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Tale 34. 問い詰め(2)

 翌朝、オラリアの屋敷の扉をグランは力強く叩く。


「どちら様……。あなた方は……」


 不機嫌そうな声で顔を見せたオラリア。


「オラリア殿、先日の調査の件でお話に参りました。入ってもよろしいですか?」


「……承知しました」


 グランたちは中に入る。調査の時とそこの様子は全く変わっていない。しかし、どこか静けさを感じるのは一体なぜか。


「そういえば、ジアーレイ殿はどちらに?」


「……さあ。買い物にでも行っているのではないでしょうか」


「そうですか。買い物ですか」


 応接室までの廊下が長い。わざとらしく会話を作るグランの後ろで、ライとアルマはそう思っていた。


 オラリアは玄関先とは一転、落ち着いた対応をしているように見えたが、やはり一歩一歩の足音が荒々しい。

 そんな彼を一瞥して、グランは足を止めた。


「もう良いのではないでしょうか。あなたが胸中どう思っているのかは、非常によく分かります」


「どういう意味ですかな?」


 オラリアは振り返って答えた。


「ジアーレイ殿は帰っては来ません。彼はあなたの指示にやむなく従ったため、今は牢の中です」


「どういうことだ?」


 告げられた真実に、オラリアの剣幕が激しくなる。


「全てジアーレイ殿が白状しました。レストルカの村での、あなたのトルカルビーの人工生産。それを売り捌くために帝国の商人と契約を交わしたこと。その際に検問を逃れるための道を教えたこと」


「なんだとっ……」


 ジアーレイは驚いて、数歩後退した。


「信じられませんか? あれほど忠誠を誓っていた使用人に裏切られた気分は如何でしょうか?」


「……っ!」


「失礼。過大な表現をしてしまいました。ジアーレイ殿はあなたのことを大切に考えていました。彼の行為は決して裏切りなどというものではありません」


「……」


「私たちがどうやって自白を取ったのか不思議、という顔をされていますね。あなたの指示に従って、ジアーレイ殿は私たちを抹殺しようとした訳ですが、それは私たちの張った罠。彼は見事に誘導されましたよ」


「なに?」


「先日、ライが落としていった紙切れに書かれていた、あなた方に関する一部の情報。それを見れば、あなた方が秘密裏に行ってきたことを知り過ぎたと、口封じにかかることは容易に想像できます。だから私たちは、もう一人の重要な人物を、人目の付かない場所でジアーレイ殿に会わせることができました」




 ジアーレイの眼前でフードを脱いだ女性は、目立たない黒一色のコートを着ていようとも、滲み出るオーラがあった。


「あなたは……王女……!」


 アルスエリア王国の王女ティアナ。その名は広く知られており、王都に住む者ならば、ましてや貴族であれば、知らぬ者などいない。


「ごきげんよう。あなたは確か……ジェイルーツ家に使える使用人……でしたね」


 ジェイルーツとは、オラリアの家名だ。


「なぜあなたがこんな場所に……」


「理由は言わずとも分かるでしょう。私はグランの協力者であり、本を正せばこの調査の依頼主でもあります。部下が時間を惜しんで働いているのに、上の者が報告をただ待つのは王女として、国を導いていく者としてあるまじき姿です。ゆえに私が直接、事の真偽を確かめに来たのです」


 しかしジアーレイは余裕を取り戻す。


「それで、あなたに一体何ができるのでしょうか? 志は立派でございますが、失礼ながらもそのか弱いお姿で姿を現されて、状況は変化するのでしょうか?」


「……」


「いいえ。きっと変わらないのでしょう。ましてや権力をチラつかせられたとしても、この私、これ以上話すことはございません!」


 堂々としたジアーレイを見て、ティアナは一歩ずつ詰め寄る。そして――。


「流石は一貴族に仕える使用人。主を第一に思う立派な鑑です。しかし……」


 細身の剣先を突き出した。


「私には武器があり、“奥の手”もあります。権力で無理矢理に事を運ぶのは愚者のする行為。……そう、あなた方のような王国に蔓延る腐った有権者たちのことです」


「腐った……でございますか。これは大口を叩かれたものだ! なるほど……私と剣を交え、身の危険を知らしめて、あること全て吐かせようという魂胆でございますか。先程のお言葉、そっくりそのままお返し致しましょう」


 対抗しようと武器を構えるジアーレイ。


 しかしティアナは一瞬、不敵に笑んだ。


「違いますよ。私には権力もありますが、それ以上に培ってきた実力(ちから)があります。あなたでは私に勝つことはできない。そして、自然とその意味を知ることになるでしょう」


 ティアナは剣を振った。それはもう、高速の(まい)で。


 陰から心配で様子を(うかが)っているライとアルマに、その動きを捉えることはできなかった。繊細かつ的確な剣裁き。それほどに熟達した技術を持つ彼女に、目を丸くした。


 ジアーレイの頬に数本の傷が浮かび上がり、血が流れる。しかし大事には至らないだろうし、彼も十分に動けるだろう。


 それなのに、膝をついて倒れた。彼の武器は地面に転がり、戦意は消失しているように見えた。歳がかけ離れた眼前の女性に怯えるように。


「ふぅ……」


 大して疲れてもいないだろうティアナが一つ息を吐く。


 それを別の物陰から見ていたグランは声を上げた。


「もう出てきていいぞ、二人とも」


 そうして四人は、ジアーレイを取り囲むように集結した。


「今のは……?」


 ライが聞くと、同調するようにアルマも頷く。


 二人はティアナについて詳細なことは何も知らない。ジアーレイを誘導する作戦の前に少し顔を合わせて挨拶を交わした程度で、彼女がどうやって事態を解決に導くかまでは聞かされていない。


「ティアナ様は……」


「いいのよ、グラン。自分で話すわ」


 グランを制止した後、ティアナは二人に向き直って話し出す。


「私、幼い頃から剣の才能があって、剣を振ることで様々な干渉作用をもたらすことができます」


「ちなみに、剣の才能があっただけで、その力はティアナ様の鍛錬による後天的なものだ」


 二人が誤解しないよう、グランは補足した。と言っても、グランも彼女の成長過程を見てきたわけではない。恐らくはティアナ本人、または周囲から聞いて入手した情報だろう。


「剣で干渉作用……魔法剣みたいなもんか」


 ライはそう呟いた。クロス・ファンタジーでの世界で例えるならば、まさに魔法剣という表現が適しているとすぐに結び付けた。


 そしてグランはその考えに頷いた。だとすれば、ライの理解は追いついた。その世界で魔法剣の能力を操るプレイヤーを数多く見てきたし、仲間内にも該当する人物が一人いるからだ。


「それで、今ジアーレイさんはどんな状態なんですか?」


 ライが尋ねると、


「彼には恐怖を刻み込みました。効力のある間は、私たちに従順でいるでしょう」


「感情まで支配するのか……」


「もちろん、感情以外にも炎や水なども扱うことができます。いずれにせよ、正しいことのために使いますけれどね」


「ティアナ様はその腕から剣姫(けんき)と呼ばれている。最も、ティアナ様が剣を振るうことなど、一般の場ではあり得ないから、その名はほぼ王城の内部だけに知れ渡る物だがな」


「だからジアーレイさんも油断していた、という訳ですか」


 アルマは目の前の使用人の、先ほどまでの余裕っぷりの理由に納得した。


「グラン! 私のことはもういいでしょう? 早くこの場を片付けてしまいましょう」


「……そうですね」


 そうして逃げ場のないジアーレイに対して、聞き取りが開始された。




「こうして今に至る訳ですが、如何ですか?」


 昨夜の出来事を聞いたオラリアから、強い歯軋りの音が聞こえる。


「何も反論が無いようなら、ジアーレイ殿の自白を全て認めるということになりますが……」


「フッ……ハッハッハ!」


 オラリアは腹の奥から込み上げる邪悪な笑いを露わにした。


「全く、使えない使用人め! 大体、この世の中は金が全てだ! 事実、レストルカは私の偉大な研究成功の結果、以前よりも繁栄をもたらした。なぜ私が咎められなければならない?」


「あなたはその代償に、罪ない人々の命を多数犠牲にしてきた。命よりも金が重んじられる道理など、どこにもない!」


「命と金の重さ? そんな物の序列など、明確には決まってはいないでしょう。しかし、たかが平民の命は金よりは軽い。これだけは決まり切っている。精々、私の研究に役立てたことを誇りに思って欲しいものですな」


 グランはオラリアを強く睨みつけた。


 オラリアはその彼の顔を見て、何かを思い出したのか、対抗するように睨んだ。


「そういえば、私調べましたよ。あなた方のこと一人一人を。時間が少なかったので詳細なことは分かりませんでしたが、お前、素性も分からぬ平民だそうじゃないか」


 オラリアの物言いが鋭いものに変貌した。


 指差されたグランは息を呑んだ。


「騎士団の王女直属部隊の隊長だから、てっきりそれなりの身分なのかと思いましたが……。全く、生かしておく価値もない」


 オラリアは手を一つ叩いた。昨夜聞いたようなものを。


 そして結果も似たようなもの。屋敷の壁や天井がからくりの様に開き、伏兵が現れた。


「やり方は任せます。さっさと殺してしまいなさい」


 三人は囲まれ身構える。


 そしてオラリアの命令と同時、白く輝く光が周囲を薙いだ。


「な、なんだ!?」


 オラリアの視界には、意識の欠片も無い姿の伏兵たち、そしてグランが佇んでいた。

 彼は人様の家だというのにも関わらず、その聖剣を直下に突き刺し、怒りを表出させていた。


 そして鎧を纏っているとは思えない速さで、オラリアとの距離を詰め、刃を首筋に当てる。


「いいか? 身分も立場も関係ない。お前は人を無下に扱い、あまつさえ数えきれない死者を生み出した。この償いは一生をかけてでもさせてやる」


「……何を平民が偉そうに……」


 動こうとするオラリアを、グランは許さない。

 さらに強く刃を押し当てる。


「俺はいつでもお前を殺すことができる。だが、そうしないのは、死で償おうなどぬるすぎる考えだからだ」


「……っ!」


 オラリアに限らず、場の誰もがグランに圧倒されていた。


 グランの目の色と声色の変わりようは、かつてライも目の当たりにした事がなかった。というのも当然で、娯楽のゲームにそんな怖い雰囲気で臨もうものならば、ライはグランとの関係を断っていたかもしれない。


 ここが今はグランの現実(リアル)なのだと、その態度一つで十分に伝わって来るのを感じていた。




 オラリアは、グランと外で待機させていた騎士団員数名に連行され、王城地下の牢へと収容されることになった。


 ライとアルマは晴れて騎士団からの依頼をひとまずは達成し、宿へと戻った。

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