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その男はハゲだった  作者: 清河 桂太
魔術学院編
77/89

魔術学院二コマ目


 次の授業は屋外……身体強化の実技。行われる場所は、実習用グラウンド……山間につき立つ魔術学院校舎の根元、森を切り開いて作られていた。だだっ広い敷地の中、白線の代わりに鈍く輝く魔方陣が刻まれているグラウンドだ。

 魔方陣は巨大な魔方陣の中に複数――楕円形、円形、五芒星、六芒星など様々な種類の魔方陣がだまし絵のように入り組んで描かれていた。

 白兵戦の実技と言えば、魔力で強化された人間がどつき合う事になるのだから、この規模の魔方陣が添えつけられるのも納得というものだ。この世界は空気中の衝撃伝道がシビアの為、音速光速を超えると、周囲に衝撃波がまき散らされ、結界無しなら周囲が砂塵と化すのである。

 超人を目指す綾としては、間違っても不真面目な態度では済ませられない重要科目である。授業内容を余さず体得するために、入念な準備をしてから、綾は学院入りをしていた。

 まずは服装。魔術学院に入学絵を決めた次の日には学園指定のジャージを注文し、今も気合を入れて着こなして、整列する生徒たちの中に溶け込んでいた。


 ……これは完全なる余談だが、綾の今来ているこのジャージ、服の布地が乳房に張り付くように作られた、いわゆる乳袋状の形状をしており、受け取った当初は辟易させられたのだが、ここで闘から思わぬうんちくが入った。

 曰く、オープンワールドでは、このような乳袋状の服飾デザインは、珍しくないのだという。

 理由は、綾が地球にいたころによく悩まされた、着れる服が少ない問題……胸のサイズ故に、服を選ばなければならない、あっても胴回りが太く見られてしまう、という問題に対する一つの答えだ。

 そのサイズによる服の問題を解決するために、乳袋の存在が一般的な世界も、多いのだとか。その乳袋の有無を決める要素が、その世界における女性の平均胸囲の差。

 平均胸囲が大きければ、必要に迫られて乳袋の存在が一般化して広まり、小さければ乳袋は空想上の存在に収まる。そんな傾向がオープンワールドにはあるのだとか。

 つまり、このアハトベルンは女性の平均胸囲が大きく、太く見えるという悩みの解決の為に、乳袋を採用している。綾の暮らしてた地球系列世界は、平均胸囲が小さいために乳袋は存在しない。

 思わぬ切り口から、また一つオープンワールドについて賢くなった綾であった。

 ……その説明中に、アイの方から何やら妬むような視線を感じたのは、突っ込まないでいてあげた。なんか、突っこんだらおっぱい談議に突入しそうだったので。


 さて、そのようにして思わぬ異文化コミュニケーションを経て、気合を入れて授業に臨む綾であったが……そこで、思わぬ人物に出会う事になった。


「……それでは、本日より着任された、特別教師の紹介をしたいと思います」


 目を点にする綾とアイの前で、渋面を作った筋骨隆々の男性教諭が、傍らに立つ人物の紹介をした。

 それは、大陸風の服装をした、一人の老人だった。貴族の集う魔術学院、その教壇に立つという立場に関わらず、真昼間から、誰に憚る事もなく酒を飲むその姿に、綾達三人は見覚えがあった。


「……アハトベルンでも高名な武術家であらせられる、タオロー・ワン殿です」

「うぃー……うちの田舎のいいかたじゃあ、ワン・タオローだ。よろしく頼まぁ」


 酒瓶片手に、貴族相手にするとは思えぬ挨拶をかましてくる老人に、三人は見覚えがある。

 どこからどう見ても、一週間前のディンブルゲンで、闘に面接落ちされ、闘のゲームに参加しなかった、あの老人であった。


(この学校、押しかけ師匠の類は弾けるんじゃあ……!?)


 思わず、特例で授業への参観が認められ、生徒たちの後方に立っているアイの方へと視線を投げかける。アイの方も予想外だったのか、首を横に振るばかりだった。


「ここにはフリッツの紹介で来た。こういやあ、わかる奴がいるんじゃねえか?」

「せ、先生! 質問です……!」


 予想外の顔の出現に、目を白黒させる綾をよそに、生徒の中から、サンバイザーがその逞しい腕を掲げて、発言の許可を求めた。


「そ、その方は……その、本物の、タオロー老師なのでしょうか!?」


 老師。仮にも公爵令息がそのような尊称をつけるという事は、目の前の老人はそれなりに有名かつ尊敬される人間らしい。

 質問を受け付けた教師は、沈痛そうなお面持ちで答えた。


「ああ……君が考えている事はわかりますよ、サンバイザー君。この人は、正真正銘、タオロー老師当人だ。

 カーウァイ連邦にその人あり、と言われた武術の達人だよ」

「そうは言いますが、そんな――あ、いえ……」


 言いにくそうに口ごもるサンバイザーの目は、タオローの持つ酒瓶に釘付けだ。

 こんな酔っ払いが、本当に高名な武術家なのかと、そう聞きたいのだろう。


「あん? こいつの事かい?」


 サンバイザーの視線が、タオローの持つ酒瓶に集中していることに、タオローは笑って、


「こいつぁな、儂なりの修行法っつー奴でな……」


 ――次の瞬間には、サンバイザーの眼前に佇んでいた。

 元居た場所からサンバイザーのいる場所まで、それなりに距離があったにも関わらず、一瞬で移動したのだ。その動きを何とか目で終えたのは、アイと闘ぐらいのものか。

 特に闘は老人の動きが、音速を超えたにも関わらず、この世界の物理法則に即した独自の身のこなしで、一切の衝撃波を発生させていないことまで見抜いていた。


「――!?」

「ほれ、少し嗅いでみぃ」


 うろたえるサンバイザーの鼻先に、酒瓶の口を押し付ける。途端に、サンバイザーの顔が歪み、のけぞった。


「……っ!? こ、これは……!」

「かかか。普段ワインばっかり飲んどる若造にゃあ、キツかろう」


 サンバイザーが顔をそむけた酒瓶を、ラッパ飲みしながら、タオローは言葉をつないだ。


「アルコール度数153%……魔法の蒸留酒。この世界の物理法則でけりゃあ作れん、超濃縮還元の劇物じゃからな」


 まさかの、度数100%越えの、地球系列世界では物理的にあり得ない濃度のアルコールであった。少なくとも、あんな勢いでラッパ飲みできる代物ではない。


「こいつをガブガブ飲んで、肝臓をぶっ壊す。で、ぶっこわれた肝臓を無理やり生体エネルギーで修復する。修復したらまた肝臓をぶっ壊す……

 その繰り返しで体内の生体エネルギーを鍛錬して、エネルギー総量を無理やり増量する方法でなあ。儂は勝手に、酔錬と呼んでおる。

 これでも鍛錬しとるんじゃよ」

「……お、御見それしました。無礼な発言、お許しを」

「かまわんかまわん」


 実際に酒を嗅がされたからか、自分の目前に音もなく近寄った身のこなしを見たからか……おそらくは、後者故にだろう。自分の発言を詫びるサンバイザーに、タオローはからからと笑って許した。


「事情を知らんかったら、こんな酔っ払いに武術を習うなんぞ、普通に嫌じゃろうからな。

 さて――」


 再び、音もなく教師の横に移動して、タオローは生徒たちに向き直り、


「わしが教えられるのは、生体エネルギーを使った身体強化と、内臓その他の治癒技術だけじゃ。だけ、じゃが……その分、この二つだけはこの学園の誰よりも上だと、自信を持って言える。

 まあ、魔法という範疇からはだいぶはみ出してしまうが……それが嫌なら」


 自分の胸を、親指で叩いて示し、笑うタオロー。


「殴り合いの相手に位は、なってやれる……どうじゃ?

 自信がある奴は、わしと殴り合ってみんか? のう――」


 その目が、生徒達を飛び越えて、後方に控える闘の姿を捕らえた。


「なんだったら、お前さんでもいいぞ? 草間殿」

「…………」


 殺気交じりの闘気を叩きつけられ、闘は小動もせずに短くつぶやいた。


「失格とは、伝えたはずだが」

「納得できるかどうかは、別の話……思わず、横紙破りをしてこんな所に来てしまう程度には、のぉ」


 視線と視線がぶつかり合い、二人の間に見えない火花が散った。事情を一切知らぬ者達の間に、困惑とざわめきが広がっていく。教師が何か言いたげに視線をさまよわせるが、二人の放つ気配に気圧されて、何も言えず仕舞いであった。

 ――騒めく生徒たちの中から、一人の生徒が木剣を片手に立ち上がったのは、その時だった。


「タオロー老師。よろしければ、一手御指南願えますか?」


 黄金色に輝く髪に、均整の取れた肉体を、赤いジャージで包んだ、ターゴ・サック・フラグレア、その人であった。


「ほう……」


 火花を散らす二人の間に割って入った王太子に、タオローの口から感嘆の声が上がる。


「坊主……そこそこ、使える方の用じゃな……名前は?」

「初めまして。老師。私はターゴ・サック・フラグレア、■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■■……!」


 ――綾の耳に妙なノイズが走ったのは、その時だった。


(……!? 今のって……!)


「いえ、構いません。学園では一教師と一生徒。そうでなければならない」


 突然のノイズに戸惑う綾を置いてけぼりにして、ターゴは木刀の先で地面の魔方陣を、こつんと叩いた。


「では、よろしいですか? 老師」

「おうとも。構わんよ」


 対戦の承諾が取れた。

 すると、複数組み合わされた魔方陣のうちの一つ――楕円形の六芒星魔方陣が光り輝き、巨大なドーム状の光の壁を作る。ターゴとタオロー、二人は連れ立ってドームの中に踏み込むと、距離をとってから、向かい合った。


「念のため、皆は魔方陣の外へ――危ないかもしれないのでね」


 ターゴに促され、魔法陣内にいた生徒たちが慌ててその場を後にする。移動した生徒たちの意識はターゴとタオローにあり、安全圏に飛び出すと同時に振り返る。離れた場所にいた者達も、間近でその戦いを見んと集まり始め、自然と魔方陣の淵に人だかりができていた。

 綾は息を呑んだ。結界内部と二人と外界を隔てる障壁。この結界の貼り方に、見覚えがあったのだ。


「闘さんと……土方の時と、同じ……!」


 エシャロットの森が消滅した、忌々しいテロ未遂の鎮圧事件の時に見た、超人同士の決闘。

 尋常ならざる身体能力を持つ者同士――音速の壁を容易に踏破出来る者同士が戦う際に張られる大結界であった。空気関連の衝撃伝達がシビアなアハトベルンにおいては、音速を超えるだけで尋常でない衝撃波が周囲にまき散らされるのだ。


「少なくとも、音速くらいは軽く超えますよ。あのお二人なら」

「え?」


 気が付くと、綾の隣に、青いジャージ姿のボルガードが佇んでいた。


「ワン・タオロー……アハトベルンで武術を嗜むなら、知らぬ者のいない武術の達人です。

 カーウァイ連邦の向こう側にあるヤマツ国の出身で、あちらでは一万人以上の弟子を持つとか……」

「いちまんにん」


 おそらく、道場のようなものを経営した上での人数なのだろうが、それでも相当な規模の武術のトップであることは、間違いない。


「そして王太子は、この学園生徒の中でもトップクラスの成績を維持し続ける神童……その武力は、超人組合の乙種勇者……超人に手が届きかねないとか」

「超人!?」


 思わぬ単語に、綾はオウム返しをしてしまった。


「ええ。なので、最近では学園の教師たちでさえ、王太子の対戦相手にならず、一人素振りをするしかない状態でした……」


 説明を続けるボルガードの視線の先で、王太子が動いた。

 ……動いた、と言っても、綾の動体視力では、暴風が荒れ狂うと同時に、王太子の体がタオローの方にすっ飛んでいったようにしか見えなかったが。

 王太子が、音速を超えた速度でタオローに攻撃を仕掛けたのだと理解するのに、一瞬の間が必要だった。そのほかに綾に理解できたのは、王太子が木刀で続けざまにタオロー老師に攻撃を仕掛けている、という事実位だ。攻撃の軌跡は、全く見えない。

 対するタオローは、無傷。裂ぱくの気合と衝撃波をまき散らす王太子の攻撃を、ひらりひらりと……どういう手管を使っているのか、一切の衝撃波を発生させずに、回避していた。

 音速を回避して、綾の目で追いきれないという事は、同じ領域の速度に達しているはずなのに……!

 まき散らされる衝撃波が、結界を揺らし、びりびりと空気を震わせる。


「タオロー老師は、異世界では通じない、しかしこの世界独自の歩法、身のこなしで、光速を超えても風一つ起こさない、という話です。

 ……っ! ですが、これは」


 衝撃はシャットアウトされているはずなのに、鼓膜を揺らす音……結界そのものが起こす音に、周囲から悲鳴が上がる。至近距離で眺めている人間達の肌を、直接叩くような重低音であった。大音量を放つスピーカーの前に立っているかのような錯覚を覚えた。

 王子の体が残像を生み出し続け、タオローの体もまた、残像を残して回避する。どちらが優勢なのかは、火を見るより明らかであった。


「おい、見ろ――!」


 群衆の誰かが、その証拠を声を出して指摘した。


「タオロー老師は、一歩も動いていない!」


 王子の残像が縦横無尽に駆け回っているのに対して、タオローの体はその場を動いていない。回避も防御も、全てその場を動かず、体をのけぞらせたりして、やり過ごしていた。

 タオローの姿がかすみ、王太子の体が大きく下がった。王太子が、再び攻撃を再開しようと構えをとって、その動きが止まる。


『あ――!』


 群衆から、声が上がった。

 王太子の手にしていた木剣が、音もなく地面に落ちた。

 半ばから、へし折られたのだ。


「…………」


 王太子は、無言で構えを解き、直立不動になってから、タオローに一礼した。


「参りました。タオロー老師」

「うむ。精進せいよ、王太子」


 目の前で行われた戦いの終わりに歓声が巻き起こった。人々が口々にタオローと王太子をたたえる中、綾だけがぽかんとして、置いてけぼりを食らっていた。


「えっと……今のは、どういう」

「お前は、身体強化より五感の強化も勉強したほうがいいな」


 呆れたような声は、後ろからした。振り返ると、人ごみにまぎれて闘が腕組みをしていた。楕円の魔方陣が解かれ、タオローと王太子が会話を交わしながら出てくるのを見て、


「ちょうどいい、ここにいる間に、動体視力と反射神経の強化を教えてもらえ。

 乙種超人目指すなら、音速くらい見てから回避できなきゃ意味がない」

「うぐっ」


 思わぬ方面からの指摘……しかし、正論であった。元より、どんくさいと言われ動体視力、反射神経がよろしいとは言えない綾なので、ぐうの音も出ない。

 乙種超人を自分の意志で目指す以上は、しょうがない、では済まされない。ましてや、目標としているのは……悪意の塊のような、あの男に、一泡吹かせる事だ。

 唐突に会話に加わった闘に、ボルガードは眉をひそめた。特例で参観を認められたとはいえ、これはマナー違反が過ぎると思ったのだろう。


「そういう君は……失敬、名前を伺っても?」

「草間 闘と申します」

「そうか、ミスター草間。君は、今何が行われたかわかるのかい?」

「最初から説明したら長いですが、簡潔に言うと」


 ふむ、とあごに手を当てて。


「中盤から後半にかけて、あの……タオロー老師が、受け手に工夫を凝らして、武器にダメージが溜まるようにふるまった。

 そして、最後の一撃でへし折られた……それだけの話です」

「……だが、王太子も武器には魔力を通していたはずだ! そうやすやすと……」

「だが、折られた。それがすべてだよ」


 予想外の人間が会話に加わり、場の人間すべてが凍り付く。タオルで汗を拭きながら、折れた木剣の破片二つを片手で弄び、アルカイックスマイルと共にやってきたのは……


「私の魔力強化より、老師の立ち回りが上手だった、という事さ」

「ターゴ王子……!」

「すまない、ボルガード。彼に用事があってね」


 周囲の女生徒から黄色い歓声が上がり、道を譲るように人垣が割れる。取り残されたのは、とっさの事で反応が遅れた綾と、話しかけられた闘のみ。


「私に、何か御用でしょうか。王太子殿下」


 闘は、表面上は完璧な礼節で王太子に対して受け答えをした。


「いや、何……私が、ではなく、タオロー老師がね。私はメッセンジャーボーイさ」


 苦笑して、魔法陣内に残っているタオローを振り返る。

 仮にも一国の王子を、メッセンジャーボーイにするとは、とんでもない老人だ。


「君と戦ってみたい、との事だが……どうする?」

「お断りします」


 即答であった。王太子は、気分を害した風もなく、汗を拭きとりながら、


「理由を聞いても?」

「はい。単純に、私とタオロー老師やりあうとなれば、やり取りは光速に達します」


 ……知らない人間が効いたら、何の冗談を言ってるんだこのハゲは、と思われるかもしれない。だが、綾は闘の言葉が事実であることを、短い付き合いの中で見知っていた。


「発生する衝撃波に、結界が持ちません」

「君は、衝撃波を発生させずに動く事は出来ないのかい」

「しません」


 ある意味、自信の限界を露呈させるともとれる、闘の言葉だったが、王太子はその裏に隠された真意を見抜いた。


「成程。できない、ではなく、しない、か」

「はい」

「理由を聞い……とと、聞いてばかりだね、今日の私は」


 王太子は笑った。影のない、さわやかな笑みだった。


「これでは芸がないな……君の真意、言い当ててもいいかな?」

「どうぞ」

「タオロー老師の動きは、見事だ。音速を越えてなお、周囲の大気を揺らさず、おそらくは光速を超えても、私の用に無様に衝撃波をまき散らすことはしないだろう。

 ……だが、タオロー老師のあの身のこなしは、この世界でのみ成立するものだ。

 異世界では、むしろ逆効果の可能性さえある。アルトエレガン様の相方として、異世界を飛び回って戦う超人としては、動きに変な癖をつけるわけにはいかない……違うかね? ミスター草間」


 アルトエレガン。アハトベルンでは大きな意味を持つ超人組合の魔王の名を耳にして、周囲の生徒達が一層騒めいた。


「ご慧眼、お見事。その通りです」


 一方の綾とアイは、淡々としたやり取りにハラハラさせられっぱなしだった。闘の受け答えときたら感情が全く籠っておらず、不敬罪に片足を突っ込むことにならないか、と思ったのである。


「さらに言えば、王太子殿下は己を卑下されますが、超人としてみればオーソドックスな戦闘スタイルと言えます。まき散らす衝撃波も織り込み済みで武器にするのが、乙種超人という者ですから」

「成程、私は超人組合の乙種テストに合格できるかな?」

「マグマテストは余裕でしょう」

「成程。超人組合最強の一角に保証してもらえるとは、光栄だね……さて! 諸君!!」


 注目を集めている状態から、王太子は手を叩いて群衆の注目を集め、


「授業を再開しよう! 教授! みなに指示をお願いします」

「――!! わ、わかりました殿下!」


 自身も群衆に紛れ、一連の戦いに見惚れていた指導役の教師は、我に返って声を張り上げた。


「各員! 二人一組を作って組み手を開始せよ! 結界の起動は各自の責任で行うように!」

「……二人一組っ?」


 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう綾。体育の授業、二人一組……学園に来たばかりで、これと言った横のつながりのない綾にとっては、かなりハードルの高い条件である。

 想像通り、周囲の生徒達は、早々に親しい者同士で組み合わせを作ってしまい、綾が組めそうな相手は……


「お嬢さん。いかがです? 組み手の相手、私が……」

「へ?」


 なんと、向こうから来た。声のした方を見ると、長い金髪を後頭部でまとめたイケメンが、傅くようにして綾に手を差し伸べていた。

 その姿は、まるで……


「私の名は、ヴァン・フレ―ゲルと申します。

 美しいお嬢さん……授業が終わったら、二人きりでお話などできれば……」


 まるでどころか、ナンパの姿を借りた、囲い込みそのものであった。余程自分の容姿に自信があるのか、断られる事など欠片も考えてない、そんな態度であった。現に、周囲の女生徒たちからはうらやむような視線と声が発されている。

 綾は美少女、と言っていい容姿と魅力的なスタイルの持ち主であったが、ナンパされたのはこれが初めての経験だった。


「い、いえ! 私、そういうつもりは……! 私、男の人は……」


 なので、その断り方は、何というか、無様であった。


「禿てる位が! ちょうどいいと思う女なので!」


 ――乾いた風がグラウンドを吹き抜けた。

 その言葉を耳にした生徒たちは全員が凍り付き、アイは頭を抱え、王太子は笑いだしそうになるのを何とか堪え、闘は視線で『何を言ってるんだこの馬鹿』と語っていた。


「は、ハゲ……!?」

「ハゲ……!」

「ハゲ……?」


 周囲の生徒たちの視線が、闘の頭部……バーコードハゲに集中する。

 闘は、己のバーコードハゲを欠片も気にしていないので、それらの視線を涼しい顔で受け流し、綾の後頭部をぽかりと叩いた。


「あいたっ」

「……申し訳ありません、フレ―ゲル殿。

 貴族のマナーのまの字も知らない小娘ですので」

「あ、ああ……」


 呆然とするフレ―ゲルとやらを置き去りにし、酒を飲みながらタオローが歩み寄ってきた。


「そのお嬢ちゃんに関しては、心配ご無用。強化のイロハを儂が一から叩き込むでな」

「…………」

「おう、怖い怖い。そう睨みなさんな」


 闘の無言の視線を受けて、タオローはへらへらと笑いながら――眼だけは笑わずに、言った。


「王太子の言う所の、変な癖……儂の奥義については何も教えんわい。

 ……信用できんのなら、傍で見ているとええ」




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