グレアの根回し力
グレア達を出迎えるため、俺とリンにマシロ、そしてクレイン、カティ、ティア、ケイティの七人で迎えることになった。
村ではこの一か月の間に、グレア達が寝泊りするための建物も用意した。どれくらいの人数で来るかわからないので十人は泊まれる平屋の長屋になっている。
グレア達が村へ到着すると、二十頭はいるであろう毛むくじゃらの象のような大きさの魔物を引き連れていた。これが以前に言っていた山牛だろう。そしてなぜか風の上位精霊のフェリーゼがいた。なぜ、グレア達と一緒にいるのだろうか?
その後ろには氷で出来た大きなソリをグラン、リオン、エレナ、ドランがそれぞれ引いていた。野菜と果物、そして魚と塩が大量に積まれている。鮮度を保つためと緩衝材には雪を使っているようだ。
「ソラ、久しぶりじゃの。山牛を連れてくるために山に洞窟を作ったり、茸の妖精の処遇改善に少し手間取ってしまい、時間がかかってしまった。まあ、そのかいあってか行き来が楽になったがのう」
グレアは胸を張りつつ、フェリーゼを手招きして呼んだ。
「はぁ、グレアの行動力には恐れ入りました。久しぶりですね。ソラ、用事が済んだら私は帰ります。手を出しなさい」
フェリーゼに向かって手を差し伸べると、フェリーゼが翼を重ねて俺に思考を送り込んでくる。
今回の内容は南の魔族の言語とグレアの行動の一部始終だった。
まず、山牛や荷物を運ぶには山脈がネックとなっていたところ、岩の妖精に許可を取り付け、アイスヘブンから直線状の山を岩属性魔法でトンネルを作ったらしい。しかもグレア自らだ。魔力でごり押しして作ったようだ。
そして茸の妖精に関しては、伝手のある氷の上位精霊を通して、各精霊に働きかけ、場所と数の制限を条件に茸の妖精を保護しても良いと言うことになったようだ。場所はアイスヘブンとソラ大森林それぞれ最大十人までと決まったらしい。
グレアの行動力が凄まじい。余程、暇…ゲフンゲフン。村の食文化や美容関係が気に入ったようだ。
「それでは私は帰ります。当分、会うことはないでしょう。ソラ、もう少し自重してください。貴方の周りでは騒動が起き過ぎています。生前の記憶で得た知識をむやみやたらにこちらの世界に持ち込まないでください。分かりましたね?」
フェリーゼは溜息交じりに忠告した後、どこかへと飛び去ってしまった。
自重ねぇ。もう手遅れな気がする。俺の教えた知識を利用して魔改造しているのはリンを筆頭にソラ大森林に住んでいる人間とドワーフ達だ。俺が今から自重してももう遅い。
「ご挨拶が遅れましたね。グレア様、今回はアイスヘブンから貴重な品物の数々を持ってきてくださりありがとうございます。長旅でお疲れでしょう。休むための建物を用意してあります。そちらで今回の商談を進めましょう。では私とカティ、マシロ様でご案内させていただきますね」
「うむ、宜しく頼む。ドランよ。お主は持ってきた品物の説明のため、ここに残れ。グラン、リオン、エレナはわらわについてまいれ」
クレインは通訳にマシロを連れて、グレア達を村に作った建物へと案内して行った。
「ではソラ様、私が色々説明させていただきますね。まずは山牛から説明させていただきます。山の麓に住んでいる草食の魔物で性格は比較的温厚。雌は乳が張っていたため、牛乳に近いものが取れました。味見してみたので間違いありません」
山牛は雄と雌、十頭ずつ連れてきたようだ。子供の乳離れは済んではいるが、乳がまだ張っているので牛乳が取れるとのこと。それで味見も出来たのだろう。
リンは山牛に抱きつき、抱き心地を堪能している。相変わらず自由人だ。ティア、ケイティは山牛の雌に近づき、乳を搾りケイティが持ってきた杯に牛乳を取っては味見をしている。
「私達の飼っている牛とは違って味が濃厚で甘みもありますね。寒い場所で生息していて、且つ寒い場所に生えている植物を食べたせいでしょう。ここで飼ったら少し変わるかもしれませんが、別の乳製品が作れるのは確かかと思われます」
「ホントね。凄く甘いわ。これなら甘くて美味しいお菓子をカティが作ってくれそうね!」
「何々~、私にも飲ませて~。ゴクゴクっプハァ~。ほんとだ~、甘くて美味しい。これはマシロが喜びそうね!」
どうやら山牛の牛乳は好評のようだ。
「でもこの子達、さっきからぜぇぜぇ息が荒いわよ。もしかして暑いんじゃない?」
リンが山牛達に視線を向ける。抱きついた際に息遣いが荒かったらしい。
「あー、それはあるかもしれませんね。どう致しましょうか。そこまでは考えていませんでした」
ドランが頭をボリボリと掻きながら悩んでいる。暑いのはあの毛のせいだろうから刈ればいいんじゃね?
「しょうがないな。毛を刈れば大分楽になると思うぞ。少し試してみようか」
俺は手をバリカンのような形に変形させ、山牛の体中の毛を根こそぎ刈ってあげる。
すると山牛の姿があらわになった。顔は馬のような形で額にユニコーン程ではないが角が生えている。体は牛のようにぷっくらとしていた。馬と牛が合わさったような感じだ。意外に可愛い。毛を刈った後は息遣いが治まった。
俺は次々と山牛の毛を刈ってあげていると、リンとドランは毛の刈られた山牛を触りだし、ティアとケイティは刈られた毛を真剣に見定めていた。
「ソラ様、この山牛の毛、凄いふわふわで保温性が高そうです。掛け布団の中綿に最適かもしれません。こちらは持ち帰って研究しても宜しいでしょうか?」
俺に聞かれても困る。
「この子達はこの村とアイスヘブンの物々交換の品だからティア達の好きにすればいいんじゃないか?あとでクレインに確認取ればいいと思うよ」
とクレインに丸投げする。
「ではまずはこちらの工房で保管してドワーフの婦人達と共同で研究することにします!」
ティアとケイティは風魔法で刈られた毛を圧縮してブロック状にして積み上げていく。掃除機で空気を吸い取って圧縮袋に入れているようなものか。魔法って便利。風魔法なら俺でもやれそうだな。
俺は毛を刈るついでに見様見真似で毛を圧縮してブロック状に固めようとするがすぐにばらけてしまう。魔力感知で固められたブロックを観察してみると、薄い魔力に覆われているのが分かった。あぁ、魔力を圧縮袋代わりにしているのか、魔力を纏わせながら空気を抜いてみると毛がブロック状に固まった。
魔力が無くなったらばらけそうだが、工房まで持てばいいのだろう。ティアとケイティの動きが早いのを見るに、あまり長持ちはしなさそうだ。
山牛の毛を全部刈り取った後は、ドランが持ってきた野菜と果物、魚の説明をしていく。
甘いものがいいと言われていたので野菜は大根のような野菜を持ってきたようだ。
リンとティア、ケイティが生のままかじりついて味見をしている。
最初は「あまっ!」と驚いた表情をしていたが、噛むたびに苦虫でも噛み潰した表情へと変化していった。
「最初は甘かったのに、後味が渋くて土臭くて最悪だわ。これは生では食べれないわね」
「あぁ、説明が不足していましたね。生だと後味が悪いので私達は普段煮て食べているのです。灰汁を取るのが大変ですが、煮ると甘みが残って美味しくなります」
「ドラン、それを早く言ってくれ…」
リンとティア、ケイティの視線が痛い。ドランではなく通訳している俺に視線が来るのだ。
見た感じ俺のいた世界のてん菜に似た野菜のようだ。煮詰めれば砂糖が取れるかもしれないな。まあ、研究はマシロやカティに任せればいいか。
次は果物だ。リンゴのような果物を持ってきたようだ。試しに手を包丁のようにして真っ二つにしてみると、中は蜜が詰まっていて甘そうに見える。
「これは生でも食べれます。甘くて美味しいですよ」
リンとティア、ケイティは俺が切ったリンゴに手を伸ばし、シャリシャリと音を立てながら味見をしていく。
皆の表情に笑みが零れた。どうやら果物は美味しいようだ。
「この果物シャリシャリして甘くて美味しいわね!これなら幾らでも食べれそうだわ!」
「えぇ、お菓子に使っても問題ないと思います。先ほどの野菜の後味が消えていきます!」
果物は好評で良かった。先ほどの野菜の後味を消すすべく、リンゴを丸々一つ食べ切ってしまった。
次は魚だ。見た感じカツオに近い魚に見える。流石に生では食べれなそうかな?
「私達はこの魚を三枚におろして、両側は焼き、真ん中の骨の部分はスープの出汁に使っています。生でも食べれますが小さい子供達はお腹を壊すこともあるのでおすすめ出来ません」
魚に関しては後でマシロとカティに調理してもらって確かめることになった。俺は食べれないので参加出来ないのが残念だ。
最後は塩だ。って言っても皆舐めて「しょっぱい」と当たり前のことを言うだけだ。塩だからしょうがないよね。
「これが私達の持ってきた品物です。あと交渉材料となるのは女王様がもぎ取った茸の妖精の処遇でしょうね。皆さんはいかがだったでしょうか?満足いくものでしたか?」
「野菜と魚は後回しでしょうけど、果物と塩は良いかと思われます。あとはクレインお嬢様の確認次第ですね。私は山牛達を牛達が使っている放牧地に連れて行こうと思います。他の方達は申し訳ないのですが、品物を工房へ持っていってくださいませんか?」
ケイティが山牛達を連れて放牧地のある村のはずれへと向かって行く。残った俺達は刈った毛のブロックと野菜、果物、魚、塩を工房へと運ぶことになった。
品物を工房へ運び終えると、ティアがグレア達が使う建物へと案内してくれた。
中に入ると、商談は順調で終わっているらしく、グレアがステップをしながら俺に向かってきた。
「ソラ!早く茸の妖精を連れて帰らせてくれ!そのためにわらわは頑張ったのじゃからな!さあ、ピナコをはよ!」
グレアはピナコを連れて帰る気満々だったらしい。ピナコはうちの子だ。渡せるわけがない。
「申し訳ないけど、ピナコはリンやマシロの家族だ。連れて行かせられないよ」
「そ、そんな…」
グレアが膝から崩れ落ち、尻尾もペタンと垂れ下がり落ち込んでいる。その姿をグラン達も見たことが無いようで目をパチパチとさせて驚いた表情をしていた。
「ピナコはダメだけど、茸の妖精がいそうな場所は見当が付いている。そこで他の茸の妖精を見つけてくるから、それまで待っていてくれないか?」
グレアがガバッと起き上がると「本当か!なら早く行こう!」と急かしてくる。
「あー、その場所、物凄く臭いみたいだけど一緒に行きたいか?」
それを聞いたグレアは一瞬ピタリと止まった後、首を横に振って「待っておるから早く連れてきておくれ!」と再度急かしてきた。
俺はマリンとノア、そしてピナコを連れて、森の東にある沼地へ追い立てられるように向かうしかなかった…。




