でも分かった。他のダークエルフや獣っ子と少年は落ち着かせようと女性の体を揺さぶって止めようとしているが、傍から見ても止まりそうにない。


 矢が放たれると、真っすぐこちらに向かって飛んできた。だけど高度が高かったせいか、途中で失速し、矢は落下していった。一キロくらいは高度を取っていたと思うんだけど、八割くらいまでは届いていた。弓の飛距離にしてはかなり飛んでいると思う。


 女性はもう一度弓を構えて先ほどより強く引いてまた矢を撃ってきた。でも残念かな。またしても途中で失速し、矢は無残にも落ちていった。


 女性は矢が届かないことに憤り、地団駄を踏んでいた。かなり悔しそうだ。こっちとしては届かない方が嬉しいんだけどね。飛行機傷つけたくないし…。


 女性は他のダークエルフにもやるよう促しているみたいだが、首を横に振られて肩をガックリと落としている。そして次に少年の肩を掴み、わっさわっさと揺らして何か催促しているようだ。少年は仕方なさそうな表情で渋々と請け負ったようだ。


 少年は近くにある樹を触ると、そこから木の槍を作り始めた。もしかして弓矢ではなく槍を飛行機に向けて投げようとしてるのだろうか?矢が無理だったのに槍なんて無理だろう。そう思って少年が助走を取って槍を投げる体勢に入ると、「あ、あの槍、多分飛行機に届くわね。避けた方が良いかも」とエレナが呟いた。


 流石にそれはないと思いつつ、エレナのいう通りに回避行動を取ると、飛行機が通っていたであろう進路に槍が物凄い勢いで通過していった。


 あ、あっぶね~。槍の方が飛距離があるとかどんな強肩をしてるんだよあの少年は!


 後ろを振り返って「ありがとうエレナ、助かったよ」とお礼を言うと、既にエレナの姿がなかった…。


 嘘だろ!俺はすぐに下を見下ろすと、エレナが何も持たずに地面に向かって落下しているのが見えた。流石のエレナでもこの高度は高すぎなんじゃないか!


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 エレナは落下の途中で森の樹を掴み、減速しながら地面へと降り立った。掴まれた樹は樹皮がめくれて痛々しく可哀そうな見た目になっている。それでもエレナは掴んだ手を痛がる様子を見せない。どんな厚い皮の手をしているのだろうか。


 エレナがあの高さから降り立ったのに驚いた五人組は獣っ子を残して、森の奥へと逃げていく。獣っ子を囮にする気か?そう思って上空で旋回しながら見守っていると、獣っ子はエレナに向かってニャァアアアアアアッと森がざわめくほどの咆哮を放った。


 上空にいる飛行機にもビリビリと咆哮の衝撃が伝わってくる。近くにいたエレナはただでは済まないと思う。エレナは無事か!と急いで確認してみると、両手で耳を塞いで耐えきっていたようだ。でも鼻から血が出ているのが見える。流石のエレナでもあの咆哮は効いたみたいだ。


 なのにエレナは鼻血を舌で舐めてニヤニヤと嬉しそうな表情を浮かべていた。あの五人組、大丈夫かな…。エレナよりも逃げた五人組を自然と心配してしまう俺がいた。


 どうやら、獣っ子は逃げるための役割を担っているようで、先に逃げた四人より走るのが早く、合流するのも時間の問題だというのが上空で観察していると分かった。


 だけど、残念かな。獣っ子より追いかけ始めたエレナの方が圧倒的に早い。獣っ子は先に逃げた四人に合流する前にエレナに捕まってしまった。可哀そうに…。


 エレナに捕まった獣っ子は爪を立ててエレナの体中を引っ掻き回しているが、エレナはまったく動じていない。魔力差があって効いていないんだと思う。


 爪が効かないと分かるや否や、獣っ子は先ほどと同じように咆哮でエレナの動きを止めようとしたが、エレナの口づけによって封じられてしまった。


 ぶちゅーーーと口づけされている獣っ子は尻尾が垂れさがり、だらんと体中の力が抜けていくのが見えた。気を失ったのかもしれない。そんな獣っ子は余程可愛かったのか、エレナは抱きついて頬ずりしたり頭を撫でまわしたりと好き放題やっている。う、羨ましくなんかないんだからね!


 そんな獣っ子が追いかけてこないのに気づいた四人組が戻ってきた。左右に分かれ弓でエレナに向かって矢を放っていくが、軽くいなされている。そして槍を持った少年が上からエレナに向かって槍で突こうとしていた。


 槍はエレナに片手で止められ、驚いた少年はエレナから距離を取った。少年の顔から汗がぶわーっと流れていくのが見える。槍を止められた際に力量の差が分かってしまったようだ。怒りの表情に加えて唇から血が出るほど歯を食いしばっている。少年にとって獣っ子は余程大事な人のように見えた。


 その状況にもかかわらず、エレナは獣っ子に抱きつくのをやめようとしない。気に入ってしまったらしい。


 ダークエルフ達と少年が視線を合わせてどうにかしようと考えていると、森の奥から多くのダークエルフと獣っ子の同じ種族、ドワーフ達がこっちに向かってくるのが見えた。どの種族も百人以上はいる。大半が大人の男性のようだ。獣っ子の咆哮で騒ぎを嗅ぎつけてきたのだろう。


 エレナはすぐに何百という人に囲まれてしまった。手には弓や斧など、様々な武器を構えている。エレナはこの状況をどうするつもりなのだろうか。


 ……エレナは満面の笑みで獣っ子の頭を優しく撫でまわすのをやめなかった…。その光景がどうやら敵対する意思はないと思われたのか、取り囲んだ人達の武器が降ろされていく。


 そして獣っ子が気を取り戻すと、ウワァアアアアアアンと泣き始めてしまった。エレナは優しく頭を撫でたり、高い高い~をしたりしてあやしてみるが、一向に泣きやめる気配がない。


 少年が恐る恐るエレナに近づき、両手を差し伸べると、エレナはションボリと悲しそうな表情で獣っ子を少年に渡す。


 少年が獣っ子を抱きかかえ、優しく頭を撫でると、獣っ子はすぐに泣き喚くのを止めた。まあ、まだぐすっぐすっとすすり泣いているけどね。


 そしてエレナは少年に話しかけていた。そういえばエレナは南の魔族の言葉を話せると言っていたな。誤解を解こうとしてくれているのかな?


 でも少年は首を傾げて首を振っている。エレナの言葉が通じていないように見える。え、エレナ、南の魔族の言葉話せるって言ってたよね!


 その様子を見かねたのか、ダークエルフの中から年配の男性が近づき、エレナに話しかけてきた。


 エレナの表情から話しかけてきたダークエルフとは話が通じたようだ。エレナは俺に向かって指を指して、これから向かう方向を教えてくれているようだった。


 俺は上空で旋回しつつ、下の様子を伺った。エレナを含めた人達が指を指した方向へと森の中を突き進んでいく。すると、進路上に開けた広場のような場所があり、その周りに木造の建物でできた村が見えてきた。


 広場を中心に四つに分かれている。どうやら種族ごとに分かれて住んでいるようだ。遠目でもそれぞれの種族の女性や子供達が見えるので間違っていないと思う。


 エレナが広場に着くと、手を振りながら広場に向かって指を指している。広場に着地しろってことかな?旋回しながらなら降りられるだろうけど、帰るとき飛び立てるとは思えないが、仕方がない。帰る時に考えるか。


 俺は旋回しながら高度を下げて広場に飛行機を着陸させる。流石にブレーキはないみたいなので、風魔法で空気抵抗を上げて止めることにした。風の精霊の本領発揮である。


「ソラ。ここが南の魔族の人達が住んでいる入口なんだって~、もうすぐでお父様にも会えるわ!」


「あぁ、それは良かったな。それより、エレナは南の魔族の言葉が話せるんじゃなかったか?少年とは話が通じていなかったように見えたが?」


「あー、私が教えてもらった言葉って古くて訛ってるらしくて最近の子には全然分からなかったらしいの。長く生きたダークエルフの人でも訛ってて聞き取りづらいって言ってたわ」


 なるほど、そういうことか。グレアから教えてもらったとしても人外大戦後のはずだから少なくても九百年近くは経っているのだ。言葉が変わっていてもおかしくない。俺が教わった言葉はどうなんだろう?流石に昔の言葉じゃないよね?


 ダダダダダダと弓で矢を撃ってきた黒髪ショートのダークエルフの女性がこちらに向かって走ってきた。


「ねぇねぇ!これなんていうの?どうやって空飛んでいるの?分解してもいい?いいよね!」


 あー、ちゃんと言葉が分かって良かった。でもこの子、少し物騒だな。飛行機を分解したいとか俺達の足がなくなったらどうしてくれるんだ。


「これは飛行機っていうものなんだけど、分解は止してくれ。帰りの足がなくなる。それより、ここにエレナの父親がいるって聞いたんだけど、本当にいるのか知ってる?」


「あー、クロノ様でしょ。ここじゃ人外大戦を終わらせた英雄だもん。皆知ってるわ!ここよりもっと森の奥に住んでいるの。後で案内するから、飛行機を調べさせてもらってもいい?いいよね?」


 目をキラキラさせながら俺に期待の眼差しを向けてくるこの子、なんかちょっと既視感があるな。リンとエレナと似た雰囲気がする。

 

 獣っ子を抱きかかえながら女性を制止する少年が話しかけてきた。


「申し訳ありません。マーヤは珍しいものを見ると興奮して周りが見えなくなってしまうんです。僕はエルフィン、この子はユーキ、あと一緒にいた二人はユーマとカイトって言います。どうかお見知りおきを、それと貴方が付けているペンダントを確認させてもらっても宜しいでしょうか?ドワーフの友好の証ですよね?」


「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。自分はソラ、一緒に来た彼女はエレナって言います。これは自分が住んでいたドワーフの人から受け取ったものです。魔力を込めるとご覧の通り、光ります。あとこれをくれたドワーフから言付けを預かっています。『元気に暮らしている、会ったことは無くても同胞が元気に生きているのは嬉しいだろうから』と、もしこちらも何か言いたいことがありましたら言ってください。自分が代わりに伝えます」


「こちらこそ、ありがとうございます。確認が出来て嬉しいです。そのペンダントは作るのが大変で、非常に珍しいものなんです。こちらには残っていませんから…。まあ、外に出る人がいないので作る理由がないのもあるのですが、同胞が他の地域でも元気で暮らせているようで安心しました」


「そうなんですか、それは大事にしないといけないですね。それよりエルフィン君はまだまだ小さいのに受け答えがしっかりしていて凄いですね。マーヤさんにも見習っていただいたらどうですか?」


 俺の答えにエルフィンの顔が曇っていく。あれ?もしかして小さいのってコンプレックスだったか?失敗したかな?


 エルフィンの代わりに答えてくれたのはマーヤだった。


「あははは、エルフィン。勘違いされてる~。こう見えてもエルフィンは三百年は生きてるのよ!ダークエルフとドワーフのハーフでもエルフィンだけ小さいから子供達にもよく間違われてるのよね~」


 なんと!人生の大先輩を君付けしてしまった。っていうことはマーヤも同じくらい生きているのかな?流石に女性の年齢は聞きづらいな。


「そういうマーヤだって僕よりお姉さんだろ!もう少ししっかりしていてもいいんだからな!まあ、もう諦めてるけど…、それより、村の案内をした後にクロノ様のところに案内しましょう。先ぶれを出して事前に知らせないと行けないので」


 俺の心の声が聞こえていたのかエルフィンはさらっとマーヤの大体の年齢を晒した。そしてユーマとカイトに先ぶれをお願いすると、この村を案内してくれることになった。この村はどんな生活をしているのか楽しみだ!

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