南の魔族に会いに行こう
善は急げということで、明日にも南の魔族に会いに出発することになった。
エレナは夕食後、それを聞いてウッキウッキで帰って行ったが、リンはエレナが帰った後、不敵な笑みを浮かべて「くっくっく、その間にエレナより強くなってギャフンと言わせてあげるんだから!!」と心の声が駄々洩れだった。
リンも周りと同じような視線をしているのが不思議だと思っていたのだが、俺とエレナがいない間に強くなって一泡吹かせようと思っていたみたいだ。しまいには「出来るだけ南の魔族のところに留まらせておいてね♪」とお願いしてくる始末である。
マシロも観念したようで、リンを強くするために「色々と協力してあげる」と言っていた。マシロの言いようだと敢えてリンに教えていないことがあるみたいだ。興味がそそられるが俺がいない間に行われることが非常に残念である。
翌日、エレナは何も持たずに朝食を食べにやってきた。準備は出来ているのだろうか?
「エレナ、何も持ってない気がするんだが、準備は出来ているのか?」
「準備?出来てるわよ!このまますぐにでも行けるわ!」
エレナは胸を張ってエッヘンとふんぞり返っている。どうやらエレナは身一つあれば問題ないと考えているようだ。それって準備出来てるって言わないからね?
「そうだろうと思った、ソラ。エレナさんの着替えと日持ちする食事を用意しておいたわ。忘れないで持って行ってね」
マシロは予想していたようで、きっちりと代わりに準備していてくれたらしい。流石マシロ、出来る子。俺のお嫁さんにしたい!この体じゃ無理なのが残念だけど…。
朝食を終えると、リンやマシロ達に見送られながら、俺とエレナはドワーフの村へと向かった。
ドワーフの村へ着くと、ガイアスとミカ、それにエルが出迎えてくれた。エルの表情は良さそうに見える。ミカと上手くやれてそうで何よりだ。
「来たかソラ。飛行機の後部座席にある魔石に魔力を込めることで飛行機は飛ぶことが出来る。元気が有り余っている子が後部座席に乗るのだから魔力がなくなることはあるまい。あと他のドワーフ達に会うことがあったらワシらは元気で暮らしていると言っといてくれ。会ったことはなくとも、同胞が元気でいることは喜ばしいことだろうからな」
「あぁ、分かった。会ったら言っておくよ。それじゃガイアス。飛行機をありがとう。行ってくる!」
滑走路に着くと、一機だけ既に滑走路に置かれていた。あの飛行機を使えと言うことだろう。
初めて飛行機を見たエレナは興味津々で操縦席に乗って、飛行機を動かしたいと駄々をこね始めた。そう言われてもいきなり不時着するのは避けたい。「帰りなら操縦させてやる。けど行きはダメだ」と言ったら、肩と尻尾をだらんとさせてガッカリしつつも了承してくれた。
俺が前の操縦席に乗り込み、後部座席にエレナが乗り込むと、俺はエレナに魔石に魔力を込めるようお願いする。
エレナが魔石に魔力を込め始めると、操縦席の正面にあるメーターが左から右へドンドンと赤くなっていくのが分かった。恐らくこのメーターは魔力の残量を示しているのだろう。いつの間にかこんな機能もつけれるようになったのかと感心する。
ドワーフの技術の探求心は想像以上のようだ。他にも知らない機能が付いていそうだが、分からない機能は触らないでおこう。安全第一である。
「エレナ、魔力はもう込めなくていい。飛ぶからシートベルトを締めといてくれ」
シートベルトは左右に分かれており、真ん中でくっつけるだけの簡単なやつになっていた。真ん中のボタンを押すと外れる仕組みで外すのも簡単だ。流石のエレナでもすぐにシートベルトを締めれた。
飛行機のエンジンを始動させると、バスバスバスとタービンが動き始め、ババババババと音を立てながらプロペラが回り始めた。そして徐々にスピードを上げながら滑走路を走っていく。
滑走路の真ん中辺りで十分にスピードが乗ったのを確認すると、俺は操縦桿を手前に引き、飛行機を上昇させて離陸する。凄い。前乗った人力の飛行機とは比べ物にならないくらい扱いやすくなってる!
後ろからキャッキャと騒いで喜んでいるエレナの声が聞こえる。飛行機が飛んで面白がっているようだ。
感動に浸りつつ、俺は飛行機を旋回させて南の方角へと向ける。するとメーターの一つがSを指した。他にM、N、Eの表示がある。このメーターは方位磁石のようだ。おーすげえ~、この星にも磁力があってコンパスも存在するんだ!これなら方角も見失わないで済む。ありがとうガイアス!
森の上空を南へ向けて飛んでいるとソラ村が見えてきた。飛行機を見かける人達は手を振っている。俺達が乗っていることを知っているのだろう。俺も手を振って挨拶を返してあげる。
森を抜けると、草原が広がり、遥か先には砂地が見えた。どうやらこの大陸の中心付近は砂漠化しているようだ。砂埃があちこちで見える。
ふと後ろが静かだと思い、振り返ってみると、背もたれを倒し、足をフロントガラスの脇に引っかけて盛大に寝ているエレナがいた。女の子なのにはしたない。ズボンを履いてなかったらパンツが丸見えになっていたと思う。昨日はテンションが上がって眠れなかったのかな?遠足前の小学生か!
まあ、エレナが大人しいことは良いことだ。その間に出来るだけ距離を稼ごう。
草原を抜けるとやはり辺りは一面砂漠だった。一応東には海岸線に森が見えているので、魔素が少ない地域は砂漠化し、魔素が豊富な地域は自然が豊かなことが分かる光景だった。地脈を戻したらこの砂漠も森になるのだろうか?まあ先のことは後で考えよう。今は南へ向かってただひたすらに飛ぶのみ!
日が傾き始めても、周りの風景は一向に変わる気配がない。砂漠砂漠砂漠、東は海岸線に森森森、正直暇だ。エレナもお腹が空いたときに起き、ついでに魔力供給をしたらすぐに寝てしまった。
確かセスナは200km前後でこの飛行機もそれくらいのスピードは出てるはずなんだけど、この大陸結構広くね?一日中飛べば日本横断も出来ちゃうよ?
心の中でそう思いつつ、夜もぶっ通しで飛び続けた。そして日が昇るとエレナがまた起きて食事をしつつ、魔力供給をしてくれる。でも流石に暇を持て余したのか、エレナがシートベルトを外して飛行機から飛び降りながら「競争しよ~」と言い始めた。
飛行機と追いかけっことか体力が有り余ってるな。
土埃を巻き起こしながら砂漠を走るエレナ。飛行機との距離が徐々に離されているのが分かる。砂地だと走りにくいだろう。どんどん豆粒みたいに小さくなっていく。
流石に砂地が走りにくいと知ったエレナは海岸沿いへと方向を変えた。土埃が真横に上がっているので良く分かる。
海岸沿いの森の手前は草原になっている。地面もしっかりしているのだろう。エレナの走るスピードが上がっている。
徐々にだが、エレナが飛行機に追いついてくるのが分かる。遠回りで走っているのに飛行機に追い付くとか新幹線か!実際それに近い速度で走っていると思う。信じられない身体能力である。グレアやグランが本気で走ったらアレより速いってことだよね?
それにエレナの父親が南にいるんでしょう。エレナ以上の身体能力の魔族がゴロゴロいたらどうしよう。想像するだけで背筋が凍るわ!
そう思っていると、正面に火山の山々が見えてきた。正面には白い樹と黒い樹が広大に広がっている。樹自体はそこまで太くない。火山地帯のせいであまり成長が出来ないんだろう。
エレナもそれが見えたのか、飛行機を追い越して、先回りするように火山の手前にある森に向かって走っていく。
丁度飛行機の正面のところでエレナは待ち構えていた。高度を落としてあげると、エレナはジャンプして飛行機の翼にしがみ付き、後部座席に乗り移る。
「はぁ~、走った走った~。飛行機より早く走れて満足よ!それより、目的地はもうすぐみたいね、早くお父様に会ってみたいわ!」
目を輝かせながら落ち着きのない様子でソワソワしている。初めて会うのだからソワソワするのも仕方ないか。
俺は飛行機の高度を上げて、森に誰かいないか探すことにした。
すると、エレナが「弓でこっちを狙ってる子がいるわね?あれはなんの種族かしら?」と何か見つけたらしい。
エレナが指差す方向へ目を凝らすと弓矢で飛行機を狙っているダークエルフっぽい黒髪ショートで全身褐色の女性と傍に同じくダークエルフの男性が二人、あと小さい黒毛の獣っ子と、黒髪の少年のような小柄な子がいた。
第一村人発見と思ったら五人もいたよ。どうしましょ。




