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その男はハゲだった  作者: 清河 桂太
エシャロットの森編
52/89

ウーンファースの狙い


「で、全体の流れはどんな感じよ」


 門扉の閉じられた、ディンブルゲン北門。戦場の真ん前で、土方に観戦を強制されているアルトエレガンは、相変わらずガリゴリと凄まじい音を立てながら色々とこぼして、闘に聞いた。


「自分で見れば早いだろ」

「それが見たくてもよぉ」


 アルトエレガンが中空に軽く円を描いた瞬間――周囲の和服達が鯉口を鳴らし、アルトエレガンを睨む。アルトエレガンからこぼれた色々を回収していた自警団員たちが、小さく悲鳴を上げて動きを止めた。


「これだよ。観戦のための魔術さえ使わせちゃくれねえ。

 おいこらお前ら、堅気さん怯えさせてんじゃねえぞ」

「……全体的に、こちらが押してる。

 抜かれてる個所も、死者も今のところなし。いきわたってる強化魔術と――」


 戦場のど真ん中で、歓声と爆発が同時に起きた。

 吹き飛んでいくエシャロットウルフと、森の亜人兵士達……そして、その中央に立つのは、オリハルコンのライトメイルを纏った勇者。アルトエレガンの諸々を拾い集めていた自警団員たちの間から、歓声が上がる。


「自警団団長の指揮のおかげ……いや、士気か。そのおかげで、なんとか持ちこたえてる」

「ほぉー、あのイザーク坊やがねぇ。長生きはするもんだ」

「あ、アイさんは……?」

「あの雷獣娘も無事だ」


 綾の安否確認に答える闘。その手は、しっかりと綾の肩を抱きとめたままだ。

 何故、闘はここまで過剰に自身の体を気遣うのだろう……綾はふと、疑問が沸いて、聞いてみた。


「あの、闘さん……なんで、私を、こんな風に……?」

「勘……って、程のもんでもないがな」


 対する闘は、綾の方を見もせずに答えた。


「ちゃんとした、理由があってやってる事だ」






 ディンブルゲン北門の戦場の真っただ中……

 事の元凶であるウーンファースは、今、脂汗を流しながら草原を歩いていた。


(もう少し……)


 周囲の風景を魔術で誤魔化して歩く。魔術で迷彩をかけていると言っても、ほんのわずかに違和感を消すのが限度だ。限度を超えた速度で動けば、あっという間にその存在は露見してしまうだろう。

 だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いていかざるを得ない。

 どんなに走りだしたくとも。

 どんなに手の届きそうな場所に、目的の人物がいようとも。

 焦ってはならない。焦ってはならない。焦ってはならない。

 ウーンファースの眼前を、自警団員達が通り過ぎた。ウーンファースの肝が冷える。当の団員は、自分の傍に元凶がいた事にさえ、気づきはしないだろう……その、筈だ。

 気づかれたかもしれない、と辺りを伺うが、特に変わった様子はない。

 相変わらず、エシャロットウルフと自警団員、森の兵士たちの乱戦で手いっぱいのようだった。

 どうやら、気づかれずに済んだようだ。


(早く……距離を詰めねば!)


 エシャロットウルフの放った魔術の流れ弾が、ウーンファースの背後に着弾し、爆炎を上げる。背中を炎にあぶられる痛みをこらえながら、ゆっくりと歩いていく。

 焦るな。焦るな。焦るな。

 ウーンファースの瞬間移動には、射程距離が存在する。正確には、長距離であればあるほどに、魔法陣の構築難易度は跳ね上がり、時間もかかる。

 刹那でそれらを完了させられる距離。今回の任務には、それこそが重要だった。

 一瞬。

 それでいいのだ。刹那の隙さえ作れたならば……瞬間移動を二度、行うだけで、誘拐は完了する。


(……我等の悲願を……!)


 すぐそこに、目的の人物はいる。

 視界に入るのは、超人達と少女が一人、そして愚妹――


(人間などを頼るから、こうなるのだ……!)


 なぜかは知らないが、エシャロットウルフの対応に最適である筈の超人達が、少しも動く気配がない。大方、人間同士の足の引っ張り合いでも演じているのだろう。

 これだから、人間とは度し難いのだと、ウーンファースは内心で吐き捨てる。

 仲間割れをしていること自体は問題ではない、知的生命体が集団になった時の意見の統一は、そう簡単にできる事ではないと、ウーンファース自身が身をもってよく知っている。

 ウーンファースが唾棄したのは、人間が自由に振るえる力を持ちながら、この場にいながら手をこまねいていて――戦う亜人達を見捨てているという事実そのものである。

 攻めている自分達が言える事ではないとは、百も承知だが、それでも思わずにはいられない。


(……人間など、所詮自分たちの事しか考えていない愚物の群れだ。我らが勇者ともてはやしたイザークでさえ、最終的には同族を優先したではないか!

 イザベル……貴様はなぜそれがわからん!!)


 細心の注意を払い、蛞蝓の様な速度で、戦場を行くウーンファース。その身が、ようやく目的地に到着した。


(今――!)


 すべての迷彩を解除し、ウーンファースは叫ぶ!


「総員! 門に向かって突撃しろぉっ!!」


 旗下の兵士達への命令――ではない。ウーンファースが操る、エシャロットウルフ達に対する命令だった。たったの一匹でも街を血の海にできる魔獣達が、群れを成して門に向かって殺到する――!

 動揺するだろう。対応に追われねばならぬだろう。そうでなければ困る。

 案の定、視界の者達は武器を構え、迎撃の構えをとる。

 その意識は、全てエシャロットウルフに向けられていた。


(今――このタイミングしか! ない!)


 魔方陣を起動し、瞬間移動を行う。

 視界が一瞬で切り替わり、目の前には――


(我等の悲願が――!)


 伸ばしたその手は。


「させねえよ」


 一閃で、切り払われた。






「がぁっ!!」

「なっ……!?」

「うぇあへぁっ!?」


 声が、いくつも重なって上がった。

 手首から先を、切り払われたウーンファースの悲鳴。

 いきなり現れた、実の兄の姿に狼狽した、イザベルの声。

 素っ頓狂な綾の悲鳴。

 三重奏を聞き流し、闘は綾を抱き寄せて、刀を構える。たった今、ウーンファースの手を――綾を攫おうと伸ばされたその手を、切り落とした刀を。

 音を立てて、切断された手首から先が地面に落ちた。


「何故……!?」

「何故? それはこっちのセリフだ」


 疑問符をうかべ、腕の切断面を抑えるウーンファースに、闘は何でもない事の様に、答えた。


「むしろ、なんでお前は、こんなあからさまな『綾狙い』が見抜かれないと思った?」

「――!」

「え……!?」


 闘の言葉に、綾とウーンファースの顔が驚愕に染まった。

 ――闘が最初に違和感を覚えたのは、ウーンファースとのファーストコンタクトにおいてだ。


「勘っていうほど、御大層なもんじゃない。俺は目がよくてな。相手が、誰の顔を見て、どういう感想を抱いたか、大体わかっちまうんだよ」


 研ぎ澄まされた草間の五感は、待合室で出会ったあの時、ウーンファースの視線が三度、止まるのを見て取っていた。

 ウーンファースは、闘達三人の顔を見て驚愕していた……闘とアルトエレガンに、ではなく綾の方にも反応していたのである。

 闘は、その髪型のせいで悪目立ちして有名だ。アルトエレガンとセットで出歩けば、高確率で『最強のハゲ』と呼ばれる超人であると連想され、露見するほどには。

 そう。アルトエレガンとセットで有名なのだ、草間 闘というバーコードハゲは……アルトエレガンを警戒し、その情報を集めていたら、自然とその存在は知識として手に入るはず。特にこの世界、アハトベルンのディンブルゲンは、アルトエレガンが暴れた事で有名な街。

 『魔王』と『最強のハゲ』の前に、その他大勢である綾の存在など、かすんで消えてしまうはずなのだ。

 にもかかわらず、この男は、『魔王アルトエレガン』と『最強のハゲ』のおまけでついてきた少女にまで注目していた。即ち……


「お前、あの時……綾の顔と名前が、連想出来てた……綾の事を、既に知ってたな?」

「……!」


 言い当てられ、得体のしれない悪寒に襲われるウーンファース。それは、争神の系譜と敵対してきた者達全員が感じる、全てを見抜かれるような得体のしれない恐怖だった。

 ウーンファースは、綾が、草間闘や魔王アルトエレガン並みのVIPであると知っていた。

 人間無限動力であることを、知っていたからこその、あのリアクション。

 だとするならば――事の優先順位は、とたんに変わってくる。

 『人間無限動力』。それが手に入れば、ウーンファース達の問題はその大半が解決できる。

 異世界への渡航? 無限の魔力さえ手に入れば、ギャラルホルンを介さずとも簡単にできる。異世界側への出口も、思うが儘……都市部のど真ん中に、エルフの軍勢を出現させることも可能だ。

 否、そもそもの話、異世界勇者に頼る必要もない。綾の魔力を使い、自分達だけの力で――亜人達の悲願、人間への復讐を、実現させられる。

 何を差し置いても、優先して手に入れるべき人間。それが、綾だ。

 そう考えれば、この不自然な襲撃も納得ができるというものだ。

 エシャロットウルフと言う最大戦力を用いた、大規模な陽動――そこから隙をついての、綾の身柄の奪取。

 これこそが、ウーンファース達の戦略的な目論見だったのだ。


「……成程ね。このオープンワールドじゃ、どこの誰でも、どんな目的でも、綾ちゃんの能力は欲しいもんなぁ。

 事前情報にあった、異世界ゲートを開けるあてってのは、この事か。

 まるっきり絵にかいた餅じゃねえか……頭がいい云々は、イザーク坊やの買い被りだったか?」


 アルトエレガンは、ようやく納得が出来たとばかりに肯いた。闘が、いきなり綾の肩を抱き寄せた理由――


「そりゃ、瞬間移動で人さらい、なんて真似ができる奴から守ろうってんなら、ピッタリ張り付かなきゃ無理だわな」

「そして、気を張ってりゃ、対応するのは難しくない」

「いや、気を張ってても、それがやすやすと出来るのは、お前さんぐらいだと思うぞ……?」


 なんでもない事の様に言い切る闘に、アルトエレガンは笑った。仲間たちに対しては軽快に――敵に対しては、侮蔑を隠そうともせずに。


「嫌がる女を攫って自分の思うがままにする……お前さん、やってる事がまるで奴隷商人だぜ?」

「……! 貴様が……!」


 ウーンファースが最も忌み嫌う男に、もっとも忌み嫌う職業と同一視され、出血で青くなっていた顔色が、怒りで赤く染まる。


「貴様がっ!! それを言うのか!? 魔王アルトエレガン!! 40年前、我等の悲願を叩き潰した、貴様がぁっ……!!」

「知るかボケナスビ……悲願だか祈願だか知らんがな」


 胸の内から湧き出る黒い感情を、吐き捨てるようにアルトエレガンは口を開く。


「そういう御大層なものなら、自分達だけで完結させやがれ。

 勘違いした理想に突っ走って、異世界勇者召喚なんてしでかした挙句、勇者様の言動が気に入らなけりゃ、一転して裏切り者扱い……どんだけ浅ましけりゃ気が済むんだ、てめえは」

「――それは、仕方がない事でしょう」


 擁護の声は、意外なところから上がった。思わず視線をそちらにやれば、土方が笑っていた。楽しそうに、禍々しく、嗤っていた。

 異様な形相であった。思わず、気圧される綾とイザベル。


「どだい……エルフというものはそういうものですよ、アルトエレガン殿。

 醜く、悍ましく、何処までも自分本位で、人間とは相いれない……そういう、社会不適合種族が、エルフだ」

「な……!?」

「まあ、私も、ここまで極端に醜いものは初めて見ますが」


 そこで初めて、ウーンファースは、その場に紛れ込んだ第三者――土方が、エルフである事に気が付いた。そして、浅葱色の総髪にだんだら羽織という異装から、その正体に思い当たる。

 超人組合について踏み込んで調べれば、必ずと言っていいほどぶち当たる、エルフ絶殺主義者――


「貴様……土方マルコシアスかぁっ!?」

「いかにも。土方マルコシアスと申します。お見知りおきを、下品で、下劣で、醜悪な、奴隷商人のエルフ殿」


 あからさまな嘲笑をうかべて、大げさに一礼する土方。


「土方の事も知ってるって事ぁ、随分と深くまで超人組合を把握してるじゃねえか。

 いや……それだけ深い所に、情報源がいるのか」


 言いながら、身構えるアルトエレガン。その周囲を和服の男達が囲い、抜刀するが、アルトエレガンは一瞥して言葉をつづけた。


「こいつは超人組合の内部情報を把握している恐れがある。

 こうなったら、事は内政干渉じゃない。超人組合内部の問題だ。違うか? 和服共」


 その言葉は図星だったのか――ウーンファースは鋭い舌打ちと共に、その姿を消した。

 瞬間移動による、逃走であった。


「Yesって言ったようなもんだな。ありゃあ」

『…………』

「よせ、お前達。今回はアルトエレガン殿の方に理がある」


 無言で刀を構えていた和服達は、土方からの指示に刀をしまう。ただし、アルトエレガンに対する警戒は一切怠っていない。


「おい、俺の方に理があるんじゃないのか?」

「ええ。あの男に関しては……ただし、『あちら』には手出し無用」

「ちっ……」


 『あちら』と言われて視線をやれば、草原を駆け抜けてくる黒い影の群れ。

 エシャロットウルフ……自警団員たちの間をすり抜けてきた100匹程度の群れが、門の前に立つ闘達に向かって殺到しつつあった。


「そうは言うが、これは――自衛の範囲だろう、がっ!」


 とびかかってきた最初の一匹を殴り飛ばしながら、アルトエレガンは叫ぶ。殴り飛ばされたエシャロットウルフの体が、粉々の肉片になって辺りに散らばる。

 本来ならば、惨殺された同胞の姿を見て警戒するか、圧倒的な戦力差を見て逃げ出すかのどちらかだろう。だが、自我を抑制され、命令尊守を義務付けられたエシャロットウルフ達は、『門に突撃せよ』と言う命令を愚直に守り、雪崩を打って後に続く。

 それを見た闘は、無言で綾の体をイザベルに押し付けた。戦う準備をしていたイザベルにとって、それは完全な不意打ちで、思わず手にしたレイピアを取り落とし、綾の体を抱きとめる。


「闘さん!?」

「何をしますの! 草間様!?」


 抗議の声を上げる二人に、闘は冷静に指摘した。


「手、震えてるぞ」

「――!」


 レイピアを拾い上げようとしたイザベルの手は、確かに震えていた。


「向かってくるのは俺らで何とかする。お前の兄貴もな。

 だからお前はそこで、綾と固まってろ。その方が守りやすい」

「おやおや~? 闘ちゃん、百合カップルを眺めるのに目覚めちゃった!?」

「糞たわけた事抜かしてねえで構えろ。来るぞ」


 アルトエレガンの軽口を、ぶっきらぼうに躱して、闘は刀の鯉口を切る。

 そして――黒い、狼の津波が、一同の姿を飲み込んだ。

 一匹、二匹、三匹と、闘はとびかかってくるエシャロットウルフを、順に切り捨てていく。

 門に向かって突撃しろ――その指令を四角四面に守る狼達は、命の危機にもひるまずに、ただ突撃を繰り返す。

 筈だった。


「総員――」


 ウーンファースの、その号令が、戦場に響き渡るまでは。


「女を狙え!!」

『……!?』


 狼たちの目の色が、変わる。

 ただ、やみくもに門を目指していたエシャロットウルフ達は、その標的を、身近な女に切り替えた。即ち、


「うわうやっ!?!?!」

「お兄様……!!」


 イザベルと、綾の二人に。

 間合いの近かった三匹が綾達に躍りかかり、遠かった数匹が、虚空に魔方陣を描いて火炎の弾を放つ。

 それを見た闘は、真っ先にインターセプトした。躍りかかってきた三匹を、横一文字の一線で切り伏せると、そのうちの一頭の死体をひっつかんで、飛来した魔法に向かって投げつけた。

 火炎の弾に接触し、爆発四散する獣の躯。爆発の衝撃で他の火炎弾を連鎖的に巻き込み、迎撃が完了した刹那。

 闘の勘が、囁いた。

 綾が、危ないと。

 このままでは、攫われると。

 闘は、自身の勘の赴くままに、手を動かそうとして――


「――!」


 次の瞬間。

 金属製の衝突音が、北門前の空間に響き渡った。

 闘が、自身の首筋を狙った一撃を、刃で受け止めたのだ。

 その一撃を放ったのは――





 金属音が鳴った瞬間――綾達が、何が起きたかを理解する前に、『それ』が動いた。


「――え?」


 最初、服の袖を掴まれた時、綾は、イザベルが掴んだのかと思った。だが、イザベルの両手は、綾の肩に回されたままだ。

 何事か、と思い目を向けて……絶句した。

 そこにあったのは、絶対に動くはずのないもの。そこにはない筈のもの。


 ウーンファースの、切り離された右手が、その手の甲に魔方陣を浮かび上がらせ、独立した生物かの様にしっかりと、綾の服のすそを握っていた。


「あ――!」


 綾が上げた悲鳴は、北門に響き渡る事はなかった。

 その前に、ウーンファースの腕と、イザベルと共に、その場から消失したからだ。

 ウーンファースの遠隔操作による、瞬間移動だった。






 綾とイザベル、二人の欠けた北門前の空間で、二人の超人がにらみ合う。

 周囲にいたエシャロットウルフ達が、次々に正気を取り戻し、森に向かって駆け出していく。

 エシャロットの森の頂点捕食者が、我先にと逃げ出していく。操られていたという自覚への怒りも置き去りにして。

 ここにいるのは危険だと、彼らの本能が訴えていた。

 あまりに強大な存在同士の殺意のぶつけ合いに、逃げなければならないと、本能が叫んでいた。それは、魔術で施された枷を取り払うほどの、野生の衝動だった。


「……何のつもりだ、土方」

「何のつもりも何も」


 闘と土方。二人の刀を持った男達は、つばぜり合いをしながら言葉を交わす。


「……内乱には手出し無用、と言ったはずだぞ。草間」

「……何を言ってる?」

「さっきまでそこにいた人擬きと、小娘を守るのはルール違反だと、そう言っている」

「……女の方は、例のVIPだ。俺達が警護を仰せつかってる」

「なんと。それは失礼した」


 土方は、大げさに、わざとらしく身振りで謝意を表し、一歩下がって、刀を収める。

 ただし、なおも鯉口は切ったままだ。


「申し訳なかった。VIP……無限動力だったとはつゆ知らず」

「――!」

「お詫び、と言っては何だが……彼女達の救出は、我々が受け持とう。緊急事態だ」


 いけしゃあしゃあと抜かした。

 嘘だ、と闘は思った。勘だ。

 今オープンワールドで最も話題になっている無限動力娘を、目の前の男が知らぬはずがない。

 闘やジャリー、アルトエレガンは、肯定の感情をもって綾に接する超人であったが……目の前にいるこいつは、違う。

 綾に対し、死んでもいいという、明確な否定の意思をもって接している……!

 考えてみれば、一つの理屈であった。綾は、人間無限動力、などというオープンワールドのパワーバランスを崩しかねない存在だ。迂闊に超人などにするよりも、殺してなかった事にする方がはるかに楽だ。

 土方の派閥の答えは――そういう事だ。


「お前らはそっち側か」

「何の話かな?」

「そうか――」


 闘は、無造作に地面を切りつけた。

 一文字の、深い切れ目が地面につけられる……闘と土方、二人の関係性を示すように。

 無言で、アルトエレガンがその線を踏み越えて、闘の傍に来た。


「俺は――俺達は、こっち側だ」

「そうかね」


 闘、アルトエレガン、土方は視線をぶつけ合う。言葉はない。ただ、その視線には相手に対するむき出しの敵意が載せられている。


「お前達――時間を稼げ。俺が諸々、処理する」

「アルト。結界張れ。俺が薙ぎ払う」


 土方の部下への指示と、闘のアルトエレガンへの要請は、全く同時。

 対応も、全くの同時に行われた。ぎしりっ、と空間のきしむ音がして、北門周辺に魔方陣が展開され、ドーム状の空間を作り、その内部では土方の部下達が各々抜刀して闘を取り囲む。肝心の土方は――弾かれたように魔法陣から飛び出し、離れた場所にいたスーツ姿の超人を連れて、エシャロットの森へと駆け込んでいく。


「……! すまん、闘。土方達を捉え損ねた」

「問題ねえ。すぐに、こいつらを始末して追いつけばいい。

 それよりも……」


 自身を取り囲む和服達を睥睨し、闘はアルトエレガンに重ねて言った。


「結界は、しっかり張れよ」

「……? 改めて、なんだよ」

「抑えが効きそうにない」





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[一言] つーか、転生テロ企んでた奴らの作戦行動を 現地小競り合い扱いしてるのが変 さらに目の前で攫われそうになったのを 護った時に軽い事情説明してるのに 助けに行くのを邪魔してる時点で 転生テロ屋…
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