迎えに来たのは
早めの昼食が終わり、エレナが仮眠を取っているところ、村の方から子供達の賑やかな声が聞こえてきた。「せいやー、とりゃー」という声が聞こえてくる。
「なんか騒がしいわね。私見てくるわ!」
リンが笑みを浮かべながら足早に家を出ていく。俺も急いでリンの後を追いかける。
騒ぎの渦中にいたのはグランだった。木剣を持った子供達に群がられている。襲い掛かる子供達の攻撃を躱しつつ、足払いをしては転びそうになった子供を転ばせないようにグランが手で支えてあげている。
その光景で敵意が全くないと分かった大人達は温かい眼差しで遠巻きに見守っていた。グランも子供達の扱いが上手い。柔らかい表情を浮かべながら、嫌そうなそぶりを見せずに子供達の相手をしてあげている。
リンも子供達に混ざってグランに殴りかかる始末だ。エレナの扱いに慣れているグランはリンすらも軽くあしらっているように見える。
グランは俺に気づくと視線で助けて欲しいと懇願しているように見える。子供の相手は嫌いじゃないみたいだけど、流石にあれだけ群がられてるのは可哀そうだ。助け船を出してあげるか。
「やぁ、グラン、数日ぶり。エレナを迎えに来たんだろ?エレナなら怪我をしてて休んでる。ささ、リンも子供達もお客さんに向かって木剣や拳を向けるものじゃない。家に帰った帰った」
「えー、楽しかったのに~」とぶつくさ文句を言う子供達は家に向かって散り散りに帰って行く。リンは止めたにもかかわらず、まだグランに攻撃を仕掛けている。俺の話聞こえなかったのかな?グランはリンを軽くあしらいながら口を開いた。
「ソラ。数日ぶりです。エレナが怪我をするなんて何かしでかしたのですか?余程のことじゃない限り、怪我なんてしない体に仕上がっているはずなのですが…」
仕上がってるって、エレナにどんな教育を叩き込んでいたのだろうか。全く想像できないので早々に考えるのはやめて怪我をした理由を説明する。
「そこでまだ攻撃を仕掛けているリンと試合をしたんだけど、エレナの圧勝でさ。その後、うちにいるマリンとノアっていう土と水の精霊と戦わせたんだけど、思いのほか強くなっててね。エレナが負けちゃったんだ。攻撃は防いでいたみたいなんだけど、防いでた両腕の骨にひびが入っちゃってね。今はご飯を食べて寝て回復に専念しているところだよ」
グランが驚愕の表情を浮かべる。
「エレナが怪我をする程の精霊がこの森にいるのですか!それは驚きました。まあ、怪我をしたのはエレナが勝手にソラのいる森に行ったのが原因で自業自得なので、母上もとやかく言わないと思いますよ。私からしてみればいい教訓になったと思っています。見ず知らずの地に行くとどのようなことが起こるか、身に染みて分かったことでしょう」
グランの言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。グレアの報復がなさそうで何よりである。
流石に攻撃をあしらわれ続けたリンが攻撃を止めて、頬を膨らませて「全然攻撃が当たる気がしない~、流石エレナのお兄さんね!」と愚痴を漏らしながらグランを称えていた。
「当たり前だろ、リン。グランはエレナを止めれるくらい強いんだから、エレナに勝てなかったリンが敵うはずないだろ。それよりお客さんに攻撃を仕掛けるなよ。エンデからエレナの迎えが来てるって話はリンも聞いてただろ!まったく、まだまだトラブルメーカーなところが残ってるんだから…、すまないね、グラン。血の気の多い子が多くて、相手をするの大変だろうに」
「いえいえ、アイスヘブンで慣れているので私は構いませんよ。それより言葉が通じなくてもソラの名前を口にした途端、道中の方々は親切に村の方向を教えてくださいました。ソラはここでも有名人なのですね。皆さんに信頼されているようで何よりです」
グランの率直な誉め言葉に背中が痒くなる感じがする。痒くなる神経ないんだけど、気持ち的に…ね。
「じゃあ、エレナのいる家まで案内するよ。リンが先導してあげろよ。一応家主なんだからな」
「わかったわ!ついてきなさい!」
リンの言葉をなんとなく察したのか、リンと俺の後にグランが黙って付いてきてくれる。
家に着くとまだエレナは寝ている状態だった。マシロはグランのためにお茶を出しておもてなしをしてくれた。
「お口に合えばいいんですけど、粗茶です。あとパンを揚げて花の蜜を塗ったお菓子になります。どうぞごゆっくりしていってください」
グランは俺に視線を向けてきた。どうやら翻訳が必要なようだ。
「お口に合えばいいけど、お茶と揚げたパンに蜜を塗ったお菓子だってさ。エレナが起きるまでは少しゆっくりしていくといい」
「ではお言葉に甘えて、頂きます」
クピクピとお茶を飲んでいくが少し顔を顰めているようにも見える。お茶はあまり口に合わなかったらしい。お菓子はバリバリと貪ると表情が緩んだ。お菓子の方は口に合ったらしい。
「お茶だけだと渋みがあって少しきつく感じましたが、お菓子と合わせるとお茶の渋みが和らぎ、風味が感じられていいですね。ただ、アイスヘブンで甘さに慣れている私では蜜の甘さが足りないように感じます。エレナは食べれれば気にしないので細かいことは気にしないと思いますが、ここの食文化に触れられて嬉しいです!」
笑顔を見せたグランはお茶とお菓子を綺麗に平らげながら、感想を述べてくれる。
マシロは両手を前で組んでモジモジさせている。何を言っているのか気になっているみたいだ。
「お茶だけだと渋みがあってきつく感じたらしいけど、お菓子と合わせると渋みが和らいで風味が感じられて良かったらしいよ。ただ、アイスヘブンに住んでいる魔族は甘いのに慣れているせいか蜜の甘さが足りないように思えたってさ。ここの食文化が知れて嬉しいって言ってるよ」
マシロの耳がピクピクと上下に動いている。どうやら嬉しいようだ。
そんな話をしていると、ぎゅるぎゅるぎゅる~と誰かのお腹の虫が盛大に鳴き始めた。発生源はエレナのようだ。むくりと起きては目を手で擦り、欠伸をしている。
「お腹空いた~。あ…、兄様がいる…。もしかしてお母様に言われてきた?」
「あぁ、額に青筋立てて怒っていたぞ。誰にも言わずにどこかに行ってしまったんだからな。まあ、どこに行ったかは予想はついていたのでこうして見つけることが出来たがな。これ以上ここの人達に迷惑をかけるわけには行かない。今夜、帰るぞ。アイスヘブンには早朝に着くだろうから、朝からみっちり母上に叱られるといい」
エレナはガックリと肩を落とすと同時に、尻尾もペタンと力なく地面に垂れている。自業自得なので同情はしない。こってりとグレアに叱られるといい。
「エレナさん起きたみたいだから、腕の調子見てみるね。……凄い、まだアザが残ってるけど骨のひびは治ってる。ここまで回復が早いとは思わなかったわ。私達より体が丈夫なわけね」
マシロが驚いた表情でエレナの腕を観察している。
「うふふん、体が丈夫なのが私の取柄なんだから当然ね!今度会った時はマリンとノアに勝って見せるわ!」
エレナとマリン、ノアの視線が交錯し、バチバチと火花が散っているように見えた。
「そこの精霊達がエレナに怪我をさせたのですか?こんなに小さいのによくエレナを負かすことが出来ましたね。魔力を見るにエレナが負けるとは思わないのですが…」
「あぁ、この子達、合体出来るんだよ。んで戦闘の時は周りの土や水を吸ってアイスジャイアントより大きくなるからかなり強かったよ。エレナが一方的にやられてたからね」
「エレナが一方的にですか!!なら、私とはいい勝負が出来るかもしれませんね。ただ、母上に知らない相手とは戦わないように言われていますから、力比べが出来ないのが残念です。まあ、戦ったらお互い無事では済みそうにないのでいいかもしれません」
「えぇ~、兄様が仇討ってくれると思ったのに~」
エレナが頬を膨らませてぶーぶーと文句を言っている。
「あぁ、それとエレナの回復力ですが、私達一族は比較的回復が早いようなのです。昔、母上に自身や身の回りの弟や妹、民を守れるようにしごかれ、アザが出来る怪我は日常茶飯事でした。しかし、食事を取って一晩寝れば大体治っていました。まあ、そのせいか母上のしつけは痛かったのですが…」
回復が早くても良いことばかりではなかったようだ。まあ、怒られるようなことをした方が悪いんだから自業自得か。
「それはそうと、この子達のあの攻撃の速さは何なのよ!どうやってるのか教えて欲しいわ!」
まあ、それは俺も気にはなっていた。マリンとノアにあの攻撃はどうやっているのか聞いてみた。
簡潔に言うと、水圧カッターの押し出す水圧で拳を飛ばしているとのことだった。道理で弾丸のような速さで繰り出せるわけだ。あのバネのように撓んでいたのは水圧を高めていたからか。
そして粘土のような粘りのある体にして水が漏れたり、腕が吹き飛んだりせず戻ってくるようにしているらしい。
昔、森を騒がせた攻撃の応用のようだ。地面が揺れるような威力ではなくてもエレナが壁にめり込む程の威力だ。リンに試し撃ちして怪我させてしまい、封印していたらしい。
リンを怪我させた攻撃をエレナに使うのはどうかと思うけど、使わないと決着がつかないと思ったのだろう。一応、使う相手は選んでいるようだ。
「なんとなくわかった気がするわ!今度は私が勝つから首を洗って待ってなさい!」
これ、わかってないな。それにその台詞、負けた人が言う台詞じゃないからね?
マリンとノアは、腕をムキムキにして受けて立ってやるという姿勢を見せている。
「それより、今夜帰るなら早めに夕食にするから少し待っててね。エレナさんはお腹空かしているみたいだし」
そういうと、マシロはキッチンで夕食の仕度を始めた。材料の多さからしてグランの分もありそうだ。
「グラン、今夜に帰るなら夕食を食べてからにしてはどうかだってさ。マシロの料理は美味しいらしいよ。自分は精霊で味覚がないから分からないけど、皆には大好評だ!」
「ご馳走になります。ソラが教えた料理法を使っているのでしょう?どんな料理が出るのか楽しみです!」
「うふふん、兄様。ここの料理はアイスヘブンよりも全然美味しかったわよ。ドランにも食べさせてあげたいわ!」
グランはお客さん扱いだけど、エレナはただの来訪者だからね?自慢することじゃないと思う。
今夜の夕食はピザのような円形の生地にチーズとハム、色とりどりの野菜や茸が乗ったものと卵と茸のスープのようだ。美味しそうだ。食べれないこの体が悩ましい~。
エレナとグランは満面の笑みで食べ進めている。余程気に入ったようだ。エレナの尻尾が犬のようにブンブンと左右に揺れている。
食事が終わると、マシロはグランにお土産としてチーズ一塊と果実酒の入った樽を持ってきた。気の利くいい子である。
村の外れまでエレナとグランを俺とリン、マシロで見送ると「またご馳走に来るわ。もっと色々な料理を食べさせてよね!」と捨て台詞を吐いた瞬間、グランから頭に拳骨をくらっていた。
「ではソラ、リン、マシロ。お世話になりました。このお礼はいずれ必ず返します。ありがとうございました」
エレナとグランが北の山脈に向かって森の暗闇に消えると、静寂が戻ってきた。
俺達は家に戻り、普通の日常を取り戻すことが出来た!
……数日後、グレアがドランを連れて村を訪ねてきた。親子で何してるんだ!今まで鎖国みたいに他との関わりを持ってなかったのに!




