催促される日々
ここ数日、エレナからはいつ南の魔族のところへ行くのか、マシロとカティからはお菓子のアイディアを、ガイアスからは料理道具に関して新しいアイディアがないか催促されている。
皆俺に期待し過ぎじゃないか?上位精霊から指摘される俺の身にもなってほしい…。
まずエレナに関しては村に遊び相手がたくさんいて退屈してなさそうなので後回しにしておく。ただ、エレナに付き合っているリンが最近メキメキと筋がハッキリと浮き上がって細マッチョ化しているのが気になる。
マシロからもどうにか出来ないか相談されるくらいだ。でもエレナに勝とうと躍起になっているリンを止めるすべはない。なので、ゴリマッチョ化を防ぐべく、マシロとカティに料理のアイディアをいくつか出した。
甘い野菜から砂糖が作れるようになったらしいので、牛乳や卵、小麦粉を使ったカスタードクリーム、パンケーキ、プリンの作り方を教えた。
正直、俺のお菓子のアイディアは姉と一緒のお菓子作りや学校での調理実習くらいの知識しかない。あとはマシロとカティに試行錯誤してもらって魔改造してもらう他ないのだ。
ついでに、小麦粉があるようなのでお好み焼きややきそば、うどんといった粉もののアイディアも提供した。醤油が出来ればソースも作れる。知っておいて損はないはずだ。万が一出来ても食べれないこの体が恨めしい。俺もマシロの手料理が食べてみたい…。
そして味見役としてリンを指名した。これでリンのゴリマッチョ化は少しは遅れさせることができると思う。俺もリンのゴリマッチョ化は望んでいない。やらかすことが多いけど、それでも憎めなくて可愛いリンが好きなのだ。
最後はガイアスだ。料理道具として圧縮鍋とミキサーのアイディアを提供した。正直、圧縮鍋の空気圧を逃がす構造は俺には分からないのでガイアスに考えてもらうしかない。「そこまでのアイディアがあればこちらで考えてみよう。膨張した空気を逃がす構造なんて、考えるだけでワクワクするわい!」と言っていたので喜んでもらえたようでなによりだ。
ミキサーは構造が簡単なせいか「これはすぐ出来そうだな。もう少しワクワクしそうなのはないか?」と言われたけど、今作ってるであろうオーブンは燻製と蒸し器機能付きなのだ。電子レンジは必要ないと思う。
それに温暖な気候な森にエアコンは必要ないし、扇風機も不要だ。テレビとか作っても映すものは無いし、PCは欲しいけど、言ったところで作れるとは思えない。
ぶっちゃけ、俺の祖父母が育った文明レベルと同等かそれ以上になってきているので、これ以上俺がガイアス達に教えられるアイディアは無いと思う。
アイディアを提供して一週間後、ガイアスが家を訪ねてきた。
「やぁ、ソラ。ミキサーはもう出来てしまった。これが試作品だ。マシロに使ってもらって後で感想を聞かせてくれ。それとそろそろ南の魔族のところへ行くと言っていただろう?足がないなら、飛行機を一機やろうと思ってな。壊れても文句は言わん。まだまだ何十機もあるからな」
ミキサーは土台に魔石が嵌め込まれ、ガラス瓶に覆われた底に刃が付いている。飛び散り防止の蓋もばっちりだ。モーターとかまだなさそうだったはずだけど、どういう仕組みなのだろうか?試しに使用してみると、ブォォォオオオと風の唸るような音と共に風が吹き出してきた。
どうやら風の魔法で回しているみたいだ。ガイアス曰く「回す威力がまだまだ低いから生の固い野菜はまだ無理だ」とのことだった。
飛行機の件はありがたい!確かにどう行こうか迷ってはいた。エレナにしがみ付いて走ってもらうことも考えたけど、女性に荷物と俺を担いでもらうのは気が引けていたのだ。飛行機には少し荷物を入れるスペースもあるらしいので、エレナ用の食料は問題なさそうだ。
「それとこれをソラに送ろう。南の魔族には人外戦争時に分かれたドワーフ達がおる筈だ。今も生き残っていれば仲良くやっているに違いない。南の魔族の長とドワーフの長は友人だったらしいからな」
ガイアスから送られたのはチェーンが付いたペンダントだ。表には鎚がクロスした模様が彫られ、裏には見慣れない文字が書かれている。
「裏にはなんて書いてあるんだ?見たことない文字だけど…」
「あぁ、それは昔、ドワーフ達が使っていた文字だ。今では廃れてしまっているが、長に連なる者へ代々教えられるものでこう書いてある『これを持つものをドワーフの友人と認める。無下に扱わず、客人として持て成すことを願う』これで他の地域に住んでいるドワーフ達とも仲良くなれるはずだ。ソラ、それに魔力を通してみろ」
俺は言われるがまま、ガイアスから貰ったペンダントに魔力を通してみる。すると、ペンダントが緑色に光り輝いた。魔力を通さないと、光は消えた。ライトみたいなものかな?
「これで魔力の登録が完了した。ソラ以外のものがそのペンダントに魔力を通しても光らないようになっている。これで本人かどうか確認出来るのだ。紛失したり奪われることもあるからな。大事に扱ってくれ」
俺はペンダントを首にかけ、常に身に付けるようにした。人から物を送られるのは久々だな。なんか作ったりアイディア提供ばかりだったから尚更嬉しく感じた。
「さてと、ワシは帰って酒を飲みながらオーブンと圧縮鍋の製作にでも戻ろう。良いものを作ろうと思うとどうしても時間がかかってしまう。出来たら試作品をまた持ってくる。マシロの意見は貴重だからな、ガッハッハッハッ」
どうやらエルのおかげでお酒が大量に出来ているみたいだ。ミカと上手くやっているらしく、ホームシックにはなっていないようだ。
ガイアスが帰ろうとしたところ、丁度マシロが帰ってきた。今マシロは料理やお菓子作りのため、村長の家でカティと試行錯誤して家を空けていることが多いのだ。
「ガイアスおじさん、こんにちは。もうお帰りですか?お茶と余っているお菓子ならすぐに出せますけど…」
「気持ちはありがたいが、後日の楽しみに取っておこう。それと試作品のミキサーというのを持ってきた。使った感想を後で聞かせてくれ。それではまたな」
ガイアスを見送ると、「ガイアスおじさん、楽しそうな顔してたね。あんなに生き生きしてるおじさん珍しいかも」とミキサーを観察しながらマシロが言っている。
マシロはミキサーに興味津々のようだ。腕を組みながら体をくねらせ悩んでいる表情を見せている。ミキサーを使った料理を考えているのかもしれない。
実際、夕食の料理にはミキサーを使った料理が出てきた。肉をミキサーにかけて、ミンチにしてチーズインハンバーグとメンチカツなるものを作っていた。ソースがあったらもっと美味しそうなのに…。
今日もエレナは夕食を食べに来ている。自分で作る気はさらさら無いようだ。もう見慣れた光景で出来の悪いお姉さん的な位置づけとなっている。ラピスがたまに「なんでエレナがいつも食べに来ているのよ!」と文句を言っているが、だらけて太ったラピスには言われたくないと思う。
飛行機をガイアスから貰うことになったので、エレナには「近々、南の魔族のところにいくからそのときは宜しく!」と言ったら「いつでも行けるわよ!」とすぐに返答がきた。
エレナは満面の表情で行く気満々なのだが、エレナ以外の視線が痛い。「早く連れて行ってあげて!」と皆の視線が物語っている。
「父親に会わせるよりも、トラブルメーカーを少しでも村から離して」って目で訴えているように見えるのは気のせいだろうか?




