ドワーフ村へ出向
翌日、朝食後、リンとエレナはマリンとノアを抱っこしながら訓練場に向かって行く。見慣れた光景である。
俺とマシロは出かける支度が終わると、エルを迎えに、クレインの家に向かう。
クレインの家に着くとカティが出迎えてくれた。地下室はキッチンの脇にあるらしく、茸の妖精達が寝床兼研究部屋まで案内してもらう。
地下室はそこまで広くなかった。大きなベッドが二つあり、反対側には発酵するための樽がズラリと並んでいた。
ベッドが少ないのはローラを中心に纏わりつくように寝ているせいらしい。ローラは人気者で大変そうだ。
研究部屋も兼ねているらしいけど、増産したい商品が出来始めているので、村の外れに大きな蔵を建設中らしい。それまではここでこじんまりと研究と開発を進めているようだ。
ここに住んでいる茸の妖精達は肌が艶々して皆嬉しそうな表情を浮かべている。何不自由なく暮らせているようで何よりである。
「じゃあ、エル。ドワーフの村へ行こうか」
「うん!」
少し不安そうな表情をしている子達が何人かいる。「大丈夫。ドワーフの村はすぐそこだし、何かあったら帰っても来れるから」と安心させると、ニコッと納得した表情になった。
エルを連れて、クレインの家を出てドワーフの村へと向かって行く。
道中は俺とマシロの間にエルがいて、左手を俺に、右手をマシロと手をつないで親子のように歩いていく。
おおぅ、なんか家族みたいな感じでいい雰囲気じゃない?俺のテンションはグングンと高くなっていく。空いた手でエルの頭をなでなですると、エルの上目遣いが可愛くて俺のハートがブレイクしそうだ。マシロも可愛く思ってるらしく、笑みが零れていて最高過ぎる。
この瞬間がいつまでも続けばいいな~と思っていると、もうドワーフの村である。迎えにはガイアスとミカがいた。
「やぁ、ガイアス、それにミカ。迎えに来るとか、そんなにエルを待ち遠しかったのか?お酒がそんなに飲みたいのか?」
俺の問いにガイアスとミカは痛いところ突かれた表情で頭をボリボリと掻きながら説明してくれた。
どうやらグレアとの飲み比べで予想以上にお酒を浪費してしまい、今は残ったお酒をちびちびと少しずつ飲んで誤魔化しているが、もう殆どお酒が残ってないんだそうだ。
あぁ、だからエルが待ち遠しかったのか。ミカにしてみても酒場なのにお酒がなかったらただの食堂だしな。
「やあ、エルちゃん。わたしはミカっていうんだ。あんたの世話をさせてもらうことになる。宜しく頼むね。早速で悪いんだけど、お酒造りに協力してくれないかい?っほんとにお酒が残ってないんだよ!」
「分かった~、頑張る~!」
エルはミカに連れられて酒場へと向かう。寝床も酒蔵も酒場に用意してあるようだ。
「じゃあ、ワシらは鍛冶場へ向かうか。昨日ソラに言われたオーブンの試作品を作ってある。蒸し器の使い方も知りたいしな」
俺とマシロはガイアスの案内の元、鍛冶場へと向かう。
鍛冶場に着くと、ガイアスの息子のライアスとサイラスが鍛冶を取り仕切っていた。
「ワシは息子達に鍛冶を任せて、半ば引退して今は好き勝手に魔導具を作っておる。鍛冶場の端が今はワシの定位置だ」
さすがのガイアスも年には勝てないらしく、少しずつ息子達に仕事を振っているようだ。
「これが試作品だ。昨日の今日で作ったから形だけだが、あとは試行錯誤して形にしていけばいい。時間はまだまだあるしな」
ガイアスが持ってきたオーブンの試作品は長方形で結構大きい。電子レンジを一般的な家庭のコンロに広げたくらいにでかい。気軽に持ち運べるものではなさそうだ。試しに持ってみようとするがビクともしない。腕増えたのに力の弱さは変わらないみたいだ。
「今は酒場用に大きめにしているが、分解して組めるので大した重さじゃない。見た感じどうだ?」
俺は試作品のオーブンを観察していく。蓋は壁に取り付けてあるオーブンと同じで横開きになっている。閂のような鍵も同じだ。
オーブンの底は網になっており、余分な油は落ち、燻製の煙や水は上に抜けて行けそうだった。下にはちゃんと引き戸で受け皿がある。
でも外観を見た感じ、煙は閉じ込められても熱気や蒸気を逃がせない気がする。どうしたものか。
俺は懸念をガイアスに伝える。
「ふむ、煙は逃がして熱気と蒸気は逃がさないように…か。燻製の時は栓を開けて、オーブンと蒸し器の時は栓を閉じるようにすれば問題なさそうだな。そこまで分かればあとはワシの方で色々考えてみよう。ソラ、蒸し器で色々と料理を作れるといったな。この場にあるもので作れそうか?」
俺は鍛冶場を見渡してみる。水を入れる鍋もあるし網もある。蓋にする鍋は大きめにすれば蒸気も逃げにくいし大丈夫かな?余分な水がしたたり落ちるけどそこは我慢してもらおう。
「この鍋と網、それと少し大きめの鍋を蓋として使わせてもらうよ。材料はマシロに持ってきてもらった。蒸すならやっぱり芋とパンだろ!」
マシロに言って芋数種類にバターの代わりにチーズ、そしてパン生地を用意してもらった。パン生地に入れるのはチーズとハムだ。チーズまんと肉まんもどきができるはず…、欲を言えば角煮まんにしたかったのだが、今は醤油がない。醤油が出来たら絶対作ってやる!だって美味しいもん!
まずは下の鍋に水を適量入れる。そして網を乗せて芋とパン生地に包んだチーズとハムを乗せて火を付ける。あとは大きめの鍋を蓋代わりにして蒸気が無くなるまで待つだけだ。
「ほう。意外とシンプルなんだな。これならオーブンの機能にも付けられそうだ。これで芋やパンがどんな味になるか楽しみだ。ガッハッハッハッ」
「うん!私も楽しみ~。ガイアスおじさん。美味しいのが出来たら蒸し器作ってくれない?」
「おおう。いいぞ!これはありもので組んだものだからな。ワシらがもっといいものを作ってやろう!」
他の職人達もちらちらとこちらを見ているのが分かる。蒸し器とそれで出来た料理にも興味があるようだ。
蒸気が出なくなってきた。そろそろ蓋の鍋を開けてみるか。
蓋の鍋を開けてみると、皮が良い感じに切れて食べ頃な芋とふっくらと蒸しあがったチーズまんと肉まんもどきが完成していた。味見が出来ないのが残念だが、美味しく出来てると思う。
「先にチーズまんと肉まん食べてみて、芋は切れ目をいれてチーズをいれるから」
マシロとガイアスはチーズまんから先に食べ始めた。チーズが伸びてとても美味しそうだ。見た感じチーズナンに近い感じになっちゃったけどね。俺は横目で見つつ、芋に切れ目を入れてチーズを挟んでいく。バターの代わりだ。この世界にまだバターはないみたいだからね。
「熱々だがチーズが溶けてパンの生地がもちもちしてて美味いな!蒸すだけでこれだけ違うのか!」
「うん、美味しい~。パンがこんなにもちもちするなんて凄いね。チーズもいい具合に溶けて美味しいよ!」
チーズまんは好評のようだ。俺のいた世界のチーズまんはチーズケーキっぽいやつだったから少し不安だったのだが、この世界では普通のチーズでも十分に美味しかったようで何よりだ。
次は肉まんに手を出す二人、周りの職人は手を休めて近寄ってきている。仕事ほったらかしである。
「ほほー、これ美味い。ハムの塩気と油が閉じ込められておる!そしてもちもちの生地に吸われて最後まで美味い!これは良い!なぜこんなシンプルな料理方法に気づけなかったんだ!」
「うん、こっちも美味しい~。口が油と涎で溢れかえってるよ。蒸すのってこんなに美味しくなるんだね~♪」
二人の太鼓判で周りの職人達が仕事そっちのけで集まってきた。だが残念。チーズまんと肉まんは二人分しかないのだ。他の職人達はチーズを挟んだ芋で我慢してもらうしかない。
「ワシらはこのチーズまんと肉まんで十分だ。お前ら、芋の方は好きにせい!」
ライアスとサイラスが最初に芋を取り、職人達に取り分けていく。流石に早い者勝ちだと可哀そうだと思ったのだろう。皆に芋が行き届くと、職人達が蒸した芋にがぶりついていく。
皆の表情が満面の笑みに変わっていく。「芋が甘いぞ!それとチーズの塩気が合わさって最高だ!」「いやいや、塩気と甘さの緩急のおかげでお互いが調和しているんだ。これは芸術に近いぞ!」とお互いの主張をぶつけ合い、感動を噛み締め合っている。
そして俺が即席で作った蒸し器を見ると、職人達は誰がもっといい蒸し器が作れるか、競おうと言い出し始めた。うむ、これで蒸し器はほっといても普及するな。あとはソラ村にも回してもらえれば最高だ。そこはマシロが広めるだろうから大丈夫だろう。
蒸し器で作った料理のおかげで今日の仕事は解散となり、蒸し器造りが始まった。あとは職人達に任せよう。
俺とマシロはガイアスに見送られ「ソラ。蒸し器以外にも色々と隠しているだろう?少しずつでもいい。色々と後で教えてくれよな!」と別れ際に期待の言葉を言われた。色々知ってるけど、作れるかどうかは別の話なんだよね…。
ソラ村への道中、マシロからも「私にも色々教えてよね」とウインクされたら、頑張るしかないじゃないか!!




