ウーンファースの狙い
「で、全体の流れはどんな感じよ」
門扉の閉じられた、ディンブルゲン北門。戦場の真ん前で、土方に観戦を強制されているアルトエレガンは、相変わらずガリゴリと凄まじい音を立てながら色々とこぼして、闘に聞いた。
「自分で見れば早いだろ」
「それが見たくてもよぉ」
アルトエレガンが中空に軽く円を描いた瞬間――周囲の和服達が鯉口を鳴らし、アルトエレガンを睨む。アルトエレガンからこぼれた色々を回収していた自警団員たちが、小さく悲鳴を上げて動きを止めた。
「これだよ。観戦のための魔術さえ使わせちゃくれねえ。
おいこらお前ら、堅気さん怯えさせてんじゃねえぞ」
「……全体的に、こちらが押してる。
抜かれてる個所も、死者も今のところなし。いきわたってる強化魔術と――」
戦場のど真ん中で、歓声と爆発が同時に起きた。
吹き飛んでいくエシャロットウルフと、森の亜人兵士達……そして、その中央に立つのは、オリハルコンのライトメイルを纏った勇者。アルトエレガンの諸々を拾い集めていた自警団員たちの間から、歓声が上がる。
「自警団団長の指揮のおかげ……いや、士気か。そのおかげで、なんとか持ちこたえてる」
「ほぉー、あのイザーク坊やがねぇ。長生きはするもんだ」
「あ、アイさんは……?」
「あの雷獣娘も無事だ」
綾の安否確認に答える闘。その手は、しっかりと綾の肩を抱きとめたままだ。
何故、闘はここまで過剰に自身の体を気遣うのだろう……綾はふと、疑問が沸いて、聞いてみた。
「あの、闘さん……なんで、私を、こんな風に……?」
「勘……って、程のもんでもないがな」
対する闘は、綾の方を見もせずに答えた。
「ちゃんとした、理由があってやってる事だ」
ディンブルゲン北門の戦場の真っただ中……
事の元凶であるウーンファースは、今、脂汗を流しながら草原を歩いていた。
(もう少し……)
周囲の風景を魔術で誤魔化して歩く。魔術で迷彩をかけていると言っても、ほんのわずかに違和感を消すのが限度だ。限度を超えた速度で動けば、あっという間にその存在は露見してしまうだろう。
だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いていかざるを得ない。
どんなに走りだしたくとも。
どんなに手の届きそうな場所に、目的の人物がいようとも。
焦ってはならない。焦ってはならない。焦ってはならない。
ウーンファースの眼前を、自警団員達が通り過ぎた。ウーンファースの肝が冷える。当の団員は、自分の傍に元凶がいた事にさえ、気づきはしないだろう……その、筈だ。
気づかれたかもしれない、と辺りを伺うが、特に変わった様子はない。
相変わらず、エシャロットウルフと自警団員、森の兵士たちの乱戦で手いっぱいのようだった。
どうやら、気づかれずに済んだようだ。
(早く……距離を詰めねば!)
エシャロットウルフの放った魔術の流れ弾が、ウーンファースの背後に着弾し、爆炎を上げる。背中を炎にあぶられる痛みをこらえながら、ゆっくりと歩いていく。
焦るな。焦るな。焦るな。
ウーンファースの瞬間移動には、射程距離が存在する。正確には、長距離であればあるほどに、魔法陣の構築難易度は跳ね上がり、時間もかかる。
刹那でそれらを完了させられる距離。今回の任務には、それこそが重要だった。
一瞬。
それでいいのだ。刹那の隙さえ作れたならば……瞬間移動を二度、行うだけで、誘拐は完了する。
(……我等の悲願を……!)
すぐそこに、目的の人物はいる。
視界に入るのは、超人達と少女が一人、そして愚妹――
(人間などを頼るから、こうなるのだ……!)
なぜかは知らないが、エシャロットウルフの対応に最適である筈の超人達が、少しも動く気配がない。大方、人間同士の足の引っ張り合いでも演じているのだろう。
これだから、人間とは度し難いのだと、ウーンファースは内心で吐き捨てる。
仲間割れをしていること自体は問題ではない、知的生命体が集団になった時の意見の統一は、そう簡単にできる事ではないと、ウーンファース自身が身をもってよく知っている。
ウーンファースが唾棄したのは、人間が自由に振るえる力を持ちながら、この場にいながら手をこまねいていて――戦う亜人達を見捨てているという事実そのものである。
攻めている自分達が言える事ではないとは、百も承知だが、それでも思わずにはいられない。
(……人間など、所詮自分たちの事しか考えていない愚物の群れだ。我らが勇者ともてはやしたイザークでさえ、最終的には同族を優先したではないか!
イザベル……貴様はなぜそれがわからん!!)
細心の注意を払い、蛞蝓の様な速度で、戦場を行くウーンファース。その身が、ようやく目的地に到着した。
(今――!)
すべての迷彩を解除し、ウーンファースは叫ぶ!
「総員! 門に向かって突撃しろぉっ!!」
旗下の兵士達への命令――ではない。ウーンファースが操る、エシャロットウルフ達に対する命令だった。たったの一匹でも街を血の海にできる魔獣達が、群れを成して門に向かって殺到する――!
動揺するだろう。対応に追われねばならぬだろう。そうでなければ困る。
案の定、視界の者達は武器を構え、迎撃の構えをとる。
その意識は、全てエシャロットウルフに向けられていた。
(今――このタイミングしか! ない!)
魔方陣を起動し、瞬間移動を行う。
視界が一瞬で切り替わり、目の前には――
(我等の悲願が――!)
伸ばしたその手は。
「させねえよ」
一閃で、切り払われた。
「がぁっ!!」
「なっ……!?」
「うぇあへぁっ!?」
声が、いくつも重なって上がった。
手首から先を、切り払われたウーンファースの悲鳴。
いきなり現れた、実の兄の姿に狼狽した、イザベルの声。
素っ頓狂な綾の悲鳴。
三重奏を聞き流し、闘は綾を抱き寄せて、刀を構える。たった今、ウーンファースの手を――綾を攫おうと伸ばされたその手を、切り落とした刀を。
音を立てて、切断された手首から先が地面に落ちた。
「何故……!?」
「何故? それはこっちのセリフだ」
疑問符をうかべ、腕の切断面を抑えるウーンファースに、闘は何でもない事の様に、答えた。
「むしろ、なんでお前は、こんなあからさまな『綾狙い』が見抜かれないと思った?」
「――!」
「え……!?」
闘の言葉に、綾とウーンファースの顔が驚愕に染まった。
――闘が最初に違和感を覚えたのは、ウーンファースとのファーストコンタクトにおいてだ。
「勘っていうほど、御大層なもんじゃない。俺は目がよくてな。相手が、誰の顔を見て、どういう感想を抱いたか、大体わかっちまうんだよ」
研ぎ澄まされた草間の五感は、待合室で出会ったあの時、ウーンファースの視線が三度、止まるのを見て取っていた。
ウーンファースは、闘達三人の顔を見て驚愕していた……闘とアルトエレガンに、ではなく綾の方にも反応していたのである。
闘は、その髪型のせいで悪目立ちして有名だ。アルトエレガンとセットで出歩けば、高確率で『最強のハゲ』と呼ばれる超人であると連想され、露見するほどには。
そう。アルトエレガンとセットで有名なのだ、草間 闘というバーコードハゲは……アルトエレガンを警戒し、その情報を集めていたら、自然とその存在は知識として手に入るはず。特にこの世界、アハトベルンのディンブルゲンは、アルトエレガンが暴れた事で有名な街。
『魔王』と『最強のハゲ』の前に、その他大勢である綾の存在など、かすんで消えてしまうはずなのだ。
にもかかわらず、この男は、『魔王アルトエレガン』と『最強のハゲ』のおまけでついてきた少女にまで注目していた。即ち……
「お前、あの時……綾の顔と名前が、連想出来てた……綾の事を、既に知ってたな?」
「……!」
言い当てられ、得体のしれない悪寒に襲われるウーンファース。それは、争神の系譜と敵対してきた者達全員が感じる、全てを見抜かれるような得体のしれない恐怖だった。
ウーンファースは、綾が、草間闘や魔王アルトエレガン並みのVIPであると知っていた。
人間無限動力であることを、知っていたからこその、あのリアクション。
だとするならば――事の優先順位は、とたんに変わってくる。
『人間無限動力』。それが手に入れば、ウーンファース達の問題はその大半が解決できる。
異世界への渡航? 無限の魔力さえ手に入れば、ギャラルホルンを介さずとも簡単にできる。異世界側への出口も、思うが儘……都市部のど真ん中に、エルフの軍勢を出現させることも可能だ。
否、そもそもの話、異世界勇者に頼る必要もない。綾の魔力を使い、自分達だけの力で――亜人達の悲願、人間への復讐を、実現させられる。
何を差し置いても、優先して手に入れるべき人間。それが、綾だ。
そう考えれば、この不自然な襲撃も納得ができるというものだ。
エシャロットウルフと言う最大戦力を用いた、大規模な陽動――そこから隙をついての、綾の身柄の奪取。
これこそが、ウーンファース達の戦略的な目論見だったのだ。
「……成程ね。このオープンワールドじゃ、どこの誰でも、どんな目的でも、綾ちゃんの能力は欲しいもんなぁ。
事前情報にあった、異世界ゲートを開けるあてってのは、この事か。
まるっきり絵にかいた餅じゃねえか……頭がいい云々は、イザーク坊やの買い被りだったか?」
アルトエレガンは、ようやく納得が出来たとばかりに肯いた。闘が、いきなり綾の肩を抱き寄せた理由――
「そりゃ、瞬間移動で人さらい、なんて真似ができる奴から守ろうってんなら、ピッタリ張り付かなきゃ無理だわな」
「そして、気を張ってりゃ、対応するのは難しくない」
「いや、気を張ってても、それがやすやすと出来るのは、お前さんぐらいだと思うぞ……?」
なんでもない事の様に言い切る闘に、アルトエレガンは笑った。仲間たちに対しては軽快に――敵に対しては、侮蔑を隠そうともせずに。
「嫌がる女を攫って自分の思うがままにする……お前さん、やってる事がまるで奴隷商人だぜ?」
「……! 貴様が……!」
ウーンファースが最も忌み嫌う男に、もっとも忌み嫌う職業と同一視され、出血で青くなっていた顔色が、怒りで赤く染まる。
「貴様がっ!! それを言うのか!? 魔王アルトエレガン!! 40年前、我等の悲願を叩き潰した、貴様がぁっ……!!」
「知るかボケナスビ……悲願だか祈願だか知らんがな」
胸の内から湧き出る黒い感情を、吐き捨てるようにアルトエレガンは口を開く。
「そういう御大層なものなら、自分達だけで完結させやがれ。
勘違いした理想に突っ走って、異世界勇者召喚なんてしでかした挙句、勇者様の言動が気に入らなけりゃ、一転して裏切り者扱い……どんだけ浅ましけりゃ気が済むんだ、てめえは」
「――それは、仕方がない事でしょう」
擁護の声は、意外なところから上がった。思わず視線をそちらにやれば、土方が笑っていた。楽しそうに、禍々しく、嗤っていた。
異様な形相であった。思わず、気圧される綾とイザベル。
「どだい……エルフというものはそういうものですよ、アルトエレガン殿。
醜く、悍ましく、何処までも自分本位で、人間とは相いれない……そういう、社会不適合種族が、エルフだ」
「な……!?」
「まあ、私も、ここまで極端に醜いものは初めて見ますが」
そこで初めて、ウーンファースは、その場に紛れ込んだ第三者――土方が、エルフである事に気が付いた。そして、浅葱色の総髪にだんだら羽織という異装から、その正体に思い当たる。
超人組合について踏み込んで調べれば、必ずと言っていいほどぶち当たる、エルフ絶殺主義者――
「貴様……土方マルコシアスかぁっ!?」
「いかにも。土方マルコシアスと申します。お見知りおきを、下品で、下劣で、醜悪な、奴隷商人のエルフ殿」
あからさまな嘲笑をうかべて、大げさに一礼する土方。
「土方の事も知ってるって事ぁ、随分と深くまで超人組合を把握してるじゃねえか。
いや……それだけ深い所に、情報源がいるのか」
言いながら、身構えるアルトエレガン。その周囲を和服の男達が囲い、抜刀するが、アルトエレガンは一瞥して言葉をつづけた。
「こいつは超人組合の内部情報を把握している恐れがある。
こうなったら、事は内政干渉じゃない。超人組合内部の問題だ。違うか? 和服共」
その言葉は図星だったのか――ウーンファースは鋭い舌打ちと共に、その姿を消した。
瞬間移動による、逃走であった。
「Yesって言ったようなもんだな。ありゃあ」
『…………』
「よせ、お前達。今回はアルトエレガン殿の方に理がある」
無言で刀を構えていた和服達は、土方からの指示に刀をしまう。ただし、アルトエレガンに対する警戒は一切怠っていない。
「おい、俺の方に理があるんじゃないのか?」
「ええ。あの男に関しては……ただし、『あちら』には手出し無用」
「ちっ……」
『あちら』と言われて視線をやれば、草原を駆け抜けてくる黒い影の群れ。
エシャロットウルフ……自警団員たちの間をすり抜けてきた100匹程度の群れが、門の前に立つ闘達に向かって殺到しつつあった。
「そうは言うが、これは――自衛の範囲だろう、がっ!」
とびかかってきた最初の一匹を殴り飛ばしながら、アルトエレガンは叫ぶ。殴り飛ばされたエシャロットウルフの体が、粉々の肉片になって辺りに散らばる。
本来ならば、惨殺された同胞の姿を見て警戒するか、圧倒的な戦力差を見て逃げ出すかのどちらかだろう。だが、自我を抑制され、命令尊守を義務付けられたエシャロットウルフ達は、『門に突撃せよ』と言う命令を愚直に守り、雪崩を打って後に続く。
それを見た闘は、無言で綾の体をイザベルに押し付けた。戦う準備をしていたイザベルにとって、それは完全な不意打ちで、思わず手にしたレイピアを取り落とし、綾の体を抱きとめる。
「闘さん!?」
「何をしますの! 草間様!?」
抗議の声を上げる二人に、闘は冷静に指摘した。
「手、震えてるぞ」
「――!」
レイピアを拾い上げようとしたイザベルの手は、確かに震えていた。
「向かってくるのは俺らで何とかする。お前の兄貴もな。
だからお前はそこで、綾と固まってろ。その方が守りやすい」
「おやおや~? 闘ちゃん、百合カップルを眺めるのに目覚めちゃった!?」
「糞たわけた事抜かしてねえで構えろ。来るぞ」
アルトエレガンの軽口を、ぶっきらぼうに躱して、闘は刀の鯉口を切る。
そして――黒い、狼の津波が、一同の姿を飲み込んだ。
一匹、二匹、三匹と、闘はとびかかってくるエシャロットウルフを、順に切り捨てていく。
門に向かって突撃しろ――その指令を四角四面に守る狼達は、命の危機にもひるまずに、ただ突撃を繰り返す。
筈だった。
「総員――」
ウーンファースの、その号令が、戦場に響き渡るまでは。
「女を狙え!!」
『……!?』
狼たちの目の色が、変わる。
ただ、やみくもに門を目指していたエシャロットウルフ達は、その標的を、身近な女に切り替えた。即ち、
「うわうやっ!?!?!」
「お兄様……!!」
イザベルと、綾の二人に。
間合いの近かった三匹が綾達に躍りかかり、遠かった数匹が、虚空に魔方陣を描いて火炎の弾を放つ。
それを見た闘は、真っ先にインターセプトした。躍りかかってきた三匹を、横一文字の一線で切り伏せると、そのうちの一頭の死体をひっつかんで、飛来した魔法に向かって投げつけた。
火炎の弾に接触し、爆発四散する獣の躯。爆発の衝撃で他の火炎弾を連鎖的に巻き込み、迎撃が完了した刹那。
闘の勘が、囁いた。
綾が、危ないと。
このままでは、攫われると。
闘は、自身の勘の赴くままに、手を動かそうとして――
「――!」
次の瞬間。
金属製の衝突音が、北門前の空間に響き渡った。
闘が、自身の首筋を狙った一撃を、刃で受け止めたのだ。
その一撃を放ったのは――
金属音が鳴った瞬間――綾達が、何が起きたかを理解する前に、『それ』が動いた。
「――え?」
最初、服の袖を掴まれた時、綾は、イザベルが掴んだのかと思った。だが、イザベルの両手は、綾の肩に回されたままだ。
何事か、と思い目を向けて……絶句した。
そこにあったのは、絶対に動くはずのないもの。そこにはない筈のもの。
ウーンファースの、切り離された右手が、その手の甲に魔方陣を浮かび上がらせ、独立した生物かの様にしっかりと、綾の服のすそを握っていた。
「あ――!」
綾が上げた悲鳴は、北門に響き渡る事はなかった。
その前に、ウーンファースの腕と、イザベルと共に、その場から消失したからだ。
ウーンファースの遠隔操作による、瞬間移動だった。
綾とイザベル、二人の欠けた北門前の空間で、二人の超人がにらみ合う。
周囲にいたエシャロットウルフ達が、次々に正気を取り戻し、森に向かって駆け出していく。
エシャロットの森の頂点捕食者が、我先にと逃げ出していく。操られていたという自覚への怒りも置き去りにして。
ここにいるのは危険だと、彼らの本能が訴えていた。
あまりに強大な存在同士の殺意のぶつけ合いに、逃げなければならないと、本能が叫んでいた。それは、魔術で施された枷を取り払うほどの、野生の衝動だった。
「……何のつもりだ、土方」
「何のつもりも何も」
闘と土方。二人の刀を持った男達は、つばぜり合いをしながら言葉を交わす。
「……内乱には手出し無用、と言ったはずだぞ。草間」
「……何を言ってる?」
「さっきまでそこにいた人擬きと、小娘を守るのはルール違反だと、そう言っている」
「……女の方は、例のVIPだ。俺達が警護を仰せつかってる」
「なんと。それは失礼した」
土方は、大げさに、わざとらしく身振りで謝意を表し、一歩下がって、刀を収める。
ただし、なおも鯉口は切ったままだ。
「申し訳なかった。VIP……無限動力だったとはつゆ知らず」
「――!」
「お詫び、と言っては何だが……彼女達の救出は、我々が受け持とう。緊急事態だ」
いけしゃあしゃあと抜かした。
嘘だ、と闘は思った。勘だ。
今オープンワールドで最も話題になっている無限動力娘を、目の前の男が知らぬはずがない。
闘やジャリー、アルトエレガンは、肯定の感情をもって綾に接する超人であったが……目の前にいるこいつは、違う。
綾に対し、死んでもいいという、明確な否定の意思をもって接している……!
考えてみれば、一つの理屈であった。綾は、人間無限動力、などというオープンワールドのパワーバランスを崩しかねない存在だ。迂闊に超人などにするよりも、殺してなかった事にする方がはるかに楽だ。
土方の派閥の答えは――そういう事だ。
「お前らはそっち側か」
「何の話かな?」
「そうか――」
闘は、無造作に地面を切りつけた。
一文字の、深い切れ目が地面につけられる……闘と土方、二人の関係性を示すように。
無言で、アルトエレガンがその線を踏み越えて、闘の傍に来た。
「俺は――俺達は、こっち側だ」
「そうかね」
闘、アルトエレガン、土方は視線をぶつけ合う。言葉はない。ただ、その視線には相手に対するむき出しの敵意が載せられている。
「お前達――時間を稼げ。俺が諸々、処理する」
「アルト。結界張れ。俺が薙ぎ払う」
土方の部下への指示と、闘のアルトエレガンへの要請は、全く同時。
対応も、全くの同時に行われた。ぎしりっ、と空間のきしむ音がして、北門周辺に魔方陣が展開され、ドーム状の空間を作り、その内部では土方の部下達が各々抜刀して闘を取り囲む。肝心の土方は――弾かれたように魔法陣から飛び出し、離れた場所にいたスーツ姿の超人を連れて、エシャロットの森へと駆け込んでいく。
「……! すまん、闘。土方達を捉え損ねた」
「問題ねえ。すぐに、こいつらを始末して追いつけばいい。
それよりも……」
自身を取り囲む和服達を睥睨し、闘はアルトエレガンに重ねて言った。
「結界は、しっかり張れよ」
「……? 改めて、なんだよ」
「抑えが効きそうにない」




