魔導具の仕組み
昼食が終わっても、酔い潰れている人達は起きる気配がなかった。どんだけ飲んだのだろうか。
外から女性の話声が聞こえる。どうやらドワーフの女性全員が飲んでいたわけではないようだ。
「ティアお嬢様、採寸していた衣服が出来上がったようです。工房へ赴きましょう」
「わかったわ。ソラ様、リンお姉様を宜しくお願いいたします。マシロ様、グレア様、再度工房へ宜しいでしょうか。採寸していた衣服が出来上がったそうです」
マシロとグレアは首を縦に振り、ティアとケイティの後について酒場を後にする。
「さて、この有り様だから先に魔導冷蔵庫でも見せようか、こちらへ来い。ここに冷蔵庫がある」
ガイアスの後に付いていくと、酒場の地下室の入口に扉が付いていた。どうやらこの扉が魔導冷蔵庫のようだ。てっきり箱型の冷蔵庫ばかりだと想像していた。
「この扉の魔石に魔力を流すと地下室に冷気が流れるような仕組みになっておる。魔導具は属性の特性を理解していないと作れないようでな。この冷蔵庫を作るのに苦労した。協力してくれたマシロには感謝しておる」
飛行船で何度も雪を取りに行くのは面倒なので魔導具を作ることにしたらしいのだが、ドワーフ達だけではなぜ雪が冷たいのか、どうして出来るのかが分からなかったようだ。
そこで頭のいいマシロにお願いし、雪を使っての氷の特性を研究することになった。
マシロは最初、なぜ高度があがると寒くなるのか、なぜ冷気は下に溜まるのかで悩んでいたらしい。まあ、上に行っても下に行っても寒くなるのに、熱は上に上がっていくので相当悩んでいたそうだ。
結局、高度が上がると寒く、熱がなぜ上に行くかは置いといて、冷気が下になぜ溜まるのかをひたすらに追及した結果、暖かい空気は膨張して密度が低くなって軽くなり、上に上がること。冷たい空気は密度が高く重くなり、下に落ちることを発見したそうだ。
そこで風魔法で空気を圧縮し密度の高い空気を生成してみたところ、逆に熱くなったんだそうだ。なぜ、密度が上がると熱くなるのか訳が分からなかったらしいのだが、圧縮した空気を解放したところ、冷たい風が発生した。
そこで高度が上がると気圧が低下し、空気が膨張する際に熱を使って温度が下がることに辿り着いたんだそうだ。
マシロすごいな。魔法で気象学を理解するとか、気象予報士の資格があったら余裕で取れそうだ。
そして魔導冷蔵庫が完成した。外の空気を圧縮し、解放した際の冷気だけが地下室に流れるようにしたようだ。魔力の消費量が多く、小型化が出来ていないため、酒場にしか設置していない魔導具とのこと。
「凄いですね。アイスヘブンは元々が寒いので冷蔵庫は必要ないものですが、魔導コンロはアイスヘブンでも使い道があります。魔力を使うみたいですが、エレナ様に絡まれない限り、我々は魔力が有り余っているので問題ありません。薪や石炭が必要なくなり、煤が出ない分、便利だと思います」
ドランは魔導コンロに興味を示しているようだ。洗濯機は革製の衣服ばかりで滅多に洗わないので必要性を感じないらしい。
「なら一つ試しに持って帰るか?魔導コンロなら予備のものが余っているはずだ」
「お気持ちはありがたいのですが、貰ってばかりでは申し訳ありません。後日、アイスヘブンから物々交換できそうな品物を持ってきますので、それと交換ということでいかがでしょうか?」
「なるほど、確かに貰ってばかりでは気を揉むか。なら後日、アイスヘブンから面白い品物が来ることを楽しみにしていようか。ガッハッハッハッ」
冷蔵庫の周りで話し込んでいると、酔い潰れていた人達が次々と起きて、水を取り始めた。それでもまだまだ酔っているようだ。立っているのがやっとのようでふらふらと千鳥足になっている。
リンも起きたようだ。周りを見渡しては「マシロ達がひなひ?どこいっら?」と呂律が回っていない。
「マシロ達なら工房へ向かったよ。採寸してた服が出来たんだってさ。酒場もこの状態だし、次は工房へ行ってみようか?」
「そうだな。この有り様なら殆どの者が午後の仕事は出来んだろ。子供達もまだ帰って来ないだろうし、工房へ行くか!」
ガイアスがリンを背中におんぶして工房へと案内してくれる。
工房へ着くと、そこには磨き上げられたグレアがいた。
長い髪は後ろで三つ編みに編み込まれ、肌はピカピカに艶が出て光っている。尻尾の先なんて刺さったら痛そうだ。
服は上がスポーツブラのような裾のないもので、下はスパッツのような短パンを履いていた。正直、服というより下着である。
その後、脛まである布製の羽織りを着せられ、帯で締めたら浴衣のような格好になった。やはりさっきの服は下着だったらしい。
それにしても元々美しかったグレアが更に美しくなっている。ティアとケイティは満足した表情で額の汗を拭っている。
「ふっふっふ~、新しい髪専用の洗剤に肌を美しく見せるための乳液をふんだんに使いました!グレア様いかがでしょうか?お気に召されましたか?」
「ふむ、動きやすいよう設計され、美しい肌を強調させるよう考えられておる。わらわは満足じゃ。これはアイスヘブンから上等な品物を持ってこなければならないな!」
グレアも満足した表情で感謝を述べている。
「グレア、凄い綺麗になったな。でも服だけ作ったのか?靴は作らなかったのか?」
そういえば、アイスヘブンにいる人達が靴を履いているのを見たことがない。全員素足だった気がする。
「あぁ、それはですね。グレア様だけでなく、アイスヘブンにいる人達は身体能力が高いようで靴の耐久性が足りないのです。リンお姉様も戦闘訓練をする時は靴が破けるので裸足ですからね…」
なるほど、確かに拳であの威力なのだ。鎧に使う金属製の靴でも壊れそうだ。
「これでソラ村とドワーフの文化はおおむね把握した。アイスヘブンへ情報を持ち帰り、物々交換するための品物や茸の妖精の処遇の改善をしてこよう。ドラン、そろそろお暇するとしよう。帰ってからやることが一杯じゃ」
グレアは笑みを零しながら、ドランと今度の話を進めている。どうやらここからアイスヘブンへ帰るようだ。
ガイアスと俺達はドワーフの村のはずれまでグレア達を見送ることにした。まだリンは酔っていたが「グレアまだ遊びにきてよね」と抱きついていた。
そんなリンをグレアは頭を撫でながら「また来る。そのときはまたよろしく頼む」と約束をしていた。ついでにマシロの頭も名残惜しそうな表情をしながら撫でていた。お持ち帰りしたくてしょうがないと顔に書いてある気がする。
「では、また来る。さらばじゃ」
そう言い残し、グレアとドランは北の山へ向かって森の中へ消えていった。
「嵐のように来ては去って行ったな。次来るときはどうなることやら」
つい口にしてしまったが、皆から「お前のせいだろ」と言わんばかりの視線が俺に向けられた。
◇
グレア達が帰ってから約一か月、音沙汰もないまま普通の日常を送っていると、トレント族から山の方から毛深い魔物を引き連れたグレア達が村へ向っているとの報告があった。さて、アイスヘブンからどんな品物を持ってくるか楽しみにしながらグレア達の到着を待った。




