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その男はハゲだった  作者: 清河 桂太
とあるエルフの話をしよう
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たかが三年、されど三年


 それから、色々あった。




 禁門の変で最前線で戦ったり。


「……! 源さん! 生きてるか……!?」

「おーう! なんとかなぁ!」

「くっそ、あいつら、親の仇みたいにこっちに突っ込んできやがって……!」

「ははは! そりゃあ、池田屋の天狗がいるんだからな! 親の仇も同然だろう?」

「髪の色、地味目にしとけばよかった……!」




 藤堂と、国事について語り合ったり。


「最近の幕府の兵は何なんだ!? あれじゃあ、いざ攘夷、という段になって戦力になるのか……!?」

「まあ、ならんだろうなあ……あれだけ数がいるのに、気組みの使い手が一人も見当たらない辺り、幕府の旗本の質が見て取れるってもんさ」

「だよな!? 円子も、そう思うよな!」

「ただ、山岡殿や勝殿と言った見込みのある幕臣も大勢いる……いざという時になったら、俺達が戦えばいい。その為の、新選組だ。違うか? 平助」

「…………ああ、そうだな」




 江戸で集められた、新規隊士と面会をしたり。


「伊東甲子太郎と申します。どうぞよろしくお願いします。円子天狗殿」

「こちらこそ、よろしくお願いします。

 なんでも、道場を閉じて御一門で入隊なされたとか」

「はは、御一門と言っても、僅か七人ですよ。尊王攘夷の志を果たすため、天下国家の為に粉骨砕身を心がけたいところです」

「天下国家か……ご存じかもしれませんが、私は、天狗の里から出稼ぎにきた天狗だ」

「存じ上げております」

「なので、尊王も攘夷も無縁の男だ。その辺りを、心得てもらおう」




 理想と現実のはざまで揺れ動く山南の話し相手になったり。


「土方……あんにゃろう私の案を鼻で笑いやがって……! 聞いてくれ円子君!

 あいつは、西本願寺に屯所を移転する、なんて言い出してだね……!」

「はいはい、山南さん、飲みすぎはだめですよー」

「ただでさえ、京都の民から恐れられているのに、これ以上は……! いっその事、こんな組出てやろうか……!」

「落ち着いて、女の所にでも行ってきなさい。あんた疲れてんだよ……」

「明里……うう、明里……!」




 近藤と不仲になりかけた永倉との間を取り持ったり。


「最近の近藤さんはなんだ! 武士になったのはいいが、あれじゃあまるで俺らが家来みたいじゃねえか……!」

「……ぱっつぁん、気持ちはわかるが、近藤さんにだって体面ってもんがあるんだぜ」

「けどよぉ、円子……」

「俺も王族だからね。わかるんだよ……そういうのが重要視される、舐められるって事がさ。やりたくもない馬鹿々々しい様式に振り回されて……本当に、堅苦しくっていやになるんだぜ? 近藤さんは近藤さんで、気楽だったころに戻りたがってんじゃねーかな」




 沖田の恋路を応援したり。


「何ぃ!? 総司、お前が……!?」

「なんなんですかその反応。僕だって、恋くらいしますよ……!」

「いや、しますよ、って言ったって……相手は誰だよ!?」

「……いやあ、それが……」

「それが?」

「名前も、住所もわからなくて……」

「そこからかよ! むしろどういう知り合いだよ!」

「行きつけの茶屋の店員さんで……」

「ほうほう」




 土方と連れ立って島原に通ったり。


「お前、島原に付き合うけど飯ばっかで、女は買わねえよな」

「わざわざ、梅毒になるリスクを踏んでまで買う必要があります?」

「そう言ったもんじゃねえだろ。男と女ってのは、こう……」

「そもそも、俺は王族で、故郷に許嫁がいる身ですからね。不用意な事は出来ないんですよ」

「許嫁……!?」

「……真面目な話すると、人間の女を買った、なんて万が一でも故郷に知れたら、廃嫡までありうる世情なんで、全面的に遠慮するしかないっていうか……

 ぶっちゃけ、俺も、買えるなら買いたいっす。性欲、エルフにだってあるんですよ……!」

「お、おう……」




 部下が引き起こした資金不足の穴埋めをしたり……


「河合ぃぃぃっ! お前なぁっ! こういうのはなぁっ! もっと早くに報告しろぉっ!」

「ひぃぃぃぃ! す、すいません!!」

「お前一体、どうするつもりだったんだこの差額!」

「じ、実家に! 実家に差額を届けさせる予定で……!」

「それだと間に合わなかったらお前切腹もんだぞ!! ほれ……!」

「は……?」

「50両。俺が自腹で貸してやる。後で返せよ?」

「ま、円子先生ぃぃぃぃっ! ありがとうございますぅぅぅっ!」




 伊東甲子太郎と胃の痛くなるような駆け引きをしたり。


「随分と、過激な友人が多いようですな? 伊東殿」

「おや……円子先生ともあろう方が、越権行為とは珍しい」

「何、こういうのは本来土方さんがすべきなんだが、俺が無理を言って、忠言役を買って出たのさ」

「ほう……勤勉で鳴らした、貴方らしくもない」

「先日、公用に出かけた折、二条のあたりで辻斬りにあった。

 誰の指図かは、わからず仕舞いだったがな」

「初耳ですな」

「伊東さん。あんまり、俺を舐めるなよ?」

「……心得ておきますよ、異人殿」

「……俺は、天狗だ」




 近藤と、養子周平について話し合ったり。


「近藤さん……俺は、どうも周平君は武士に向いてないような気がするんだ」

「……やっぱり、円子君もそう思うか? あれは、怯懦ではないんだが……武士と呼ぶには、いささか気組みが足りん。養子の件、早まったかな……」

「おいおい、その評価は酷な話だぜ、近藤さん。こっそり酒の場で聞き出してみたら、本人は武家じゃなくて医者になりたかったみたいなんだよ」

「なんと……! それはそれで、立派な志ではないか! これは、本腰を入れて話し合う必要があるか……」

「まあ、谷さん……養父の手前、強く言い出せなかったんだろうなあ」




 熟慮の末に、分派行動をとる事になった者達を見送ったり。


「こんな事を言うのも変な話だが……達者でな、平助」

「円子も、元気でな」

「……こんな事になって、残念だよ、円子君」

「ええ。俺も、残念です、山南さん」

「……近藤さんは、開国攘夷というけれど、今の幕府にそれをする力は、ないと思う。だから俺は、伊東さんについていくよ」

「御陵衛士だったか」

「ああ。崩御された孝明天皇の御陵を守る組織だ……我等は我等で尊王攘夷の道を行く。

 君は君の、誠を貫くといい」

「ええ……一刻も早く、故郷に帰って見せますよ。それと」

「?」

「言うまでもなく、隊規は生きています。お気をつけて」

「……ああ、わかっているとも」




 局中法度に背いた隊士を処分したり。


「武田観柳斎――局中法度違反の角で、断罪いたしました」

「聞いている。よくやってくれた、円子君」

「はっ……! ……土方さん」

「なんだ?」

「やはり、御陵衛士も、同じように?」

「ああ、斬らなきゃあなるめえよ」

「……山南さんや平助と、戦う事になるのですか」

「なんだ、臆したのか?」

「なんだかんだ、壬生浪士時代からの仲間ですからね。そりゃあ、臆しますよ」

「四百年生きるエルフ様が、数年の付き合いに躊躇すんのかい」

「しますよ。友情ってのは、時間じゃない。ましてや――俺にとっては、念願叶ってようやく得た人間の友ですからね」

「……悪い、妙な事を口走っちまった」

「……いえ、俺も、生意気な事を言ってしまいました。お互い様という事で、忘れましょう」




 それらの事柄が過ぎ去って、扱いあぐねていた之定が手に馴染んだ頃……その間、たったの三年。この世界に来てから数えれば、四年。

 四百年を生きたエルフからすれば、瞬きのような短い時間である。

 であるが、情とは時間ではない、とマルコは身に染みて思い知らされていた。


(俺にとって、もはや新選組は離れがたいものになっている……)


 もし仮に、円子がエルフの国への帰還に成功したならば。

 外聞もはばからず、持てる権力の全てを使って、新選組を援助せずにはいられないだろう。それ程の情を、彼は、新選組に感じている。


(つまるところ、俺は骨の髄から新選組になってるんだな)


 友情愛情とも言えないこの感情を、果たしてなんと表現するべきか、マルコは悩んだが、しばらくしてから思考を放棄した。


(名前を付ける、などという野暮な事はするまい……

 ここに、俺は居場所を得た。それだけで十分だ)


 本来唾棄すべき、エルフと言う異人種が、新選組という攘夷思想手集団の中で受け入れられている……その事実を、マルコは誇らしく思う。まあ、天狗という誤魔化しが入っている以上は正当に受け入れられたとは言えないだろうが……それでも。


(父上、私は、必ず帰還して、話をしたいと思います。父上たちに、俺が得た、最高の友人たちの事を。

 エルフと人は、分かり合う事が出来るのだと)


 ――終わりが始まったのは脱退した伊東一派、御陵衛士をどのようにして処分するか、そんな話し合いがもたれている最中だった。




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