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試合

 朝になると、マシロが抱き付いているリンを引き剥がし、朝食の準備を始めた。


 リンも起きているみたいだが、食事が出来るまでは惰眠を貪ろうとしているのか二度寝をし始めようとしたところ、エレナがもぞもぞとリンのベッドに入り込み、リンを抱き枕代わりにし始めていた。


 リンは視線で俺に助けを求めているみたいだが、リンが力任せで剥がせないエレナを俺が引き離せるわけがない。申し訳ないが、朝食が出来るまで我慢してもらう他ない。


 結局、朝食が出来るまで、リンはエレナの抱き枕代わりにされていた。


 今日の朝食はパンに、目玉焼き、そして卵の入った野菜スープのようだ。朝昼晩、全部にパンが付いている。どうやら人間の食文化が浸透しているようだ。


 朝食が出来るとエレナがリンを解放すると、いの一番に椅子に座り、朝食を食べ始めた。リンは俺を睨みつつ、続いて椅子に座って食事を取り始める。俺に過度な期待をされても困る。


 朝食が終わると、リンが森から離れた場所に訓練場があると教えてくれた。マリンとノアとの戦闘訓練は相当うるさいらしく、森から離れた場所に作ったらしい。エレナは待ちきれないようで尻尾が左右にブンブンと揺れている。散歩前のわんちゃんか!


 リンに案内され、訓練場に向かうことになった。付いていくのは俺、マシロ、マリン、ノア、エレナの五人だ。最近のラピスはリンに付いていかないらしい。レイはラピスのお世話を、ピナコはみーにゃ達と戯れていることが日常化しているらしい。マシロが道すがら教えてくれた。


 訓練場は森から結構離れた場所に作られていた。土の中に円形に作られ、上部は段々畑のような段差があり、観客席となっているようだ。暇な子供達が時折見に来ているんだそうだ。今回は俺とマシロ、マリンとノアだけだけどね。


「じゃあ、まずは私とエレナで試合をしてみましょうか。ソラ、エレナに私と勝負するわよって略して頂戴!」


 そういうと、リンは訓練場の中心に向かって歩き始めた。


「エレナ、リンが最初に相手をしてあげるってさ。あと、最初は様子を見てあげろよ。力ではエレナの方が上なんだからさ」


「わかってるわ!すぐ終わったらつまらないもの!子供達の相手を良くしてあげてる私に任せなさい!」


 エレナも訓練場の中心に向かい、リンと対面で向かい合う。すると、エレナは手招きをして「いつでもかかってきなさい」と受けの姿勢を見せている。


 子供扱いされてカチンと来たのか、リンがエレナに向かってものすごい勢いで突っ込み、拳の連打を浴びせていく。


 エレナはその連打を軽々と片手で受け流して捌いている。最初の立ち位置から全然動いていないところを見るに、リンのスピードもパワーも想定を下回っているようだ。エレナは余裕の笑みを浮かべている。


 一旦距離を取るリン、エレナに再度手招きをされて、イラっときたのか、体中から魔力が溢れている。すると溢れていた魔力が徐々に体に薄い膜を作り、リンの雰囲気が変わったように見えた。


「リンお姉ちゃん、もう『身体強化・極み』を使うみたいね。まあ、あれだけ余裕を見せられたら、使わざるを得ないってところなのかな。でも私の見た感じ、エレナさんも極みは使えそうな気はするんだけどね」


「その『身体強化・極み』ってなんだ?俺は初耳なんだが…」


「ん~とね、名前はクレイン達から教えてもらったの。魔力を高めて身体能力を一時的に極限まで高めると、周りがスローモーションのように遅くなるの。私達は普通に使えてたから名前なんて付けてなかったんだけど、人間の人達は比較的魔力の高い一部の人しか使えない奥義の一つって言ってたから私達も極みって呼ぶようになったの」


 話を聞くに、全力でかつゾーンに入っているような感じか?あまり長くは持たなそうだな。決着がすぐにつきそうだ。


 リンが再度エレナに攻撃を仕掛けに行くが、早すぎて目で追うのが精一杯になった。始めと比べてスピードが全然違い過ぎる。


 エレナは地面に尻尾を突き刺し、リンの攻撃を受け流すのではなく、受け止めるようになった。受け止める度に地面に刺さっている尻尾付近の地面がバキバキと音を立てながらひび割れていく。


 そしてようやくエレナから笑みが零れ始めた。リンが満足いく戦闘能力に達したのだろう。攻撃を受け止めるだけでなく、合間に拳を繰り出すようになってきた。


 リンはエレナの攻撃が見えているようで、間一髪のところで躱していく。だが、エレナの拳は次第に早くなっていく。リンの顔が次第に疲れを帯び、体中から汗が噴き出している。


 リンが再度エレナと距離を取ると「ハァハァ」と息が絶え絶えになり、体を覆っていた魔力の膜が消えていった。どうやら疲労で極みが解除されたようだ。


「悔しい~。一発もまともな攻撃をいれられなかった~。うわ~~~ん」


 リンはその場で大の字になり、ジタバタと手足をバタつかせて悔しさを露わにしている。リンの体力と魔力が尽きたようだ。これでリンとエレナの試合は終わりだな。


 エレナがリンに近づき、手を差し伸べる。


「貴女中々やるわね。アイスヘブンの子供達よりは強かったわよ。誇っても良いわ!けどまだまだね。次戦うときはもっと強くなっていることを願っているわ!」


 リンがエレナの手を握り、起こされつつ、俺を睨んでくる。略せということかな?


「中々やるじゃないか。アイスヘブンにいる子供達よりは強かったよ。次に戦うまでにはもっと強くなってくれていることを願っているって言ってるよ」


 リンの頬が膨れていき「マリン~ノア~、私の仇を取って~」とマリンとノアのところへ向かい、抱き寄せる。


 マリンとノアは「わかった~、仇取ってあげる~」と言うと、合体した。周りの土と水分を吸収しているせいか背丈は三メートルから四メートルほどの大きさになった。アイスジャイアントよりも大きい巨体だ。


「次はその精霊が相手かしら。精霊と戦うなんて滅多にないから面白そうだわ!」


 マリンとノアが訓練場の中心に向かうと、エレナはリンの時と同様に手招きし始めた。


 マリンとノアがドスドスと足音を立てながらエレナに向かって走り出す。正直、リンと比べると遅い、あんなスピードでエレナに攻撃が当たるのだろうか?


 案の定、マリンとノアの拳は軽々とエレナに避けられる。流石に避けるのは悪いと思ったのか、拳に向かって殴りかかると、エレナの腕が弾かれ、苦痛の表情を見せた。


 スピードは遅いけどパワーは想定以上だったようだ。エレナがマリンとノアから距離を取る。肩をぐるぐる回して腕の調子を確かめると、ニヤッと嬉しそうな笑みを浮かべ、マリンとノアの拳に合わせて殴りかかっていく。


 今度は腕は弾かれず、拳同士の殴り合いがしばらく続いた。次第にエレナの表情に笑みが零れ始める。殴り合える相手が出来て嬉しそうだ。


 エレナはマリンとノアの拳を掻い潜り、胴体に思いっきり拳を叩きつけると、殴ったエレナの表情が曇った。手をぶんぶんと振っているのを見るに、予想以上に堅かったんだろう。拳が赤くなっている。


 パワーは互角、スピードはエレナ、防御はマリンとノアが勝っているようだ。この試合、どうなるんだ?


 エレナが遠巻きにマリンとノアを見定めるように回るようにして歩いていると、マリンとノアの上腕がバネのように撓んでいくのが見えた。マリンとノアが何かしようとしているみたいだ。


 エレナとの距離が離れているにもかかわらず、マリンとノアが拳を繰り出すと、弾丸のような速さで拳が伸び、驚いたエレナが咄嗟にガードするも訓練場の壁まで吹き飛ばされ、壁にめり込んでしまった。


 何だあの速さの拳は!?マリンとノア、めちゃくちゃ強くない!!


 壁から這い出てきたエレナは驚愕の表情を浮かべながら、両腕をぷらぷらと震わせて調子を確認している。流石にあの攻撃を受けたんだ。ガードしてても無事じゃ済まないだろう。


 エレナの体から魔力が溢れ出し、徐々に体に薄い膜を形成する。どうやらエレナも極みを使えるみたいだ。


 エレナはスピードを生かしてマリンとノアを翻弄しようとしているようだ。マリンとノアの周りを走り回っては隙を突いて殴りかかろうとした瞬間、マリンとノアの体から無数の腕が出現し、上腕が先ほどと同じようにバネのように撓んでいる。


 マリンとノアを中心に弾丸のような拳が四方八方に伸び、避けられなかったエレナがまた壁まで吹き飛ばされてめり込んでいく。


 マリンとノアはその隙を見逃さず、壁にめり込んでいるエレナに向かって弾丸のような拳を畳みかけるように飛ばしていく。エレナが壁の奥へどんどんめり込んでいく。このままではまずいのでは?と思った瞬間、いつの間にかマリンとノアの側まで移動していたマシロが「マリン、ノア、そこまでにしてあげなさい」と止めに入ってくれた。


 壁にめり込んだエレナが全然出てこない。マシロがエレナの元へ近づいて壁から抜け出させると、ガードしていたであろう両腕が真っ赤っかになり、青アザが出来ていた。見ていて非常に痛そうだ。


 エレナを心配した皆がエレナに近づくと「骨は折れていないみたいだけど、ひびが所々に入っているみたいね。エレナさんならよく食べてよく寝れば一日二日で治ると思うよ」とマシロはお医者さんみたいな診察をしてくれた。


 普通、骨のひび、一日二日で治らないと思うんだけど、この世界ではこれが普通なのかな?少し常識を改めた方が良さそうだ。


「うぅ、何よこの子~。強すぎでしょ。体中痛くて敵わないわ…」


 エレナがここまでボコボコにされるなんて滅多にないんだろう。泣きべそをかいているエレナなんて初めて見た。まあ、短い付き合いだから見たことない方が普通なんだけどね。


「じゃあ、エレナはご飯を食べないといけないみたいだし、早めの昼食にしましょう!家に戻るわよ!」


 リンはマリンとノアに仇を取ってもらって上機嫌のようだ。先ほどと打って変わって満面の笑みでスキップしながら家に向かっていった。


 リンの後に付いて家に戻ると、エンデから報告が上がった。


「ソラ。ドワーフの村に褐色の肌をした角の生えた魔族がソラとエレナの名前を口にしているらしいのだが、今度は誰だ?エレナみたいな問題児じゃあるまいな?」


 角の生えた魔族ね…。グランかリオンのどちらかだろう。来るならグランかな?リオンはエレナに甘いみたいだしな。


「エレナのお兄さんだよ。きっとエレナを迎えに来たんだろう。ここまで案内か場所を教えてくれるように頼んでもいいかな?」


「分かった。そのように伝えておく。これで問題が減るな」


 グランかリオンを待つ間、エレナは昼食をマシロに食べさせてもらい、ベッドで仮眠を取ることになった。


 リンも強くなってたけど、マリンとノア、強くなりすぎでしょ。


 エレナをボコってグレアから報復がされないか、ハラハラドキドキしながらグランかリオンを待つ俺だった。

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