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グレアの実力

 俺達はグレアを連れて森の外にある訓練場にやってきた。


 観客席にいるのは俺とリンとマシロの三人、訓練場の中央には準備万全のマリンとノア、そしてグレアが立っている。


 グレアがエレナと同じく地面に尻尾を突き刺すと、手招きをしてマリンとノアを挑発している。


 マリンとノアは最初から飛ばす気のようだ。足の大腿部と腕の上腕部がバネのように撓んでいる。


 マリンとノアは足を激しく地面に叩きつけ、物凄い勢いで突っ込みながら、左拳を弾丸のような速さで伸ばしていく。腕だけじゃなく足も利用することで高速移動と弾丸のような速さの拳の合わせ技のようだ。エレナには使っていない技がまだあったらしい。


 対してグレアはマリンとノアの左拳を右の片手だけで受け止める。


 止めると同時にバリバリと音を立てながら衝撃波が周囲へ広がり、猛烈な風が俺達に襲い掛かる。勢いを止めたため、尻尾から扇状に地面が割れ、グレアの後ろの訓練場はバッキバッキだ。


 受け止めたグレアから笑みが零れているのが見える。よく見ると、マリンとノアの拳とグレアの手が触れていないように見える。何が起こっているのだろうか?


「凄い衝撃と魔力の余波だね。魔力が高いもの同士が戦うと、触れてないように見えるって話を聞いたことがあるんだけど、実際に見るのは初めてだわ。子供達を連れてこなくて良かった。魔力の余波で気絶したり、最悪ショック死することがあるんだって」


 マシロが周囲に視線を向けると、空を飛んでいた鳥がバタバタと落下し、地面に叩きつけられたのが見えた。強者の戦いでは起こる現象のようだ。


 だがグレアの方が魔力は勝っていたようだ。受け止めていた拳をグシャっと握りつぶしている。


 マリンとノアは右の拳も弾丸のような速さで飛ばすと、グレアは受け止めずに左手で殴りかかった。


 マリンとノアの右腕が吹き飛ぶ、殴り合いの勝者はグレアだ。


 マリンとノアは一旦距離を取ると、体から無数の拳を生み出してグレアに向かって弾丸の速さの拳を浴びさせる。


 しかし、グレアは物凄い拳の連打でマリンとノアの拳を吹き飛ばしていく。グレアの拳が全く見えない…。それにグレアの拳が消えた後、パアンパアンとした炸裂音と衝撃が体を突き抜けていく。グレアの拳、もしかして音速を越えてない?


 拳を吹き飛ばされていくマリンとノアの体がみるみるうちに小さくなっていく。終いには分離し、体を震わせながら両手を上げて「こうさん~」と敗北宣言をした。グレアが強すぎる!リンとマシロも体が震えているのをみるに二人もグレアの強さを実感しているようだ。


「ふむ、中々に良い攻撃であった。最初の攻撃ならばグランですら受け止めることは難しかろう。エレナが怪我をするわけじゃ。ソラの近くにここまで強いものがいるとは思わなんだ。ソラ、この精霊達を持ち帰ってもよいか?エレナの相手をさせるには良い相手じゃ、他の民達も絡まれなくなり、安心すると思うのじゃが…」


 ニコニコとした笑顔で何を言ってるのこの人!そんなのダメに決まってるでしょ。


「マリンとノアはうちの子だからダメに決まってるでしょ。それに見てみなよ。ぷるぷる震えてグレアに怯えてる。連れて行けるわけないでしょ!」


「そうか、それは残念じゃが、そこまで怯えられると悲しいのう」


 だったら圧倒的な武力を見せなきゃいいのに、そう思っているとリンがグレアに向かって走っていく。何か嫌な予感がする。


 リンはグレアの胸に飛び込み、足を腰に巻き付けて抱き付く。上目遣いで「凄い、凄い、エレナのお母さんってこんなに強いのね!どうやったらあんなに強くなれるの!」と尊敬の眼差しを向けていた。殴りかからなくて何よりである。


「ほほぅ、この子は可愛いのう。よしよし、なら家にくるかえ?ビシバシ鍛えてあげよう」


 リンの頭を撫でたり、ぽっぺをぷにぷにしたりと可愛がっているが、リンをアイスヘブンへ向かわせるつもりはない。これでも少しは問題を起こさなくなっているはずなのに、アイスヘブンへ行ったら前より酷くなりそうだ。


「リンお姉ちゃんもマリンもノアも連れて行っちゃダメ!私達の家族なんだから!」


 マシロが魔族の言葉で拒絶する。あれ?マシロ、いつ魔族の言葉を覚えた?そっちの方が驚きなんだが?


 グレアもマシロの発言を聞いて目をパチクリしている。俺が断ると予想していたようだが的が外れて驚いているようだ。俺も驚いている。


「其方、名はなんというのじゃ?どこでわらわ達の言葉を覚えた?」


「私はマシロって言います。言葉はソラやエレナさんが話しているのを聞いて覚えました。少しだけ喋れていると思いますが、伝わっていますか?」


 どうやらマシロは俺達の会話を聞いただけで魔族の言葉を理解し、喋れるようになったらしい。何それ、頭良すぎでしょ。


「ワッハッハッハ、まさかわらわを驚かせる人材がこれ程いるとは思わなんだ。ソラ、良い家族を持ったな。大切にするように、何、冗談じゃよ。半分本気ではあったが」


 盛大に笑いながら、グレアはマシロに近づき、抱きついたままのリンを優しく引き剥がし、二人の頭を撫でて落ち着かせる。


 撫でている間、優しい母親のような表情を浮かべている姿は流石に三児の母親なんだなと思う。というかなぜか肌に艶がでてグレアが一層美しく見える。母性本能が刺激されたのかな?


「さて、村へ戻ろうかの。ドランの報告も聞いてみたいしの」


 腰のないはずのマリンとノアは腰が抜けたように動けなくなり、結局、俺が抱っこして村まで運ぶことになった。


 村へ近づくと、ドラドラドラドラドラドラドラドラという音が響いてきた。どこかで聞いたことのある音だ。


 村に着くと、ドランが胸を叩いているドラミングの音だった。どこかのスタンドの雄叫びかと思った。


「ドランよ、興奮しているということは何か良いものが見つかったということか?報告を聞こう」


 ドランは穀物から作れるパンと牛から取れる牛乳でチーズやヨーグルト、そしてスープにも使える多様性を伝える。


 他にはピナ菌の存在だ。ピナコという茸の妖精のおかげで、発酵、熟成が早めることができ、普通は数ヶ月かかるチーズやお酒が数日で出来ることを伝えると、グレアが驚愕した表情を見せた。


「ソラ、その茸の妖精を連れていくことは出来まいか?どんなことをしてでも連れて帰りたいのじゃが!!」


 グレアとドランが期待の眼差しで俺を見るがそれは出来ない。


「ピナコはうちの家族として一緒に暮らしているから無理だ。それに茸の妖精は精霊や妖精から討伐対象になってる。ピナコはエンデから出ないことを条件に見逃してもらってるから尚更だ」


 グレアが目を瞑り、腕を組みながら深く考え込んでいる。どうしても連れて帰りたいらしい。


「精霊と妖精の許可があればいいのじゃな?なら少し時間を貰おうか、牛はどうじゃ、そっちは持って帰れそうか?」


「女王様、山に生息している山牛でも牛乳は採れると思われます。まさかあの乳から出るものを食料にするとは思いませんでした。赤ん坊が飲むものだと思っていましたから」


 どうやら北に見える山のどこかに牛に近い魔物が生息しているらしい。草食で比較的大人しいせいか、肉食の魔物の恰好の餌になっているらしい。ただ、味はいまいちなようでアイスヘブンの人達はあえて狩らないようにしているんだそうだ。


「その山牛?っていう魔物、大人しいなら家畜に向いているんじゃないか?この村でも繁殖が成功すれば別なチーズとか作れると思うから交渉材料が増えるかもね」


「なるほど、次来るときに連れて来てみるか。ドラン、お主はどう考えておる?」


「はい、ソラ村は一通り見ましたが、目立ったのは料理に関連するものばかりでしたね。衣服に関しても工房がありましたが、素材はドワーフの村から調達しているようで明日はドワーフの村を見て回ろうかと思っています。こちらの鍛冶職人の技術も知っておきたいので」


 明日ってことは今日はこの村で寝泊まりする気のようだ。


「じゃあ、今日はうちで泊まるってことでいいのかな?グレアさんもドランさんもたくさん食べそうですし、今日は豪勢にしますね」


「ふむ、それは助かる。馳走になろう。今晩は御厄介になる」


 レイとドランと合流し、皆で家に帰ることになった。


 家に着くと、マシロはキッチンでさっそく皆の食事の準備をし始めた。


 食事の準備中、グレアとドランはシャワーで体を洗うことになった。エレナから話は聞いていたらしく、グレアはリンと一緒に、俺はドランと一緒に入り、体を綺麗にしたが、ドランの抜け毛と恥部の大きさが凄かった。マジで象の鼻かと思った。


 次はベッドに興味深々だったが、寒いアイスヘブンでは向かないと知るや否や二人ともガックリと肩を落としていた。


 一通り家の観察を終えると、夕食の準備が出来た。グレアとドランの腹がぎゅるぎゅると鳴っている。かなりお腹を空かせているようだ。


 今日の夕食はパンに、グラタン、チーズインハンバーグ、ホワイトシチューと豪華だ。


 グレアとドランの食が進むのが早い。幸せそうな表情を浮かべながらモグモグと食べ進めている。食べながらでも視線はピナコに向いているので、ピナコは終始体を震わせながら食べていた。可哀そうに。


「馳走になった。これらの料理はこの村の人達なら普通に作れるのか?」


「作れますけど、私の料理が美味しいって皆言ってくれます。あとカティさんが料理作るの上手いですね」


 グレアがマシロに抱きつくと「持ち帰りたいのう」と言いながら頭をすりすりし始めた。そしてリンがグレアに抱きついて「それはダメ~」と引き留める。


 その光景を見ていた他の全員からはクスクスと笑いが零れていた。


 食事が終わると、就寝だ。グレアはリンのベッドを使わせてもらうことになったが、リンはグレアに抱きついて離れそうにない。エレナには懐かなかったのにグレアにはかなり懐いているようだ。


 ドランはノアがベッド代わりになって寝ることになった。羨ましい限りである。


 こうして、グレアとドランとの初日が終わった…。明日はドワーフの村へ案内である。何事もなければいいのだが…。

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