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その男はハゲだった  作者: 清河 桂太
魔術学院編
85/89

図書館にて


 怒涛の展開を見せた初日が終わり、綾は割り当てられた部屋に入った。

 勿論、無警戒に部屋に入ったりはしない。入室はアルトエレガンに頼んで、部屋におかしな仕掛けが施されていないかチェックを済ませてからだった。

 アルトエレガン曰く、一切の魔術的な仕掛けはないとの事……ただし。


『23種類の多種多様な精神干渉系の魔方陣が仕込まれてた痕跡『だけ』がある。

 事前に仕掛けてたもんを大慌てで消したっぽいなこれ』


 という、うんざりさせられる報告も一緒についてきた。綾の囲い込みに、手段を選ばないにも程がある。

 そんな室内で、闘とアルトエレガンに見張りをお願いして迎えた二日目。

 相変わらず催眠毒塗れの朝食を、相席を求めるイケメン軍団を躱しながらサラダで済ませた。

 警護にギャラン、闘を引き連れて――アイとアルトエレガンは、それぞれ所用で学院の外へ出かけていった。

 アルトエレガンは、王室から呼び出されて、アイは魔術学院のなりふり構わなさをイザークに報告するため、である。

 ギャランが新しく綾の護衛につくことについては、学院側からは何も言ってこなかった。おそらく、衛兵に対して行った説明が伝わっているから、であろう。末端に漏らした内容が一晩で全体に共有されてしまうあたり、魔術学院の綾に対する並々ならぬ執着が垣間見えてしまう。

 そして、アンチ超人論が展開されるであろう授業をボイコットし、綾は図書館に足を運んでいた。

 いい意味で綾の想像とはかけ離れた光景が広がっていた。古めかしい書物が敷き詰められた本棚がずらりと並ぶのは、想像通りであったが……それ以外の要素が、図書館というカテゴリーからは考えられない代物だったのだ。

 まずは、天井。なんと全面ガラス張りで天然の日差しが燦々と図書館内部を照らしている。本の保存において日光は厳禁。地球系列世界でこんな建付けの図書館造ろうもんなら、あっという間に本が日焼けして駄目になってしまうが、そこは魔術の存在する世界アハトベルン。

 日焼けをはじめとした劣化防止の各種魔方陣が本そのものに刻み込まれているため、地球系列世界では考えられないような様式でも、余裕で書物を保存できるとの事。


「多分、数年雨ざらしにしても傷一つつかんだろうな。

 日焼け何ぞ問題にならん」

「はぁ……!」


 本棚に並ぶ本の一つをつまみながら、ギャランがつぶやく。まがなりにも神であるため、魔術については造詣が深いらしい。綾の視線の先では、テラス状の空間にさえ本棚が並び、学生たちが思い思いの体制でくつろぎ、本を読んでいる。


「雨降ったら、どうするつもりなんでしょう……?」


 綾のつぶやきに答えるように、闘が図書館の一角を指さした。

 そこには、ドームのパーツ思われる、半アーチ状の物体が鎮座していた。目線で追うと、床面にはレールが存在し、そのレール通りにパーツが動いたとしたら、テラス部分全体を覆うドームが完成するだろう。


「成程……普段はちゃんと天井があるんですね」

「ちゃんと、雨避けの魔方陣も設置されてるし、手間がかかってるよ」

「なんか、日向で勉強って新鮮ですね」


 苦笑しながら、綾はテラス席の一つに座り、テキストを開いた。

 書物のタイトルは『入門! オープンワールドの常識非常識!』……開くページは、闘が付箋を張り付けた、あのページ。

 闘が無言で綾の背後に立ち、ギャランが綾の真向かいに座る。話題の無限動力娘の登場に、周囲がざわつき始めるが、綾はお構いなしであった。

 綾からすれば気にしていたらきりがないというか、もう開き直るしかない、という気分だった。付箋が張られたページを開き、表題を読み上げようとした、その時。


「失礼。ミス寺門。相席をしても……?」


 そんな綾にお近づきになろうと、懲りずに声をかけるイケメンがいた。

 ヴァン・フレ―ゲル……実技の授業の際に、綾にアタックをかけるも袖にされた金髪碧眼のイケメン君である。この図書館のテラス席は丸テーブルに椅子が四つ添えつけられており、綾とギャランが座っても、綾の左右の二つが開いている計算になる。

 綾の返事も待たずに椅子を引こうとするフレ―ゲルに、綾が待ったをかけた。


「あ、ちょっと待ってください。

 そこは、先約があるので……」

「先約……? というと……」


 下手な言い訳だ、とでも思ったのだろう。構わずに座ろうと椅子を引いたフレ―ゲルの背後から、第三者の声がかかった。


「私達だが」


 フレ―ゲルの体が、その声に凍り付く。

 その声は、学園に通う者ならば、誰もが顔と一致させられる……させられなければ、下手をすれば命に係わる人間のものであった。


「た――ターゴ、殿下」

「彼女と、異世界の情勢について語らいたくてね。一席設けてくれるように頼んだんだ。

 悪いが、フレ―ゲル君……」


 椅子を引いた姿勢のまま、凍り付いたフレ―ゲルに、カミーユを伴ったターゴがやんわりと、諭すように言った……言われた方からすれば、死刑宣告を受けたような気分だっただろう。


「どいてもらえるかな?」

「は、はいっ!」


 裏返りかえる声を何とか保って、フレ―ゲルは脱兎のようにその場を後にする。

 その背中を見届けながら、綾は頬がひきつるのを止められなかった。


「た、ターゴ殿下……」

「ターゴと、呼び捨てで構わないよ、寺門さん。

 どうせ、周囲には聞こえない」


 ターゴは椅子を自ら引いて、カミーユに座るように促していた。絵にかいたような、レディーファースト。一挙手一投足、様になる男であった……これが、強制されている者だと知らなければ、見惚れる事も出来たのだろうが。


「私が声を大にして、私は王太子ではないと叫んでも、周囲には伝わらない。それと同じ事だ。呼び捨てにしても、周囲はそれらしい別の解釈をしてくるだろうさ。

 昨日みせたように、その辺りは、全自動なのだよ。この現象は」

「現象……ですか」

「能力、と言い換えてもいいかもしれない」

「今、丁度、それに関する……と、思われる事を調べようとした所なんです。

 一緒に、確かめましょう」


 自信も着席しながらあえて含みのある言い方をするターゴに、綾はテキストを開いて見せた。


「闘さんが、ヒントとして付箋をつけてくれたページです。日本語は、読めますか?」

「多少は。この世界の言語が日本語なのもあって、日本語の読み書きはアハトベルンでは必修科目になっている」


 そこに書かれていた表題を、ターゴが丁寧に読み解いた。


「『天然転生者の、オープンワールドにおける立ち位置』……」

「うげえ」


 ターゴのつぶやきに、ギャランの嫌そうな声が被った。


「だろうな、とは思ったけど、やっぱりその辺りが食い込んでくるのね……」

「ギャランさん、詳しいんですか?」

「そりゃあね。俺達神様が超人組合に嘴突っ込む、理由の一つだもの。

 それに」


 綾の問いに、ギャランはテキストを指さしてみせた。


「どういう巡り会わせやら……巻末の奥付、読んでみな」

「……?」


 綾は言われるがまま、巻末の奥付を開き、目を通す。

 そこには……


「……!?」


 著者、発行者、発行所と様々な文字が躍っていたが、その中でも一際、一同の目を引く項目があった。

 監修 超人組合会員番号6番 ギャラクシア・ロード・オブ・ロード。


「監修、ギャランさん!?」

「そーだよ。俺とか、ジャリー姐さんとか、アルトの旦那とか……超人二千年選手は、この手のテキストの監修依頼が来ることが多いんだわ。

 生き字引だもん」

「それじゃあ、書いてある内容……」

「全部、とまではいかないけど、一通りは答えられるよ。

 オープンワールドにおける、天然物の転生者の扱いだろ?」


 思わぬ教師役の出現であった。ギャランは嫌がるそぶりを欠片も見せず、その役割を演じてみせた。


「結論から先に言うと、天然物の扱いはめっちゃデリケートでね。

 グレーゾーン……神様の領域に、手を突っ込んでるようなもんだからな。

 超人組合も、おいそれと手が出せないんだよ」

「……え?」

「まず、天然物の転生者がどうやって発生するか、から説明しよう。

 世界によって物理法則は違う。オープンワールドの基礎常識を念頭に置けば、わかるはずだぜ。魂の扱いは、物理法則と同じように世界によってまちまちだ」


 二千年の時を経て培った知識を、ギャランは惜しげもなく三人の人間にさらけ出す。


「動物昆虫はもちろんの事、植物菌糸にも魂が存在する世界と、存在しない世界……物体に魂が宿る世界だって探せばある。そういった、魂の数が最大規模の世界で、魂の数を数えたら、那由多じゃ効かない膨大な数に上る。

 それが、万物流転で、常に生まれて死んでを繰り返すとなると……どれ程の規模で輪廻転生が行われるか、想像もつかんだろ?

 オープンワールドの歴史の始まりを見ればわかる通り、神様といえでも完ぺきとは程遠い。どんなに神様が万能たらんとする世界であっても、どうしたって取りこぼしは出てくるわけだ。単純計算で、99.99%の精度で輪廻転生が廻る世界でも、兆繰り返せば万単位で取りこぼす。

 そう言った様々な法則の世界が一万単位で集まってるのがオープンワールド。加盟してない世界含めると、万や億じゃ効かない数の世界がある訳で……その中で行われている無数の輪廻転生を母数に当てはめると、零れ落ちる数はさらに跳ね上がる。

 そうやって、零れ落ちた魂に対するフェイルセーフ。それが、異世界転生になるわけだ。これも、形は世界によって扱いはさまざまだがな。

 零れ落ちる魂を受け取れるように世界そのものの仕組みを作っておいたり、専門の神様を置いたり……零れ落としちまった魂に直接謝罪して誘導するような人の良い神様もいるが、こいつぁ滅多にないレアケースだな。

 記憶の扱いもまちまちだ。文化侵略を嫌って記憶を徹底的に洗浄する世界、文化交流バッチこいでそのままの世界……」

「…………」


 聞き入る三人に、人差し指を立てて、ギャランは神としての見解を告げた。


「こればっかりは、テンペスト戦役関係なく、大昔……宇宙開闢以来の昔からだ。

 わかりやすい例を出すと、このフラグレア王国なんか、かなり昔から地球系列の、それも日本人が漂着してた痕跡がある。で、方針は文化交流バッチこい」

「痕跡……?」

「日本語だよ。フラグレア王国の公用語なんて、文字はともかく口頭は完全な日本語じゃあないか。複数の日本人が転生あるいは転移してこないと、こうはならない」


 ギャランの言葉に、綾は盲点に気づかされた。

 確かに、その通りだ。この世界の言語に日本語が存在する以上、過去のいずれかの時点で、日本人による文化的干渉が行われたのは確かだ。

 リュウゾウイン家など、もろにそれだ。建国の時代に召喚されてきたと、口伝で伝えられているではないか……!

 絶句する綾をよそに、ギャランは指先で自分の髪を弄びながら、蛇足を加える。


「まあ、当時この世界を支配してた神様が、テンペスト戦役で殺されてるからなあ。フラグレア建国に関わる転生者が天然ものかどうか、実際の所は確かめようがないんだが……質の悪い転生召喚の術式が確認されてる事を考えると、引き合いに出すには、ちょっとばっかし不適当だったな。

 何が言いたいかっていえば……天然転生者ってのは、オープンワールド関係なしに自然発生するもんだから、天然転生者なんだ。そんな所まで超人組合に口出しされちゃあたまらん、ってのが、一般的な神様の認識になるわけだ。

 だから、天然転生者に関しては、よっぽどじゃない限り、超次元犯罪に至っても手出ししないってのが、超人組合と神様達の間で取り決められてるんだよ」

「よっぽどって……」

「現地の神様からSOSが入るレベルになって、初めて組合は動ける。大抵は、世界が滅びそうとか、そういう瀬戸際だね。

 逆に、現地の神様が黙ってるうちは、天然転生者が何やろうと超人組合は一切手出しできない……国一つのっとってハーレムぐらいなら、見逃す神様が多いよ。

 逆――転生者がモルモットにされる場合も、同じく」

「あ……!」


 そこまで言われて、綾はようやく、闘の言葉の真意に気が付いた。

 闘が言っていた、手出しできない、の真意は……


「この一件……地球系列世界からの、天然転生者の仕業、って事ですか……!?」

「多分」


 闘は黙して語らず。ギャランは、あえて言葉を濁した。が、結論は言われたも同然だった。綾は、内心ではその説の正しさを理解しつつも、肝心な部分が受け入れられず、反論してしまった。


「け、けど! いくら転生者のスキルって言ったって、そんな事が……!」

「逆だよ、綾ちゃん。

 地球系列世界転生者のスキルでなけりゃあ、魔術抜きでこれだけの現象を引き起こすのは不可能なんだよ」


 ギャランは、綾の認識の誤りを教師役らしく正した。


「それほど強力なスキルに目覚めるから、地球人は特別扱いされて……テンペスト戦役が起きたのさ」

「……!」

「事態が、転生者の仕業だろうとは、我々の方でも推察はしていました」


 認識の違いにあっけにとられる綾を置いて、ターゴが口を開く。


「ですが、確信がなかった……我々の想像もつかないような、大規模な魔術による可能性も視野に入れていたわけですが……」

「……! 今回の、闘さんのアドバイスで、確信に至った、わけですね……!」

「ええ。そうなります。

 と、なるとどのような能力か、ですが……」


 ターゴに視線を向けられて、カミーユが首肯して二冊の本を取り出した。

 表紙を見る限り、この世界の言語で書かれた書物と、英語で書かれた書物の二冊であり、綾が読める範囲では、こう書かれていた。


「『転生者列伝』……!?」

「オープンワールドで発生した、地球系列転生者のスキルを網羅したテキストです。

 これは、アハトベルン語に翻訳されたもの……こちらが、原本になります」


 英語で書かれた本の方を、カミーユが綾の前に差し出した。六法全書と見まごうばかりの厚さがあり、受け取ると、ずしりと重い手ごたえ。


「へぇ、こりゃ凄い……悪用される可能性があるから、発禁処分受けた本じゃないか。

 よく原本があったなぁ」


 思わず、ギャランが体を乗り出して書物を覗き込んだ。

 こちらの本にも、綾のテキストと同じように何枚かの付箋が張られており、自然と指がページを探り当てる。紙質は薄く、力を入れると破れてしまいそうだった。


「……! 『演劇』……『劇場』……『ミュージカル』、『映画』……『台本』……!」


 付箋で注釈を入れられていたのは、現状を引き起こすに足ると思われる能力だった。綾を驚かせたのは、能力そのものよりも、紙質の薄さと、字の細かさだ。


「凄い……スキルって、こんなに沢山あるんですか!?」


 厚さと合わせると、凄まじい分量のある書物であった。これら全てがスキルの説明となると、一体どれだけの文量になるのやら……!


「そちらでは字が細かくて読みにくいだろう。

 こっちに、簡単に能力を取りまとめたものが用意してあるよ」


 言いながら、ターゴは紙の束を綾に向かって差し出した。受け取り、目を通すと、そこには簡潔かつ要点を纏めた文章が書かれていた。






 ――演劇

 舞台演劇に限定して、周囲の現象を操る事が出来る力。

 台本、演者からの了解、舞台など、要素を満たせば満たしただけ操れる現象は強固になっていく。『死者が生き返る』という台本を用意し、演者たちからの了解を得て、舞台を用意する事が出来れば、死者の蘇生さえ可能。


 使用例・『バーガンティ』世界で勇者によって用いられ、『魔王との戦いを描いた最終的に勇者が勝つ物語』を台本に、演者として国の兵士を総動員し、舞台に国土そのものを用いる事で、能力の出力を大幅に強化。攻め込んできた魔王との戦いを一大演劇に仕立て上げた。

 これによって、不老不死であり殺す手段がないとされた『バーガンティ』世界の魔王を、台本通りに討ち取った。


 現状に対する適合性――×

 演者である自分達からの了解がない以上、この能力が用いられた可能性は皆無。

 ただ、以降の能力を説明するのに的確なため、特筆した。






 ――劇場

 自らが所有する場所を中心に、演劇と同じ現象を引き起こす。

 場所が限定的であるのと引き換えに、演劇よりも強制力も強く、当事者の了解なしに台本さえ用意できれば、諸々の行為を強制する事が可能。


 使用例・『クワイエット』世界で人工転生者によって用いられる。

 所有した屋敷でパーティを装い、人を集めて台本の内容を強制し、乱痴気騒ぎを繰り返していた。乱痴気騒ぎの参加者は記憶を消されたため発覚が遅れた。

 能力者は最終的に、同じ人工転生者によって討伐された。


 現状に対する適合性――△

 対象に対する強制力及び記憶消去など適合する点は多いが、『舞台の所有』という点において条件を満たすことは困難。

 拡大解釈で学院長から、学院の所有権に関して言質をとった場合、ぎりぎりありうるかもしれない。






 ――ミュージカル

 演劇の要素を、ミュージカル……楽曲、ダンス、歌を組み合わせた地球系列世界の演劇方式に限定する事で、強制力を強化したもの。

 舞台の所有権などの条件はいらず、楽曲を鳴らすことが出来れば強制的に縁者達を巻き込むことができるが、記憶の消去などは不可能。


 使用例・『アハトベルン』のリュウゾウイン家の始祖が好んで使ったとされる異能として有名。初代フラグレア王の日記に曰く『パーティのたびに座興として使用され、参加者全員を巻き込んでいた。楽しいのはわかるが兎に角疲れる』との事。

 戦闘においては、歌いながら戦う剣舞という形に落とし込むことで使用し、百戦百勝していたと伝説には記されている。


 現状に対する適合性――△

 ミュージカルはとにかく喧しいものであり、記憶の消去もない。言動が歌になる、疲れが残るなど問題も多く、今回の一件とは無関係に思える。ただ、リュウゾウイン家の始祖が使い、古くから縁のある土地であるフラグレアにおいては、魔術的な意味合いが違ってくる可能性有。

 同じ能力者が現れた際、魔術的な意味合いによって強化され、全く違う使い方が出来るかも……検証してみなければわからない。

 異世界スキルが歴史的な要素によって進化した実例が存在する。

 『ダックフット』世界のテアール王国においては、始祖である転移者がスキル『鏡』を所有したとされ、伝説化している。そして、後世『ダックフット』にて召喚された勇者が同じスキルを保有していたが、『ダックフット』においては大幅に強化された『大鏡』というスキルに進化したとの事。






 ――映画

 一冊の台本の内容を、始まりから終わりまで、全て演じ切るまで強制する能力。

 縁者全員に台本となる物語を周知する事が能力の発動条件で、能力発動のトリガーとして、『アクション』の掛け声が必要とされる。


 使用例・『ランダムラム』世界において行われた違法な異世界召喚において、召喚された勇者が報復として使用。当該世界において勧善懲悪ものの代名詞として有名なおとぎ話を台本として用い、能力を発動。演技に捕らわれて抵抗できない演者たちを斬殺するという、拘束魔法の一種として用いられた。

 該当能力者は超人組合によって捕らえられ、過剰防衛の罪で処刑された。


 現状に対する適合性――〇

 前例においては拘束後即斬殺という極端な使用がなされたため細かい情報がないに等しい。ただし、台本に関しては細かい指定が無くともおおざっぱな話の流れさえ把握していれば発動可能。

 『よくある悪役令嬢もの』という、おおざっぱなくくりで発動した場合、当現象を引き起こせる可能性は高い。






 ――台本

 台本の内容を実行させるという、映画に類似した能力。

 同じ能力者は複数人確認されており、練度によって引き起こせる現象に大幅な差が出てくる。相手の了解が必要なケースから、台本の登場人物欄に記載するだけで強制する事が出来るケースまで、鍛え方によってのブレ幅が激しい。


 使用例・多数の世界で用いられたが、最も現状に近いのは『カッターバン』世界における能力行使。召喚勇者が魔王軍四天王に対して用い、昼ドラを演じさせることで同士討ちをさせた。この際、召喚勇者はレベルを99まで上げた上でスキルの運用に対し相当な訓練を積んだと記録が多く残っている。


 現状に対する適合性――△

 レベル制が存在せず、地球人の魔術鍛錬が不便なアハトベルンにおいて、台本スキルを上記の領域まで、人知れず鍛え上げる事は不可能に近い。台本スキルの鍛錬に必要なのは、一般的なスキルと同じくスキルの使用であり、これほど大規模な能力の運用を訓練したのならば、噂になる事は避けられない。

 ただ、可能性はゼロではない。人知れず、小規模なスキル行使を積み重ねて鍛錬をつづけこの領域に至った可能性もある。ただ、この場合は、能力者は自分の能力の限界も把握せず、ぶっつけ本番で学院に能力を行使した事になり、現実的ではない。






 一つ一つの寸評が、ただ書物の情報を抜き出しただけにとどまらず、広い視野と情報収集能力の元に記されたものであった。綾の口からは、自然と感嘆の声が漏れる


「すごい……!」

「いや……起こっている現象が、まるで芝居のようだから、方向性は限られてくる……一通り目を通したが、見つけられたのはそれだけだった。

 他にも存在する可能性はあるし、まだまださ」

「はへ?」


 思わず漏れた声に答えたのは、ターゴだった。その物言いからすると……まさか、と思い綾は恐る恐る問いかけた。


「……ターゴさん。

 ひょっとして、この資料纏めたのって……ターゴさんなんですか?」

「?

 いや、カミーユさんに手伝ってもらったが、何か?」

「何かって……」


 六法全書と並べられる分厚さと、紙質の薄さ、文章量……これらの中から特定の能力を探し出すことが、どれほどの労力が要るか……これを、たった二人でやったというのか。

 しかも、文章の流れから察するに、当該能力だけではなく、推論に必要な情報を的確に抜き出さなければならない。その難易度たるや、推して知るべし。

 絶句する綾に、カミーユが嘆息と共に補足した。


「……ターゴさん……確かに、立場は正体不明の能力で凄い事になってますけど……それ以外の能力は、素なんです」

「素!?」


 思わず叫び返す綾の脳裏に、昨日の昼間に見たターゴの姿が浮かぶ。

 実技の時間に見せた戦闘能力はもちろん、学術系の授業においても幾度となく鋭い意見を教師に投げつけ、周囲の羨望を集めていた。

 あれが完全に素だとしたら、物凄い天才という事になる。


「ええ。勉強も運動も、完ぺきにこなします。

 だからこそ、『王子様役にぴったりだ』って、能力の持ち主に目をつけられたんでしょうけど……調べものだって、私はほんとに手伝っただけで、大半はターゴさんが自力で探し当てました」

「いや、そんな大したことではないさ。

 事前に、王太子達とも討論した末での事だ。推理の大半は、王太子殿下によるものだよ」


 謙虚に自分の労を誇ろうとしない姿に、綾は本当の気品というものを見た気がした。例え、それが演じさせられているにせよ、だ。


「兎に角。相手の的が、天然の転生者に絞れたのは、収穫だった……!

 ……さて、遅れてしまったが、寺門さん。改めて問わせてくれ」


 じっと、綾の目を見つめて、ターゴは口を開く。その表情は、緩みの一切ない、真面目なものだった。


「……君が、今、ここにこうして私達と共に語らって、事態について意見を交わしてくれるのは……

 事態の打開に、協力してくれる、と受け取ってもいいのかな?」

「はい」


 綾も、他意を一切持ち込まない、真摯な意思をもって応じる。

 綾なりに、考えて出した結論である。闘がそう勧めたから、という部分が大きいが……今回の、魔法学院の異常事態を放置しておくべきではないと、そう思ったのだ。

 他ならぬ、地球系列異世界の人間が、スキルを乱用して引き起こしている事件なら、同じ地球系列世界の人間である綾にとって、他人事ではない。

 超人を目指す寺門 綾という人間にとって、避けて通れない問題。

 異世界スキルがもたらす、暗黒面を知らなければならない……そういう意味も込めて、闘は関わるべきだと進言したのかもしれなかった。


「王太子達の事後処理に、私も協力します」

「……そうか! それは喜ばしい……!」


 綾の返答に、ターゴは手を打って喜んだ。


「これで、人手が増える!」

「……はい?」


 喜ばれる事は想像していたが、この喜ばれ方は想像していなかった。

 その言い方だと、まるで……


「人手、足りてないんですか?」

「絶望的に足りてない」


 率直な綾の疑問に、これまた率直にターゴは答えた。


「相手が何者であれ、能力の中心が学院である以上は、学院内部に潜伏している可能性が高いが……何せ、この空間内で正気を保てているのが私とカミーユ、タオロー老師の三人だけだ」

「あ」


 タオローの名前を聞き、綾が忘れかけていた疑問の一つが氷解した。

 実技の授業中に綾が耳にした、奇妙なノイズの正体である。


「昨日の実技の授業でのあれって……!」

「ああ。私達はあの時、こう言ったんだ。

 『王太子だという事になっているものです』。タオロー老師が『聞いてはおったが妙な事になっておるのぅ』と答えた。

 そして、貴方に声をかけて、あの酒場に呼び出したのも、あの一件があったからだ。

 あなたはあの時、『聞こえなかった』と言った……他の生徒達が、ノイズの存在にさえ気づかないのに、君は認識できた。

 ひょっとしたら、君なら私やカミーユさんと同じように、正気を保てるのかもしれない、とね」


 今考えたら、自己紹介でタオローが口にした、フリッツの紹介で~云々そのものが、ターゴ達に向けたメッセージだったわけだ。


「そして、その推察は見事に的中したわけだ。君はこうして、能力に惑わされずに行動できている」

「じゃあ、タオロー老師は……」

「ああ。武術家として、君の才能への欲目があったのは勿論だが、半分は王太子からの依頼で、事態の解決に協力するために学院へやってきたのさ」


 ……道理で、あっさりと特別教師に就任できたはずである。


「……改めて、状況を整理しよう。

 私達の目標は、アルトエレガン様の通報で王室が動き出すまでに、我々自身の手で、被疑者を捕らえる事だ。

 王太子自身の指揮の下で事件が解決したとなれば、好き放題された王太子の面子も、関係者の処遇も、ある程度は何とかなる……のだが」


 ターゴに改めて説明されて、成程、これは人手が増えるのを喜ぶわけだ、と綾は納得した。この、広大な魔術学院を、顔もわからない天然転生者を探し出すために調べ回るのに、人手がたったの三人では手が足りないなんてもんじゃない。


「学院外の調査は、結界の外の憲兵隊がしらみつぶしに行っているが……手ごたえらしきものはないそうだ。

 やはり、本命は学院内部だろう。天然転生者が、どのような意図で能力を発動させているのかは、わからないが……学院内部にいる可能性が高い」

「たった四人で、学院内部を……?」


 考えただけで、うんざりさせられる目標であった。

 が、頭を抱えていても始まらない。


「学内をつぶさに歩き回って、違和感を見つける。どんな小さな違和感でもいい。それが、現在の私達の調査方針だ。

 敵の能力は、カミーユさんをヒロインとした、悪役令嬢ものの典型的な話の流れを、そのまま運用しているものと思われる。彼女を中心として事態を観察すれば、何らかの収穫があるだろう」

「……カミーユさんがヒロインっていうのは、何か根拠があるんです?」

「日常を眺めていたら、自然と導き出せる答えさ」


 ターゴは、肩をすくめてみせた。


「兎に角、当面は、寺門さんとカミーユさん、私と老師のコンビで情報収集を行おう……それだけでも、厄介な問題が一つ片付く」

「まだ何かあるんです!?」

「ああ。エリス・マーキュリーだよ」


 ここで、思いもしない名前が飛び出した。コテコテの悪役令嬢を配役された、金髪縦ドリルの少女だ。


「役柄として割り当てられた許嫁で、彼女の自由意志がどれほど働いているかわからないが……彼女は彼女なりに、役回りの範囲内で喜怒哀楽を普通に発露している。

 そこで問題になっていたのが、カミーユさんとの情報交換だ。

 昨日も言ったが、この能力……言動の翻訳やらなにやらは全自動で行われて、当たり障りのない内容になるのだが……考えても見てくれ」


 深く嘆息してから、ターゴは言葉を続ける。その顔は、いかにも倦怠感がにじみ出ていて……見ると、カミーユの表情も同じようにうんざりとした空気が漂っていた。


「男と女。人目をはばかるように密会を繰り返す……事態を抜きにして単純に、違和感の無いように改ざんするにはどんな内容がふさわしいと思う?

 しかも、王太子への報告と情報交換の為に、毎夜相乗りで王都に出かけている」

「あ゛」

「……道ならぬ恋。ボーイミーツガールってわけね」


 綾が察した内容を、ギャランが代弁してくれた。


「その通り。私とカミーユさんは、身分違いの恋に身を焦がし、密会を繰り返すカップルという風に描写されているわけだ。

 ……婚約者役のエリス・マーキュリーとしては、それが面白かろうはずもない」

「普段私に執拗に絡んだり、実技の時にエキサイトしたりしてたのは、ある意味彼女にとっては正当な行為だったわけです」


 昨日、散々鞭で打ち据えられたことを思い出したのか、肌を摩りながらカミーユはげんなりとした様子で言葉を紡いだ。

 そこに、エリスへの反感は一切なかった……ただ、疲れ切った空気が漂うばかりである。


「役割を当てはめられてる人に何を言っても無駄ですからね……説得しようにも、ノイズになって伝わらずに逆効果ですし」

「うわあ……こってこての悪役令嬢ものだあ」


 説明されればされるほど、手の施しようのない状態だという事がわかる。何せ、関係者全員に何の責任もないのだ。

 反論しようもない正当な理由で、悪意をぶつけてくる相手(ただし、その理由は能力による強制)……確かにこれは、恨みようもなくうんざりさせられるだろう。


「まあ、もう手遅れかもしれないが……これ以上、彼女を刺激せずに済むのはいい事だ。

 そして、今現在判明している事だが……我々に影響を及ぼしているこの能力、ほんの少しだが付け入るスキがある。

 私やカミーユさん、タオロー老師が正気を保てたように能力が効かない者が存在する、という事だ」

「じゃあ、学院内にも、最初のカミーユさんと同じように、怖気づいているだけで正気な人間がいるのかも……」

「いや……私も最初はそう思って、カミーユさんに頼んで調べてもらったんだが……」


 綾の意見に、ターゴの視線が、カミーユに向いた。彼女は促されるがままに自身の調査結果を、態度で披露した。黙したまま、首を横に振ったのである。


「この通り、学院内部はほぼ全滅だ。

 我々がこの状態になってから一か月。協力者を増やそうと、様々な方法を模索してきたが、全てが無意味だった。

 学外に連れ出そうとしても、断られてしまう。強く出ようにも、今度は私たち自身の自由が利かなくなる。

 だから、協力者を増やすのではなく、何故私達が自由でいられるのか、を追求し、能力の穴を突き止めた方が早いと王太子は判断した。

 カミーユさんが自由な理由は、未だにわからないが……私に関しては、思い当たる節がいくつかある」

「……内包する、生体エネルギー量ですね」


 ターゴの言葉を先回りして、綾がつぶやいた。


「お気づきでしたか……」

「ええ。カミーユさんを除いた三人……この場合は、闘さん達も含めて、六人。

 学内で正気を保てた私達と、ターゴさん、タオロー老師には、共通点があります。闘さん達はそのものずばり、超人ですし、私は超人予備軍に匹敵するエネルギーが体内にある。

 この場合、アイさんが自由な理由がわかりませんけど……」

「アイリーン・ストラフォス女史が自由な理由は、おそらく、カミーユさんが自由な理由と同じ……すなわち、不明な理由によるものでしょう。

 この二人の、共通点を洗い出せば、能力の解析が進むかもしれない」

「……怖い能力、ですね」


 超人クラスの生体エネルギーがなければ、抵抗さえできない超能力……泡立つ肌を抑えきれず、綾は身震いした。そんなスキルが、異世界に転移するだけで安易に手に入るのが、地球人なのだ。オープンワールドの常識は、いつだって綾の想像のはるか上をかっ飛んでいく。


「アイの奴は計算に入れるな。ありゃあ、アルトの奴が、特別に小細工したから無事なだけだ」

「……!」


 それまで沈黙を守っていた闘の言葉に、一同に衝撃が走った。


「つまり、魔術で細工をすれば、能力を無効化できる……!? アルトエレガン様にお願いすれば……」

「ちょちょ! ストップストップ!」


 カミーユの気付きに、ギャランが待ったをかけた。


「この場にいる俺が言うのもあれだけどさ! あんまりアルトの旦那に協力仰がんといて! いや、気持ちは十分にわかるけども……! これ以上は神様派閥として、看過できん!」

『あ』


 綾とカミーユの声が唱和する。考えてみれば、ギャランという超人は神様派閥の代表であり、天然転生者に対する干渉を拒絶する立場にある『神』である。ある意味で、この問題に最も過敏に反応しなければならない立場なのだ。


「そ、そうですよね……ごめんなさい」

「いやいや、いいよいいよ。こっちこそ、融通が利かなくてすまんね……」

「超人は、これ以上の干渉はご法度……か」


 頭を下げ合うカミーユとギャランをよそにターゴがかみしめるようにつぶやいた。


「昨晩話していた、『言える事は全部話した』というのは……超人という枷の中、許される範疇で可能な事は、全てしてある……そういう意味だったのだね。ミスター草間」

「…………」


 返答は、沈黙をもってなされた。

 その沈黙を、イエスという返答だと解釈し、ターゴは話を進める。


「アイリーン女史の自由が例外であるならば、やる事は変わらない。

 周囲の反応を探り、手探りで調べるしかない」

「じ、地道ですね……」

「地道なのだよ。残念ながらね。

 さて、質問があるならば受付よう、ミス寺門」


 主題の選択権を委ねられて、綾はいくつかある疑問の中の一つを投げかけた。


「王太子の皆さんは、今何を?」

「衛兵たちを指揮して、結界外部で可能な範囲で、一連の現象を捜査しているよ。

 毎晩あの酒場で合流して、情報交換をしている。昨晩はいろいろあってできなかったし、最近は私達の側の収穫が少なくて、歯がゆい思いをしていたがね」

「……なんで、わざわざ超人組合の酒場を使う必要があったんですか?」

「今回の事件の黒幕が、何者か想像もつかなかったからさ。

 国外からの刺客かもしれないし、国内の派閥闘争を目的とした行動かもしれない……敵の正体がわからない以上、王室御用達の喫茶店を貸切る事さえ、リスキーだ。

 故に、そう言った政治劇と縁のない、完全中立の組織……超人組合の支部に、王太子殿下の要請でVIP席を使わせてもらっているのさ」

「……そうですか。

 あ、最後にもう一つだけ……魔術学院側は、この一連の事態を」

「全く把握していないよ。学院長も含めて、全員がいいように扱われて終わりさ」

「…………」


 最後の質問の答えに、綾は何とも言えない複雑そうな顔をした。それを見たカミーユが、疑問を感じて問うた。


「……どうかしました? 寺門さん」

「いやあ……前々から感じてたことですけどやっぱりって、思っただけです」

「やっぱり……」

「この学院の魔術師の人達に、自分の将来を委ねるのは、ないなあ、って……」

『あー……』


 これには、綾の超人入りを反対しているギャランでさえ、反論できなかった。何せ、綾がこの学院に入学して以来、学院側がしたことといったら、フォローのしようがない。

 授業では真っ先に催眠を試みて、食事には催眠毒。部屋には数多の洗脳系統魔術の痕跡があり、実態を紐解けば正体不明のスキル相手とは言え好き放題やられていながら気づきもしない。

 プラスの印象になる要素が全くない。これで学院にすべてを委ねるなど、何処の自殺志願者だ、という話である。

 咳払いと共に第三者の声がかかったのは、一同が言葉を選びあぐねた、そのタイミングだった。


「……話は終わりましたかな?」

「え?」


 思わず声のした方に振り向けば、そこにいたのは、白髪と金髪の混ざった角刈りの男……綾の知っている顔であった。


「レグン教授……!?」


 ラグルド・レグン。綾の身柄をアハトベルンに確保しようとする教職員の最先鋒がいつの間にか、図書館のテラスの一角に現れていた。

 そう言えば、綾は自分が履修する予定であり、今回ボイコットした授業はラグルドの物だったことを、今更ながら思い出していた。ラグルドはいら立ちを隠そうともせずに、綾に向かって口を開く。


「本日は、貴女に魔術のすばらしさを教導しようと手薬煉を引いて待っていたというのに……このような場所で、授業のボイコットとは……!

 栄えある魔術学院を、何だと思っているのか……」

「そうは言うがね、レグン教授」


 なおも言いつのろうとするラグルドに、ターゴが待ったをかけた。こういう時、彼にかけられた奇怪な能力の存在は、実に便利だった。

 王太子。その看板に、大抵の相手は気後れして引いてくれる。


「たとえ魔術に興味があろうとも、昨日のように飢えた虎が肉を喰らうような勢いの授業をされては、気後れするのは当然だと思うが。

 むしろ、自習という形でこの学び舎にやってきてくれた事実が、喜ぶべきだろう」

「……! し、しかしですな……」

「最悪、寮の一室に籠って出てこない可能性もあったのだから、そう居丈高になるものではないよ」

「……ぐ、ぬぅ……」

「さて、ミス寺門」


 二の句の継げないラグルドをよそに、ターゴは立ち上がりながら声を上げた。


「次のコマは実技……私もカミーユさんも、同じコマを履修しているから、途中まで一緒に行こう」

「え……!? けど……」

「話し合いには、タオロー老師も参加してもらった方がいい。

 この能力の処理は全自動だ……授業中でも話はできるんだよ」



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