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村の新たなルーティーン

 グレアがグランとエレナを村に残したことで、村ではあるルーティーンが確立し始めていた。


 まずは朝食だ。朝昼晩自炊すればいいもののまだまだ料理の腕はいまいちなようで、グランとエレナが三食マシロの手料理を食べに来ている。まあ、美味しい料理が食べたい気持ちはわかる。


 そして朝食が終わると、リンとエレナはマリンとノアをお供に連れて訓練場に行き、日々体術の鍛錬に励んでいる。そして鍛錬が始まる地響きがソラ村の仕事の合図となりつつある。はた迷惑な話だ。


 グランはというと、アイスヘブンの野菜はこちらで栽培しても甘くならないだろうということで育てることはないが、逆は別だ。特にパンとエールの材料になっている穀物の栽培がアイスヘブンでも出来ないか色々と育て方を教わっているようだ。


 あとは連れていく予定の家畜と餌も覚えている。グレアから耳にたこができるくらい色々学んでくるように言われているようだ。嫌なプレッシャーである。


 午後になれば学校で子供達と一緒に勉強だ。エレナは勉強をさぼっているらしく、グランはどうせ叱られるのはエレナなのでと、ほっといているそうだ。子供達と日常生活の会話ができればいいと思っているらしい。残念な子である。


 グランが勉強中、リンとエレナは高学年を交えての剣術だ。最初の一週間はリンの方が剣術でエレナを圧倒していた。というより、エレナが手加減を知らないせいか木剣の持ち手を握りつぶしてしまい、勝負にならなかった。


 次の一週間で手加減を覚えたエレナが徐々にリンを追い詰めていき、三週間目でリンが勝てなくなるまで強くなったらしい。リンはエレナに勝ち越されてジタバタと悔しがっていた。


 そんなリンは最終手段として将棋とオセロを持ち出して知力でエレナをボコボコにしていた。そしてエレナがジタバタと悔しがっていた。トラブルメーカー同士、仲がいいのか悪いのか分からないけど上手くやっているようだ。


 他の村人達はというと、マシロとカティを中心に新しく入った茸の妖精達と一緒に発酵食品の研究に励んでいた。まだ三週間程だというのに、味噌と醤油風の豆の調味料や複数のお酢やみりん、お酒といったものが出来上がっていた。


 かなりのハイペースで研究が進んでいるようだ。マシロとカティの肌がなぜか艶々していて楽しそうな表情が増えていた。発酵食品の試食三昧で腸内環境が整ったせいかな?楽しそうなら良いか。


 そんな生活が一ヶ月続いた頃、グレアとドランが荷車を引いて村へ戻ってきた。家畜を飼う場所や新しい畑の場所を確保できたようで、交渉で得た家畜と育てるための種を取りに来たそうだ。


 グランはこの一ヶ月で交渉できるまでの英語力と文字を習得していた。頼りになるお兄さんである。


 グレアは満足がいったようで、グランを連れ帰ることにし、エレナはまだ子供達と日常会話が出来るだけだったので置き去りにすることを決めたらしい。待って!エレナも連れて帰ってあげて!


 俺が必死に目で訴えても黙殺された。「エレナがこの村で楽しそうにしているのはグランから聞いておる。今後も宜しくお願いする」と満面の笑顔というプレッシャーで返されたら否ともいえない…。


「そうそう、ソラ。お主はいずれ南の魔族のところへ行くのであろう?その際はエレナも連れて行ってはくれまいか?一応南の魔族の言葉は叩き込んでおるし、エレナだけは父親と会ったことがないからのう。南の魔族に会いに行くついでで良い、宜しく頼む」


 あぁ、村での平和な生活を謳歌していて忘れていた。っていうかグランとリオンとエレナの父親って生きていたのか。


 話で聞いたことないけどどんな人なんだろうか?グランとドラン、エレナに視線を移していくと皆首を必死に横に振っている。父親の話は聞くなと言わんばかりだ。なぜ聞いてはいけないんだろうか?


 結局、グレアはグランと家畜の牛、豚、鳥と穀物の種を持ってアイスヘブンへと帰ってしまった。


 一人残されたエレナはなぜか笑顔で手を振って見送っていた。こっちはこっちでグレアの小言やお叱りがないせいで伸び伸びとしているみたいだ。


「うふふん、これでこの村にもまだまだ入れるし、父様にも会えるかもしれないわ。あと母様に父様の話を聞くと長くて長くて止まらなくなるの、だからソラ。絶対、母様に父様のことで話題を振らないでよね!」


 グランとドランも首を横に振る程だ。余程長いのだろう。


 翌日、リンとエレナが訓練場へ向かって行ったあと、ガイアスがうちを訪ねてきた。マシロにお茶と茶菓子を出されて寛いでいる。何かあったんだろうか?


「あぁ、ソラ。昨日、ドラン達が村を訪れて、飛行機を楽しんでいったぞ。アイスヘブンとやらでは使い道がないので断念したらしいが、楽しかったのでまた機会があれば乗せて欲しいと言っておったぞ!」


 いつぞやの約束でドランに乗せてあげるように後部座席を拡張してあげていたらしい。皆、飛行ドライブは新鮮で楽しんでいったんだそうだ。


「それとだな。そろそろ村も落ち着いてきただろうと思って、茸の妖精達の様子を見に来たんだが、ドワーフの村へ来てくれそうな子がいると思うか?」


 このお酒好きめっ、本題はそれか!まあ、マシロとカティを中心に村人と普通に交流ができるようになったとマシロから聞いている。マシロに視線を向けて返答を丸投げする。


「お酒造りはアルエちゃんとエルちゃんが作ってるけど、麦のお酒造りが得意なのはエルちゃんだからドワーフの村へ連れていくならエルちゃんじゃないかな~。ここから遠くもないし、ミカおばさんに世話を任せれば大丈夫だと思うよ」


 ガイアス達が居た際、誰が行くことになるか想定もしていたようで、落ち着いてきた今なら一人くらい抜けても大丈夫らしい。生活環境の変化でホームシックになってもすぐ戻って来れるし、そのときは付き添いを伴って通いで行けば問題なさそうとのこと。


「なるほど、様子見でそのエルちゃんとやらをドワーフの村へ預かっても良いか確認してもらっても構わないか?」


「うん、返事聞くだけならすぐだから少し待っててね。ソラはその間ガイアスおじさんの相手しててね」


 マシロが足早に家を出ていく。


「そうだソラ。お主そろそろ南の魔族のところへ行くのであろう?そうなったらいつ戻ってくるかわからんから新しい魔導具のアイディアがないか聞こうと思っておったんだ。何かワシらで作れそうなものはないか?」


 ん~、腕を組みながら考えてみる。洗濯機はあるし、コンロも冷蔵庫もある。長距離移動には飛行機もあるのだ。電気がないとはいえ、既に戦後の日本よりいい暮らしをしているように思える。他に何か家電でなさそうなのはなんだろうか?


 電子レンジくらいかな?でもレンジっていうよりオーブンかな?下にウッドチップや水を入れることで燻製や蒸し器の機能も増やせそうだし…。


「作るならオーブンかな?ウッドチップや水を使えば燻製や蒸し器の機能も使えそうだし、オーブンは今どうしてるんだ?」


「オーブンは今まで通り薪を燃やして窯で焼いているな。薪の温度で調理時間がかかるから慣れがいる。魔導具として作ればミカは非常に助かるだろう。それに燻製は酒のつまみに最高だった。蒸し器というのは初めて聞いたが、それで新しい料理でも作れるのか?」


 あぁ、燻製箱は作ったけど、蒸し器はアイスヘブンで作ったんだっけか。この村では広めてなかったや。マシロに使い方を教えれば勝手に広めてくれるだろう。


「じゃあ、付き添いでマシロにも同行してもらおうかな。蒸し器を使うと食べ物を蒸気で温めることで柔らかく甘くすることが出来るんだよ。蒸しパンって料理もあったな。お菓子作りにも使えるはずだ。そこから先はマシロ達、料理人にお任せってことで」


「わかった。それでいこう!」


 話が纏まったところでマシロが帰ってきた。「エルちゃんはドワーフの村へ行ってもいいってさ。ただ、明日からお願い」だそうだ。


「じゃあ、明日俺とマシロでエルを連れてドワーフの村へ行こうか」


「私も行くの?」


 マシロはキョトンとした顔をしている。俺が蒸し器の話を説明すると「それは私も付いていった方が良さそうね。分かった」と了承してくれた。


「そうか、マシロ。お茶とお菓子ご馳走になった。ワシは帰ってミカにこのことを報告する。受け入れ態勢を少しでも整えておかないといけないからな」


 ガイアスは見送りはいいと言って帰ってしまった。明日はマシロとエルを連れてドワーフの村へ出向だ。二人っきりじゃないけどマシロと行動するのが久々でテンションがグングンと上がっていく。


 女の子二人連れてとか役得過ぎる。

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