多くの気づき
「大舞踏会ぃ?」
「んだ。殿下は、聞いた事ないべか?」
すっかり元の口調を取り戻したターゴの質問に、フリッツ達は顔を見合わせた後に、エルネストを見た。
「初耳! ですな! そのような! イベントは! 魔術学院に! 存在しません!
魔術学院! 学院長の! 孫の! 私が! 知らない! のですから!」
彼は、ヒンズースクワットをしながら、はっきりと断言した……もう、この男の筋トレ癖には突っ込まない方が無難だろう。出会って二日目で、早くも達観している綾であった。
綾達は、予定通り王都にある超人組合支部酒場グレイプニルに到着し、VIP席の王太子達に、一通りの情報収集をした結果を報告していた。
……隣の席では、ギャランから天然転生者云々の報告を受けているメルシルパルが、泣きそうな顔で頭を抱えているが、見ないふりをしてあげるのが優しさだろう。
「と、言う事は……魔術学院に存在しないイベントを、わざわざ能力を使ってまでねじ込んだ……?」
「私達の報告は、以上です」
アレックスが顎に手を上げて考え込むのをしり目に、カミーユが話をくくった。
「大舞踏会に関連する事ばかりで、他に違和感らしきものはなくて……あえて言うなら、私と寺門さんに、マーキュリー様が直々にその事を伝えに来た、くらいでしょうか」
「いや! 大きな! 前進だ!」
エルネストが、今度は逆立ち腕立て伏せをしながら、カミーユ達を称賛する。
「今までは! 敵の! 正体が――」
「お前は筋トレするか話に加わるかのどっちかにしろ」
「……! ……!」
「いや、そこで黙るなよ高貴なるものとして!」
突っ込みもどこ吹く風で筋トレに精を出すエルネストに、フリッツは深く嘆息してから気を取り直した。
「エルネストの言わんとする事は、まあ、わかる。
今まで、我々は敵の正体も知れず、暗中模索で突っ走ってきたが……ここで、敵が天然転生者であり、一連の現象が異世界スキルによるものだと判明したのなら、対応のとり方も大分変わってくる。
これは、大きな前進だ」
「……けど、同じ事は、王室側も知ってるわけですよね」
「……そうなんだよなあ」
綾の言葉に、フリッツはがっくりと肩を落とし、現状を嘆いた。
「同じどころか、犯人、犯行手段、動機全部ひっくるめて推理小説の3ダニットを、うちのおじさんが通報してんだよ……だから、何もしなくても解決はするね! ただ、このまま俺が何もしないまま解決しちゃうと! 俺らの面子が粉砕されちゃうんだわ!」
なるほど、後始末とはこういう事か、と具体例を前にした綾は改めて納得した。
確かに、王太子自身がここまでがっつり巻き込まれているのに、何もしないまま巻き込まれて終わるのと、当人が中心となって事態を解決するのとでは、外面がだいぶん違うだろう。
頭を抱えて悩んでいても始まらないと思ったのか、フリッツはすぐさま顔を上げて気持ちを切り替えた風に、
「まあ、それはともかく! マーキュリー嬢が直接、ねえ……そこまでする理由があるのか?
聞く限りでは、ただ大規模なだけの舞踏会だろう?」
王太子ともなれば舞踏会など、腐るほど出た事があるのだろう。理解できない、とばかりに首を振る。そんな王太子の膝に座りながら、ユカが苦笑していった。
「これで、その会場でマーキュリー嬢との婚約破棄が行われたら、まさに一昔前の悪役令嬢ものですわね」
「悪役令嬢もの……?」
注文した料理――今日はワイバーンの胸肉のワイン煮込みである――にナイフを入れながらふと沸いた疑問を口にした。
「……よく殿下達が口にしてる、悪役令嬢ものって、どういうタイプの奴なんですか?」
「どういうタイプって……悪役令嬢ものと言ったら、悪役令嬢ものだろう?」
質問の意図が理解できない、とばかりに眉を顰めるアレックスに、綾はいえ切り分けた肉をソースに絡めて、
「いえ……一口に悪役令嬢ものと言っても、婚約破棄から逆に悪役令嬢役がザマアするタイプから、オーソドックスに悪役令嬢が断罪されるものまで、色々あるんですよ。
けど、よくよく考えると、これって下手したら王権への侮辱になっちゃうじゃないですか。その辺り考えると、私の知ってる悪役令嬢ものと、王太子達の言う悪役令嬢ものって、質が違うんじゃないかなって」
言い切ってから、よく煮込まれた肉を口に入れて、味わう。
鶏肉とも牛肉ともつかないが、うまみの強い油が口いっぱいに広がり、それでいて、昨日のドラゴンテールとは違う力強い歯ごたえがある。最初はワインの強い風味が、噛み勧めていくと肉本来の味が顔を出す……噛めば噛むほど味わいが変わっていく、独特な料理であった。
「あー……成程。そう言う事だべか」
綾がワイバーン肉を味わう横で、ターゴが納得したとばかりに首肯する。
「確かに、一般市民目線から見てOKでも、王室からしたらNGっていう表現は、地球系列世界ならありうるのかも……」
「なるほどね……確かに、その辺りの認識の差は埋めて歩いた方が無難か。
一言で言えば、両方存在するよ」
綾の言葉を理解して、フリッツ王太子が説明を始めた。
「悪役令嬢が最終的に断罪されるタイプは、オーソドックスな身分違いの恋を成就させるシンデレラストーリーとして、民衆の間で人気だね。
今回のケースで言えば、ターゴがマーキュリーとの婚約を破棄して、カミーユと結婚。王国は見事に栄えましたとさ。めでたし、めでたし。このケースの場合は、悪役令嬢側に著しい人格上の問題があったり、婚約破棄されても文句の言えない要素が付け加えられたりする。
逆のタイプ……断罪されるはずの悪役令嬢が、婚約破棄してきた王太子に因果応報を喰らわせるタイプの話は、我々貴族の間では訓話として用いられているんだよ」
「訓話、ですか」
ワイバーン肉を飲み下し、呟き返す綾に、アレックスが補足する。
「今回のケースで例えるなら、ターゴが婚約破棄をするところまでは同じ。
ただし、事前の手回しや後処理が不完全で、公爵を敵に回して国王陛下から叱責を受けて、ついには廃嫡されてしまい、元鞘を願うも袖にされる。カミーユも、分不相応な恋をした罰を受ける。
こうして、愚かな王太子と馬鹿な間女は因果応報を受けましたとさ……めでたし、めでたし。このケースの場合は、話の中心になる令嬢は、悪役令嬢とは名ばかりの、貴族の子女として模範的な人物である事が多い。
親の用意した婚約を、無作為に破棄すればとんでもない事になるという、戒めを込めた話さ」
「成程……!」
綾達の暮らしていた地球系列世界では純粋にサブカルとしてはやっていた話も、世界というか権力体制が違えば、全く別のとらえ方がされる……また、オープンワールドについて、一つ賢くなった綾であった。
「わが国で悪役令嬢ものと言えば、この二極だな」
「前者は下手をしなくても王権への侮辱になるので、発禁処分になる事が多いんですけど……需要が多い分、いたちごっこになってしまっているんですよねえ」
ユカは深くため息をついてから、忌々し気に吐き捨てた。
「私のような、相思相愛の公爵令嬢からすれば、忌々しいなんてもんじゃありません……この世から、消えてなくなってほしいくらいです!」
「現時点で相思相愛か、は一旦置いておくとして!
……いきなりどうしたんだ? ミス寺門」
フリッツは、そこだけは譲れない、とばかりに断言してから、綾に問い返した。
「いえ……皆さんも、ターゴさんがまとめたスキル表は、見たと思いますけど……」
「ああ……あれか。
なるほど、ミス寺門は、スキルの基盤になるシナリオが気になっているんだな」
綾の質問の意図を了解し、フリッツはターゴに視線を向けた。説明を求められた、と解釈されたターゴは、懐からリストを取り出して、
「……現在、最有力とされている能力は、『映画』スキルですだ。
このスキルは、細かい台本の内容がなくても、ある程度話に対する認識が揃っていれば……それこそ、よく聞くおとぎ話程度の共通性でも能力の発動が可能だべ。
だけんども……」
「今回、大舞踏会というありがちなイベントが挟まった事からシナリオ……大本になった台本をある程度絞り込めるんじゃあないかな、と思いまして」
ターゴの憶測を、綾が引き継いで口にした。
「ふむ……わざわざイベントを引き起こしたからには、そこには意味がある。
そうミス寺門は言いたいんだな」
「そうは言っても、大舞踏会、が重要イベントになる悪役令嬢もの、なあ……」
「今度は! 該当数が! 多すぎますな!」
王太子、アレックス、エルネストとそれぞれが言葉にする中、ユカ一人だけが何かを考えこんでいる風だった。膝の上の己の婚約者の様子に気が付いたフリッツが、声をかける。
「……? どうかしたか、ユカ」
「いえ、あの……大舞踏会云々はともかく、分類そのものは簡単にできるのではないかと」
「分類?」
「平民向けか、貴族向けか、です」
「まあ、それに関しては、あからさまだからなあ」
フリッツは、己が今まで見聞きしてきた情報を総合して自論を語って見せた。片手で、ユカの頭を撫でつけながら。
「悪役令嬢役のマーキュリー嬢に、問題行動が多すぎる。
平民相手に恋愛に現を抜かす王太子役の行動を、最大限問題視したとしても……日常での絡みや、実技試験での過剰な攻撃、自分からぶつかっておいての因縁付……これら全てを物語にして、道行く人に見せたらどう思うかが、答えだよ。
どう考えても、台本として使われているのは、平民向けの悪役令嬢もの……シンデレラ型だ」
「マーキュリー嬢の行動は、一言で言えば、下品ですわね。
……実行を強制されているマーキュリー嬢こそかわいそうですわ。となると、問題になってくるのは、知名度です」
自身を子ども扱いするフリッツに決して抵抗しようとせず、それどころか積極的にその身を委ねて、ユカは言葉を紡いでいく。
「ターゴさん。確か、『映画』スキルの発動条件は、能力範囲内の人間に、共通の内容の台本を読ませる事、でしたね」
「ええ。そうです。正確には、同じ種類の物語が共通認識として記憶にあれば成立しますだ。
『転生者列伝』曰く、大衆の口伝で伝えられた程度の伝承のタイトルでも、能力は発動したそうで」
「口伝……?」
意味が分からず、オウム返しに呟く綾に、ターゴは面倒くさがらずに丁寧に説明した。
「神話の一エピソード、程度の認識があれば十分……逆に言えば、同じ神話の同じエピソードを共通しなければ、発動しないってことだべ」
「待て待て坊主。お互いに、別の言い方をした方が伝わる」
アルトエレガンが、自ら注文したドラゴンテール肉を切り分けながら、二人の話題に割って入った。
「『桃太郎』。知ってるだろ? 綾ちゃん」
「あ、はい。そりゃあ――あ」
言われて、納得できた。確かに、地球系列世界日本で育った綾にとって、これ以上ない程に能力の性質を思い知らせてくれる単語であった。
かつて『ランダムラム』世界で使われたという『映画』スキルに要求される台本の条件……多くの人間が物語の概要を共有できれば、スキルの発動条件となるといういい見本であった。
「もも……?」
「綾ちゃんの故郷で一番有名な、知らぬ者のいないおとぎ話だ。この国でいやあ、『ペローの魔術師』たいなもんだ」
目を白黒させるターゴにも別口の説明をして、手にしたテール肉にワイルドにかじりつくアルトエレガン。隣のテーブルのギャランから、何やら咎めるような視線が飛んできたが、平気の平左だ。
綾に、『ペローの魔術師』が何かはわからないが、引き合いに出した以上は何らかのおとぎ話なのだろう。それも、この世界では桃太郎並に有名な奴だ。
ターゴ達もその説明で、納得したらしい。同時に、ユカが言わんとする事も。ユカは、アルトエレガンに一礼してから、参加者を見回して口を開いた
「これほど広範囲に、能力の範囲が広がっている以上、能力の元となった物語は、学院中の人間が知っているもの、となりますが……先ほども言った通り、この国では、シンデレラタイプの悪役令嬢ものは、発禁処分を受ける事があります。
貴族の子女が通う魔術学院において、学院中を巻き込むほど流行るかと言われれば……」
「成程。題名だけで物語が把握できるほどの知名度ともなると、シンデレラ型では難しいか……」
「その言い方からすると、訓話型だと可能なんですか?」
綾の口から出た疑問に答えたのは、アレックスだった。
「そりゃあね。貴族の子女としての義務教育として、有名な奴が学院側から配布されてるから。
『エソラ物語』……王室が、訓話として高名な作家に作らせた奴だな。ターゴ、お前も、入学の時に受け取っただろ。分厚い奴」
話の矛先を向けられて、ターゴは目に見えてうろたえた。
「え? あれって、読まなきゃいけなかっただか? オラ、受け取ったっきり、箪笥の肥やしにしてるけんども……」
「あのなあ、ターゴ……」
呆れてターゴになにがしかしか言おうとしたフリッツだったが――
「……って、ちょっと待て」
すぐさま表情を引き締めてターゴを正面から見据えた。
同じ事に、その場にいた全員が気付いたようで、一同の視線がターゴに集中した。
ターゴも、自分の発言が持つ意味に気づき、唖然としている。
「ターゴ、『エソラ物語』を読んでないのか……!?」
「そ、そうですだ! オラ、ああいう物語の類は苦手で……あらすじもわかんね……!
カミーユさん!?」
「わ、私は読みました……感想文の提出が義務付けられてましたから……!」
首を横に振るカミーユを見て、ターゴは肩を落とすが、フリッツは落胆する様子を見せず、一同を見回した。
「カミーユが正気に戻ったのは、別の条件だろう。
何せ彼女は途中で正気に返るという、他にはない反応を見せているからな……だがターゴが能力の影響を受けなかった理由は、今わかった……!
物語の基本的知識を、ターゴだけが持っていなかったからだ……!」
「けど、『エソラ物語』って、訓話型……悪役令嬢に問題がないタイプなんでしょう? それにしては……」
悪役令嬢役のマーキュリーに、問題が多すぎる……綾の疑問への答えはユカの口からもたらされた。
「それに関しては、『エソラ物語』の場合は問題にならないのです」
「え?」
「綾様はご存じないでしょうが、『エソラ物語』はかなりの曰く付きの物語なのです。
物語そのものが、王室が中心となって作家に依頼した代物なのは、先に話した通りですが……作家が描きたかったのは、シンデレラストーリーとしての悪役令嬢ものだったのです。それを、王室側が権力で無理やり方針転換させたそうで……
その名残として、悪役令嬢側にも問題のある行動が多く描かれています。作家側は、『婚約したからといって普段の作法をないがしろにしては元も子もないという訓戒だ』と主張して、決して譲らなかったそうです。
他にも、なんとかシンデレラストーリーに仕立てようとする作家に対して、訓話型を強制する王室から、追記修正が繰り返されたと聞きます。
確か、図書館には『エソラ物語』の原本があったはずです」
「原本……つまり、王室から横やりが入る前の……!?」
ユカの言葉に、綾は気付きを得る事が出来た。
「ユカさん! その話は……!」
「ええ。かなり、有名な話です……! ターゴさん!」
「……! 『エソラ物語の原本』ってくくりで、映画スキルを発動させれば、現状は再現可能ですだ! オラが、能力の範囲外になった理由も……!
『エソラ物語』自体知らなかったオラには、効果がなくて当然だべ!」
「おお、一気に、問題解決に近づいたのぅ」
それまで蚊帳の外だったタオローが、手酌で酒を傾けながら笑った。
「解決ついでに、儂の方からも一つ、質問いいか?」
「ええ、構いませんが……何でしょう、タオロー老師」
武門の出らしく、達人であるタオローに最大限の経緯を払うアレックスに、タオローは鷹揚にうなずいて、
「何。先ほどからスキルの話ばかりしておるが……ここで一つ、別の切り口から事態を見て見るのも一興だと思うてな」
「と、おっしゃいますと……」
「誰が、どうやって、は大まかにじゃがわかった。
ならば、次は何故……こんな事をして、犯人に何の得があるのかを話し合うべきだと思うてな」
なみなみと酒を注ぎ、揺れる水面を目で楽しみながら、タオローは続ける。
「わしは武門以外はからっきしじゃからわからんが……今回の、この悪役令嬢ごっこ……これをして、得をする人間がいるとは思えん」
「……そりゃあ、まあ、確かに」
タオローの言葉に理を見出して、フリッツは腕を組んで考え込んだ。
そう、今回のこの一件……真犯人が誰にせよ、得をする者がいるとは思えないのだ。行われているのは、タオローの言う通り悪役令嬢『ごっこ』であり、その影響力は魔術学院及び王宮に限定される。
「王宮に影響がある、辺りに何か益があるのかも、とターゴ坊やと一日話し合ったんじゃが……たとえ能力を使って何らかの益を得ても、それは能力の範囲内限定。王都の外では皆が正気に返る以上、ごっこ遊び以上にはならん。
となれば、別口から物を見るべきじゃろう。
古来より、陰謀を仕掛ける者が考えるのは、自らが得をするか、誰かに損をさせるかのどちらかじゃ。敵の損を、自らの得と見る、という考え方じゃな。
じゃが、この考え方をすると……今度は、該当者が多すぎて手におえん」
「そうなんですよねぇ……」
はあ、と嘆息して、フリッツはタオローの言わんとすることを先回りして口にして見せた。
「今回の事件で傷つくものといえば、俺達自身の面子、ターゴを始めとした演劇参加者の将来、王立魔術学院の体面……
まず、俺達に関しては、敵が多すぎてわからない。
オープンワールド加盟で多方面から民主化が進んでるせいで、王室そのものに敵が多い。それがなくても、仮にも第一王位継承者ですからね。
俺の失点になるスキャンダルを、自分から引き起こそうとする輩なんて、両手の指じゃ足りないぐらいにいる」
「同じくらいに! 魔術学院! にも! 敵は! 多い! ですぞ!」
今度は、針にぶら下がっての懸垂をしながら、エルネストが言葉を引き継いだ。
「何せ! うちの! 糞爺は! 魔術以外! 何も! 興味がない! 人でなし! ですから!」
「糞爺て……」
「こう言っては! なんですが! 我が家の! 家族仲は! 壊滅的! なのです!
爺は! 勿論! 親子仲も! 最悪! 私も! 家門の誇りは! 別として! 両親ともに! 家族とは! 思っては! おりません!」
陰気さの欠片もない口調から放たれた内容は、陰惨極まりない代物だった。言葉を失う綾とアイに、フリッツがチベットスナギツネの眼差しで呟く。
「……今、こいつの筋トレ癖が、家族仲からくるものだと思っただろ?
完全に、元からだから心配するだけ無駄だぜ」
「はっはっは! 筋肉! 最高!!」
「た、ターゴ達はどうにゃんです? 敵が多いとは思えにゃいんですけど……」
「そこは、俺達もしっかり調べたさ」
話をそらすために放たれたアイの疑問に、フリッツは表情を切り替えて応えた。
「何せ、最初はターゴでさえ敵の一味かと思って疑ってかかってたんだ。でもって、ターゴに至っては完全にシロだと断言できるほどに調べつくした。
外側から調べられる範囲で、関係者の共通項は調べた……調べてみると、これがまた共通点が多くてなあ」
『へ?』
共通点が『多い』。
名前も身分も違う面子に対する単語とは思えず、目を点にするアイと綾に、ターゴが苦笑いしてフリッツの言葉を補足した。
「オラもカミーユさんも、マーキュリーさん達も……生まれが、同じ地方なんだべ」
「それも、貴族組は領地が接したお隣さんだ。本来の当人たちは、幼馴染って奴なんだろう。
土地に関する利権問題、税収に関する諸問題……かなりの問題を、共通して抱えてる」
意外な新事実であった。生まれが全員同じ地方ならば、今度はそちら方面での動機さえも計算に入れなければならなくなる……誰が得をするか、の考え方とは違い、誰に損をさせるか、となると選択肢が多すぎる事に、綾はあらためて気づかされ、ため息とともに呟いた。
「……つまり、ホワイダニット(どうしてやったか)は、考えるだけ無駄だと」
「現時点では、ね……あるいは、これからの調査で、明らかになっていくのか」
綾のつぶやきに答えてフリッツは話を締めくくった。
「犯人が天然転生者であり、転生スキルが用いられた……これは、調査をする上で大きな前進だ。我々の捜査方針にも、大きな影響が出る。
何せ、今間ではそんな事もわからずに、暗中模索していたからね。
ミス寺門、君のおかげで、我等は多くの気づきを得れた。心の底から、感謝する。
明日には、新しい発見を君達に提示できるだろう……期待していてくれ」




